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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第82話 『シドラス帝国の戦い』


「エリナお姉様……」


「これで本当に、久し振りね、エレナ」


 シドラス帝国王邸前で、『嫉妬』を司る、ルミナ・フォードラスと対峙していたエレナとヴァリ。

 そこに駆け付けたディオスと三葉も加え、四人でルミナと対峙していたが、エレナが覚醒リスベーリオを発動し、ルミナを圧倒した。


 だが、ルミナの白い仮面が剥がれると、その素顔はエレナの姉である、エリナ・カジュスティンだった。

 二年前に滅亡した筈の王族カジュスティン家の第二王妃。生き残ったのはエレナだけの筈だったが、今目の前にエリナは立っている。


「生きていたの……?」


「見ての通りね」


 二年前、燃え盛る火の海の中、エレナは両親や姉を探すべく走り回っていた。

 会えたのはエリナとエイナだけだったが、長女であるエイナは二人の目の前で、襲ってきた黒い煙と共に姿を消した。

 エレナとエリナは燃え盛るカジュスティン領を抜け、王都の郊外に逃げるが、エリナは両親達を探すべくエレナを残して、再び燃え盛る火の海へと入って行った。

 それ以来、エレナはエリナの姿を見ていなかった。その時から、エリナもエイナやニワ、ジュディらと共に姿を消したのだと思っていた。



 ――だが、それはエレナの思い込みだったらしい。



「あれが、エレナちゃんのお姉さん……」


「顔がそっくりだね……違うとすれば、髪型と瞳の色かな」


 三葉とディオスもエリナの素顔を見て、只々驚いていた。エリナの瞳は黄色の瞳をしているが、髪型と瞳の色を除けば、エレナそっくりに美少女だった。



「――でも、気になる事があるっス」


 そう言葉にしたヴァリは、エリナを警戒する様に見つめていた。エレナの姉だと分かった以上、気になる点が出てくる。それは、


「本当にエレナのお姉さんだったら、何で今まで姿を現さなかったっスか? 何で名をルミナって偽ってたっスか? 何で『大罪騎士団』なんかに居るっスか?」


 それは、エレナも気になっていた事だった。生きていたのなら、どうして自分の元に戻って来てくれなかったのか。

 どうして『大罪騎士団』という悪の組織に加入しているのか。


「そうよ、エリナお姉様……どうして……?」


「うちは王族だとか、王妃だとかどうでも良かった。うちのしたい様に生きる……うちの人生はうちが歩んでる。ただそれだけの話よ」


「その答えが……これだって言うの? 国を襲って……人を殺めて……こんなの……こんなの、エリナお姉様はしない……」


 『嫉妬』を司る、ルミナ・フォードラスの正体が、エリナ・カジュスティンだという事は、エレナが一番信じたく無かった。

 だが、その声が、その容姿が、その記憶が、エリナだと証明している。エレナの目の前に居るエリナは、誰かのコピー能力でも、幻覚でも何でも無い。紛れも無い本物だった。


「エレナはうちの事を何も知らない。決まり事の多かった王族での人生なんか、うちには狭過ぎる……『大罪騎士団』では、自由に過ごしたい様に過ごせる。だから、うちは『大罪騎士団』に入った。正体を隠していたのも、また王族だって特別扱いされない為……うちはその、特別扱いが何より嫌いだった」


「そんなの……私だって同じよ……」


 エレナも特別扱いはいい気分では無かった。王族だからだとか、王妃だからとかで接しられる事が苦痛だった。

 カジュスティン家が滅亡してからも、それは変わらなかった。生き残りだとか、勝手に哀れられ、悲しまれる。

 本当の苦痛など、その者達には分かりもしないのに。その特別扱いと、同情が嫌いだった。


「だからって……だからって、『大罪騎士団』なんかに入る事ないじゃない!! どういう組織なのかは、詳しく知らないけど、今ここでやっている事は……どう考えたって悪じゃない……」


「勘違いしないで、エレナ。うち達は正義の為に行動してるのよ」


「正義……?」


「そう、正義。こんなくだらない世の中を、再生させる為にね。この世界は本当につまらない……人間が多く生まれ過ぎたのよ。私達はこの世界を、人間の居ない元の世界へと戻すの。そして、うち達は人間の居なくなったこの世界で、神の存在となる……全ての事象を操り、魔獣や生物を世界という檻で管理し、世界全てがうち達の領地となる。国も一族も何もない世界へ変えるの。そうすれば、無駄な戦争も起きない。平和そのものよ」


「そんなの……平和って呼ばない……」


 エレナは目を瞑り、怒りで拳を強く握りながら、そう言葉にした。エリナが、ここまで悪に染まってしまっている事が、許せなかった。


「人と人が手を取り合って、共に助け合い、共に困難を乗り越えて行く……それが平和って言うのよ。あんた達『大罪騎士団』がやろうとしてる事は、平和を壊す事よ……平和を齎す為に、平和を壊す……そんなの、誰も平和だなんて呼ばないわ!!」


 エレナに纏う赤色のテラが、更に渦巻く様に強まる。辺りには強い風が吹き荒れ、エリナも黙ってエレナを見つめている。


「見損なったわよ……エリナお姉様……エイナお姉様の言葉を、無駄にしてるのと同じよ……お母様やお父様、エイナお姉様の死を……無駄にさせないで!!」


 エレナが強く叫んだ瞬間、突風がエリナを襲う。目も開けられない程に風が強く、エリナは腕で顔を覆う。

 そしてその口元は、不敵に笑みを浮かべていた。


「待ってたわよ……エレナなら、うちより強い力を出せると思ってたの……」


 そう言葉にしたエリナは、エレナを強く睨みながら笑みを浮かべていた。

 その瞬間、先程とは桁違いの殺気が、エリナから放たれる。



「――うちより強いとか……あり得ないから!! うちが一番なの!! うちが誰より最強なの!! あんたらなんか、一生掛かってもうちを超える事は出来ない!!」


 その瞬間、エリナの全身に青い炎が纏う。エレナの赤色のテラを覆い尽くす程の青い炎が、辺りにも広がっていく。



「――急に……なに!?」


「恐らく、これが狙いだったんスよ!!」


 ヴァリもすかさず、エレナの隣へと歩み寄り、エリナを警戒する。


「狙い?」


「そうっス。相手を強くさせるとか、そんな能力は自分にデメリットしか無いっス。そんな能力を、『大罪騎士団』のメンバーが持ってる筈無いっスよ。ヴァリの憶測っスけど、相手を強くさせて、自分自ら相手に嫉妬する。そして、その嫉妬心で己の限界を突破する……これが、『嫉妬』の本当の能力っス」


 悍まし過ぎる青い炎を、全身に纏わせたエリナは、最早エレナの知っているエリナでは無かった。


覚醒リスベーリオをも上回るテラ……」


 その悍ましさは、ディオスですら恐怖を感じる。隣に立つ三葉も、恐怖からか肩を震わせている。


「勘がいいわね、あんた。そう、うちの本当の能力は、相手を強くさせて、その嫉妬心で自分を強くさせ、相手の強さよりも上回る力を手に入れる事が出来る……」


「つまり、いくらこっちが強くなっていっても、永遠にそれを上回り続けるって事っスね」


「その通りよ。うちは無敵の力を手にしたの。例え誰かが、死と引き換えに最強の力を手にしたとしても、うちはそれを上回れる。うちこそが世界最強なのよ!!」


 エリナが右腕をその場で振りかざすと、全員が一瞬にして吹き飛ばされ、王邸の壁に激突する。


「ぐっ!!」


「なんてパワーだ……こんな能力……」


 ディオスもエリナの力に驚愕していた。ただ腕を振っただけで、全員が吹き飛ぶ程の風を吹き起こす事が出来る。そんな事、理解の仕様が無い。


「これが『大罪騎士団』の意味不明な能力っスよ……ヴァリ達じゃ、考えも付かない程の能力を持ってるっスよ」


「聖騎士団としても……『大罪騎士団』について調べる必要があるね」


「グランディア騎士団もっスよ。彼女らは確実に、この世界を終焉へと導くっスよ……」


「エリナお姉様……!!」


 エレナは立ち上がり、エリナを見つめる。大きな青い炎が渦巻く様にエリナを包み込んでいる。

 もうかつての姉の姿など無く、目の前に居るのは敵としてのエリナ・カジュスティンだ。


「エレナちゃん、ここからは俺も参加させて貰うよ。あれ程の強大な相手に、隊員一人で戦わせる訳にはいかないからね」


 ディオスはそう言うと、立ち上がって剣を抜いた。ヴァリも頷いてそれに続き、三葉も剣を抜いてエレナに視線を向けた。


「皆……私のお姉様を……お願い……」


「あぁ!! ヴァリちゃん、分かってると思うけど、拘束するよ」


「了解っスよ!!」


 ディオスとヴァリは同時に走り出し、エリナの方へと向かう。エリナが二人に向かって手を翳すと、空気砲の様に風で二人を吹き飛ばす。

 だが、吹き飛んでいったのはヴァリ一人だった。ディオスの姿が忽然と消えたのだ。その瞬間、


「はぁぁ!!」


 ディオスがエリナの背後に瞬間移動し、剣で斬りかかっていた。だが、エリナは避ける素ぶりも、防ぐ素ぶりも見せない。

 そして、そのままディオスは剣を振り切る。だが、エリナの体を刃が捉え様とした時、青い炎がバリアの様に剣を弾いた。


「炎が剣を!?」


 エリナはすぐさま半回転して、ディオスの腹部に回し蹴りを決めて、蹴り飛ばす。


「がはっ!!」


 その威力も絶大で、ディオスは地面を抉りながら転がっていき、王邸前の広場とそれを囲む城壁に激突し、城壁ごと大きく破壊していく。



「――隙ありっスよ!!」


 すると、エリナの背後にヴァリが、右手に黄色の雷を纏わせて殴り掛かっていた。

 だが、ヴァリの拳も青い炎に触れた瞬間に腕が弾かれ、隙の出来た腹部に手を当てがう。



「しまっ――」



 その瞬間、ヴァリも物凄い勢いで吹き飛ばされ、地面を抉りながら転がっていき、王邸に激突する。その衝撃でヴァリは、王邸の中まで転がっていた。


「ヴァリちゃん!!」


 三葉が心配そうに視線をヴァリの方に向けた瞬間、三葉の背後にエリナが立っていた。



「――っ!!」



 二人の間には距離があったにも関わらず、エリナは一瞬で移動したのだ。

 背筋が凍る様に感じ、三葉はとっさに半回転しながら剣を振りかざそうとした。だが、その腕をエリナに掴まれ、動きが止まると、エリナと三葉の視線が重なる。

 まるで、蛇に睨まれた蛙の様に、三葉は恐怖で何も動けなかった。


「ミツハ!!」


 その瞬間、エレナが背後からエリナに向かって炎を纏わせた剣で斬りかかる。

 覚醒リスベーリオ状態のエレナの剣が、エリナの青い炎に当たった瞬間、一瞬空間が歪み大爆発を起こした。


「きゃっ!!」


 三葉はその爆風で吹き飛び、王邸前を転がっていく。

 すると、煙が舞う中で、赤い光の影と青い光の影だけが見える。そして、煙の中で激しくぶつかると、煙が一気に舞い散り、エレナとエリナが剣と腕を交わらせ、睨み合っていた。


「エリナお姉様、お願いだから目を覚まして!!」


「とっくに目なんか覚めてるわよ……王族というカテゴリーに囚われて、縛られてた自分から!!」


 エリナは交えてる腕を、そのまま振り切ると、エレナは吹き飛び三葉の隣まで転がっていく。


「ぐっ……」


「エレナちゃん!!」


 突然、エレナを纏っていた赤色のテラが、シューっと音を立てて、消え始めていく。


「ハァ……ハァ……力が……」


「どうやら限界が来た様ね。これでもう、うちを超える事は完全に出来なくなったわよ」


 そう言うと、エリナは全身に纏っていた青い炎の一部を、形態変化させて、剣の形を創造する。


「カジュスティン家の生き残りは、うちだけでいいのよ……これで本当に、カジュスティン家は滅亡する……さようなら、――エレナ」


 エリナは悲壮な表情をして、その青い炎の剣をエレナに振りかざす。




 ――王邸の中では、新郎スーツを見に纏う卓斗と、膝上から下が破れて無くなったウエディングドレスを見に纏うヒナが、『虚飾』を司る、イシュタム・デミウルゴスと睨み合っていた。


 フィオラとの思わぬ邂逅を経て、卓斗の世界を救うという、決意と覚悟が強まった。

 その為には、この異常者であるイシュタムに負ける訳にはいかない。


「あははは!! 外の連中も、そのうち死ぬぞ!! あははは!!」


 外でのエレナ達とエリナの激しい戦闘音は、中に居る卓斗達にも聞こえていた。


「俺の仲間を舐めてんじゃねぇぞ、この異常者!! エレナもヴァリも、滅茶苦茶強ぇんだよ」


「お前こそ、ルミナを見誤るなよ!! 『嫉妬』は序列の中でも上位だからな、お前らモブじゃ勝てないんだよ!! 勿論、お前もイシュタムには勝てない!! あははは!!」


 背中から六本の紫色のテラの腕を生やし、羽の様にヒラヒラとさせて、嘲笑うイシュタム。

 本当に、イシュタムの声や笑い声を聞くと、殺意が芽生えてくる。それ程に嫌悪感を与える声だった。


「お前は俺が、黙らせてやるよ……!!」


 卓斗は黒刀を片手に走り出す。イシュタムも、向かってくる卓斗に紫色のテラの腕で殴り掛かる。

 右に左に避けるが、六本では数が多過ぎる。腕の伸びる速さも、非常に速く、卓斗は避けきれずに左腕を掴まれてしまう。


「くそ……!!」


「あははは!! そのまま死んでろ!!」


 イシュタムはそのまま、卓斗を床に叩きつけ、押さえつける。すると、紫色のテラの腕の力に負けて、卓斗は地下へと落とされる。

 螺旋階段になっている空間の、くり抜かれている真ん中を落ちて行き、地下室の入り口前に落下する。


「タクト!!」


「あははは!! 地下があったんだな、ここ。お前、黒のテラを封印してる玉、地下に隠してるだろ!!」


 イシュタムは不敵な笑み浮かべて、ヒナを見やる。ヒナは黙ったまま、只々イシュタムを睨んでいた。


「無言も答えの一つ……あははは!! 黒のテラの玉は貰ったぁ!!」


 そう叫ぶと、イシュタムも床の穴へと飛び降り、地下へと一気に降りて行く。


「――っ!!」


 ヒナもすかさずその後を追って、床の穴へと飛び降りる。


「きやぁぁぁ!!」


 思った以上に高さがあり、ヒナは飛び降りた事を後悔していた。だが、もう遅い。

 このままでは地面に激突してしまう。その瞬間、体がふわっと浮き上がり、パラシュートの様にゆっくりと地面へと落ちて行く。

 そしてそのヒナを卓斗が抱いてキャッチし、ヒナは無傷で地下へと降り立った。


「馬鹿、無茶すんなよ」


「タクト……大丈夫だったの?」


「こんくらいの高さ、どうって事ねぇよ。日本に居た時なら、確実に死んでたけどな……」


 そう言って卓斗の見つめる先には、同じく地下に降り立ったイシュタムがキョロキョロと、黒のテラを封印している玉を探していた。


「どこだ!! どこだ!! どこだ!! あははは!! そこかぁ!!」


 イシュタムは地下室の入り口へと、一気に走り出す。その瞬間、ヒナもその後を追う様に走り出す。


「おい!! ヒナ!!」


「あれだけは、渡せない!! お母さんの形見だから!!」


 イシュタムが地下室へ入ると、壁一面には水槽の様にテラが貯められていて、その部屋の中央には、細長い台と、その上に浮かぶ黒色の玉が視界に入った。


「見つけたぁ!!」


 イシュタムは背中に生えた、紫色のテラの腕を黒色の玉に向かって伸ばす。

 ヒナも必死に走るが、イシュタムが先に部屋に入ったのと、腕の伸びる速さから見ても、到底間に合わない。だが、



「――?」



 イシュタムが伸ばした、紫色のテラの腕は黒色の玉を掴む事は無く、空を切っていた。



「――お前の探し物はこれか?」


 後ろから卓斗の声でそう聞こえ、イシュタムは振り向くと、卓斗の手に黒色の玉が握られていた。


「タクト……?」


「ヒナ、これはお前の宝物だろ? だったら、こんな奴に渡してたまるかよ」


 卓斗は、『引力』の力を使って黒色の玉を引き寄せていた。そして、イシュタムは卓斗を強く睨む。

 血管が千切れそうな程に力が入り、絶大な殺気を放って卓斗を睨んでいる。


「クソモブがぁ……!! イシュタムを虚仮にした事……後悔しろぉ!!!!」


 イシュタムがそう叫んだ瞬間、背中から生えていた六本の紫色のテラの腕は纏まり、一本の巨大な腕へと化した。

 卓斗がその光景に目を奪われていた瞬間、突然として殴り飛ばされ、地下室の外へと吹き飛ばされ、螺旋階段へと激突する。


「がっ……!?」


 その巨大な紫色のテラの腕の殴るスピードが、あまりにも速過ぎて、目視出来なかったのだ。

 イシュタムの表情は、完全に怒り狂っていた。その表情を見たヒナも、恐怖から腰を抜かし、その場に座り込んでしまう。


「次はお前だ……!! あははは!!!! イシュタムの完全なる力で、お前をぶっ殺してやる!!」


 すると、イシュタムの全身に青白いテラが漂う。炎の様な揺らめきで、そのテラには属性が含まれていない。

 所謂、無属性のテラという訳だ。無属性のテラはステータスの強化などを行える特殊なテラで、四都祭の際にラディスが披露していた。


「何を……する気……?」


「どうせ死ぬんだ、知る必要も無いだろ!! あははは!!」


 イシュタムがその場で腕を振るうと、突風が吹き荒れ、ヒナは吹き飛ばされて壁に激突する。

 自然テラを溜め込んでいる壁には、大きなヒビが入る。


「ぐっ……!!」


「イシュタムこそが……イシュタムこそが、主人公!!!!」


 イシュタムがそう叫ぶと、四方八方にテラの波動を放つ。地下室の床は全面にヒビが入り、壁一面にも大きなヒビが入って、壁を覆っていた結界ごと、崩れていく。

 溜め込んでいた自然テラが大量に流れ、地下室は海の様になっていた。


「これだけの自然テラ……普段は見えない自然テラも、集めるとこう見えるのか」


 すると、イシュタムの視界に起き上がるヒナの姿が映った。


「ハァ……ハァ……」


 腕や顔から血を流しているものの、イシュタムの先程の攻撃から運良く九死に一生を得た。


「まだ生きてんのか、お前。しぶといゴキブリ野郎が!!」


 イシュタムの背中に生えた紫色のテラの腕が、ヒナ目掛けて伸びる。最早、ヒナにそれを避ける術も防ぐ術も無い。



「――ごめんね……お母さん……」


 ヒナは諦めたかの様に目を閉じる。紫色のテラの腕がヒナを捉えよ様とした瞬間――、



「がっ!?」


 突然ヒナの前にバリアが現れ、イシュタムの紫色のテラの腕を弾く。イシュタムはその衝撃で後ろへと弾き飛ばされ、壁に激突する。


「え……?」


 ヒナも何が起きたのか分からないで居た。だが、そのヒナの目の前には、卓斗が持っていた筈の黒色の玉がフワフワと浮いていた。

 それをジッと見つめるヒナは、その黒色の玉に、母親である友理奈の姿を感じた。

 幻覚かも知れないが、確かにそこには友理奈が立ち、ヒナはその背中を見つめていた。


「お母さん……?」


 すると、友理奈はゆっくりと振り返り、ヒナに笑顔を見せると、ヒナの見ていたものが、黒色の玉へと再び変わっていた。

 そして、黒色の玉は溶ける様に液体状に姿を変え、ヒナの胸の中に流れる様に入っていく。


「この力……まさか、黒のテラが私に移った……?」


 どういう訳か、黒のテラを封印していた黒色の玉はヒナの中に入り込み、ヒナは黒のテラを宿したのだ。

 すると、壁に激突したイシュタムが立ち上がり、ヒナを強く睨んでいた。


「何をした……!! 主人公であるイシュタムに何をしたぁ!! クソモブであるお前が、イシュタムに抗うなど失礼だろ!!」



 ――その時、突然地震の様にシドラス帝国が大きく揺れ始める。


「何だ?」


 イシュタムも何事かと、首を傾げている。そして、ヒナの表情は驚きの表情と焦っている表情をしていた。


「これも、クソモブのお前の仕業か!!」


「違う……」


 ヒナは力が抜けた様な声で、そう言葉を零し、続ける。



「――シドラス帝国が……崩れる……」


 シドラス帝国を浮かす為の、自然テラを貯めていた壁が破壊され、自然テラが解放された。つまり、シドラス帝国を浮かせる原動力を失ったという事だ。



 ――シドラス帝国は崩壊し、海へと落下し始める。




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