第8話 最初の試練
二日後、ミサキが宿に僕を迎えに来た。『最初の試練』が行われるダンジョンは街から出てしばらく歩いたところにあるらしい。僕は急いで準備をして、ミサキと一緒にダンジョンへと出発した。
数十分ほど歩くと、何やら遺跡のようなものが見えてきて、そこにはたくさんの人が集まっていた。軽く見積もっても数百人以上はいるだろうか。きっとみんな冒険者志望で試験を受けに来た人たちなんだろう。
そこで少し待つと、試験官と思しき人たちから参加者はダンジョンの入り口の前に集まるように言われた。ダンジョンの入り口は遺跡の奥にあった。地下へと続く大きな階段がそれだ。階段の幅はとても大きく、10メートルはあると思った。
「では諸君、これから『最初の試練』の説明を始める。まず、この試験では二人一組のパーティでこのランク1樹海ダンジョンの最深部を目指してもらう。最深部には『リリムの花』の群生地があり、そのリリムの花を取ってここまで戻って来られれば合格だ」
試験官は拡声器のような道具を片手に壇上で大きな声で言った。
「試験時間は日没までとする。ランク1ダンジョンということで危険は少ないが、油断はしないように。では、諸君の健闘を祈る……試験開始!!」
「「「う、うおおおおお!!」」」
試験官が合図するやいなや、皆一斉に地下への階段に向かって駆け出していった。ミサキは特に急ぐこともなく歩き出したので、僕も同じように隣について一緒に歩いていく。
他の参加者に続いて長い階段を降りていくと、突然目の前に広大な樹海が現れた。
「あれ、地下なのに陽の光がある……?」
不思議に思って空を見上げてみると、そこには地上となんら変わらない太陽があった。
「不思議でしょ? 私も初めてダンジョンに入った時はとても驚いた。聞くところによると、ダンジョンはこの世界とは別の次元に存在する何かなんだって。だから、この世界の理《ことわり》が通用しないのだとか」
なるほど……だから、地下なのに陽の光があったりするのか……。僕はダンジョンという非日常的な空間に驚きつつも、少しワクワクする気持ちを覚えていた。今、目の前には現代に生きていたときの僕では絶対に経験できない世界が広がっているのだ。
(よ、よーし……僕はやるぞぉ……!)
僕がそんな風に一人で身構えていると、ミサキがいつの間にか取り出していた地図を見ながら言った。そう言えばダンジョンの地図が事前に配られてたっけ……。
「ここから左の道に行こう。最深部への最短経路からは外れるけど、その分、モンスターが狩りつくされていない可能性が高い」
できるだけモンスターを倒して魔石を回収しつつ進みたいとミサキは言った。僕としては普通に最短経路でもいいと思ったけど、ここはダンジョン経験があるミサキに任せることにした。魔石はお金になるし、時間に余裕があるなら魔石を回収しつつ進むのも悪くない。そんなわけで、僕たちは左方向の道に進むことにした。
しばらく歩くと、【索敵】を使用していたミサキが索敵範囲内に反応があることを告げる。明らかにモンスターだった。モンスターは徐々に僕たちに近づいてくる。そして、遂に目の前に現れた。
「グゲゲゲゲ……」
子どもぐらいのサイズで緑色の皮膚をした人型の生物が、不敵な笑みを浮かべながらこちらを見ている。手に棍棒を持っているそれは、どこからどう見てもゴブリンだった。
「……私がやる。君はここで見てて」
ミサキはそう言うと、ゴブリンに向かって駆け出した。ミサキはゴブリンの棍棒の攻撃を横に避けると、ゴブリンの右胸に自身の武器である細剣を突き刺した。ゴブリンは「グギャアア」と叫び声をあげると、体が霧のように離散して消えていった。地面には魔石と思われる石が落ちて、ころころと転がる。
ミサキは石を手に取るとこちらを向いて言った。
「これが魔石。モンスターの核。モンスターを倒すと、体が消えて核である魔石だけが残る」
「な、なるほど……」
今さらながら僕はファンタジーの世界にいるんだなぁと思った。