表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第九章 夏祭り編 (Summer festival)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/208

110 夏祭り二日目⑦

 未帆と影島さんは、射的の屋台付近で何やら話をしていた。


 「あ、亮平おかえり。今、影島さんと射的しようって話になったんだけ……。大丈夫? 血が手に着いちゃってるけど。どこかで何か変なことした?」


 手の甲についていた血は、先ほどの八条学園の男子の顔面をぶん殴ったときに出た鼻血が付いたものだろう。早く戻ろう、早く戻ろうとして洗い流すなりふき取るなりに思考が届かなかった。


 「あー、これは……。実は、トイレで鼻血だしちゃってさ。鼻血が止まったあとに血が付いてないか確認して、ちゃんと洗ったはずなんだけどなあ……」


 この言い訳なら、時間が長くかかったことも『鼻血が止まるのに時間がかかった』ということで済ませられる。手に血がついてしまったというのも違和感がない。


 少し間があいて、未帆の視線が血の付いている手から亮平の顔まで上がってきた。


 「ふーん。洗ったら取れそうなものだと思っちゃうけど……」


 そこを突かれると少し苦しい。石鹸で洗えば理論上は血を含めた汚れは落ちるはずなのだ。特に洗いにくい場所でもなければ。


 亮平がいなかった間どうしていたかの話は亮平側不利なので、こじつけでもいいから話題を変えたい。


 「そんなことよりも、『射的に行く』っていう方は? 未帆は実際に打ったことがないからともかく、影島さんは昨日も行ってるからわざわざ影島さんも行く必要ないんじゃ……」


 「それは、影島さん自身が『昨日は全部的が倒れなかったから、今日こそ全部倒す』って意気込んでて」


 (昨日の不手際のこと、影島さんなりに気にしてたんだ……)


 昨日は、あろうことか屋台側(主に未帆と亮平)のミスによって『弾が的に当たったのに的が倒れない』という不思議な現象を引き起こしてしまった。最終的に倒した扱いになって景品はもらったものの、影島さん自身は納得していなかったらしい。


 「もう一回景品が取りたいってのもあるけどね。いや、そっちの方が理由としては強いかな」


 (って、そっちかよ)


 人間、達成感や充実感などの気持ちより現金である。亮平は、改めてそのことを実感した。亮平が影島さんの立場でも、射的をする理由としてそっちの方が強いだろう。そもそも『昨日全部倒せなかったから』という理由すら思いつかなかったかもしれないが。


 「亮平も反論はないみたいだし、今の内に行っちゃおう? 後から混んでくるかもしれないし」


 亮平は、昨日の射的の屋台の賑わい度がどうだったかを思い出そうとした。だが、既に記憶がぼんやりし始めていた時間帯だったらしく、とても来客の数まで見ていなかった。


 「霧嶋くんに迷惑がかからなさそうなら、行っちゃおうかな」


 迷惑など全くかかりませぬ。亮平が即決でそう言い、三人で射的の屋台へと向かった。


 昨日の初め頃より屋台の運営の仕方が分かってきているらしく、客がスムーズに回っていた。流石に横岳一人でやっているわけではなく、どこからか引っ張ってきたであろう同い年ぐらいの男子二人がせっせと地面に落ちたコルクの弾拾いをしていた。


 「はい、次の人。お金は前払い……って、お前か。何しに来たんだ?」


 途中で亮平だということに気付いた横岳は、見るからに怪訝になった。


 「そんな嫌な顔して……。大丈夫だ、無料タダで射的しに来たんじゃないからよ。もちろん、無料タダでやらせてもらえるならそれに越したことはないけども」


 横岳の表情がいつものイジリの目に戻る。


 「最初からそのつもりなら別にいい。全く、誰がお前相手に無料タダにするかよ」


 亮平は、横岳の中ではもう『守銭奴』認定されてしまっていそうだ。


 「そこまで言わなくてもいいじゃん、横岳くん? 亮平もああ言ってるんだし」


 未帆が耐えられないとばかりに亮平の前に出てくる。未帆も、亮平がケチだとは認めていたはずなのだが。


 「西森さん、居たの……。後ろに隠れられると分からないな……」


 (気付いてなかったのかよ!)


 横岳の目が少し泳ぎかけ、すぐに元の位置に戻った。亮平一人が屋台に乗り込んできたものだと思っていたらしい。


 「さっきのは『霧嶋一人だけなら』っていう話で、霧嶋以外にも居るのなら話が変わって……」


 「なんで変わるんだ」


 人によって対応を変えてしまうのは、それは大問題ではなかろうか。


 「いや、霧嶋はどこまでも楽な方、楽な方へと流れるだけで、そのくせ毎回別の手段でやられてるから今回だけでもきちんと払ってもらおうかと思ってさ。おい霧嶋、お前過去に何回俺に便乗して金払わなかったんだ?」


 滅多にない横岳の動揺ぶりが見られるのかと思いきや、ブーメラン返しされた。全急所に正確に突き刺されている。


 「ええっと、何回でしょうね? してたとしても一、二回ぐらい……」


 「嘘はいけないよ霧嶋くーん。二桁に乗るぐらいはあるだろ?」


 亮平と横岳以外は知らないことなのでごまかしたいが、これは無理そうだ。


 さらに、背後からも横岳への援護射撃が飛んでくる。


 「その曖昧にする言い方、絶対何か隠してる。亮平は、自分がやってない時ははっきりと否定するもん」


 だてに亮平の発言を何百回、何千回と聞いているだけのことはある。


 「お金を払わなかったことはないから! これは事実だから」


 「それまがいのことをたくさんやってるんじゃないか。割り勘したのに分量が7:3になるとか、奇数個あるものは必ず多くとるようにするとか……」


 『後者は別に割り勘したわけでもないのだから趣旨に反しているのでは』と亮平は思う。


 そもそも、割り勘をしたときに7:3になってたら、相手に均等にしてもらうように頼めばいいだけの話ではないだろうか。そこで拒絶されて初めて言える事である。


 「……それは金を払わなかった類いのことじゃなくて、ただケチだっていうだけのことじゃなくてよ?」


 「そう言われればそうだなー。ま、霧嶋がケチなことぐらいはみんな分かってるだろうからいいんじゃないか?」


 後ろで未帆もうんうんとうなずいている。四面楚歌状態だ。


 「あのなー、ケチとは言っても種類があるだろ。金払わなのは犯罪だし。俺は、小技が効くだけのケチなんだよ。つまり、マシな方の部類ってことだ」


 「なるほどー……ってなるわけないだろ! 小技を効かせてる時点でそれはもうただのケチだろ。勝手に部類分けされても困る」


 「そもそも、今まで言われたことで文句を言われたこと、ほとんどなかったんだからな! そこらへん、忘れないように」


 横岳に何べんもクリーンヒットをぶちかまされながらも、必死についていく。諦めの悪さも、『霧嶋亮平』の内の一つだ。


 「……どこまで粘ってくるつもりなんだ? 負けはもうすぐそこだって分かってるだろ」


 「それが俺なんだよ」


 しぶとく食らいついていく、それが個性なのだ。


 「……もういい加減にしろ。今こんな話で盛り上がるわけにもいかないだろ」


 横岳も疲れてきたのか、話題を転換する方向に作戦を変えた。これは、逃げたといってもいい。たたみこむ絶好のチャンスだ。


 なおも亮平が事実をねじ伏せようとしていた時、突然に強い衝撃が走った。


 何度も受けたことがあるこの感触。これは、未帆だ。


 「ストップーーーーーー! 影島さんが蚊帳の外になっちゃってる。亮平、熱くなりすぎ」


 (あ、影島さん忘れてた)


 慌てて後ろを振り向くと、影島さんがバツが悪そうに縮こまってしまっていた。


 「ケチだとかそうじゃないだとか論争が始まっちゃったから、どうしようもなくて……」


 『射的に行きたい』の言い出しっぺは影島さんだ。亮平は、ついてきた身でしかない。影島さんに申しわけない気持ちで頭がいっぱいになる。


 その後影島さんには謝ったものの、依然として空気は悪い。思えば、さっき横岳が話題を転換しようとしたのは影島さんが後ろに隠れていることに気付いたからだろうか。


 「霧嶋、もしかしたらあだ名が二個ぐらい増えるかもしれないぞ?」


 この何から切り出していいか分からない空気の中、横岳はこれだ。ムードブレイカーがいるということは、なんと素晴らしいことなのだろう。


 「何だよ」


 ただ、良いあだ名ではなさそうなことは確かではある。


 「今までは『ケチ』っていう代名詞だけだっただろう? これからは『ドケチの霧嶋』と『弁解の霧嶋』でどうだ?」


 ケチは代名詞になるのか。それは座右の銘にならないのだろうか。突っ込みたいところはいっぱいある。


 『ケチの霧嶋』とはせずに、『ド』を付けたことが横岳らしい。そのまま持ってくるのではなく、一風変えるとまた違ったイメージになる。今回は悪い方で。


 「特に『弁解の霧嶋』はいいと思うぞ。弁解の能力だけは世界にも引けを取らないぐらいだと俺は思ってるからな!」 


 「世界に引けを取らないかは疑問だけど、弁解してるイメージが強いのは同意かなー」


 未帆サン、あなたはいつから敵に回っていたのでショウカ。もしかすると、亮平が敵に回しただけかもしれない。


 何はともあれ、『弁解の霧嶋』という不名誉にしか取ることが出来ない名が誕生してしまったのは確かである。

『面白い』、『続きが読みたい』と感じた方、ブックマークと評価をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ