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第4話 冒険都市エリュシウス

 道中では、できるだけこの世界のことについて知るために、怪しまれない程度に色々なことを聞いた。特に興味深かったのは、やはり【レベル】と【スキル】の存在だった。【レベル】は様々な経験を積むことで上がるらしいけど、その上がり方は人によって全然違うらしい。同じ経験でもすぐレベルが上る人がいれば、全く上がらない人もいて、さらに全く上がらない人でもある日突然一気にレベルが上がることがあるのだとか。


 【スキル】については、これは【魔法】と似ているけど、【魔法】と違って【魔力】ではなく【精神力】を消費するようだった。【スキル】はスキル書を使用することで基本的に誰でも覚えることができるらしい。【スキル】の効果は【レベル】に依存することが多く、【レベル】が高ければ高いほど【スキル】の効果は強力になるらしい。


 それ以外にもこの辺りの地理や国に関することも聞いた。今から向かう冒険都市エリュシウスはこの辺りでは最も大きな都市で、他の周辺の都市と都市同盟を結んでいるらしい。そして、都市同盟の周囲には王国やら帝国やらがあるのだとか。僕はそんな話を聞きながら、この世界の果てには何があるんだろうとそんなことを思った。



「……あれが、冒険都市エリュシウス」


 彼女はそう言って指を指した。僕たちは今、周りを見渡せる小さな丘の上にいて、遠く向こうに見えるとても大きな街を眺めていた。建物は中世ヨーロッパ風のものが多く、街は周りを城壁で囲まれている。中央には大きな広場があり、その側にはいくつか周りよりかなり大きな建物があった。大きな時計塔が付いているのは市庁舎か何かだろうか。


 僕は、異世界に来てから、あれが初めて訪れる異世界の都市だと思うと、さすがにわくわく感が抑えきれなかった。どんな人たちがいて、どういう生活をしているんだろう。僕も都市に馴染めて友達とか作れるだろうか。


 僕たちはそれから丘を下ってしばらく歩いた。遠くに見えていたエリュシウスもどんどんと近くなっていき、遂に僕たちはエリュシウス正門前に着いた。結構な距離を歩いてきたけど、道が整備されていることもあって、意外と疲れはほとんど感じなかった。


「それじゃあ、ここでお別れね。……さようなら」


 街の入り口で彼女はそう言うと、すたすたとどこかへ行ってしまった。引き止めることもできたけど、さすがにこれ以上彼女についていくわけにもいかなかった。こうして僕は一人、街の入り口にぽつんと取り残されることになった。


(人のいる街に来たのはいいけど、これからどうしよう……)


 僕は色々と考えた結果、まずは何より今日の宿の確保を優先することにした。いきなり野宿するのだけは避けたいところだった。


 僕は入り口の詰め所にいた衛兵の人に、この街で一番安い宿について聞いてみた。すると衛兵の人は街で一番安い宿について知っていて、親切にもその宿への行き方を教えてくれた。衛兵ということもあってきっと人からそういう質問をされることが多いんだろう。


 僕は衛兵の人の言うとおりに街の中を進んでいった。行き交う人々は人間っぽい人たちがほとんどだったけど、中には人間ではない種族のような人たちもちょこちょこといた。


(!! あ、あれは……エ、エルフ!? うわ、すごい、本物だ……)


 僕はそう思いながら、前方から歩いてくる耳が長い金髪のエルフの女性をつい目で追ってしまった。エルフの女性はそれに気づいたのか怪訝な表情で僕を見た。僕ははっとしてすぐに視線を逸らした。正直ちょっと恥ずかしかった。道中では、他にも獣人やリザードマンのような種族の人を見かけた。



 それからしばらく歩いて、僕は衛兵の人が言っていた宿に着くことができた。ただ、一番安い宿を尋ねたせいか、その宿はあまり治安がよくなさそうな場所にあった。でも背に腹は代えられない。……僕は思い切って宿の中に入った。


 宿の中は、一階にロビーとカウンターがあって、二階部分が客室になっている感じの構造だった。カウンターでは宿の主人と思しき髭を生やしたおじさんが新聞を読みながら暇そうに座っていたので、僕は話しかけてみることにした。


「こ、こんにちは。あの僕、宿に泊まりたいんですけど、これでどれぐらい泊まれますか?」


 そう言って僕は懐からお金の入った袋を取り出し、中に入っている銀貨や金貨をじゃらじゃらとカウンターの上にぶちまけた。


「ん? 一人で宿泊かい? それだけあれば、うちなら半年は泊まれるよ」


 宿の主人はちらりと僕がぶちまけた銀貨や金貨を見て言った。……半年か。食費や雑費も考えると三ヶ月程度暮らせるだけの資金と考えるのが妥当だろうか。時間は少ない。早急にお金を稼がなければならない……。


(はぁ、せめてもっと大金を持たせて異世界転生させてくれればよかったのに……。何の能力もお金もなしで異世界にほっぽり出すなんてほんとひどいと思う……)


 僕は心の中であの女神に悪態をついた。レベルは1でスキルもなしで初期資金もわずか、僕の異世界人生は本当にハードモードだよ! ……僕は悪態を付きつつも、ここに宿泊することに決めた。


「えっと、とりあえず一ヶ月宿泊ということでお願いします」


 僕はとりあえず一ヶ月だけ宿泊して色々と様子を見ようと思った。


「あいよ、料金は前払いだからこの分だけいただくね」


 そう言って宿の主人は金貨と銀貨を六分の一ほど取っていった。


 僕は宿の主人から部屋の鍵をもらい、これから一ヶ月ほど滞在することになるだろう部屋へと向かった。部屋は狭くて、ベッド以外には椅子とテーブルと年季を感じるクローゼットしかなかった。トイレやシャワーは共用になっていて廊下の奥にあった。まぁ安宿だしこんなものだろう。僕はそこで一息ついたあと、宿の主人のもとへと戻った。


「あの、僕、結構至急で仕事を探してるんですけど、この街に仕事を斡旋してくれるようなところってありますか?」


「ん? なんだ仕事を探しにこの街に来たのかい。それなら街の中央広場のすぐ近くに仕事の斡旋所があるから行ってみるといい。隣に冒険者ギルドもあるから、冒険者になりたいならそっちにも寄ってみるといいかもな」


 宿の主人はそう言った。……冒険者ギルドかぁ。冒険都市エリュシウスっていうぐらいだからやっぱあるよね。


(冒険者にはちょっと興味があるけど、特別な力が何もない元普通の高校生の僕に務まるだろうか……)


 僕はとりあえず親切な宿屋の主人の言葉にしたがって、仕事の斡旋所へと向かうことにした。


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