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主人公が鈍感(←理由あり)過ぎて、全然進展しないじゃないか!  作者: true177
第九章 夏祭り編 (Summer festival)

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106 夏祭り二日目③

 「ううっ、頭が……」


 悩み事に頭を抱えているわけではない。夏祭りで、そんな悩み事を思い出すような構造を亮平はしていない。


 「一気にかき氷を食べようとするから……。もう……」


 未帆がなんとも言えないといった表情になった。


 頭がキーンと痛い。突き刺さるような痛みがする。


 「それは分かってるんだけど……。なんか、こう、やっぱり一気に食べちゃうっていうか……」


 「……ごめん。まったく分からない」


 亮平にも説明できない。一気に食べると頭がキーンとなるのはわかっているのだが、それでも食べてしまう。


 「あ、これちょっと持ってて」


 未帆から、まだ唐揚げ串が残っている紙コップを渡された。渡したときより2個減っている。


 未帆はそのまま緑色のシロップがかかったかき氷を食べ始めた。


 (これ、邪魔だったのか? 別に持ったままでも食べれると思うけど)


 食べにくいのは確かだが、絶対というわけではない。


 「俺の残りの分の唐揚げ、全部食べとくぞー」


 (個数間違いされても面倒くさいし)


 両手が埋まっていても食べられないわけではない。かき氷の容器を持っている左手の親指で紙コップを挟み、三個残っている唐揚げ串を右手で取り出す。


 (ちょっと時間は経ってほんのり温かいぐらいだけど、やっぱり唐揚げは正義だ・・・・・・)


 どれだけ食べても、おいしいものはおいしい。唐揚げと白米が正義だと思っている亮平にとっては猶更そう感じた。


 一個だけ串に残し、再び紙コップに戻す。これで、亮平の分の唐揚げは全てである。


 と、未帆が目を丸にして亮平の方をじっと見つめているのに気づいた。表情が固まっている。


 「……そっちの方の串、食べた・・・・・・?」


 何かまずいことでもあったのだろうか。残っている唐揚げの数を一から数えてみるが、決められた個数以上食べてはいない。


 「未帆の分の唐揚げはまだ残ってるはずなんだけ……」


 「か、かんせつ……」


 言葉にならないのか、そこで未帆の言葉が止まる。プイ、と明後日の方を向いてしまった。


 (関節? いやいや、今の反応的に絶対関係ないはず)


 ここで『関節』などというキーワードがどうして出てくるのかを知りたい。


 未帆がまともに亮平と目を合わさない時は、だいたい恥ずかしいと感じていることを隠しているサインだ。


 「かんせつ……、何?」


 反応を見たくて、わざと焦らしてみる。


 未帆は不満げな顔をしていたが、渋々といった感じで目線を真下に落とした。


 「……間接キス。だって、亮平がさっき持ってた唐揚げ串、私が食べた串の方だったよ?」


 (食べるとき、串に……確か触れてたな)


 反論しようとは思わない。まったくそのことを考慮していなかった亮平が悪い。自分は何も思わなくても、相手にとっては結構大切なことだということも多いのだから。


 ただ、『人によっては恥ずかしいからもっと気遣うべき』という意見に対してはひれ伏さざるを得ないが、『衛生的によくない』などという系の批判だけは受け付けかねる。


 「ごめん、気付かなかった。その、未帆に嫌な思いさせちゃって……」


 「別にそんなんじゃないけど……。次から気を付けてよ」


 未帆の言い方が素っ気なく感じる。頑張って言葉を逸らそうとしているようにも取れる。


 とりあえず、次同じことやったら今度は雷が落ちてきそうだ。過ちを繰り返さないようにと、亮平は肝に何度も命じた。



 ―――



 間接キス騒動の後、亮平はすでに5個食べ終えていたのだから厳密にいえば『没収』ではないのかもしれないが、唐揚げを全て未帆に没収された。


 何となく気まずくなってしまった空気を変えたかった亮平。だが、なかなか妙案が浮かび上がってこない。未帆は淡々と濃い緑に染まったかき氷を口に運んでいて、話しかけられるような雰囲気ではない。


 未帆がかき氷を完食するまで待つという方法もあった。しかし、まだ見た目半分以上は残っている。呼吸困難で息がつまりそうな亮平には、1,2分という時間は長すぎるのだ。


 校庭はと言えば、時間も進んだことで到着時にはまだ見られなかった人の渋滞がところどころで発生していた。亮平達は邪魔にならない巻き込まれない位置にいるので問題はないが、一度巻き込まれてしまったら抜けるのはなかなか難しそうだ。ニュースでも渋滞が原因で圧死した等のことを耳にしたことがある。


 その中で亮平は、顔見知りがいることに気付いた。亮平が遠くから声をかけると、向こうの方も気づいて亮平達の方へ人波をかき分けて向かってきてくれた。


 「久しぶり……じゃないね。影島さん」


 昨日影島さんと会ったことをもう忘れかけていた。ボケたなどと言われても非常に困る年齢だというのに。


 その影島さんはというと、留めてある髪が若干乱れていて着ている半袖Tシャツも所々片側にしわが寄っている。


 「人の行列に揉まれて、逆らって歩くのもどうかと思ったから流れで移動してたんだけど……。ありがとね、霧嶋くん」


 (そんな気軽に呼び合うような仲にいつから……?)


 そんな戸惑いがある自分もいる一方、(厳密にいえば時間がずれているが)一緒に誘拐されたあの修学旅行の日に力を合わせた仲だったんだから別にいいだろ、という自分もいる。どちらにせよ、気軽に呼ばれることを脳が受け入れている状態にはなっているが。


 「ありがと、って言われてもねぇ……。俺はだた、影島さんがいたから呼んでみようかなと思っただけだし」


 亮平からしてみれば、感謝されるようなことは何もしていない。


 未帆が怪訝な目を影島さんに向けているが、流石にここで縁の薄い影島さん相手に詰問はしないだろうから放っておいても大丈夫か。


 「……それはいいけどさ、亮平。かき氷がもう液体と化しちゃってるよ? なんだか見てる感じ、甘ったるそう……」


 亮平は指摘されて初めてかき氷の容器の中身を確認したが、もう遅い。既に氷ではなく水になった元かき氷とかかっていた青いシロップが融合した、青い液体が溜まっていた。


 食べられるか食べられないかで言えば、まだ食べられる方の部類に入る。だが、決して好んで食べるほどのものではない。シロップが混合している時点で、甘すぎてマズい味を感じるのは避けられないだろう。未帆のイメージ通り、甘ったるそうだ。


 こんなものを食するのは断固拒否したかった。かき氷が液体になるまで放置していた張本人が亮平でなければ。


 人にあげるという選択肢は論外だし、ゴミとして捨てるのも勿体ない。亮平は、深く深呼吸をした。


 かき氷の容器を口元に移し、青くて元がよく分からない液体を舌になるべく触れさせないようにして、一気に喉へと流し込んだ。全部を舌に触れらせないということは難しく、やはり一部は舌についている味蕾みらいが味を感じ取ってしまう。


 (……甘すぎ)


 地獄のような甘さが伝わってくる。そして、地獄はこれだけではなかった。


 シロップなどの甘い液体を一気に飲むと、喉に到達した時に猛烈な嘔吐感に襲われる。そのことを、亮平は失念していた。


 体の働きから体外へ吐き出しそうなのを理性で抑え、気合で半分シロップと化した液体が全て胃に到達するまで我慢した。エチケット袋を持っていたとすれば、迷わず吐き出していたほどだった。


 「だ、大丈夫? 顔がとんでもないことになってるけど」


 これは影島さんだ。表情を見ても分かるほどのものだったのだろう。だが、何か返事をしようにも喉がやられていて声にならない。


 「……このペットボトルまだ未開封のやつだから、飲んじゃって良いよ」


 亮平が悪戦苦闘している姿にたまらなくなったのか、未帆が助け船を漕ぎ出してくれた。ラベルを見る限りジュース系なのは分かるのだが、亮平が知らない商品名なので中身は不明だ。


 頭を一度低くしてからペットボトルを未帆から受け取り、キャップを回す。


 『プシュ!』


 (炭酸飲料か……。ま、仕方ないか)


 本来なら水で間に合っているところだが、背に腹は代えられない。亮平は、泡がそこからひっきりなしに立ち昇る炭酸飲料で喉を洗い流した。


 喉にへばりついていたシロップの成分はすべて流れて行ったらしく、もう嘔吐感は感じない。


 「未帆、サンキュ」


 「私が買ってたやつだから、お金はちゃーんと返してね」


 「分かってますよそんなこと」


 いつから『亮平イコールケチ』という方程式が成立したのだろうか。


 いたずら半分の気持ちで亮平がその方程式の部分を突こうとしたとき、胸から何か込みあがってくるものがあった。


 「ところで、そんなに炭酸のやつ一気に飲んじゃって、平気な……。やっぱ平気じゃないよね」


 亮平は、その場に座り込んでしまった。胸が空気を詰め込まれたかのように痛い。暫くの間、ひっきりなしにげっぷが続いた。


 (ナゼあそこで炭酸以外に何も飲み物が無かったんだ……)


 そして、やっぱり溶けたかき氷なんて飲まなければ良かったと思った亮平なのであった。

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