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主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第十章 第二次未帆ー澪戦争編(Will I have a good time in Christmas?)

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125 戦争勃発?⑤

(10/17)定期連載凍結中です。

 「さーて、何をするかなんだけど……。別にどんなのでもいいよね」


 亮平の家に突撃してから色々と紆余曲折はあったものの、ようやく話の本題が持ってこられた。何をするかというのは、クリスマスにどちらが亮平を誘うのにふさわしいか選ぶための何かのことだ。


 正直、未帆は勝負に負けたとしても諦めずに虎視眈々と酒井さんのスキを狙うし、酒井さんだって未帆に負けた程度で潔く引いてくれるとは思わない。ただ、きちんと取り決めをして、その結果負けたとき、相手に権利を譲るという約束を反故に出来るかどうかと問われれば、抵抗はある。多少なりとも後ろめたさは感じるだろうし、口論をしても相手に分がある。それに何より、自分のプライドの問題にもかかってくる。


 この勝負の結果がどうなろうと亮平との直接の関係が変化するわけでもない。しかし、変化するきっかけはつかめるかもしれない。未帆は、その『きっかけ』を欲していた。


 「まず、冬らしく雪合戦とか?」


 雪合戦。未帆は、今までに一度も経験したことがない。雪など降らない関東地方中部に去年まで住んでいたのだ。幼少期のころまでさかのぼっても、降雪を経験したことはあれど雪合戦をした記憶はない。雪だるまを創ったような記憶は残っているのだが。


 それに、雪玉をぶつけられて今の未帆が大丈夫な要素がどこにも見当たらない。防寒着の上からとはいえ、冷たそうなものは冷たそうだし、第一雪が溶けてしみ込んでくれば防寒着は意味をなさなくなる。そうなれば、投げ合うヒマも無く真っ先に降参する羽目になる。


 「……酒井さん、私が寒いの大の苦手なの承知の上で、わざと提案したんじゃないの?」


 いくら冬らしいことだろうが、故意に感じてしまう。


 (てか、酒井さん、雪合戦も半袖半パンで参加してくるような気が……)


 流石にあり得ないとは思うものの、やって来るかもしれないという予感はある。


 「やっぱり、すんなりとはうなずいてくれないか。……ところでさ」


 予想外のところで話が転換される。これ以上話を脱線させて何になるのか。そう思った未帆だったが。


 「その『酒井さん』とか苗字で言い合うの、そろそろやめない?」


 (全然話が違うよ!?)


 似た話が続くと思っていたところに、イレギュラーが放り込まれた。酒井さんが『酒井さん』に反応したのだと気づくまで、十秒ほどがかかった未帆とは対照的に、酒井さんは普通といった感じで真剣に未帆を見つめている。


 未帆が酒井さんと交わり始めてからかれこれ九か月になるが、酒井さんを『澪』と下の名前で呼んだことは未だない。酒井さんもまた然りだ。


 普通、親しくなっていくと自然と名前呼びになるものだが、未帆と酒井さんの間は違った。いつも何かよそよそしく、二人の間には常に一定の距離があったのだ。それは、亮平という同じ人を想う気持ちから来ていたのかもしれない。


 「今このタイミングで、どうして?」


 ただ、今までにも切り出すタイミングはたくさんあったはず。修学旅行の終わりでも、夏祭り中でも良かったはずだ。そしてなにより、今までもその思いがあったのなら、早めに切り出しておかないと悶々とした気持ちが収まらないはずだ。


 「いや、だって、さん付けだと何となく親近感が湧かないでしょ? 今まで当たり前のように呼んできたけど、最近ふと気づいたの」


 「それは私も思ったことあるけど……」


 『最近ふと』気付いたのなら、いかにも前々から考えていた風に言っていたのはなんだったのだろうか。理由が後付けなのか、それとも経緯が後付けなのかは分からない。少なくとも一方は後付けだろう。


 酒井さんは顔を未帆に近づけ、さらに言葉を被せてくる。


 「それなら、もう決まり。私は『未帆』って呼ぶから。西森さ……じゃなくて、未帆も苗字以外で好きに呼んで」


 過去でもほとんど見ないほどゴリ押しされた。日米安保条約もびっくりしていることだろう。国会ですら相手の意見をきちんと聞いてからガン無視するというのに。

『さん付け撤廃案』を無理矢理にでも突き通した理由は、酒井さんの気分の問題かもしれない、と未帆は思い始めた。酒井さんは気分で物事を決めることも結構多いという印象がある。気持ちが暴走するのは未帆も同じではあるが。


 それはともかくとして、酒井さんをどう呼ぶか。それも問題の内の一つなのだ。強引な手段に持ち込んだからには、簡単に引いてくれるとは思えない。そして、反対することに未帆にとってのメリットが皆無なのだ。つまり、提案自体は飲む方が自然だ。ただ、問題はその次にある。


 (『澪ちゃん』? それとも『澪』って呼び捨て? あだ名みたいな呼び方もあるにはあるし……)


 酒井さんをどう呼べばいいかが分からないのだ。正確には、決めきれないのだ。未帆の気持ちの問題なのだが、『澪』では今までとかなり違和感があるし、『澪ちゃん』では酒井さんが却下するかもしれない。あだ名も同様だ。


 ただ、未帆自身も『さん付けをそろそろ変えたい』という思いは同じだ。あまり深く考える事でもない。よって、結論は比較的早くに捻りだした。


 「じゃ、私は『澪ちゃん』って呼んでいい?」


 やはり呼び捨てにするのが憚られたのが影響し、ちゃん付けにすることを決めた。酒井さんがOKするかどうかは別として。


 「なんでもいいって言ったでしょ、聞いてなかった? ……まあいいや。とりあえず、これで呼び方問題は解決!」


 予想を裏切り、酒井さんが突っ込んでくることはなかった。それどころか、『うんうん』と上下に頷いている。


 「澪ちゃん、澪ちゃん。うん、しっくりきてるかも」


 そして、酒井さん改め澪ちゃんの言っている事は脳の判断で右から左へと受け流され、その未帆は呼び名がしっくりくることを確かめていた。


 「……てか、また話脱線させちゃった。ええっと、本題は……。あ、そうそう、どっちがクリスマスに亮平くんを誘いにいくかで、それを決めるための競技決めだったんだっけ」


 またもや脱線事故を起こしたことに気付いた澪が、話題を無事本線に復帰させたようだ。


 こうして、互いの呼び方に関しての問題は完結となった。

 

※注釈 地の文中に『澪ちゃん』と書き綴ると余計に読みにくくなり、また作者の精神も崩壊してしまいます。なので、これからは誰視点であろうと呼び方は統一したいと思います。読者の諸君、どうか罪深き作者を許してくれたもう!


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