117 夏祭り二日目⑭
その後も、景品の番号は放送されていった。二つ目のジュースのセット『855』、三つ目の少なくとも大人用だったもの『198』、四つ目の良く分からないぬいぐるみ『727』。一つも数字が掠りすらしなかった。はっきり言って二つ目のジュースセット以外は欲しくもなんともなかったのでダメージは控えめだ。
「ほんとに、掠りすらしてない……」
今まで放送された番号と、亮平の手持ちの紙に印字されてあるのを比べていた未帆が、信じられないといった風で驚いていた。まあ、言うて影島さんも、四回目の抽選で三桁目が合致するまでは亮平と同じ部類に分かれていたのだが。
ともかく、抽選開始前に言っていたことがホラではないと分かってくれたのならそれでいい。不幸自慢をしたがっているのではないのだから。
『いよいよ、この抽選会も最終盤に差し掛かりました。五つ目の景品は……、過去にご参加くださった方は想像がつくと思われますが、そうです。ゲーム機の本体です! 税込み39800円くらいの!』
わざわざ値段を公表する必要があったのかは謎だが、事前の予想通り、ラストの景品はゲーム機だった。会場がより一層盛り上がりを見せる。
「影島さんも、亮平も、頑張れー」
最初の抽選で選ばれ、既に景品をゲットしていて暇そうな未帆。あんまりやる気のなさそうな応援だ。
そんな未帆とは対照的に、影島さんは全集中している。聞き逃せば大魚を逃すかもしれないのだ、集中するのは何らおかしいことではない。当たらない前提でハナから諦めている亮平とは違う。
『それでは、抽選番号を発表いたします。百の位……4』
会場中から歓声と悲鳴が同時に挙がった。悲鳴の方が歓声の数倍大きいはずなのだが、同じくらいの音量に聞こえる。
そして、肝心の番号は亮平も影島さんもハズレ。亮平達にとっての抽選会は終わりを告げた。
「全部、最初からハズレ……」
(それは俺も一緒なんだよ、影島さん)
「ま、楽しませてもらったと考えればいいんじゃない?」
これは抽選会などではなく、エンターテイメント。時間つぶしだったと考えれば、負の方にベクトルが行くこともなくなる。
「そう、だね……。当たらなかったものは仕方がないし」
珍しく、亮平が伝えたかったことが相手に伝わる。
「屋台はもう全部しまっちゃってるし、帰る?……って、そっか、亮平は確か横岳くんの屋台の片づけを手伝いに行くとかなんとか言ってたね」
思い出したくないことを思い出してしまった。できれば今日中はずっと忘れていたかった。
「えーっと、あれは、もう手伝いに行かなくてよくなったんだ。横岳の方から『今日は一人でできるから大丈夫だ』って、伝えられて。正直言ってかなりめんどくさそうだったから、本当に助かった……」
亮平が全ての語句を言い終わる前に、両肩に衝撃が走った。誰かにしっかりとつかまれたような感触がする。突然のこと過ぎたのもあって、体が固まる。
「誰が、手伝わなくても良いって……?」
ご本人、登場である。それも、随分とお怒りのようだ。
「さっきから後ろで聞いてみれば霧嶋、ちゃっかり帰ろうとしやがって……。そもそも、西森さんが手伝いのことを言ってなかったら、忘れたまま帰ってたろ? 自分でした約束ぐらい、覚えとけよ。つーか、思い出した側から破ろうとするなよ……」
早口にまくし立てられる。このままいけば、何処までも止まらなそうである。
「……すみませんでした」
深々と頭を下げ、そのままの姿勢で静止する。
この件については、自分勝手に約束を破ろうとした亮平が悪い。相手から理不尽な要求をされたのならいざ知らず、二者間契約の原則もビックリなことをしているのだから逃げ道は存在しない。
「頭下げたって許されるわけじゃないぞ、分かってるよな? やむを得ない事情が無いのにも関わらず放置するってのはな、誰にも信用されなくなるぞ?」
本当にその通りである。魔が差してしまった、と言えば早いが、それでも許されるべきことではない。
「ほんとに、ごめんな」
亮平にしては年に一回あるかどうかの素の弱さをさらけ出した。安っぽい? そんな不満は一切受け付けてはいない。
「悪い、俺もちょっと言い過ぎた。……反省してないように聞こえるのは気のせいか?」
最後の一文は余計だろ、この空気の中でそう突っ込むことは出来なかった。横岳にこう言わせてしまうくらい、亮平が感情的にならせたのだ。
「反省してるよ。それより、抽選は誰が当たったんだ? ……あ、もちろん片付けは手伝うから」
やや無理がありながらも、未帆に話を振った。
うやむやにしてなかったことにしようとする魂胆が無いことを証明するためには、はっきりと伝えておかなければならない。それに、仮にそう思われたとしても、亮平自身はもうこの堅苦しい空気に耐えられない。無理矢理にでも話題を変えることで、亮平と横岳以外の人の会話も挟んで緩和したかったのだ。苦し紛れになっている。
「え、私!? ……一応抽選番号は読み上げられたんだけど、誰が当選したのかが分からないままになってて。えーっと、それで再抽選するかも、って話になってて。……それよりも、横岳くんとの決着がまだついてなさそうに見えたけど」
いきなり話が飛んできて驚いたであろう未帆は目を丸くしたあと、亮平が行った内容が読み取れるようになったのか、横岳が突然出現した後のことについて語ってくれた。横岳との決着は後でするから一旦スルーすることにする。
とりあえず、未帆の話を聞いて分かったことは、まだ当選者が確定していないことと、再抽選の可能性があることだ。
(再抽選? もっかい?)
亮平に浮かんだ疑問を打ち消すかのように、本部からの放送が耳に入る。
『……いませんかー? 10数える間に出て来なかった場合、再抽選を行いますのでご了承ください。10,9,8……』
つまり、こういうことだ。まず、三桁の番号が呼ばれたものの、誰も呼びかけに応じなかった。その結果、本部が制限時間を設け、それでも名乗り出る人がいない場合に限って番号の再抽選をすることにした。その再抽選へのカウントダウンが今行われているということだ。
『3,2,1,……0。誰も呼び出しに応じなかったため、再抽選を行います』
(つまり、これって……)
声にだしそうになった今の亮平の気持ちを、未帆が代弁してくれた。
「まだ、当たるチャンスが残ってるんだ……」
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