104 夏祭り二日目①
「今日は遅刻してない、よな?」
日が西へと傾いて夕焼けが空を覆っている。亮平は、ブロック塀が乱立している住宅街の路地を早歩きで通過していた。
昨日、どう帰ったかの記憶があまりない。未帆に肩を貸してもらった記憶まではあるが、そこから先は迷宮入りになっている。途中の分かれ道から自力で帰ったのか、はたまた未帆に家まで連れて行ってもらったのか・・・・・・。
(どちらにせよ、未帆には謝っとかないと)
後々面倒なことにつながるようなことを自分がしていなければいいが、と亮平は心配になった。
(あと、最後に射的の屋台のあと片付けをしないといけないのも地味に辛いよなあ)
亮平が昨日全く手伝わなかった(手伝えなかった)せいなのだが、用のなくなった場所にとどまり続けるのも辛い。
(未帆には先に帰ってもらうようにするとして、いっそのことまた店番にでも入ろうか)
暇をつぶすことばかり考えているが、いたって真面目である。
今日は昨日ほど暑くはない。時々雲が太陽に覆いかぶさってくれているからだ。中途半端な曇りという天気は、実は意外と良い天気だったりする。
(あ、未帆じゃん。こっち向いて待ってるってことは、また遅れたか・・・・・・)
断定するのはまだ早い。そう割り振って、集合場所になっている未帆の家の前へと歩いてゆく。
「遅刻した?」
「してない。私が出てくるのがちょっと早かっただけ」
とりあえずほっと溜息をついた。これで遅れていれば『何回約束を破ったら気が済むの』と怒られていたに違いない。亮平がいつも時間確認するのを怠っているとは、とても口に裂けても言えなくなる。
「それにしても、今日は浴衣? 昨日は普段着だったけど」
未帆は、白の流線が入った水色の浴衣を着ていた。少し大きいのか、腕と袖の大きさが合っていない。まだ着慣れていないのか、動きがぎこちない。ほんのり赤みがさしているのも、初々しさを感じる。
(いやー、かわいいな。やっぱり)
人に見られて恥ずかしいのか、未帆の視線は亮平とは別の方を向いている。小さくて聞き取れないが、口がもごもごとしている。何かを言いたそうだ。
「昨日言ったはずだけど? 『今日は浴衣を着てくる』って。てか、覚えてないなら覚えてないなりに、まず浴衣のことについて聞くのじゃない? それが、開口一番『遅れた?』って・・・・・・・。遅刻癖があるからなんだろうけど、まず相手の服装のことを言おうよ」
昨日言われたことは、ほとんど後半の未帆と澪の口喧嘩関連のトラブルと眠気でどこかに飛んで行ったんですが、何か。
「ごめんって・・・・・・。ところで浴衣ってさ、腰に巻いてある帯みたいなやつ引っ張って解いたら下全部出ちゃうんじゃないのかって思うんだけど」
「・・・・・・当たり前でしょ。変なこと想像させないでよ、もう。亮平、いままで浴衣見ながらそんなことばっかり考えてたの?」
「それは違うから! 今未帆がつけてる浴衣の構造見て、ふと思いついただけ」
ここはキッチリと弁解させてもらう。変態扱いされてはたまらない。思いついたのは本当に今さっきのことで、常にそう考えていたことなど一度もない。
「それならいいんだけど。もし『そうだ』って答えられたら、正直気持ち悪いって誰もが思うと思うよ」
(そりゃそうだ)
亮平が未帆だとして、間違いなく引く。
「亮平は浴衣もスカートもつけたことないと思うから分からないと思うけど、いつも履いてるスカートと同じ感じ。スカートは風で揺れるところは違うけど」
ふーん、と相槌を打っておく。亮平にはさっぱり感覚が分からない。
「あと、仮にこけたとしても浴衣の下の布が裏返らない限りは下着も見えないから・・・・・・!」
そこまで口に出した未帆の顔が、若干紅潮した。手で口を押え、亮平から視線をわざとらしく外した。そのしぐさに、亮平はどこかかわいらしさを覚えた。
「・・・・・・まさか俺の昨日の浴衣発言、真に受けてるんじゃ・・・・・・」
未帆は何も反論し返してこない。図星だったらしい。何とも言えない沈黙が流れる。
「・・・・・・しばらくこっち見ないでくれる、恥ずかしいから」
「はいよ」
言うなり、亮平は回れ右をして後ろを向いた。恥ずかしいことなんて誰にでもある。人に見られるのが、最も恥ずかしい。
亮平の昨日の『浴衣の下はパンツ一枚』発言が元々の原因となっているのは紛れもない事実だろう。
しかし、そのことについては亮平も反省している。それに、自爆したのは未帆だ。流石に、亮平にまで責任が及ぶとは思えない。
「とーにーかーく、もう行こ? 夏祭り、もう始まってると思うし」
時計を持っていない亮平には時間がどれほど経過しているかは分からない。だが、今の雑談で多少時間が経過したことは分かる。
「そうだな。食べ物の屋台なんか、もう行列が出来始めてる頃だと思うし」
「本当に!? それじゃ、余計に早く行かないと」
昨日の他の屋台の様子を一切見ていなかったのだろうか。夏祭りが始まってから10分ほどで、早いところは行列が出来ていたのを亮平は覚えている。
「あ、あと・・・・・・。昨日、送ってくれてありがとな」
「いいって、大丈夫。途中まで送ってくぐらいで、ヘタるようなヤワな体じゃないから」
(途中までだったのか・・・・・・。全部じゃなくてよかった)
仮に全部送ってもらっていったとすれば、澪から大ブーイングが飛んできそうなことは分かる。
「早くしないと、長時間並ぶ羽目になるよ? さ、行こ」
亮平の腕をつかんでくる未帆。加減が未だに分かっていないのかまだ痛みは感じたものの、以前よりはつかみ方が優しくなっていると亮平は感じた。
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