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第32話 魔石レース①

 いつものように冒険者ギルドへと出向き、何か良さそうな依頼はないかと掲示板を見てみると、そこには見慣れない大きな張り紙があった。



 ~第25回 ブロンズ級魔石レース出場者募集中!~


 現在、冒険者ギルドでは第25回ブロンズ級魔石レースへの出場者を大募集しています! 

 応募資格は下記の通りです。どうぞ奮ってご応募ください!


【応募資格】

 ・冒険者ギルド所属のランク3以下の冒険者であること(エリュシウス以外の都市の冒険者も参加可能)

 ・今までにブロンズ級魔石レースで三位以内に入ったことがないこと

 ・冒険者ギルドのブラックリストに載っていないこと


 以上全てを満たす方


 お問い合わせはエリュシウス冒険者ギルドまで!



「……魔石レース?」


 僕はそう呟いた。……聞いたことがないけど、冒険者用の競技大会か何かだろうか? 応募資格を見るとランク3以下の冒険者ということだから、僕にも参加資格はありそうだけど……。


「――魔石レースに興味があるのか?」


 不意に右隣から声がした。横を向いてみると、そこには僕よりやや年上ぐらいに見える重厚な鎧を纏った男が立っていた。背が高く、かなり引き締まった体をしていて、背中には愛用の武器と思われる大剣を背負っていた。


 僕は知らない人からいきなり話しかけられて、若干挙動不審になりながらも返事をした。


「え!? あ、まぁ何なのかなぁって……」


 男は僕の少し困った様子を見ると、笑みを浮かべた。


「……ふふ、その様子だと魔石レースについては何も知らなそうだな。ま、おおかた最近この街にきて冒険者になったばかりってところか?」


 ……そんなに最近でもないけれど、冒険者になってそこまで年月が経っていないのは確かなので、男の言うことはまぁ当たっていると思った。


「いいか、魔石レースってのはな、要は魔石を賭けた冒険者同士の競走なんだよ。舞台はダンジョンでな、一斉にスタートして一番最初に奥にある魔石を手に入れたやつが勝ちってわけだ。単純だろ?」


 男はそう言ってニヤリと笑う。


「もちろんダンジョンには罠もあるし、モンスターだって配置される。ただ舞台となるダンジョンは人工ダンジョンだからな……。その辺の趣向は運営側しだいだ。加えて、冒険者同士が妨害し合うのも許可されてる。さすがに殺しは厳禁だがな」


「なるほど……。魔石レースって言うくらいだし、優勝賞品はやっぱり魔石なの?」


「ああ。優勝したらレースで手に入れた魔石がそのままもらえるし、三位以内に入ればギルドから賞金も出るぞ」


 男はそう言って賞金の金額を教えてくれた。それは思った以上に高額だった。三位以内というのはかなりきつそうだけど、ランク3以下の冒険者という縛りもあるし、参加してみてもいいかもしれないと僕は思った。出るだけならタダのようだし、もしダメそうならすぐリタイアすればいいのだ。


「ふふ、出てもいいかなって顔してるな」


「あ、うん、出るだけならタダだしと思って……」


「――そうか、それなら俺たちはライバルだな!」


 男は少し楽しそうにそう言った。


「俺の名はライアス・レオンハルト。獅子の牙所属の冒険者だ。俺もこの魔石レースに参加する予定なんだ。……よろしくな」


 ライアスはそう言ってこちらに手を差し出してくる。僕は獅子の牙と聞いて、若干身構えたけど、さすがに握手をしないのは失礼なので、とりあえず握手をすることにした。


「ぼ、僕はユイト。よ、よろしくね……」


 僕がそう名乗ってライアスの手を握った瞬間、ライアスは少し顔色を変えた。


「ユイト? ……そうか、お前がユイトか。色々と噂は聞いているよ。駆け出し冒険者にもかかわらず新クランを立ち上げ、郊外にやたら目立つクラン本部を建てたやつがいるって。 面白いやつがいるとうちのクランでも話題になってたが……なるほど……お前が……」


 ライアスはそう言って目を細めて僕を見る。……うーん、あの新クラン本部を建てたのは僕じゃないんよなぁ。それに新クラン設立も僕がというより成り行き上、仕方なくって感じだし……。僕はそう思うも、何も知らないライアスは僕の手を力強く握りしめ、軽く振った。


「――俺もこれでも獅子の牙じゃ期待のルーキーと言われている身だ。今度のレースでは、お互いルーキーとして注目されている者同士、正々堂々と勝負しようぜ。……それじゃあユイト……レースでまた会おう」


 ライアスはそう言って去っていった。……悪い人ではなさそうだけど、獅子の牙だから油断はできないなと僕は思った。なんかライバルとか変なこと言ってた気もするしね……。


 その後、僕は気を取り直して受付の人に魔石レースについて詳しく聞いた。



「……というわけで今度、魔石レースってのがあるんだけど、僕は出ようと思ってるんだけど二人はどう?」


 カオスねこ団本部の一階ラウンジで、僕はソファに座りながらだべっているミサキとセネリーに言った。


「……私はパス。理由は面倒くさそうだから」


 ミサキはそう言って眺めている雑誌のページをめくった。


「私はどうしようかなぁ……。確か魔石レースって三位以内に入らないと賞金はもらえないんだよね? ランク3以下の冒険者限定ってことはランク3の冒険者も結構出場するわけだ。ランク3ならレベル30以上が当たり前になってくるし、下手すると40超えもいる。……正直きつくない?」


 セネリーはそう言った。確かにセネリーの言うことはもっともだった。僕たちはランク的にはまだ全員2なので、ランク3の冒険者は基本的に格上ということになる。ただ、ランクとレベルはそこまで連動していないので、ランクが高くてもレベルは低いとか、逆にランクは低いけどレベルは高いなんてのはあり得る。というか僕自身、ランクは2だけど、レベルは300を軽く超えている。


「まぁ、それはその通りだと思うけど、運の要素とかもあるでしょ? 例えば上位層がお互い足を引っ張り合って自滅したりとかさ」


「そんなの万に一つあるかどうかじゃないか? 例え運が良くても三位以内ってのはねぇ……うーん、今回は私もパスかなぁ……」


「そう? でもセネリーって優勝商品の魔石には興味ないの? 今回の優勝商品の魔石は確か【黒魔石】っていう魔石なんだけど、セネリー的にはあんまり――」


「!!」


 僕がそう言いかけると、セネリーは急に血相を変え、立ち上がると僕の目と鼻の先まで顔を近づけてきた。僕は驚いて後ずさる。


「……今、なんて言った?」


「え? く、黒魔石って言ったけど……」


「それが優勝賞品の魔石で間違いない?」


「間違いない、と思う」


「――出る」


「え?」


「私も魔石レースに出る!!」


 セネリーは興奮しながら大きな声で言った。どうやら黒魔石というのはセネリーにとっては相当魅力的な魔石のようだった。


「えっと、そんなにすごい魔石なの? 黒魔石って」


「そりゃすごいよ! ランク4以上のダンジョンでもごくたまに見つかるかどうかの超レアな魔石さ! まさかそのクラスの魔石が賞品だったとはね……私も油断してたわ」


「そ、そうなんだ……」


 僕はセネリーの剣幕にたじろぎながらそう言った。


「ユイト! 私たちで協力して絶対魔石を手に入れようね!! 絶対だよ!!」


 セネリーはそう言って僕の手を握ってくる。……あからさまに協力するのはルール違反じゃないだろうかと僕は思った。ただ、僕はセネリーも一緒に参加してくれるということでちょっとほっとした気分になった。やっぱりこういうのは一人でも見知った人間が一緒に参加してくれると安心感があると思う。


「……二人とも頑張って。私も応援してる」


 ミサキは相変わらずこちらに目もくれずに適当そうにそう言った。


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