三食昼寝美人付き そのに
「いや~~~~ニート最高だわ」
魔法超便利。現代っ子はスマホと萌えがないと死んじゃうんだけど、電波通じるし魔法があれば何でも自由に動かせるし?もう帰らなくていいのでは???私の天国ここなのでは???ってレベルで異世界を満喫している。
最初の一週間は戸惑った。通貨がなにかも知らなければ常識もわかんない。何より森の中に出たはいいが、家がない。土地とか購入しなきゃだめ?山って権利者いるよね??森も権利者いる???ってびくびくしてたけど、未開拓の地を手に入れました。魔法って超便利。
家も一瞬で建てられるし、何よりも魔法で人の様子が見える。
鏡って便利~フゥー
今は自給自足で家庭菜園なんかもやっている(魔法で)。
料理なんかもできちゃう(魔法で)。
なんなら掃除なんかも自分でできちゃう(魔法で)。
……これ、自堕落すぎでは???
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この世界にやってきて1か月。私は自堕落生活を極め、妖精とか、森の動物たちときゃっきゃうふふな生活をしていた。
娯楽でいろんな国の様子を鏡で覗いていたりもしてる。そこ、覗き見とかいうんじゃない。テレビと一緒よ。公共の場しか見てないから許して。
いつもの様に鏡で外を覗いていたら、どうやら自分が住んでいる森の近場に、魔物の棲家になっている森があるらしい。
今度聖女のいるこの国と、そのお隣さんとで討伐に行くらしい。へぇ~って感じ。お仕事してんなぁ。偉い偉い。私のお隣さんがやべーとこならどうにかしてくれ精神で私は生きているよ。魔法でどうにかできるなら私のとこに来たらどうにかする。ダメなら森のみんな連れてどっかの森にお引越しするって今決めた。魔物こえーわ。
みんなにもそうしよーねーって暢気に話していたわけだが、どうやら連中この森にも来るらしい。出口?入口?そんなん知らないけど、その辺にも魔物が転がってるから、ついでに寄るらしい。いやいや、来なくていいわ。ここに来るのはマジ勘弁。ってことで、その魔物さんを森から追い出すべく結界張ったよね。まじやめて。私の棲家にこないで~
今日も元気に、魔法って超便利。
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一週間後、連中が城を出発して、この森がある方へ南下しているらしい。めちゃくちゃ行動遅くない?大丈夫?精鋭を集めたって?みんなめちゃ弱そう。他力本願だからしょうがないか。聖女様ファイト―。
…とか思ってたけど、これ乙女ゲーム?何かのゲーム?ってくらいその様子が笑えた。しかもすんごい進みも遅い。ここにいた魔物も追い出しちゃってから、しばらく唸ってたけどどっかいっちゃったもん。遅すぎて。どこにいるか見れるけど、私に害ないし、興味ないから見ないけど。それにしても笑える。
途中でその鈍足具合に痺れを切らしたお隣の国の人たちが数人離脱した。そっちの方が進みが早い。行く先々の村やら町やらで拝まれてるよ。聖女様人気落ちてるけど平気?楽しそうだしいいんかな。
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鈍足聖女御一行が件の森に付く頃(ここの森は魔物いなくなったって噂で回ったから放置されたよやったね!)には、先に行っていたお隣さんが、調査をある程度進めた頃だった。足手まといがいなくて清々したぜ!って感じで調査していて、見ていて面白かった。あと、こっちに気付いてるっぽい事を言われたときはすんごいヒヤッとした。この国の人が監視してたかなんかだったらしくて、安心した。私じゃない。すごい量の冷や汗かいちゃったよ。お風呂入ってたのに。あつあつなのに。
正直、このお隣さん。顔がいいのが揃ってて、ミーハーな私は目の保養でとても幸せなわけですよ。私の森に危害もないし、ある意味害虫駆除してくれてるようなもんだし、対岸の火事だし、痛くも痒くもないところから見学する分には、最高の物件すぎて。ガンバエーって私の心の幼女が応援してる。…応援してるよ?
あと、ここまで順調に行ってたのもある。ひやっとする場面もあったけど、何せ彼ら顔がいい。あと腕がいい。こっちは、ちゃんとした精鋭を集めてきたって感じ。ただ、鈍足ちゃんたちが合流してからは、それはもうハラッハラすることが多い。彼ら、お貴族様の中でも優秀って言われてる人たちと、志願した人を精鋭とか言っちゃう連中だから。プライドだけはいっちょ前だけど。技術も何もない。変なとこ頭の回転早いくせに、他人を蹴落とすところにしかその才能を使えないみたい。哀れ。
私も自分が楽することにしか魔法使ってないから、人のことは言えないんだけど。合唱。
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お隣さんたちの調査がはじまって一週間、鈍足ちゃんたちが追い付いてさらに一週間。
お隣さんたちは十分に用意をして、森の奥に進む計画をしたらしい。
そこにじゃま…同行するという鈍足ちゃんたち。荷物はほぼお貴族様スタイルに必要なものばかり(要するに日用品)で、戦闘向きじゃない。村人に貢げよ(意訳)って言ってはここには何もないと言われて激怒している。隣に行けばあるって言われて持ってこいとまで言ってる。お隣の町には武器でも魔道具でもなんでも売ってるよ。どうせ動くのは本人の足じゃなくて馬でしょ。自堕落すぎるよ働け。
お顔の一番美しいお兄さんが密かに怒ってるけど、外交だなんだって抑えててすごいなって思う。うさぎの人形があればパンチしちゃいそう。ぬいぐるみに罪はないよ。
ちなみに、このお顔の一番綺麗なお兄さん、お隣さんの王子なんだって。そりゃ顔がいいわけだ。この国のは微妙だけど。私が好きじゃないだけで綺麗だと思うよ?聖女様も見惚れてる顔だしね。趣味の違いよ。私は俄然、幸薄顔が好き。
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高みの見物人こと私、再び冷や汗に見舞われている。
時はちょっと進んで、森の奥へ突入する日。あの後、聖女様が隣の町も見てみたいってことで激オコ丸くん(貴族の子の一人)を宥め、ついでに森へ行く装備を整えにいっていた。初めから行けよって感じだよね。無駄な時間使ったね。
王子はため息ついてるし、護衛だなんだって鈍足ちゃんたちと町に行かなきゃいけなくなっちゃったし、大変そう。憂い顔も素敵だと思うよ。
そして私は現在、お隣さんの賢者さんとやらに鏡越しに語りかけられている。待って。そっちからこっち見えるとか言われたら激しく動揺する。冷や汗どころじゃないよ、こちとら真っ裸よ。半身浴の真っ最中なの水着着たわ。
『見ているのはわかっています。前回の間者の時にあなたが動揺してくれたおかげで、ようやく気付きましたが……どこかの国の様子もない。何の目的でこちらを探っているのか』
冷や汗が留まるところを知らないレベルでお風呂に入っていく。
このお兄さんも例外ではなく顔がいい。
やっぱ乙女ゲーム??待ってもしかして私って悪役ポジだったりする??覗き見でばっさりやられる??それ間抜けすぎない???まって???
妖精さんたちに「ファイト!」ってポーズをされながら、どうにかこうにか言い訳を探していると、お兄さんが勝手に語りだした。
『まあこちらの敵でないのならいいのですけれど、何者かくらい教えてくださってもいいのではないでしょうか。それとも、あの聖女にご執心だという王子の使いなのでしょうか』
云々…
待って、語らないで待って。お願いだから待って。あと右から左だから待って。
というか、こっちの姿は見えてない…っぽい?
…これは…勝てる…!
鏡越しに誰かと会話を試みるのは初めてなので、めちゃくちゃ緊張する。顔見るなって言われなら泣くから、それとなく言質を取ろう。
「敵ではないよ。味方でもないけど。ここは暇だし、あなた達の顔が好きで見てるだけ。綺麗なものが好きなの。怒った?害は与えないし、気配もウザかったら消すから、顔を見るのは許して欲しいな~~なんて…思ってるんですが…どうでしょうか…」
鏡越しにお兄さんに返事をする。語るのやめてくれて嬉しいです。王子との馴れ初めとか聞かされても困るよ。それ情報漏洩になったりしない?平気?
どんどん声が小さくなる自分に気付いているが、怖気付いたとかそんなんじゃないし。顔みたいだけだからダメって言われてもこっそり観るもんね。
ちなみに、お兄さんは私が顔が好き、と言ったあたりでポカンとした顔をしたが、すぐに持ち直して笑ってくれた。うーん顔がいいね。
『そんなくだらない理由で私たちを見ていたんですか?』
「立派すぎる理由よー!顔がいいって素晴らしいことよー!綺麗なものはいいことよ!みんなそうでしょ!綺麗って言われるでしょ!」
言われすぎてるか鏡の見すぎか周りが顔面偏差値高すぎて麻痺してるやつだなこれは。なんて奴だ顔がいいからって!!
『敵でも味方でもない。ある意味一番厄介ですが、こちらには手を出さないという意味に捉えますが』
「手は出しません。魔物とか政治とか、興味無いもの。私は私の生活をするだけで手一杯。顔を見るのは娯楽だもの」
『……まぁ、見るだけなら許します。ただ、こちらも大事な話をしている時がありますので』
「そこはちゃんと聞いてないよ〜!外にいる時と、ヒソヒソ話する時はちゃんと声は聞こえないようにしてる!から大丈夫!そっちからは大丈夫じゃないかもだけど!声は聞こえなくしてもいいから!顔は許してね!」
顔に必死すぎてきもい女になってる。そもそも女ってバレてるんだろうか。どうなんだろ。
お兄さんは本気で顔にしか興味が無いと悟ったのか、悟らなかったか呆れたのかは知らないけど、顔だけですよって言った。言質!取ったよ!やったよ妖精さん!
『声も、こちらが外にいる間は結構です。個人の室内と、我々だけになった時は遮断してください。』
「わかりましたー!」
お兄さんの許可をもらい、私の冷や汗はようやく止まった。なんて恐ろしいんだ。
お兄さんがその時何を考えていたのかにも気づかず、呑気に王子も別の鏡で映し出した私は、本当に呑気だった。
『ただし』
「えっ」
**
賢者のお兄さんからは条件を付けられてしまった。声遮断したらいいんじゃないのかよー!
……いやまぁ、顔が見れたらなんでもいいんだけど。でもずっとミュートなのも楽しくないじゃん?アイドルには歌って踊って笑って話を聞かせてこっちを笑わせて欲しいじゃん??
王子とそのお供たちだからアイドルではないんだけど。歌って踊るならいつでも呼んで。
賢者さんの条件は、お隣さんたちが見ていない所での鈍足ちゃんたちの様子をたまに教えて欲しいとのことだった。別にこの国に義理も何も無いから、いーよーって言ったけど、あの人たちなんも考えてないよ?たまーーに馬鹿なこと考えてるけど。疑うのもいいけど、ほんとに馬鹿だから大丈夫と思うよ?
でもこの国って言うのそろそろなんか違うな。私が今いる森ってちょうど中間地点なんだよね。私が出てきた国と、お隣さんとの。森が深いか何なで迂回地にされてるけど(魔物もいたし)、聖女様の国、私の森、お隣さんって感じ。森の上では国同士隣合ってるけど。
「面白そうなこと言ってたら教えてあげるね~」
お風呂上がるしもう切るよー。
とだけ言って会話を切り上げた。賢者のお兄さんは微妙な顔をして頷いてた。やっぱこっちの姿は見えないみたい。
「魔法って便利だなーー」
魔法でタオルを動かし、ドライヤーをして、今日の服を着せてもらう。着せるのは自分か。私の魔法だし。
「やっぱニートなんだよなぁ…」
移動はさすがに歩くよ?
鏡越しに、賢者のお兄さんがうんうん唸ってるけど、それも顔がいい。
そっちから声掛けてるのは聞こえるけど、こっちのも聞こえたら困るよー。
…というか、お兄さんが賢者なら、こっちも鏡越しに見れたりしちゃうのでは?
それはまずいね。結界張っとこう。
でも賢者とか言っちゃうくらいだから、私のヘボ魔法とかちょちょいのちょいだったりするかも。
怖いな。変なことしてない時にしてね?
某魔法の賢者の石作った賢者しか知らないけど、やっぱ頭いいんだよなぁ…頭いい上に顔もいいって天は二物を与えずって絶対嘘だよね。
…この賢者さん、賢者なのにおっちょこちょい属性もあるよ。萌えキャラじゃん。