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変わり果てた東京

 「すげえ……すげえ、異世界だぁ。パラレルワールドだ。なんかすごい能力とかあんのかなあ? どうしよどうしよ、落ち着け俺……落ち着け」

 はやる気持ちを必死に抑えて先ほど出てきた部屋に戻り、状況を落ち着いて整理する。部屋の扉の横には、『沢渡シン』と俺の名前が書かれた表札のようなものがあり、俺は首をかしげる。


 「俺の存在が初めからこの世界にあることになってんのか……?」

 ぶつぶつと独り唱えながら、机の上にあるタブレットのようなものに触れると、爽やかな青年の姿をしたホログラムが出現する。

 「おはようございます。沢渡さん。今日も良い朝ですね」

 「うぉっびっくりした……AIか? 」

 思わず声を出すと、そんな俺の独り言にこのAIはしっかりと受け答えする。

 「はい、人口知能ですよ。名前はコウと申します。なんでもお聞きください」

 どうやらなんでも答えてくれるようなので、俺はコウへの怒涛の質問攻めを開始した。


 「ここはどこなんだ? 日本? 何年なの? 」

 「ここは日本皇国、東京都新宿区、36番高層ビルの14階、貴方様、沢渡シン様の自室です。西暦2519年、日本――というのは過去の呼称ですのでお気をつけください」

 パラレルワールドの設定を頭に叩き込むべく聞き入っていたが、ある単語に違和感を覚えて聞き返す。

 「日本……皇国? 」

 「はい。日本という国は2340年に起きた男女内戦により2つに分裂しました。女性が暮らすニッポン国、そして沢渡様が暮らしているのが男性による日本皇国です。現在これら2つの国は冷戦状態にあり、いつ戦争に発展してもおかしくありません」

 「は……? 日本が……2つに? この国には男だけ……? 嘘だろ……じゃあ結婚とかする時はどうするんだよ」

 ホログラムに映し出されたコウは、困ったような表情で答える。

 「はい。日本皇国には男性だけしか住んでいません。ケッコン……という単語が認識できません」

 意味不明な設定を、俺の頭が認識しようとしない。

 「え……結婚が分からないのか……? じゃあどうやって子供作るんだよ、俺の両親はどこだよ……なあ? 」

 「ケッコンという単語は認識できません。人間は京都府内にある生産施設、『コウノトリ』によって生み出されます。リョウシン、という言葉は認識できません。良心、ですか? 」

 同じ音の単語をコウが提示するが、それじゃない。それよりもコウノトリってなんだ? そんな馬鹿な話が――

 「――じゃあセックスは? セックスは知らないのか? 」

 「該当する単語は存在しません」

 「は……? 」

 意味が分からない。単語が存在しないとはどういうことだ。

 

 「おい……どういうことだ、じゃあどうやって人間が生まれるんだよ、セックスして、妊娠して……だろ? ふざけんなよAIが……」

 「人間はお伝えした通り、生産施設『コウノトリ』によって()()()()()ます。セックス、ニンシンという単語を認識できません。僕はふざけてはいません。沢渡様の質問に対しては、包み隠さずになんでも答えるようプログラミングされています」

 「そう……か」

 目覚めたら全く知らない世界、しかも500年後の国民の100%が男で構成されている日本皇国にタイムスリップしたときた。とにかく現状を受容とまでは言わずとも理解しなければならない。


 「お出かけですか? いってらっしゃい」

 再び部屋の外に出ようとする俺を、笑顔で見送るコウ。自動ドアの外に出てみれば、先ほどと変わらぬ近未来の風景がそこには広がっている。


 「マジかよ……おい」

 俺は視力がとても良い。それが数少ない取り柄の1つなのだが、眼下に広がる東京の街並みには、行き交う人々で溢れている。目を凝らして見れば、男。男、長髪の男――ゴミほど人が居るというのに男しか居ない。


 「ホントに男しか居ねえじゃねえか……」

 理解はした。次は――受け入れなければならない。


 


 男だらけの――この変わり果てた東京(まち)を。

 


 


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