新しい愛のカタチ
そこからの俺の諦めは早かった。人工知能のコウとの会話を主な情報源として、この2519年の日本の情報を集めまくった。現在のニッポン国と日本皇国の状況、性についての認識、男女内戦や俺が誰なのかまで。
「じゃあ俺は明日からその……漢高等学校……に転入ってことか? 」
「はい、その予定ですよ」
コウはこの日本に存在する情報ならなんでも教えてくれた、俺の予定まで管理しているようだ。異世界転移では――この場合はどうやらタイムスリップのようだが、『自分がここではない世界から来た』という事実は伏せるのがセオリーだ。
探さなければ。元の時代に帰る方法を。そしてあわよくばこの男と女で殺し合うなんて馬鹿げた戦争を止めなければ。じゃないと俺は――童貞も卒業できないじゃないか。
「――ン! おいシン! 」
「ん、あぁカイか。ごめん意識完全に飛んでたわ」
隣の席に座っている、スポーツ刈りの男子に話しかけられて考え事から現実の世界に引き戻された。俺になにかと良くしてくれる友人の飯坂カイだ。こうして俺が日本皇国にタイムスリップしてからもう1か月は経つ頃だろうか。人口知能かつ今では唯一の心の拠り所であるコウの助けを借りて、俺は上手く皇国の男子高校生として順応していた。
「もう、また変な妄想してたんじゃねえだろうな。それよりもう放課後だ! 早く行こうぜ! 科学部の見学! 」
地頭の良さに自信のある俺だったが、ただの男子高校生が過去へ戻る方法も、ましてや国同士の冷戦を止めるなんてできる筈も無く、どこまでも新鮮な日常を謳歌しているだけだった。目下一番の趣味は高校の科学部を見学することだ。流石500年も経てば科学というのは驚くほど発展しているのだ、と感じさせられる。
「あぁ、行くか――」
日課に向かおうとしたその時、校内ではよくあるあのイベントが勃発した。
「――おいいい! 3組の藤がウチの組の小鳥遊に告るってよぉぉぉぉぉお! 場所は中庭だお前ら急げええええええ! 」
同じクラスの野次馬体質のある男子がこぞって中庭へ急げと駆ける。科学部を見に行こう、と言っていたカイも無理やり俺の手を掴み走り始めた。
――小鳥遊……なんと女の子らしく可愛らしい苗字だろうか。いや、完全に俺の主観だが。
「見ろシン! 間に合ったぞ! 」
「はいはい……」
2階から見下ろす中庭には、2人の人影と、それを囲む人だかり。今まさに藤が小鳥遊に告白しようという瞬間だった。
「小鳥遊さん……俺、貴方のことが大好きです……! 付き合って下さいッッッ! 」
顔を赤らめながらその藤という男子生徒は告白する。ツーブロックの黒髪が少しだけ風に吹かれて揺れた。
「ッ……はい。俺も好きです……喜んで! 」
小鳥遊もまた顔を赤らめて真っすぐな告白を受け入れる。
その可愛らしい苗字とは裏腹に、筋骨隆々な坊主頭の男が小鳥遊なのだが。いや、可愛らしいは俺の主観だけどね?
『『『うおおおおおおぉぉおおおおぉおおおお』』』
高校中に雄々しい歓声が響き渡る。ガラスが震えるほどの音量に、思わず顔をしかめてしまった。
――そう、この女が存在しない日本皇国では、恋愛といえば男同士でするもの、というのが当たり前なのだ。男女の付き合いなんてものは考えもよらないものなのだ。
「地獄だ……」
幸せ純度100%の雰囲気の中、俺は独りへたり込んだ。