099 夏祭り一日目④
「影島さん、だっけ?」
「完全に忘れ去られたわけじゃなかったんだ・・・・・・」
ふぅ、とその場で影島さんはため息をついた。
「亮平、人が来てるならちゃんと仕事して・・・・・・」
亮平を連れ戻しに来たらしい未帆の言葉が、途中で止まった。
「あれ、どこかで会ったっけ・・・・・・? 確か修学旅行で・・・・・・」
亮平よりかは事を覚えている。顔を見ただけでそこまで思い出せることに感心する。
「西森さん、だっけ? 暗くて街灯の付いてない闇夜の道を必死に走ったの、覚えてる? あの時は無我夢中でそれどころじゃなかったんだけど」
「ああ、あの連れ去られた時の・・・・・・。うん、確か、あの時は亮平が全部助けてくれたんだよね。普通ならパニックになっちゃうところを、冷静に対処してくれて・・・・・・」
「そう、そう。私も、一人集団からはぐれていきなり鼻と口を押えられたときは、生きてる心地がしなかったし。たぶん、あのまま一人だけだったら、ここに私はいないと思う」
二人、修学旅行の話で盛り上がった。湊は空気と化している。元々無口な人がだんまりを決め込むと、さらに影が薄くなるような気がする。この際、一旦湊のことは置いておく。
(いや、俺のことを言ってくれるのはいいんだけどよ・・・・・・)
亮平は、考えられる最善だと思ったことをしただけ。それが、たまたまうまくいっただけのことだ。
それに、そもそもは亮平が道を間違ったことが原因だ。結果的に未帆達も影島さんも助かったが、下手をすれば全員無事ではなかっただろう。
亮平に、修学旅行時の事件についてあれこれいう資格などはない。
「でも、影島さんは確か、隣の市町村の中学校でしょ? てことは、わざわざ山を越えてまで夏祭りに来たってこと?」
「そういうこと。だって、近隣で祭りしてるところなんて、ここの中学校ぐらいしかないじゃない。それに、出来れば6月のことのお礼を言いたかったのもあるし」
祭りがここだけしかしていないから、わざわざここまで来た。これは、十分にあり得る話だ。
例年、校区内だけでなく校区外からも多くの人が押し寄せる東成中学校の校区祭り。そして、その
『校区外』というのは、なにも市内だけではなく市外も含まれている。
なぜ、市外からも人が来るのか。その理由は、この亮平達が住んでいる周辺の地域は、過疎が進んでいるせいで祭りなどの大きなイベントがほとんどないからである。
そして、ここ東成中学校が地域で唯一といっていいほどの大規模な学校であることも、原因の一つだ。他の小中学校は、規模が小さすぎてまともに祭りなどは行えないのだ。
(それでも、車とはいえ山を越えてまで来る人は、そんなにいないんだけどな)
亮平は、遠くにかすみながらもそびえ立つ山々を、しばしの間眺めていた。
「せっかくだから、射的やっていこうかな」
「ほーい。なら、200円ね」
亮平は、影島さんから100円硬貨二枚を受け取り、ザルへと入れる。
「コルクの弾が詰まってるやつを使ってねー」
端の方から順番に銃をとってはコルクの弾が装填されているかどうかを確認する影島さん。しかし、もう一方の端の銃まで確認しても、影島さんが銃を選ばない。
(全部、弾が入ってなかったなんてことはね・・・・・・)
『屋台に残っていた澪がきちんとセッティングしてくれているはず』、そう思った亮平だったが。
射的場の方にいるはずの人影が、ない。
(澪はどこいったんだ?)
亮平が湊と影島さんに気付いて屋台を出たところでは、確かにまだいた。どこでいなくなったのだろうか。
答えは、亮平のすぐ後ろにあった。
「亮平くん、何喋ってるの?」
「うわ、澪・・・・・・。ちゃんとセッティングしとかないとだめだろ・・・・・・」
「それは西森さんも同じでしょ? 亮平くんだって、屋台出て行っちゃってるし」
「俺は、別にいなくなってても支障が出てないから大丈夫」
「仕事があるって意味では同じでしょ」
どうして、亮平が何か行動する度についてきてしまうのか。いっぺん二人とも、大木にでも縄で縛りつけておいた方がいいのではないかとさえ、思ってしまう。
『私はどうすればいいの』という風に、影島さんが不安げな表情を浮かべて亮平の方を向いてきた。
「影島さん、悪いんだけどそこでちょっと待ってて」
幸いなことに、湊と影島さん以外に人は並んでいない。
亮平は射的場まで直行し、地面に落ちているコルクの弾を拾い集めた。影島さんから銃を受け取り、コルクの弾を装填する。
「ごめん。こう見えて、結構ガバガバだからそこらへんは・・・・・・」
未帆と澪のせいだ、とは説明できない。最初に屋台から勝手に出たのは亮平で、未帆と澪は亮平を追って出てきただけだからだ。それに、責任転嫁しているようにもとられかねない。
「そんなこと、別にいいって。時間が無いわけでもないし」
影島さんが、射撃体勢に入った。亮平は、慌ててその場から退避する。
『パン!』
発射音とともに飛び出したコルク弾は真っすぐに的へと飛んでいき、そして着弾した。紙でできているため、的は簡単に弾き飛ばされた。
『パン! パン! パン!』
続いて、今度は三発続けて発射音が射的場に鳴り響いた。見事に、的が三つ倒れた。
「全部当てれたら、景品あるからねー」
横岳が、少し離れた屋台の端からそう伝えてきた。もちろん、亮平はそのことを知っている。
影島さんが、最後の一発を撃とうと引き金に指をかけた。景品がもらえる事が分かったからなのか、少しだけ緊張の色が見える。
射的場は、時の流れが遅くなったかのように、ゆっくりと物事が動いていた。
影島さんの人差し指が、トリガーを引いた。
『パン!』
コルク弾は、一直線に的へと向かっていく。弾が的に触れ、的はあっけなく撃ち落され・・・・・・。
(あっ・・・・・・)
なかった。逆に、コルク弾の方が的に弾き飛ばされた。これと同じ現象をどこかで見たような気がする。
影島さんも、口が少し開いた。呆然としている。
横を見ると、未帆が右手で『こっちこっち』と合図をしていた。
(まさか、何かしたんじゃないだろうな)
何もされていないことの方があり得ないのだが、この際。亮平は、未帆がいる方へと行く。
「耳、貸して」
何かやましいことでもあるのだろうか。
「実は、お盆前に的作ったことがあったよね? そこで、『せっかく作ったんだから』って、あの鉄板で補強した的も普通の的と一緒にしちゃったの。どうせ、当日に誰かが気付くだろうと思って・・・・・・」
(そういえば、やけに硬かった的があったような、無かったような・・・・・・)
言われてみれば、そんな的があった気がする。しかし、その時は気のせいだと思ってそのまま並べてしまっていた。
「霧嶋くーん、この場合って、どういう扱いになるの?」
なんと説明すれば、分かってもらえるのか。亮平の心の中は、影島さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「えーっと、最後のは倒したって言うことで・・・・・・」
本来、当てても倒れない的というものは存在しなかった。扱いとしては、これが妥当だ。
「不手際・・・・・・、大丈夫か・・・・・・?」
「湊、口出ししないでくれるか? あと、あまりにも空気なもんだから、ちょっとビックリしたぞ」
結局、影島さんには景品を渡してその場は終わりとなった。湊は、普通に一発目から外した。狙いを外しただけなので、当然景品はナシである。
一連のいざこざが全て済み、未帆を見ると未帆は指を耳につっこんで、小刻みに震えていた。
「どうしたんだ、未帆? 体調でも悪い?」
「そうじゃなくて・・・・・・。パンパン音が鳴るのが、苦手で・・・・・・」
「なら、なんで射的屋なんて手伝おうなんて思ったんだよ・・・・・・」
「亮平がやるなら、私は何だって・・・・・・」
「分かったから、分かったから」
亮平がいれば、苦手でも関係ないらしい。どうしたものか。
ちなみに澪はというと、影島さんのことは何事も無かったかのように、平然と的を並べなおしている。
(頼むから、もうトラブル起きないでくれよ・・・・・・)
これ、今までに何回願ったのだろうか。
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