097 夏祭り一日目②
「台はそこに置いてー。いや、ちょっと右よりかな」
横岳の指示が、頻繁に飛んでいた。
澪が来てから今に至るまでのことを、分かりやすく説明してみようと思う。
未帆が柱を自力で持ち上げたことが、未帆をフォローしようとした横岳からうっかり漏れた。
当然未帆は横岳を嫌そうな目でじっと見つめたし、澪は『そういうことか』と、あまり驚いていない様子だった。未帆の様子と照らし合わせたのだろうか。
特に澪が何かを言うわけでもなく、その場は収まった。
そのすぐ後、横岳から『セッティングするから各自で分担してやろう』と提案が入り、今に至る。
屋台を出すのは名義上横岳なのだから、指示をするのも横岳だ。
「距離も測らないといけないから、そっちのメジャーの先端を持ってくれないか?」
「そんなにキッチリしなくても、大体でいいんじゃ・・・・・・」
「近いかどうか測るだけ。近かったら、当てやすくなるだろ?」
つまり、設定より遠くても直さないということらしい。客有利なら調整するが、不利ならそのままにしておくということだ。
亮平はメジャーの先端部分を、射的用の銃が何丁かおいてある台に合わせた。
「あ、50センチぐらい離れてるけど、遠い分にはいっか」
(50センチって・・・・・・。歩幅より狭いぐらいの長さは許容範囲内?)
射的に距離がどのくらい影響するのかは分からないが、50センチのずれはまあまあな距離ではないのだろうか。それとも、亮平の感覚が間違っているだけなのだろうか。
「風吹いたら、的が飛んで行ったりしない? 大丈夫?」
段々になっている台に射的用の的を並べていた未帆が、不安そうに並べられた的を見つめている。
「横に防風の仕切り立てるから、大丈夫。それに、今日来る前に天気予報調べたら、『風1m』って書いてたから、そんなに強い風は吹かないと思うよ」
横から風が吹いてくれば、確かに仕切りに遮られて風は通らない。ただ、前後から風が吹いたらどうするのか。亮平はそれを横岳に問おうとして、はたと気付いた。
(後ろには、弾が飛んでいかないように壁を立てるから、風が侵入することも無いのか)
横岳は前提にそれがあるのだから、前後については言うはずもない。
「OK。全部セッティング終わったから、祭りが始まる時間まではゆっくりしといてもいいよー」
横岳のその一言に、亮平は待ってましたとばかりに、別の設営中の屋台の方へと向かった。
―――
だいたいどの屋台もセッティングが終わり、もうすぐ夏祭りの開始時刻になろうとしていた。
「さて、昨日決めた通りの役割でお願いな。あと、サボらないでくれよ、霧嶋。お前は特に」
亮平にサボり癖があるかのような言われようだ。亮平はただ、面倒くさいことを極力しないように避けているだけで、役割を自分から放棄するようなことはしたことがないというのに。
(生活態度が悪いからそんな目で見られる? そんなことは知ったこっちゃない)
「しっかし、浴衣で来てる人も多いなー」
「当たり前だろ、祭りなんだから。お前はいつも半袖半パンで来てるから分からないだろうけど」
「そりゃ、浴衣なんて下パンツだけだろ? こけたらどうするんだよ。スカートみたいにスースーして気持ち悪いし、着るのも面倒くさいし」
「そんなこと言っていいのか? 少なくとも後ろの二人は不満そうなんだけども」
ギクリとなり、後ろを恐る恐る振り返る。そこには、きつい目で亮平を睨んでくる澪と、目が笑っているようにも見える未帆がいた。
「私、今日でこそ浴衣では来てないけど、明日は浴衣来て来ようかなー、って思ってたんだよ? それなのに、全否定しちゃって・・・・・・」
「亮平君はちょっと、客観的に見過ぎじゃない? 『面倒臭い』とか、『こけたらどうするんだ』とか・・・・・・」
なんでも物事を客観的に見てしまうのは、亮平も短所だとは感じている。長所に化ける場面も数多くあるが、今の状況では短所になる。
「そんなつもりじゃなかったんだけど・・・・・・」
「自分がそう思ってても、人が不快な思いを感じた時点でアウト!」
反論の余地はない。
『えー、今から、東成中学校校区祭りを開催したいと思います。屋台も今から始めてください』
校舎に取り付けられているスピーカーから、夏祭り開始のアナウンスが流れた。
亮平達は『夏祭り』と言っているが、実際は校庭で行われる校区祭りである。
とはいえ、東成中学校の校庭の面積が大きいのもあり、毎年多くの人が参加する夏の恒例行事となっている。
また、周辺地域で行われる祭りがこの校区祭りしかないので、校区内はもちろん、中には隣の市町村から足を運ぶ人もいる。それだけ、にぎわうのだ。
「全員、自分の役割を果たしてくれな!」
既にちらほらと校門から校庭に入ってきていた人たちが、一斉に色々な屋台に移動し始めた。
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