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主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第九章 夏祭り編 (Summer festival)

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113 夏祭り二日目⑩

 亮平の過去の不思議現象が原因となって射的の屋台から追い払われてから、かなりの時間が経とうとしている。


 亮平達が射的をしていたころと比べると、また一段と人が多くなったような気がする。それに伴って、校庭内もだんだんと蒸し暑くなってきていた。もう夜の八時だというのに。夏というものは、恐ろしいものだ。


 「……ほんっと、暑いー。団扇か何か、持ってくればよかったかな?」


 額から汗がダラダラと流れている未帆が、団扇を持って扇いでいる人を遠目に見ながら手で風を顔へと送る。


 「……それなら、人のいない場所にでも行こうか?」


 そして、暑いのは亮平にとっても同じである。射的前にのむ羽目になった甘ったるいかき氷のシロップが溶け切った液体もなかなかに冷えていたはずだが、射的の余りにもインパクトのあるオチと密集による蒸し暑さによって吹き飛んでしまったらしい。


 人がいないところとなると、屋台が全く立ち並んでいない薄明かりの場所しかない。一時間前ですら影島さんが人波に飲み込まれかけていたのだから、そこ以外で人が密集していない場所は皆無に等しい。


 「一旦そうしよっかな。食べてばっかりでもつまらないし、涼しい場所に行きたいっていうのもあるし」


 未帆は暑さにオーバーキルされてしまったらしく、すぐ賛同してきた。


 「影島さんも、大丈夫?」


 さっきから影島さんは、未帆と亮平に振り回されてばかりだ。心の底で迷惑が掛かっているのかどうかを知る方法は無いが、表面上だけなら尋ねることはできる。


 「うん、私は別に問題ないよ? 一人でぶらぶらしててもどうせ途中からボーっとしちゃうと思うから」


 気を遣ってくれているのか、どこか遠慮している節があった。


 (まあ、未帆も俺も遠慮されても気づかずにそのまま突っ走って行っちゃうタイプだけどな)


 今は亮平がしっかりと未帆と亮平自身を監視しているので大丈夫だが、一度ストッパーが外れると壁にぶち当たるまで止まれない習性を未帆も亮平も持っている。周りをどれだけ巻き込もうが、その時は気付かない。影島さんを巻き込むことが無いように、暴走ロケットエンジンが点火しないことを祈ることしか出来ない。


 亮平達は屋台の裏側、刈り取られていない雑草群が伸び放題になっているところまで移動した。たまに草で切れることがあるため、慎重に一歩ずつ中へ進んでいく。


 学校の敷地と外を隔てる仕切りは網状のフェンスなため、風通しが良い。人が密集していると感じない風の流れを、今は存分に感じ取ることが出来る。


 (汗が蒸発してるって感じるー)


 汗が蒸発するときに熱を奪うだとか、そういう化学系の話はどうでもいい。過程はどうであれ、涼しければそれでいいのだ。


 「涼しーい! 今日ずっとここにいてもいいかも……」


 それは言い過ぎだろう。いくら八月の絶賛灼熱地獄とはいえ、夜にぶっ通しで風が吹くところなんかに居たら、風邪をひくにきまっている。


 「……」


 影島さんは無言だが、目を閉じて両腕を真横に広げている。風の心地よさを存分に感じているに違いない。


 「ところでさ、あと一時間くらいしかないけど、他に行きたい屋台ってある、亮平?」


 「特にないかな……。別に買いたいものがあってもコンビニで買うから大丈夫だし。アイスとか、ジュースとか……」


 「コンビニって……。リアリティー無いこと言わない!」


 未帆には、『夏祭り』という行事に『コンビニ』という現実をねじ込むのが気に食わなかったらしい。


 「ごめんって。でも、未帆だって同じようなこと考えたことあるんじゃないの?」


 「……そりゃ、あるよ。あるけど、だからって心で思ってること全部声に出して言わないでよ!」


 (ごめんな、未帆。何故か本音が全て口から出ていくのは、俺にも止められないんだよ)


 ただ、そこまで強く言うことではないと亮平は思う。亮平以外、例えば横岳が同じような発言をしたとして、未帆は同じような反応をしただろうか。未帆が亮平とかなり親しいという事実もあるが、それでも過剰な気がする。


 「話戻すけど、亮平に行きたいところがないんなら、私が決めるよ? もう一回かき氷行くとか」


 「そ、それはやめてくれ! またあのクソ不味いシロップを飲む羽目になりたくない!」


 思い出したくない記憶が掘り返される。いかにも健康に悪影響を与えそうな色付き激甘液体が喉を通過するときの感触、そしてなおこびりつくシロップの成分……。二度と経験したくない。


 「……それは亮平が不注意だっただけなんだけど」


 そして、それも本当のことだ。亮平は氷は溶けないものと思っていたのか、あろうことか夏の夜に十分ほどもかき氷を放置していたのだ。その間にトラブルが起きたといえば起きたのだが、亮平のせいなので自業自得だ。つまり、そのシロップ溜まりを作成したのも亮平なのだ。


 「あのー……。霧嶋くんと西森さんで色々話してるところ悪いんだけど、一応私だって行きたいところ、あるよ?」


 (うーん、何だろう。昨日会った時からそうだけど、沖縄で会った時と比べてずいぶんおとなしくなってないかな?)


 沖縄で誘拐事件に遭った時の影島さんは、もっとピシャピシャっと言葉が手裏剣のように突き刺さる感じがしていた。それに比べると、今の影島さんはふんわりとしたクッションだ。何かと受け身になっているように思う。


 亮平が影島さんの性格の大きな違いについて考察するところでは、普段の性格が今の性格で緊急時になるとガラリと変わってしまうタイプなのだろう。亮平も襲撃時や大事の時は思考回路が全く異なってしまうので、おそらく同じタイプだ。


 「あ、ごめん、熱中しちゃてて……。体熱いから、ちょっと風に当たってくる。ちょっと二人きりで話しといてもいいよ」


 未帆は、団扇を強く扇ぎながらより風が入るフェンスの方へと歩いて行った。この場を離れたかったのか、はたまた体が熱かっただけなのか、それは分からない。ただ、未帆が自ら亮平のそばを離れることは珍しい。


 一つ言えることとして、熱くなると周りが見えなくなるのも未帆。短所ばかりが亮平と一致している。


 「もう一回、しゃ……」


 「ごめん、絶対戻りたくない」


 反射で影島さんが言い切る前にシャットアウトした。影島さんが言いたそうなことを最初の二文字で悟った。『もう一回射的でリベンジしたい』的なことに違いない。


 「横岳に追い払われた以上、次行ってもまた追い返されちゃうだろうし。自分限定の話だけど」


 亮平は間違いなく追い返させられるだろうが、未帆や影島さんまで門前払いしようとはしないだろう。


 少し間が空いて、


 「うーん……。でも、やっぱりもう一回したいから、ちょっと一人で行ってこようかな。これからは別行動ってことで」


 依存はない。未帆はともかく、影島さんはたまたま亮平達にくっついてきていただけだ。最後まで一緒に行動する理由は無い。


 「別に、自分はそれでもいいけど」


 後は未帆の返答を待つばかりなのだが、その返答がいつまでたっても来ない。


 (あ、さっき未帆が風に当たりに行ってたの忘れてた)


 その未帆はというと、乗用車が時々通過する街灯にほんのりと照らされた道路をフェンス越しに、団扇を扇ぎながら突っ立っていた。


 「未ー帆さーん。みーほー」


 亮平の二回目の呼びかけに反応したらしい未帆は、まだ熱さが抜けていないという感じで亮平達の方へ向かって来た。


 事件は、ここで起きた。地面がくぼんでいるのを、暗さもあってか未帆が気付かず、足をすくわれてしまったのだ。元々浴衣で歩きにくそうにしていた未帆。派手に後ろへと転倒し、大きなしりもちをついた。


 だが、本当の事件はそこではなかった。


 「未帆、大丈夫か……ぁ?」


 亮平は絶句し、動きが完全に固まってしまった。転倒時にY字に開いてしまった両脚と、あろうことか衝撃で跳ね上がってしまった浴衣の末端。その先に見えている白い布で作られたもの。


 それの正体は、パンツだった。

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