第11話 VSブラッドゴブリン
僕たちは第二中継地点の先へと進んだ。この辺りはもうこのダンジョンの最深部と言っていいエリアだった。いつブラッドゴブリンと遭遇してもおかしくないため、僕たちは警戒しながらゆっくりと前に進んだ。しかし、ミサキの【索敵】にブラッドゴブリンが引っかかることはなかった。
僕たちはブラッドゴブリンと遭遇することがないまま、遂に樹海の一番奥、リリムの花の群生地まで来てしまった。リリムの花の群生地は広い花畑のようになっていて、そこら中にリリムの花が咲いていた。リリムの花は白くてとてもきれいな花だった。
「……結局、ここまで来ちゃったね」
「うん。本来ならこの花を持って帰ればそれで試験合格なんだけどなぁ……」
僕は独り言のように呟く。ミサキはリリムの花を取ろうと手を伸ばした。しかし、すぐに何かに気づいたかのように後ろを振り返る。
「……【索敵】に反応があった。気配の大きさからして、ブラッドゴブリンだと思う」
ミサキはそう言って剣を抜いた。ブラッドゴブリンと聞いて、僕も慌てて剣を抜き、懐から【初級重力呪文】のスクロールを取り出した。
――しばらく待つと、通ってきた樹海の方から一つの大きな影が姿を現した
「フシュルルル」
それは明らかにブラッドゴブリンと思われるモンスターだった。ブラッドゴブリンは普通のゴブリンと違って体の色が赤く、体躯も普通のゴブリンと比べると相当大きかった。そして、何より特徴的だったのはその大きな手から伸びる巨大な爪だった。爪は刃物のように鋭利で既に何かの血のようなもので真っ赤に濡れていた。
ブラッドゴブリンは僕たちを認識すると、僕たちのほうに向かって駆け出してきた。ゴブリンらしからぬ速さだった。ミサキが僕の前に出て細剣を構える。僕はすぐに【初級重力呪文】のスクロールを発動させた。
「時空よ、我の命によってその重みを増せ……グラデ!!」
――そう言って詠唱を終えた瞬間、僕の目の前に信じられない光景が広がった。ブラッドゴブリンがすぐにその場に倒れ、強烈に地面に押し付けられていたのだ。まるで見えない巨大な鉄塊に押し潰されているかのように、ブラッドゴブリンはメリメリと地面へ食い込んでいく。
「グォォォォ!!」
あまりの圧力にブラッドゴブリンは咆哮をあげ、口から血を吐く。さらにブラッドゴブリンの体がバキボキと骨が折れるかのような音をたてて変形していった。さすがにもうこれ以上耐えられなかったのか、ブラッドゴブリンの体はバシュッと霧のように離散して消えてしまった。残ったのはブラッドゴブリンの核であった大きな魔石だけだった。
僕はそのあまりに衝撃的な光景に、絶句してその場に立ち尽くしていた。確か魔法店の店員は相手の行動が鈍くなるぐらいの効果って言っていた気がするけど、全然言ってることが違うと思った。ミサキの方を見ると、ミサキも唖然とした顔をしていた。
「今の……【上級重力呪文】? 君、【上級重力呪文】のスクロール買ってたんだ?」
「え? い、いや、僕が買ったのは【初級重力呪文】だけど……」
「嘘。初級でこんな威力になるわけない」
「それは僕もそう思うけど……」
でも、僕が買ったのは確かに【初級重力呪文】のスクロールだったと思う。ただ、初級でこの威力はおかしいというミサキの意見はもっともだと思った。
「も、もしかしたら店員さんが初級と上級を間違えたのかも……?」
魔法店の店員の人――いや店主だったか?――は確かお婆さんだった。ちょっと失礼だけど、お婆さんなら初級と上級を間違えることもあるかもしれない。…………多分。というか、それ以外に理由が思いつかない……。
「それが一番あり得ると思う。初級呪文であの威力というのは考えられない。例えレベルが50あってもあの威力にはならないと思う」
ミサキはそう呟くように言った。僕も「そ、そうだよね、あはは」と同調する。僕は重力呪文の威力についてはあまり深く考えないことにした。何にせよ、ブラッドゴブリンは討伐することができたのだからそれでいいだろう。
僕たちはその後、第二中継地点へと戻って試験官たちにブラッドゴブリンを討伐したことを告げた。ブラッドゴブリンが討伐されたと聞いてその場は歓声に包まれた。さらに僕たちはそのままダンジョンの入り口まで戻り、リリムの花を試験官に手渡した。試験は合格だった。
……こうして僕たちは『最初の試練』を突破し、晴れて冒険者となった。




