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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第83話 『九死に一生』


「シドラス帝国が……崩れる……」


 突然として、シドラス帝国が大きく揺れ始める。立っているのもままならない程に、激しく、大きく揺れていた。



 ――シドラス帝国王邸前で『嫉妬』を司る、ルミナ・フォードラス――否、エリナ・カジュスティンと戦闘を繰り広げていたエレナ達も、シドラス帝国の異変に困惑していた。


「なに……この揺れ……!!」


「タクトくん達かな……!!」


「これは、イシュタムの仕業……いや、違うわね。国が崩壊していってる……」



 ――それは、地上へ避難していたフューズやミラ達にも、シドラス帝国が揺れる轟音が聞こえていた。


「まずい……」


 フューズは空を眺め、雲の上から聞こえてくる轟音に焦った表情をしていた。ミラはフューズを横目に、


「どうしたの、おじさん」


「シドラス帝国が……崩落するぞ……」


「は!? 崩落!?」


 ミラもすかさず上空を見上げる。すると雲の中から、シドラス帝国の地面などの欠けらが次々に海へと落下してくる。


「ちょ!? 本当に崩落してるじゃない!! お兄ちゃんやタアくん達は大丈夫なの!?」



 ――シドラス帝国王邸地下室でも、天井などが崩れ始め、ヒナは揺れに負けない様に体勢を整える事しか出来ない。


「あははは!! シドラス帝国が崩れる? ざまぁみろってのよ!! お前らが素直に黒の玉を渡してれば、こんな事にはならなかったんじゃないの? あははは!!」


 シドラス帝国を浮かせる原動力にもなっていた、自然テラを溜め込んでいた壁を、壊した張本人であるイシュタムに対して、ヒナは憎しみの目で睨んでいた。

 母親との思い出を壊された気持ちになり、怒りが込み上げて来る。


「貴方は……絶対に許さない!!」


「許さない? なら、イシュタムを殺してみろよ!! 無理だろ? お前みたいなクソモブに、主人公を倒す事なんか出来ないんだよ!!」


 イシュタムは大きく揺れる中、背中に生えた紫色のテラの腕をヒナに向かって伸ばす。

 ヒナが咄嗟に手を翳すと、突然として紫色のテラの腕が、ボロボロと消化する様に崩れていく。



「――っ!!」


 イシュタムは咄嗟に背中から紫色のテラの腕を切り離すと、紫色のテラは、灰と化して消えていく。


「灰になった? お前……何をしたぁ!!」


 ヒナも何が起きたのか分からないでいる。正しく今の力は、黒のテラの『消化』の能力だ。

 掌を翳した線上にある標的を、灰と化す事が出来る能力だ。


「これが……お母さんの力……」


「どこまでもイシュタムを虚仮に……ぶっ殺してやる!!」


 イシュタムがそう叫んだ瞬間、シドラス帝国は更に大きく揺れる。



 ――シドラス帝国王邸前の広場も、崩壊が始まり地面が割れて崩落し始める。


「まずい!! このままだと、シドラス帝国ごと海に落ちる!!」


 ディオスはエレナ達の元に駆け寄り、


「エレナちゃん、ミツハちゃん、ヴァリちゃん、今すぐ地上に降りるよ!!」


「でも、まだタクト達が!!」


「タクトくんなら大丈夫。あの子なら、きっと大丈夫だよ」


 エレナの心配を他所に、ディオスは冷静な判断でそう言葉にした。


「そうっスね。タク兄なら大丈夫っスよ!!」


「でも……降りるってどうするんですか?」


 三葉が質問すると、ディオスは両手を合わせて、


「俺に触れて貰えば、それだけでいい」


 ディオスがそう言うと、三葉とヴァリはディオスの腕に手を触れる。だが、エレナだけは触ろうとせずに、視線をエリナに向けていた。


「エリナお姉様……」


「久しぶりの再会はここまでの様ね。エレナがうちになんて言おうと、うちはうちのやりたい様にする。次に会った時にでも、決着付ける?」


 エリナの言葉に、エレナは胸が締め付けられる様な思いだった。

 何故、姉妹であるエリナと、無駄な争いをしなければならないのか。何故、感動の再会を分かち合えないのか。

 それが分からなくて、悔しくて、もどかしかった。


「私は……私は、エリナお姉様を信じてる……」


「――――」


 そう言ってエレナは、エリナを見つめる。エリナも、その言葉に何も返事しないまま黙って見つめ返していた。

 そして、二人を引き裂くかの様に、地面が大きく割れてエリナは地面と共に落下していく。



「――エリナお姉様!!」


 エリナは落下の途中で、真っ黒なグリフォンが背中で拾い、空を飛んでいく。


「エレナちゃん!! ここも危ないから、早く!!」


 エレナがディオスに触れ様とした時、足元の地面が崩れていく。



「――わっ!?」


「エレナ!!」


 落ちそうになるエレナの腕を、ヴァリが掴んだ瞬間、ディオスは地上へと瞬間移動する。



 ――地上に居たミラ達の目の前に、忽然としてディオス達が現れ、ミラ達は思わず驚く。


「うわ!? お兄ちゃん!?」


「危なかった……」


「って、タアくんと王妃様わ?」


「恐らく、まだ上だよ……」


 ディオスがそう話すと、ミラはディオスに激昂した。


「何してるのよ!! タアくん達を見殺しにでもするの!? 早く助けに行かなくちゃ!!」


「タクトくんなら大丈夫だよ……あの子は不思議な子だ、この危機も乗り越える筈だよ……」


「そういう事を言ってる場合じゃ無いでしょ!? お兄ちゃん!!」


「ごめん、ミラ……正直に言うと、もうテラの限界なんだ……何度も大勢の人を瞬間移動させたからね……俺一人だけなら、消費も少ないんだけどね……」


「そんな……」


 ミラはその場に座り込んでしまう。例え、落ちる場所が海だとしても、あの高さからだと命の保証は無い。


「生きて帰ってこなかったら、承知しないわよ……タクト」


 エレナと三葉とヴァリも、心配そうに上空を見上げていた。今もまだ、雲からは雨の様に地面の欠けらが崩落している。



 ――そして、シドラス帝国王邸地下室でも、崩落は始まっていた。


「きゃあ!!」


 ヒナは大きな揺れに耐えられず、その場に倒れ込んでしまう。すると、ヒナの目の前の地面が割れて、海へと落下していく。


「どうせ、お前らは落ちて死ぬんだ。イシュタムの手で殺したかったけど、落ちていく死の恐怖ってのも見応えがあるよな!! あははは!! 今度会った時は、お前の骨が粉々になるまで殴ってやる!! あははは!!!!」


 そう言うと、イシュタムは割れた地面から飛び降りていく。すると、エリナを乗せた真っ黒なグリフォンの背中に着地し、『嫉妬』と『虚飾』はシドラス帝国を去って行く。


 『大罪騎士団』との戦闘は何とか凌いだものの、シドラス帝国の崩落は止まらない。

 このままだと、ヒナと卓斗はシドラス帝国諸共、海へと落下してしまう。

 だが、ヒナにはどうする事も出来ない。イシュタムに殴り飛ばされてから卓斗の姿は見えず、死んでしまったのかと心配もするが、それどころでも無かった。

 だが、無情にもヒナの倒れ込んでいた地面も割れて、ヒナは海へと真っ逆さまに落ちて行く。


「――っ!!」



 ――その瞬間、



「危ねぇ……ギリギリセーフか……」


 卓斗が駆け付け、ヒナの腕を掴んでいた。卓斗は瓦礫に手を掛けて体を支えて、片手でヒナを間一髪掴んだのだ。


「タクト……!!」


「大人しくしてろよ。直ぐに引き上げるか……ら!?」


 だが、卓斗の足元の地面も割れ、二人は一気に海へと落下して行く。



「――嘘だろ……!?」


「きゃあああ!!」


 二人は物凄いスピードで海へと一直線に落下する。言わば、パラシュート無しでスカイダイビングをしている感覚だ。

 体がフワッとなる重力は余り感じられず、まるで絨毯にでも寝転んでいるかの様だった。

 スカイダイビングとは、こんなにも気持ちのいいものなのかと、ふと思う卓斗だったが、そんな事を考えている場合では無い。

 このままだと、卓斗とヒナを待ち構えているのは、死だ。


「こんな所で……!! 俺の物語を……!! 終わらせてたまるかよ……!!」


「でも……!! どうすんのよ……!!」


「しっかり掴まってろ……!!」


 卓斗はヒナを抱き寄せる。ヒナも離れまいと、必死に卓斗にしがみつく。すると、卓斗は海に向かって手を翳そうとする。

 だが、風の力で手を伸ばす事が出来ないでいた。


「くそ……が!!」


 卓斗は力一杯振り絞り、一瞬だけ海の方に手のひらが向いた瞬間に、最大の力を込めて『斥力』の力を放つ。


「何を……!! したの……!?」


「まぁ……!! 見てろ……!!」


 すると、卓斗とヒナが落下する真下の海が大きく凹み、下から物凄い風が吹き荒れ、二人を上へと押し返す。

 落下する力と押し返す力が上手く調和し、二人は緩やかに海へと落ちていく。


「ハァ……ハァ……これで、落下の衝撃は防げるだろ……後は、海に落ちてからどうすっかだな……」


「凄い……空を飛んでるみたい……」


 それは、自然で作ったパラシュートの様なものだった。だが、それだけでは解決したとは言えない。


「そろそろ落ちるぞ……!!」


「離さないでよ? ――旦那さん」



 二人は掴み合う手を強く握ると、海へと落下し、その衝撃で深くまで潜っていく。


「ゴボボボボ……!!」


 海の中は薄暗く、シドラス帝国の地面の欠けらなどがゆっくりと海底に向かって沈んで行くのが見えた。


 そして、卓斗は完全にパニック状態だ。何故なら、泳げないからだ。

 卓斗は海中で踠いていると、ヒナが卓斗を引っ張りながら、海上へと泳いで行く。



「――ぷはぁ!!」


「ハァ……ハァ……泳げないって、本当だったの……?」


「ハァ……ハァ……死ぬかと思った……」


 卓斗はヒナにしがみつくのに必死だった。もしこの手を離せば、溺れてしまう。そう思うだけで、何より怖い。


「ふぁー……まじでビビった……」


「でも、こうして生きてるじゃない。ありがとね、タクト」


「礼を言うのは、まだ早いだろ」


 卓斗はそう言って上を見上げる。上空からは、シドラス帝国全体が、海へと近付いていた。


「ヒナ、泳いで海岸まで行けるか?」


「行けない事も無いけど、到底間に合わないわよ。どっかの誰かさんが重たいから」


 そう言われると、卓斗は何も言い返せない。だが、海に落ちてしまった以上、卓斗はヒナだけが頼りだった。

 その時、突然として卓斗達の浸かってる目の前まで、海が凍り始める。



「――凍った……?」


 卓斗とヒナが凍った先に視線を向けると、海岸でミラが手を振ってるのが見えた。


「ミラさん!!」


 卓斗とヒナが落ちて行くのが見えたミラは、海を凍らせて道を作ったのだ。


「ヒナ、氷の道で海岸まで、一気に走るぞ」


「分かった!!」


 二人は氷の上に登り、一気に海岸へ向けて走り出す。その間も、シドラス帝国は落下し続ける。

 海岸の近くまで走ると、ミラの叫び声が聞こえてくる。



「――おーい!! タアくん!! 王妃様!! 急いで!!」


 その時、シドラス帝国は海へと落下し沈んで行く。その際に、大きな水飛沫を上げて、やがてそれは津波となって、卓斗とヒナの背後から襲ってくる。


「ちょちょ!? また海に呑み込まれちまうぞ!!」


「泳げないなら、全力で走りなさいよ!!」


 卓斗とヒナが海岸に到達すると、ミラが津波に向かって手を翳す。


「おかえり、タアくん、王妃様」


「ミラさん……ハァ……ハァ……助かった……」


 すると、ミラは津波を一気に凍らせる。津波は形を保ったまま氷漬けになり、それは幻想的な光景だった。


「ふぅ。間に合った……」


「はぁ……もう限界……もう走れない……」


 卓斗はそう言葉を零すと、その場に寝転んでしまう。イシュタムとの戦いや、シドラス帝国からの落下、海で溺れるなど、疲労困憊だ。


「タクト!!」


 すると、そこにエレナ達も駆け付ける。シドラス帝国での戦いは、何とか全員無事で乗り切る事が出来た。

 イストライル国の王子と側近の死は、喜んでいいのかも分からないが。


「あー……エレナか……」


「こんな事に巻き込まれて、本当に馬鹿ね、あんた」


 エレナは卓斗の隣にしゃがみ込み、そう言葉にして卓斗の頬を抓る。


「痛ってーな……まず、俺が巻き込まれて無かったら、ヒナ達が危なかったろ。『大罪騎士団』の連中も、王子達も、俺らが居なかったら、ヒナ達だけで戦う事になってたんだぞ」


「後からなら、何とでも言えるわよ、馬鹿」


 卓斗は状態を起こし、ボロボロになってしまったエレナの騎士服を見て、


「お前も、頑張ったんだな……『大罪騎士団』相手に、無事で良かったよ」


「私は特に負ける訳にはいかなかったのよ……」


「そうっス!! エレナは頑張ったんスよ!! タク兄は結婚なんかしてる場合じゃ無いっスよ!!」


 ヴァリの言葉に、卓斗とエレナはポカーンとした顔をして見つめている。

 その隣では、ヒナが笑いを堪えていた。卓斗とヒナの結婚が偽りだと分かったのは、エレナとディオス、ミラとティアラだけで、ヴァリと三葉は何も気付いていなかった。


「あはは、面白いわね、貴方」


「何を笑ってるっスか?」


「結婚なんかしねぇよ、俺ら」


 卓斗がそう言うと、ヴァリもポカーンとした表情を見せた。三葉も驚いたが、表情には出さない様にしている。


「王子にヒナを諦めさせる為の、作戦みたいなもんだよ」


「作戦……ヴァリ、騙されてたっスか……?」


「悪りぃな、ヴァリ。そういう事だ」


 何故かヴァリは、安堵した表情を見せて、三葉の方に視線を向け、サムズアップする。



「――にしても、『大罪騎士団』は何とか出来て良かったけど、王子らが死んじまったのは、なんか……後味悪いな」


「別にいいんじゃない? 女の子を困らせるストーカーだったんだし、これで王妃も楽に過ごせるって事よ」


 ヒナとしても、ディーンが死んだ事を素直に喜べ無かった。確かに、ディーンの事は大嫌いだったが、いざこうして目の前で死ぬ所を見ると、感慨深い。


「それよりタクト、『大罪騎士団』について、私も詳しく知りたい」


 エレナが突然、そう卓斗に質問した。姉であるエリナが『大罪騎士団』に所属している以上、エレナとしても放っておけるものでは無かった。


「そうだね。俺もそこは詳しく知りたい。何か知ってる事があるなら、教えてくれるかな、タクトくん」


 ディオスもその話に加わってくる。『大罪騎士団』という組織がある事が分かった以上、聖騎士団も放っておけるものでは無くなる。

 卓斗も、最早『大罪騎士団』の目的の事を、隠す場合でも無いと考え始めて居た。


「『大罪騎士団』の連中は、危険な能力ばかりを持った組織だ。その力で、世界を終焉へと導こうとしてる」


「世界を終焉へと?」


「あぁ。俺とヴァリは四都祭の本戦の時に、『大罪騎士団』のメンバー全員と会ってる。その時に、そいつらはそう言葉にしてた。俺も、最初はハッタリだとか思ってたけど、『大罪騎士団』の連中と戦ってると、本当に世界を終焉へと導こうとしてるんじゃねぇかって思ってさ……それ程に、ヤバイ奴らなんだよ」


 卓斗から話を聞いたエレナの表情は、暗くなっていた。そんな組織に、エリナが居る事が、堪らなく悲しかった。


「そして今回、あいつらが黒のテラを狙ってるのが分かった……あと二人、黒のテラを所有してる人を見つけなきゃならねぇ」


「卓斗くんは、その『大罪騎士団』の人達から、この世界を守るって事? それが、前に話してくれた理由なの?」


 そう言葉にしたのは三葉だ。以前、副都で二人はこの件について言い争った事があった。

 卓斗はこの世界を救う為に、日本に帰る事よりも優先する事を決めたが、三葉はそんな危険な事を卓斗にして欲しく無かった。

 最終的には、三葉も卓斗に協力する形になり、話は纏まったが、こうして『大罪騎士団』の恐ろしさを目の当たりにすると、心配になる。


「あぁ、そうだ。俺はこの世界を終焉から守る」


「どうして、タクトくんがそんな役目を?」


「俺の中に、フィオラの秘宝があるからだ」


「フィオラの秘宝が!?」


 聖騎士団のメンバーも、フィオラの秘宝の存在は知っている。エルヴァスタ皇帝国がフィオラの秘宝の捜索の依頼を出しているからだ。

 だが、長年見つかっていないフィオラの秘宝が、卓斗の中にあると聞いて、ディオスとミラは驚いている。


「フィオラの秘宝には、フィオラの魂が封印されてる。俺はその封印を解かなくちゃならねぇんだ。フィオラを解放する事が、この世界を終焉から救う事に繋がると思ってる」


「君は一体、本当に何者なんだ……?」


 ディオスは、卓斗のその存在自体に疑問を抱いていた。何か感じる不思議なオーラと、世界を救うという大きな役目を背負っている事が、疑問で仕方が無い。


「只の元高校生だよ、俺は。ただ、黒のテラを宿した以上、フィオラの秘宝が俺に宿った以上、やらなきゃなんねぇんだ」


「卓斗くん……お願いだから、無茶だけはしないでね? 世界を救って、生きて帰るって約束だからね?」


「当たり前だ、三葉。ここに居る皆も、副都で出会った皆も、全員を守ってやるから」


 そう言って力強く話し、笑顔を見せる卓斗に、三葉も優しく微笑んだ。するとミラが、


「一人で守るってのは、ちょっと頂けないかな? 私達はタアくんにちゃんと協力するからね? 一人で背負い込むのは無しだからね。そうだよね、お兄ちゃん?」


「うん、そうだね。聖騎士団としても、全力で『大罪騎士団』と立ち向かう。そして、タクトくんの言う世界の終焉というのにもね」


「ディオスさん、ミラさん……ありがとう。正直、俺一人でってのは不安だったんだ。相手が強大過ぎるからさ……それこそ、死者が出る可能性もある……でも、皆で力を合わせれば、乗り越えれるよな!!」


 今回のシドラス帝国での戦いを機に、卓斗達と『大罪騎士団』との抗争の火種は、一気に広がる事になる。

 いずれ来る、世界の終焉へのカウントダウンは、開始されたのだ。


 すると、そこにフューズ達も駆け付ける。フューズはヒナの無事を確認すると、ヒナを強く抱き締めた。


「ヒナ……!! 無事だったか……!!」


「ちょっと……!! お父さん……!!」


「タクトさん、今回はありがとうございました」


 フューズはそう言うと、卓斗に深く頭を下げた。娘がディーンとの結婚が無くなった事も、娘が無事に生きて居る事も、卓斗のおかげだと、伝え切れない程の感謝がフューズにあった。


「顔を上げて下さい、フューズさん。シドラス帝国は崩壊しちゃったけど、皆は無事だったんですから」


「国の事は、仕方が無い事だ。ですが、民達をこれからどうするか、悩む所でね……」


 すると、ヴァリが徐に口を開いた。



「――なら、マッドフッド国にでも来るっスか?」


「ヴァリ?」


「元々、王妃様と王子の結婚も、シドラス帝国のマッドフッド国傘下の話の元だったんスからね。上の者にはヴァリから伝えておくっスよ」


 ヴァリの提案は、フューズ達にとっては有難い事だった。国を無くし、住む所を無くした民達も安心するだろう。


「本当にいいのかね? 娘に結婚を辞めさせ、マッドフッド国傘下の話を断ったも同然な事をした……」


「そんなの関係無いっスよ。今回の件は、王子が悪かったんスから。大丈夫っス!! ヴァリは女王と仲がいいっスから、すぐに了承してくれるっスよ!!」


「ヴァリ、あんまりエティアに負担掛ける様な事ばっかしちゃ駄目よ?」


 ティアラがヴァリの独断の判断に呆れながら話した。そう言うティアラも、反対するつもりは無いが。


「なら、今回の件は一件落着って事だな」


 そう言って卓斗は立ち上がる。両腕を上に伸ばして、全身を伸ばすと、ヒナが卓斗に話し掛ける。


「今回はありがとね、タクト。会ったばかりなのに、なんか凄く長く一緒にいる感覚で、離れるのがちょっと寂しいわね……」


「ヒナ……」


「それから、黒のテラを封印してた黒色の玉がね、私の中に入ってきたの」


「入って来た? それって……」


「私も、黒のテラの所有者になったって事よ。これで、まだ関係は続けていけそうね。また会える時を、楽しみにしてるわね、――旦那さん?」


「――っ!?」


 ヒナはそう言うと、卓斗の頬に優しく口付けをした。卓斗は一気に顔を赤らめ、衝撃で言葉も出ない。

 それを見ていたエレナ、ヴァリ、三葉は目を丸めて固まっていた。


 その後の帰り道で卓斗が三人に扱かれたのは、他でも無い。




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