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主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第十章 第二次未帆ー澪戦争編(Will I have a good time in Christmas?)

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123 戦争勃発?③

亮平視点に戻ります。

いつもよりは少し長め(?)です。

 「で、クリスマスがそういう日だから俺を連れ出そうと?」


 未帆と澪、二人の暴走を制止し切った後にそれぞれから話を聞き出し、整理してまとめた内容はこうだ。


 事のきっかけは澪。未帆に、クリスマスはカップルが結ばれるだの、特別な日だの言い出して、未帆の気持ちを乗っからせた。そして未帆と澪で、亮平をどのようにクリスマスに連れ出すかでケンカになったようだ。


 (特別な日は特別な日なんだけどさ、クリスマスプレゼントがもらえてる内は……)


 亮平も、小学生のころのクリスマスを思い出す。小学校低学年の頃は、サンタクロースの正体などという大人の事情を知らない。よって、純粋にプレゼントを頼み、貰って、小型爆弾が爆発した勢いで大喜びしていた。そう、小学校低学年の頃は。


 学年が上がるにしたがって、基本的な知識という知らなかった方が良かったようなことも含まれるものをだんだんと学習していく。サンタクロースが実際に家にプレゼントを運びに来ているのではなく、両親がこっそり枕元に置いてくれるものだと知ったのは小学校高学年になってからだ。


 純真無垢な心に一抹の闇が混じるとき。それは、後から振り返るとよく分かる。中学校へと上がり、クリスマスプレゼントがピタリと止んだ。亮平は親に直訴したが、ものの十秒で棄却された。


 (そういえば、もし本当にサンタクロースがいたとしたら、法律に引っ掛からないのか?)


 人様の家に侵入した段階で住居侵入罪に該当しそうなものだが、事前に許可をもらっておけばいいのかは分からない。それは、法律に詳しい人に聞いた方が早い


 (まあ、クリスマスの自己体験はどうでもいいけど、火に石油タンカーは突っ込ませるなよ……。未帆が一旦本気になったらどれだけ冷却しても収まらないんだからよ……)


 クリスマスのことが事実にしろ嘘にしろ、未帆に伝えるのは避けてほしかった。どうして、変に『条件は平等に』という日本人の良くも悪くもどんぐりの背比べにしたがる本能が発揮されてしまうのか。情報は知っているもの勝ちの社会に今はなりつつある。ライバルに情報を分け与えるということは、戦場で銃撃戦を繰り広げている最中に敵に背中を向けてⅤRゲームをしているようなものである。


 「そう。聞いたことない? カップルになってると結ばれるって」


 そんな話は聞いたことが無い。断言する。ところで澪、君はどこからその情報を仕入れてきたんだ。その話し方だと、いかにも人から聞いたから間違っていても責任はないという風に聞き取れてしまう。


 「……それ、何処情報? ただの噂話に流されてるだけじゃないのか?」


 ちょっと探りを入れてみた。


 「同じクラスの女子のグループがそう話してたのを耳に挟んできたの。何か悪い?」


 なぜ、その自信ありげな顔で堂々と怪しい情報源からの情報を言えるんだ。同じクラスの女子がいつも正しいわけではないだろうに。やっぱり、噂話まがいのものだったのだ。


 しかし、亮平には一つ、引っかかる点があった。


 「クラスでそのクリスマス関連の話をしてたなら、未帆の耳にまで届くんじゃないのか? 女子がどんな感じで絡み合ってるのかは知らないけど」


 亮平は、女子の横の繋がりについてはあまり詳しくは知らない。知ろうと思ったことも無い。ただ、いくらクラスが違う(澪は3―b、未帆と亮平は3―a)からと言って、その話が他クラスにまったく浸透しないというのは考えづらい。


 「あ、えーっとね、その……。私、亮平と一緒に居る事が多いよね?」


 「まあ、そうだな。でも、休み時間に毎回俺のところに来るわけでもないだろ? ちゃーんと横にも繋がりが多少はあるはずなんだけども」


 学校では、未帆とよく一緒に行動する(横岳とつるむこともしばしばだが)。ただ、休み時間や放課後のすべての時間、というわけではない。気まぐれもあって教室内をぶらぶら歩いたり、図書室に休み時間いっぱい籠っていたり……。その間は未帆も別行動なわけだから、繋がりが無いとは言わせない。


 「……それはそうなんだけど。一人で居ることが多くて、あんまりおしゃべりとか、そういうのはしてない」


 終始目線が下がってボソボソ声のままなのを見ると、どうやら本当そうだ。


 (うーん、未帆って意外と独りなのか? でも、俺がチラッと見たときは、ほかの女子と喋ってることが多いけどな……)


 ただ、亮平が未帆に声をかけるときに、すぐ未帆とコンタクトが取れるのも事実なのである。誰かとの会話を遮って入った覚えは数回しかない。


 「今まで話が伝わってなかったってことは、澪とも……?」


 「違う、違う。西森さん側からはちっともアプローチが来ないし、私は私で今回のことをもう西森さんが知ってると思ってたから話さなかっただけ」


 澪に横槍を入れられた。元々犬猿の仲の未帆と澪も、普段からあまり交流が無いわけではないらしい。確かに、それもそうだろう。交流があってこそのバチバチの関係だ。交流のない所に関係は出来ない。


 (なにやってるんだろうな、俺は)


 思い返せば、亮平はアポもなく家に押し寄せた親友と幼馴染の仲を取り持つといった、労力のかかる役を強いられているのだ。どちらか一方の方面に対しての力を緩めた瞬間に、堤防は決壊し、亮平は重傷を負う。どうして、自分だけリスクオンリーを背負っているのか。


 「とりあえず、だ。お二人さんの大体の事情は分かった。それで、俺からも一つ言えることがある」


 未帆と澪には、今更ながらお引き取り願いたい。本当になるかどうかは別として。


 「人の家に突撃してくるのは遠慮してもらいた……」


 「へっくしょん!」


  珍しく大声を張り上げて威圧しようとした時、まるでタイミングを見計らったかのように、未帆のくしゃみが入った。季節が季節なので、インフルエンザとかのウイルスを持っていないでほしい。最後の最後で学校を欠席するのは、気持ち的にうまく収まらない。エチケットをきちんとしているだけマシか。


 「風邪、引いてないだろうな?」


 「知らない」


 未帆は、首を縦に振らなかった。風邪を引いているか引いていないかはともかく、自分の体調管理ぐらいしておいてほしいと切に思う。


 「でもでも、かなりの重装備して外に出てるから、風邪引くとは思わないんだけど……」


 微妙な目で見られていることを察知したのか、未帆が追加説明を放り投げてきた。そして、言われてみればその通りなのだ。細菌やらウイルスやらに体の免疫がやられた時に風邪になるのでかかる可能性が0にはならないが、未帆の漫画でも類を見ないような超厚着だと、むしろ熱中症にかかる可能性の方が高そうだ。


 『冬に熱中症にかかるわけないだろ』と突っかかってくるやつもいるが、そういう輩は石油ストーブ100台くらいをきちんと換気した上で使ってみればわかる。人間の身体は季節によってかかる病気が決まっているのではなく、あくまでその時の気候によって決まるのだ。ちなみに、換気をしないと熱中症云々の前に一酸化炭素中毒でコロッと逝くので注意しなければいけない。


 「……熱中症には気をつけろよ」


 冬の、しかも風邪の話をしているときにこのセリフを言うとは、きっと夏ごろの亮平は予想だにしなかっただろう。話題の方向と飛び出た言葉が真逆なのである。『風邪』と『熱中症』がどうすれば結びつくのか。少なくとも、亮平には解けない。


 当然、このセリフの対象となっている未帆は、どういうことかが分かっていないらしく、ポカーンとしている。


 「熱中症って……。むしろ、今みたいな恰好でちょうどいい感じなんだけどな……」


 「はい?」


 いや、本当に驚いた。思わずに素が出てきてしまった。いや、亮平はいつも素を丸出しにしているようなものだが。


 そもそも、『熱中症』というキーワードだけで自分の恰好にたどり着くというのは、亮平の思考を読んでいない限りは不可能な芸当だ。それほど、未帆が自分の恰好についてそれなりに思うところがあったということなのだろうか。


 しかし、今の真の問題はそこではない。


 (その『5重ぐらい平気で着てます!』みたいに強調してるカッコでそれを言われても、いまいち説得力がなぁ……)


 正直、説得力が皆無である。防寒着を上に羽織って『ちょうどいい』ならまだ分かる。5枚くらいも重ね着をされて『ちょうどいい』は訳が分からない。


 「澪は特に反応ないな……」


 澪の反応も気になる。未帆が『ちょうどいい』宣言をした時も、未帆の方を向くとか動作が硬直するとか、一般世間でいう通常の反応を取らなかった。


 「それは、いっつも西森さんが言ってることだから」


 (まあ、そうなるでしょうねぇ)


 澪も、初めて未帆に先ほどのことを言われた時は、きっと面食らっていただろうに違いない。


 「あ! 今亮平、『表現が大げさすぎる』って思ったでしょ? 大げさじゃないからね!」


 思っても無いことをなぜ言われなければいけないのか。罰が当たるようなことをした記憶はない。ただ学校が終わって家に帰って来て、家にそのままいただけだ。決して、お地蔵さんの頭をサッカーボール代わりに蹴っ飛ばしたり、祭壇に供えてあったお菓子を勝手に食べたりはしていない。いや、正確に言うと後者はやったことがある。だが、それも小学校の低学年のころで、中学生となった今となっては、マナー違反の行為の代表的なことくらいは覚えていると思いたい。


 「……話がだいぶん本線から脱線しちゃってる。今から本題に……」


 「ストーーーーーーップ! 俺が言いかけた言葉を忘れてもらっちゃ困る!」


 本線に話を戻らされてたまるか。本線にもどれば、この世から魂ごと押しつぶされて消えてなくなるのは分かっている。


 「とりあえず、ご帰宅願います。これからは人を巻き込まないように、な?」


 これは、一般常識内にも含まれていることなはずなのだが。


 「えー、いいじゃない? せっかく来たんだし……」


 (いや、その『せっかく』が俺にとっては迷惑なんだけどな……。俺が家に呼んだならともかく、自主的に行動してるなら責任は本人に帰属するだろ、普通)


 亮平に家に呼ばれた風にするのをやめて欲しい。これで澪自身に悪気がなさそうなのがまた面倒くさい。


 「でも、押しかけたのは私たちだし……。亮平に悪いよ」


 未帆には悪気があるのか、頭がガクッと下がっている。申し訳なさそうに、ポツポツとつぶやいた。


 (ナイス、なんだけど……。一番最初に思いとどまれなかったのかよ? 我に返るなら、せめてインターホンを押す前に我に返ってほしかったんだけどな……)


 そうは言っても、いろいろなことでライバル関係にある澪がいきなり亮平の家なんぞに向かえば、条件反射で一緒に走って行ってしまいそうではある。ある程度は仕方がなかったのだろう。亮平の精神に悪影響を及ぼすまでは行ってほしくはなかったが。


 「亮平の言う通りだよ。……ほら、酒井さん、もう帰ろ?」


 未帆が澪を説得にかかった。澪が激しく抵抗するかと思ってハラハラしていた亮平だったが、澪は意外と素直に陥落した。澪にも、何か思うことがあったのかもしれない。


 (何か思うことが無いってのもまた大事件っちゃ大事件になるけど)


 「……じゃあね、亮平くん。また明日―」


 言うが早いか、澪は玄関を飛び出していった。ここで普通なら見られるはずの『身に着けているマフラーなりなんなりが風に揺れる』などという情景は見られなかった。半袖半パン、恐るべし。


 (……季節感破壊されるな)


 亮平はまだ残っている未帆に正対しようとして、澪が帰り際に残した文章の違和感に気付いた。


 「いつから明日会うことになったんだよ」


 規定事項を素っ気なく入れようとしないでほしい。これはこれで、後々『また明日』に反論しなかったとかで口論になるのでタチが悪い。


 ただ、明日になれば案外、澪も忘れてしまっているかもしれない。忘れていないかもしれないが。


 「今日はほんとに……ごめん」


 未帆が両手を合わせて謝ってきた。


 「別にいい……ってわけじゃないけど、澪を抑えてくれてありがとな。そこだけは感謝してる」


 「そこだけなんだ……」


 『ほかに何を感謝すればいいんだ』とツッコミたいが、あんまり深堀しても未帆が可哀そうなので、ここら辺にしておく。


 「また、明日学校でね」


 未帆は柔らかい微笑みを見せると、亮平に背を向けて玄関の取っ手に手をかける。


 (あれ、よーく見たら、震えてないか?)


 未帆の取っ手を持つ手や、脚、胴体が震えている。この重装備なのでまさかとは思うが、気になったので一応尋ねてみる。


 「未帆―、もしかして寒い?」


 未帆は玄関の外に出て、ようやく亮平の方を振り返った。そして、小さくうなずいた。ガチャンという大きな音を立てて、玄関の扉が閉まった。


 (五重で寒いって言われてもな……。でも、澪も大概だよな……)


 五重巻きで寒いらしい未帆。半袖半パンで寒くないらしい澪。どちらの感覚がバグっているのか、それともまさかの亮平が一番バグっているのか。亮平は、しばしの時間を使って考えたが、答えは出なかった。

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