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主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第九章 夏祭り編 (Summer festival)

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115 夏祭り二日目⑫

 『まもなく九時です。最後に抽選会がありますので、最後まで奮ってご参加ください。まもなく……』


 亮平にとって不運と言っていいのかどうかわからない屋台裏の出来事が発生してから、既に五十分ほどが経過しようとしている。


 未帆の機嫌はというと、幸いなことに時間経過とともに上向いていった。それもこれも、影島さんが巧みに亮平をフォローしてくれていたからだろう。亮平が余計な口出しを仕掛けたところを制止する、未帆に同調しながらも仲直りも促す、第三者というクッション材として澪の訴えをやんわりと受け止める……。どれも亮平ならば難しい芸当だ。亮平と未帆の二人きりだったとしたら、きっと火に油を注いで、余計にこじらせていただろう。


 そして、この抽選会までたどり着いた。ここまでくれば、未帆も意識が抽選の方に流れて行ってくれるはず、亮平はそう期待をして、この時間が来るのを待ち望んでいたのだ。


 しかし、九時ともなれば、ある現象が亮平を襲い始める。そう、前日と同じ『眠気』だ。


 亮平は、就寝時刻がほかの人よりも早く、起床時刻もほかの人よりも早い。一般の人の眠気が襲ってくるのが十時ごろなら、亮平はそれよりも早いのである。こればかりは、耐えるしかない。


 「……当たるといいなあ」


 もう調子が平常に戻った未帆が、番号の書いてある紙切れをひらひらと振る。


 「そーだな」


 いつもの亮平ならばきっぱりと曖昧さを正すところなのだが、今はそれはしない。変に指摘してしまうと、せっかく直った未帆の機嫌がまた悪化するような気がしてならなかったのだ。


 抽選は、入場時に配られた3桁の番号が書かれた紙を使う。あらかじめすべての番号を抽選箱の中にセットしておき、それを引いて発表される番号が当たった人が当選になる。とはいえ、参加する母数がそもそも少ないので、どこぞやのくじ引きやらガチャやらよりは格段に当たりやすくなっている、はずだ。


 そして、亮平はその番号をまだ見ていない。『残り物には福がある』という謎理論を展開し、ギリギリまで紙を開かないようにしているのだ。


 「で、亮平の番号は?」


 「実は、まだ見てない。ギリギリに見た方がドキドキ感があるかな、って」


 「そんなの、いつ見ても一緒じゃないのかな……」


  あっさりと正論で斬られた。既に亮平の番号が確定している以上、番号は変わり様がない。今確定させるか、後で確定させるかの違いだけである。


 「ところでさ。抽選会の景品って、何が当たるの?」


 「あ、そっか。まだ未帆には伝えてなかったな。実質メインイベントみたいなものなのに」


 小規模な抽選会とはいえ、景品までショボくなるわけではない。景品の数は少なくなるが、それでも豪華なものも毎年1つ入ってくるのである、必ず。亮平が参加した記憶がある年からずっと、その最高の景品はゲーム機本体だった。


 だからといって、今年も最高の景品がゲーム機だとは言い切れないのである。校区祭りは規模が小さい。すなわち、抽選会に参加する人の数も少ない。つまり、余りに参加人数が少ないと、景品が全員に当たってしまうという事態になってしまうわけだ。


 当然、全員に景品が当たるなどということは避けたい。ではどうするか。そう、景品をスケールダウンさせ、なおかつ少量にするのである。


 どのような基準で景品の質や数が決められているのかは知らないが、亮平が覚えている中でも一度、ゲーム機が景品に入っていなかったことがあった。何が当たるか、それは抽選会が始まって景品が発表されるまで分からない。


 「何が当たるかか……。年によって変わるんだけど、一番いいやつはやっぱりゲーム機本体かな……」


 「……本当だよね?」


 「う、うん」


 未帆が『年によって変わる』という語句を忘れていなければいいのだが、そうでなければ、また理不尽な批判が亮平に被さることになる。わざわざ念押しまでするのだ。本当の内容でなかったら怒るのは予想できる。年によって変わるから100%ではないのに。


 「ちなみに、亮平は今までに何か当たった?」


 「えーっと……」


 思い当たる節がない。ゲーム機などの大型の景品はおろか、些細なものにすら当たった記憶が無い。記憶では、小学校の2年生ごろから毎年参加しているはずなのだが。これは不運というべきなのか、それともまだ確率が収束していないだけなのかは、神のみぞ知ることだ。それが、当たらないだけなのなら。


 「……何にも当たったことなかった。それどころか、番号が掠った記憶すらないなー」


 当たらないだけならまだしも、番号のケタがかすりもしないのはおかしいのではないだろうか。例えば、当たり番号が『916』で自分の番号が『386』だと、一の位がかすっていることになる。亮平には、その記憶すらないのだ。いつも一桁目が読まれるたびに脱落していたのだ。


 「そうなんだ……」


 『掠ったことすらない』という亮平の不運さに声すら出なかったのであろう。ついさっきまでの亮平を責める視線から打って変わって、どこか下を見つめているようになった、


 「ところで、影島さんも初めて……だったよね。一応尋ねるけど、入場時に配られた抽選用の紙、きちんと持ってる?」


 「持ってるよー。それが何かあるの?」


 「……良かった。確か、前々回くらいかな。ここの校区外から来た人が『自分は抽選会の対象外』だって勘違いして、紙をどこかにやった後から自分も参加できることが分かって、それでけっこう暴れたことがあったんだよね。ここ以外のところだと、どうにも校区内に住んでいる人に限るイベントが多いみたいで……」


 当然、紛失した場合の再発行などはない。元をただせば全て自業自得なのだが、周りと環境が違う以上、そういう勘違いは避けられないものなのだろう。


 「ふぅーん……」


 影島さんは、過去の事例には興味がなさそうだ。


 (ま、大部分の人は普通に参加してるわけだし)


 『えー、お待たせいたしました。ただいまより、東成中学校区校区祭り抽選会を行いたいと思います』


 亮平と未帆、影島さんのちょうど間に入るようにして、本部テントからの放送が流れた。

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