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主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第十章 第二次未帆ー澪戦争編(Will I have a good time in Christmas?)

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131 嘘つくのは下手くそな未帆サン

亮平視点に戻ります。

「解散!」


 日直の号令が教室に響き渡り、それからワンテンポ置いて生徒が思い思いに動き出した。ある生徒は友達のところにしゃべりに行き、またある生徒は学校が一旦中断される解放感に浸る。


 今日は終業式。2学期が終了する日だ。中学校三年生で言うと、もう学校見学などは済ませ、受験勉強に熱心に取り組んでいる時期になる。『一日中遊んでる』などという生徒も稀に見かけるが、それは家で猛勉強をしているか受験を諦めているかの二択である。本当に何もしなくても合格できるほどの学力を持った天才も世界には存在するのかもしれないが、少なくとも亮平達の学校にいる気配はない。


 中学二年生までの冬休みと違い、『長期休暇だ』などと羽目を外す期間にはならない。中卒で就職(ほぼ見たことは無い)する生徒以外は『高校受験』というそびえ立つ壁を乗り越えるための猛勉強に励まなければならないのである。亮平から言わせれば、正月からの三日間くらいは全休させて欲しいのだが。


 高度の低い太陽の光を少しばかり反射している窓の外をふと見れば、昨日とあまり変わらないペースで雪が降り続けている。ドカ雪といったほどは積もっていないが、昨日に比べて一円玉2,3枚分厚くなっただろうか。程度がどうであれ、あまり変わっていないので影響はないのだが。


「勝手にチョーク使わない!」


 黒板に無断で『今までありがとう』などとチョークでつづろうとした生徒が担任に注意された。正直、なぜその言葉をつづろうとしたのかが分からない。


(卒業式じゃないんだからよ……)


 『受験勉強頑張れ』などというクラス全員への激励や、『楽しかった』などの感想ならまだ理解できる。『今までありがとう』は別れの挨拶にしか見えない。卒業式のノリと間違えた線が濃厚そうだが、どうだろうか。


 そんな教室内に現在進行形で投影されているのほほんとした光景はさておき、亮平は昨日の別れ際に澪が言ったことが気になっていた。


(『巻き込むかもしれない』って、確信犯と捉えていいよな……)


 亮平は昨日、『巻き込まないよな?』と念を押すような形で質問した。澪にやる気が有ろうとなかろうと、肯定の返事が返ってくるのが普通なのだ。それなのに、昨日の返答は曖昧だった。これはもう、確実に巻き込む意志があるとみていいだろう。


 すると、問題になるのは対策だ。家に引きこもるという手段もあるが、それは昨日の流れのように無理やり突撃から引っ張り出されるといった方程式で来られる可能性が高い。


 かと言って、適当に外でぶらぶらすることも辛い。バッタリ未帆か澪にぶつかれば終戦になり、そうでなくとも屋外は寒さが厳しい。防寒着を着ていて耐えられるくらいの気温だとはいえ、長時間屋外に居ることは得策ではない。


 そもそも、今教室内に留まること自体が安全ではない。未帆は同じクラスではあるが、澪に強引に連れてこられた感じだったので積極的に亮平を巻き込みに行こうとはしないだろう。その気があるのなら解散後速攻で亮平のもとにやって来るはずだ。


 ただ、澪は亮平と違うクラスとは言え、行動力は抜きんでている。いつ澪が亮平を引きずりに来るのかは分からない。分かることと言えば、長居が危険だということだけである。


(ということで、今日はさっさとゴーホームとしますか)


 学生カバンを肩にしょって、人の流れに身を任せて教室の外へと出た亮平。廊下に待ち伏せされているわけでもなかった。『今日は特に警戒しなくてもいいな』という安堵感を感じた。


 警戒しているときは何も起こらないくせに、気を抜いているときに限って災難が降りかかってくることはよくあることだ。亮平の場合は、警戒モードのときすら損害を被り続けているのだが、気を抜いているときはそれ以上に厄介ごとに巻き込まれやすい。ただただ迷惑である。


 亮平が校門を抜けようとした刹那、『トントン』と肩を叩かれた。提出物の忘れがまだあったのだろうか。抜けがあったとは思えないが、見落としていただけなのかもしれない。こういう時は、定型文で大丈夫と相場は決まっている。深層心理など一般人に見破られるはずはない。


「明日には仕上げてきます!」


 振り向かなくともたいていはこれでおしまいになる。だが、まだ相手は引き下がってはくれないようだ。少し間は空いたものの、執拗に肩を叩いてくる。力も先ほどより強くなっている。


(そんなに引き留められるほど、まずいことやらかしたか?)


 亮平の疑問は、すぐに解消されることとなる。


「もー。せめて振り返るくらいして欲しいな……」


 全ての辻褄がピッタリと当てはまった。『全て』とは言えど、一点だけなのだが。未帆ならば、亮平の(未帆にとってはズレている)返答後も催促を続けても何ら矛盾はない。


 未帆は平常運転中だ。外見からは何重に着ているのかは分からず、相変わらずのブックブクである。昨日と違い、雪があまりちらついていないのにも拘らず、である。


「ごめん。提出物の催促に来られたかと思った」


 嘘をついてもメリットが何一つない。仮にごまかしたとしても、『明日仕上げる』発言を追及されればおのずとボロは出てしまう。


「亮平って、まだ提出物全部出してなかったの?」


 三学期関係の書類だのなんだのかんだのは全て提出した記憶がある。


「流石に出してないなんてことはないから、この時期に」


 既に通信簿に評定は記載されている。亮平は、平均よりはややいい『オール4』の少し上くらいだろうか。未帆には聞いたことは無いので知らないし、この先尋ねるつもりもない。亮平は、プライバシーにかかわることはむやみやたらに問うことを敬遠する傾向にあるのだ。


 提出物の出し忘れは、当然評定にも響く。だからこそ、誰しもが忘れ物をしないように努力しているのである。亮平も例外ではない。


「だよね。『明日には~』の節が気になったから聞いてみただけ」


「それ言っとけば、大抵はどうにかなるから。今回はどうにもならなかったみたいだけども」


 当然、関係の無い人物には一切通用しない。


「ところで、何か用事? 教室で捕まえた方が手っ取り早かったんじゃない?」


 亮平としても、気を少し許した今捕獲されるくらいなら、まだ覚悟を決めていた教室でからめとられる方がダメージを抑えられたのだ。


 未帆は小考し、


「け、結構大きいニュースが何個かあって、……が、学校で話しにくいジャンルだったから。それで、私の家まで来て欲しいんだけど、いい?」


 弱弱しい前者と裏腹に、後者の依頼の部分はいつもの未帆に戻っていた。


(前者は建て前っぽいけどな……)


 言葉が詰まり過ぎである。全力疾走後で息切れしているのならばまだ分かるが、先ほどまでの様子でそんなことはないことが分かる。間が空きすぎなのも胡散臭い。


 対照的に、後半になると一気に未帆の活気が戻った。行き当たりばったりで口走ったわけではないだろうから、元から立案していた可能性が極めて高い。


「……明らかに何か裏があるような気がしてならないんですけど」


「ないない、全然ない!」


 未帆は、両手でバツ印を作って、亮平を誘導しようとしたことを否定した。が、動きが針小棒大過ぎる。全身を使ってまで否定することでもないだろうに。


「……本当か?」


 亮平の追撃が何かのラインを踏み越したのか、未帆があわあわしだした。それを見て、少しだけいたずらを仕掛けたくなった。普段散々な目に遭っているのだから、少しくらいやっても罰は当たらないだろう。


 ただ、『いたずら』とは言ってもたいそうなことをするつもりではない。些細なことだ。


 未帆に正対した亮平は、未帆の目に対して攻撃的な意味で強烈な視線を送った。未帆が目を逸らそうとするが、亮平は沈黙したまま追いかけていく。


「そんな怖い目で、見ないでよ……」


 初めの『そんな』ですら震えている声だったのが、文末に行くにつれてさらに弱くなり、しまいには消え入りそうな声になった。


 耐えられなくなったのであろう未帆が、ガックリとうつむいた。亮平は容赦せず、その下に潜り込んだ。未帆の目が一瞬大きく見開かれ、そして諦めの目へと変わった。


「分かった。全部暴露しちゃえばいいんでしょ、暴露しちゃえば……。亮平は、とりあえず潜り込むのやめて?」


 亮平は未帆に指示された通り、しゃがむのをやめた。未帆はうなだれた格好から動かなかった。


(未帆は、開き直ったってことでいいんだよな……?)


 亮平は、やけに弱気な未帆に違和感を覚えた。未帆は、開き直るときは強気になるのである。文字だけ見れば開き直っているだけに、気持ち悪い。


「……昨日、澪ちゃんは『今日は何もするつもりはない』って言ってたでしょ? それで、『チャンスだ』と思ったんだけど、肝心の『亮平をどうやって誘導するか』が思いつかなくて……」


 亮平の予想を裏切らなかった。澪が今日巻き込む気があろうがなかろうが、亮平は面倒を見なければならないことに変わりはなかった。


「嘘付くにしても、もっとマシなものをだな……」


 未帆の嘘は、簡単に化けの皮がはがれるようなものばかりしかない。演技ということをするのに全く向いていないと言っていいだろう。その恩恵(?)で亮平が不審な匂いをキャッチできているわけでもあるのだが。


「……」


 未帆はだんまりを決め込んでいた。塩をかけられた青菜のようにしなっているのは、申し訳なさから来るものだろう。


 未帆からの(嘘バレバレの)コンタクトへの対応は一通り落ち着いた。次は、未帆本人への対処である。


 このまま未帆を放って帰宅してしまってもいいのだが、それが引き金となって後々さらに事が大きくなって自らに降りかかってくることが怖い。何がどこを通って目の前に盛り上がってくるのかは想像もつかないが、何となくよろしくない気がした。亮平の『何となく』は高確率で当たり続けている分、余計に。


 亮平は数秒ほど色々なパターンを考え、そして、


「……まあいいや、そんな些細な事。太陽出てるとはいえ寒いことに変わりないから、行くのなら早いとこ行っちゃいたいんだけど」


 しゅんと小さくなっていた未帆が、ピクリと反応を見せた。


「……『行く』って、どこに?」


 ただ、未帆の目はいまだ虚ろ状態だ。『死んでいる目』と似ている。


「さっき未帆がお願いしたてただろ、『家に来て欲しい』って」


 途端、未帆の瞳に光が戻ってきた。未帆の身体が跳ね上がる。先ほどまで蓄積していたダメージはどこ吹く風、いつもの未帆になっていた。


「……ウソじゃないよね?」


 ただ、半信半疑な面はある。亮平を問い詰めるように上半分をまぶたで覆われられても、亮平としては何も言うことが出来ない。誠なのだから。


(自分が嘘付いといて、人に言えることでもなさそうな気はするけどな)


「信じるかどうかは未帆次第。信じるも信じないもご自由に」


 他人がどれだけ言おうと、真偽を判断するのは最終的に受け取った側である。選択権は未帆にある。伝わらなかったなら、伝わらなかったまでだ。


「……もし途中で手のひらひっくり返したら、どうなるか分かってるよね?」


 どうやら、もう後に引けない状況になったようだ。亮平に口約束を破ろうなどという魂胆は皆無なのであまり問題はないのだが。


 亮平は未帆の『○○したらどうなるか分かってるよね?』という半ば脅しのような忠告に堅実に従っているので、『どうなるか』の部分に行きついたことはない。好奇心でたどり着きたいという気持ちもあるにはあるが、踏み込んではいけない領域のような気がしてならない。


 もしその領域に入り込んだとすれば、何が待っているのか。首根っこを掴まれて星にされるのだろうか。詳しくは未帆に聞かなければならないだろうが、きっと未帆も具体的なイメージはしていないであろう。


「分かってるから。……ところで、カイロ何個巻いてるんだよ」


 幾度となく目が移らないように努力をしていた亮平だったが、未帆の丸々と膨らんだ胴体に、ついに目が釘付けになってしまった。普段未帆の近くにいる亮平ですら気になって仕方ないのだから、未帆の恰好の暑苦しさは異常だ。


 未帆がカイロを貼っているかどうかは外見だけでは分からないが、経験則から感じ取れる。


「何個貼り付けたっけ……熱い、熱い!?」


 表面の防寒着をめくってカイロの数を確認しようとした未帆。だが、突然お腹周りを抑えて暴れだした。カイロが破れ、中の鉄粉なりなんなりが肌と直に接触したのだろう。


「慌てるな、慌てるな。肌着まで一気に脱げば取れるから」


「でもそれだと上の方も見えちゃう!?」


「火傷するのとどっちがマシなんだよ」


 そこまでまくし立てたところで、未帆は渋々承諾した。未帆は肌着ごとめくりあげ、肌についている鉄粉やらカイロの切れ端やらを叩き落とした。肌には、くっきりと赤い跡が残っている。幸い、火傷までには至っていなさそうだ。


「……いつの間にかカイロが擦れて破れちゃったのかな。ありがとね、亮平」


 亮平は物理的には何もしていない。アドバイスもどきに対してのものだろう。あれくらいで礼をされても逆に困る。


 未帆は『上の方も見えてしまう』とためらっていたが、よくよく考えてみれば胸あたりにカイロを貼ることはそうそうない。気が動転していたと考えるのが自然だろう。


「火傷してないなら良かった。あと、カイロの残骸はポイ捨て禁止だから、拾っといてな」


 ポイ捨ては、市町村の条例やら何やらで罰則規定が設けられている場合が多い。亮平達の市町村も例外ではない。鉄粉は『ポイ捨て』に入らないかもしれないが、カイロの残片は『ゴミ』に入るだろう。処理を面倒くさがったばかりに罰金を払わされるというのは、やっていない。


 周りがガヤガヤと騒がしくなった。忘れそうになっていたが、ここは学校の校門を出てすぐである。通り過ぎる生徒はもちろん、校舎からもクリアに見える位置だ。


 それに加え、カップルか何かなのかと勘違いされるほどの距離感。事情を知らない者が傍観していれば、亮平が強制的に未帆に肌をはだけさせたようにも見える光景。野次馬が集まってくるのは当然だったのだろう。


「見られてた!? ……」


 視線が集まっていることに気付いた未帆が、慌てて外に出していた服を内へしまい込んだ。頬がピンクがかっている。恥ずかしさで胸がいっぱいなのだろう。


「ほ、ほら、早く行こ?」


 トーンが強くなり、より早口になった。早くこの場を去りたいのか、足が空回りしている。


「気付いてなかったのky!?」


 亮平の言葉が最後まで続かなかったのは、未帆に全力で腕を引っ張られたからである。未帆の全力というのは、トラックよりはマシなくらいと言えばいいだろうか。筋肉が断裂しそうなほどの激痛が走った。その痛みは、電気のように体中を一周する。


「つべこべ言わない!」


 こうなると、何を言っても未帆の耳には入らない。亮平は、未帆のエネルギーの大きさに逆らえず、そのまま未帆の家まで引きづられていった。

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