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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第81話 『思わぬ邂逅』


 廃墟と化してしまっているシドラス帝国王邸。それは、『虚飾』を司る、イシュタム・デミウルゴスが王邸の中で暴れているからだ。

 裾を膝上まで破いたウエディングドレスを身に纏うヒナの、心配そうな視線の先で、卓斗はイシュタムと戦っていた。



「――あははは!! お前、威勢の割に弱いな!! そんなんでよく、女の前で格好つけられたな!! あははは!!」


 イシュタムの背中からは、紫色のテラで出来た四本の腕が生えていた。

 そして卓斗に攻撃する間を与えず、次々に殴り掛かっている。卓斗はそれを避けるしか出来ない。


 黒刀で時折、紫色のテラの腕を弾き消すが、イシュタムはすぐさま再生させ、ループ状態となっていた。


「くそ……やっぱり大罪騎士団の連中は、滅茶苦茶強ぇな……」


 すると、紫色のテラの手が卓斗の足首を掴む。そしてそのまま、横に振りかざして投げ飛ばす。


「っ!!」


 一室にあった本棚へとぶつかり、追い打ちを掛ける様にイシュタムは紫色のテラの手で殴り掛かる。

 卓斗はすぐさま横へ飛び込む様にして避けると、手を翳し『斥力』の力を発動する。だが、


「お前、それしか出来ないの? やっぱりモブだな。あははは!!」


 イシュタムが自分の手を振り払うと、『斥力』の力を弾き、イシュタムの右側の壁が大きく凹む。


「こいつ……何で見えてるんだ? 俺の黒のテラの『引力、斥力』は目に見えない筈だ……」


「目に見えない攻撃は、確かに見えない。なら、対策は一つしか無いだろ? ――感じるんだよ!! 神経を研ぎ澄ませて、自分に近付く何かを感じて、対処するだけだよ!! モブには分からないだろうけどね、あははは!!」


 イシュタムは、『斥力』の力が自分に近付く時、神経を研ぎ澄ませ感じ取り、弾いていたのだ。

 避けるのでは無く、弾けるという部分も、卓斗には理解出来ないが。


「離れた所で使っても、意味がねぇって事かよ……」


「これで分かった? モブであるお前と、主人公であるイシュタムとの差が大きい事に!! モブはどう足掻いてもモブなんだよ!! 決して主人公を超える事は出来ない!!」


「主人公、主人公ってイタイんだよお前。それに、主人公ってのは皆がなってんだよ。自分の人生の主役ってのは自分なんだよ!!」


 卓斗は一気にイシュタムの元へと走り出す。イシュタムは四本の紫色のテラの腕を振り回すが、卓斗は黒刀で弾き消したり、避けたりして、近付いて行く。


「あははは!! ちょこちょことすばしっこい奴だな、お前!!」


「その笑い声ムカつくんだよ、お前!!」


 卓斗はイシュタムの腹部に手を当てがった瞬間に、『斥力』の力を発動する。



「――っ!!」


 その瞬間、イシュタムは勢い良く弾き飛ばされ、ヒナの隣の壁へと激突し、隣の部屋へと転がって行く。


「きゃあっ!!」


 ヒナは思わず驚き、身を伏せていた。穴が空いた向こう側では、瓦礫の山からイシュタムが立ち上がり、卓斗を睨んでいる。


「へっ、ゼロ地点からなら、お前に攻撃を当てれんだよ。――悪りぃヒナ、家ん中壊しちまった」


「いいわよ、それくらい。そんな事より、勝てるの?」


「何の心配も要らねぇよ。俺は勝つから」


 その時、卓斗は何かを察し、『引力』の力をヒナに掛ける。ヒナは勢い良く、卓斗の元へと引き寄せられると、ヒナの立っていた壁から、四本の紫色のテラの腕が貫通して伸びて来ていた。



「――ちょ……!! 驚くじゃないの!!」


「馬鹿、今のは俺のファインプレーだぞ」


 貫通させた壁から、イシュタムが歩み出てくると、二人を強く睨んでいた。


「モブ風情が、イシュタムに攻撃を当てた? 立場を弁えろ……クソモブがぁ!!」


 イシュタムが激昂すると、背中に生えている紫色のテラの腕は、六本になっていた。

 その一本一本が巨人の腕の様に太く、掌も体全体を包み込める程に大きかった。


 すると、イシュタムがその一本の腕を卓斗に向かって伸ばす。その速さは尋常では無く、卓斗は体全体を握られてしまう。


「ぐっ……!!」


「タクト!!」


「お前の体なんか、簡単に握り潰せるんだよ!! 女の前で格好つけて、無様に死に晒せ!! あははは!!」


 紫色のテラの手の握力は半端では無く、全身の骨が軋む感覚と激痛が走る。息すらもまともに出来ない状態だ。


「ぐ……あ……かは……」


「あははは!! 潰れろ!! 潰れろ!! 潰れろぉ!! あははは!!」


 ヒナも、卓斗を掴む紫色のテラの手を離そうとするが、ビクともしない。そして、卓斗の視界は段々と白く染まっていく。

 イシュタムの苛立つ笑い声も、自分の名前を叫んで涙を浮かべるヒナの声も、聞こえて来なくなる。


 そして、卓斗の視界は完全に真っ白となり、音も、視界も、何もかもが、無くなってしまう――。





 ――卓斗は気が付くと、真っ白な空間に居た。この空間が広いのか、狭いのかも分からない程に、真っ白な空間だ。

 だが、意識はしっかりとある。ならば一体、ここはどこなのだろうか。

 そんな事を考えていると、卓斗の目の前に人影がボヤけて見えてくる。


 そして、その姿がはっきり見える様になる。



「――会話をするのは、久し振りだね。いや……こうして会うのは、初めてだったね」


 目の前に現れたのは、一人の少女だった。真っ白なワンピースを着ていて、綺麗な白髪のストレートロングヘアー。

 背丈は145センチ程で、十歳くらいに見える。宝石の様に綺麗な碧眼で、顔立ちも幼いが美少女だった。

 そして、卓斗はこの少女の声を聞いた事がある。



「――フィオラ……?」


 すると、その少女は卓斗に向かって、優しく微笑んだ。その笑顔は、無邪気さと美しさを兼ね備え、胸の奥が熱く感じる。


「本当に……フィオラなのか?」


「そうだとも。疑う余地ってあるのかな?」


 疑うも何も、今までのフィオラとの接触は、脳内に声が聞こえてくるだけで、姿など見えなかった。

 だが、今回はこうして目の前に現れている。


「いや……ねぇけど……初めて見たからさ……」


「君の想像通りに、可愛かった?」


「ま、まぁ……てか、そんな事より、どこだここ」


 こうして対面して可愛いなどと恥ずかし過ぎる。卓斗はすぐさま話を逸らした。


「逆に可愛い反応するね、君。――ここは、私と君だけの空間……精神世界とでも言おうかな。今は、外の時間は止まっている。君が握り潰される寸前でね」


 忘れていた訳では無いが、卓斗はイシュタムと戦っていた最中だった。フィオラとの思わぬ邂逅に忘れかけていた。


「前から思ってたんだけどさ、フィオラが俺に話し掛けて来る時って、何で時が止まってんだ?」


「難しい質問だね……んー、私が存在する筈の無い人間、だからかな。封印されてる状態だからね。進んでる時間の中で存在する筈の無い者との邂逅は、本来じゃあり得ない。だから、時の流れが止まっている、とでも言うのかな」


「成る程、何と無く理解した。じゃあ、今までは語り掛けてきていたのに、今回は姿が見えてるのは何でだ?」


 すると、卓斗の質問攻めに困り顔を見せるフィオラ。


「うーん、初めて会ったっていうのに、質問攻めだね。もっとこう……会えて嬉しい!! みたいなの出来ないの? まぁいいけど。――簡単に言うと、私が君と接触出来ているのは、私がそれ相応のテラを溜めているからだよ。君と一回話すのに、結構なテラ量が必要でね。そう何回も毎回毎回という訳にはいかないんだ」


「だから、話し掛けてくるのに間が空いてたのか……」


「一応、ちなみに言っておくけど、君と一回話すのに使うテラ量は、君が一年間毎日体内テラがスカスカになるまで使う量と同等だからね」


「一年間!?」


 驚くのも無理ない。たった数分話しているだけで、フィオラはその年数分のテラを消費している。

 そこから考えるに、フィオラのテラ量は尋常じゃ無い事が分かる。



「――て事は、姿が見えてるって事は……」


「五年分くらいかな」


 最早、驚きを通り越して、何も考えれない。


「でも、今回は何で姿を見せたんだ? いつもみたいに話し掛けるだけで良かったろ」


「君も連れないね。姿も分からないで会話だけをしても、言葉に信憑性も何も無いでしょ? やっぱり、一度は会って置かないとね。今回は、もう暫くこの状態で居れるから、この際だし君が聞きたい事に答えるよ」


 フィオラに聞きたい事は沢山ある。その中でも、一番気になる事は、


「じゃあ聞かせて貰う」


 「なに?」と言わんばかりに、首を傾げるフィオラに、卓斗は言葉を続けた。


「黒のテラについて、詳しく知りたいんだ。前にフィオラが言ってた、『世界を終焉へと導く力』と『世界を終焉から救う力』について」


「やっぱり、それが気になるんだね。今までに私が、黒のテラの所有者の精神に入り込んだ人は、皆がそれを聞きたがってたよ」


「俺以外にも、フィオラの秘宝を体に宿した人は居るって、そういや言ってたな」


「私がエルザヴェートと戦って、自分ごと封印してから、黒のテラを宿す者に、フィオラの秘宝を宿させていた。理由は一つ、黒のテラをこの世から抹消させる為」


「抹消……」


 突然、フィオラは真剣な眼差しで卓斗を見つめて話し出す。これから知る、黒のテラについて卓斗も、真剣に耳を傾ける。



「そう、抹消。私の人生での一番の汚点とも言っていいかな」


「黒のテラを作った事か? 作った目的は何だったんだ?」


「君は、私が何年前に生まれたかは知ってるね? エルザヴェートやセシファ、ティアラと話してたから知ってると思うけど、十歳のまま、歳も取って無い事も、私が黒のテラや神器を作った事も」


「あぁ、どっちも知ってる。ただ、理由までは知らない。どういう目的で作ったのか……」


「目的……神器を作った目的は、黒のテラの力に呑み込まれたエルザヴェートを倒す為に、シャル達に持たせる用に作った。そもそも、その神器の作り方も、黒のテラの能力なんだけどね」


「じゃあ、神器も黒のテラの一つって事か?」


「うーん、一括りにすればね。でも、黒のテラと同じ効力は持っていない。魔法を無効化するっていう効力をね。そもそも黒のテラも、今ではいくつもに分散しているけど、元々は一つだった訳で……」



「――ちょっと待て、元々一つってのはどういう意味だ?」


「最初に作った黒のテラの事だよ。話はちょっと戻るけど、私が生まれた時代は、テラそのものを宿している人間は少なかったんだ。突然変異的な感じで、特定の人間だけに宿る様になった、その一人が私って事だよ」


「突然変異……」


「私も、そこに関しては詳しく知らないけど、テラを宿す様になった人間が、徐々に増えて集団となり、一族となった。そして村を作り国を作って、それが拡大していって今に至るって事だね」


「そういや、フィオラはヘルフェス王国を建国したとかって、エルザヴェートさんが言ってたな」


「うん、そうだよ。私を始め、エルザヴェート、シャル、ティアラ、セシファ、イオ、この五人で建国したの。私達は元々、親を亡くした孤児でね……テラを宿す様になった者達の、領地争いに巻き込まれちゃってね。だから、私はエルザヴェート達だけは絶対に守るって決めて、黒のテラを作ったの。私が宿したテラは、『創造』のテラだったからね。自分が頭に思い浮かべた事を、具現化させる事が出来る能力……それで、黒のテラを作った。その一番最初に作った黒のテラが、私の『創造』のテラを真似て作った黒のテラなんだ。そして、黒のテラの『創造』の力を使って、多種類の黒のテラを作ったんだ。君の黒のテラ『引力、斥力』だとか、銀髪魔法使い君の『重力』だとかね」


「そういう事だったのか……」



「――でも、それが間違いだった」


 突然、フィオラの表情が曇った。とても悲しそうな表情をしながら、フィオラは続ける。


「黒のテラの力は強過ぎたんだ……その力に負けて自我を奪われ、己を失う。そして、その力は更に強くなり、人を悪に染める。元々の『創造』のテラを宿した私は、黒のテラに蝕まれる事は無かったんだけど、それ以外の人間には黒のテラのリスクは、あまりにも大き過ぎた……その一人がエルザヴェートだったの」


「それで、エルザヴェートさんは、この世界を終焉へと導こうとしていたのか……」


「そういう事だね。黒のテラに完全に呑み込まれたエルザヴェートは、私一人ではとても抑える事は出来なかった。そこで、対エルザヴェート用に神器を作り、シャル達に持たせたって訳だね。まぁ、その後もイオが黒のテラの力に呑み込まれたりと、色々大変だった訳さ」


「その『世界を終焉へと導く力』ってのは、どれくらい強力なんだ?」


「もう言葉に表せないくらいだね。絶望を見たって感じだったよ。こんな世界なんか、容易いくらいに破壊し征服出来る……あまりにも恐ろしい力だった……」


「じゃあ逆に、『世界を終焉から救う力』ってのは?」


「『世界を終焉へと導く力』へと行き着いてしまったら、もう何色にも染まらない真っ黒になる。でも、『世界を終焉から救う力』へと行き着けば、その真っ黒でさえも唯一染められる『白のテラ』へと行き着くのさ」



「――白のテラ?」


「こればっかりは、私も計算していない事なんだけどね。黒のテラの副作用みたいなものだよ。黒のテラは、他のテラを無効化にする効力を持っている。そして白のテラは、その黒のテラの無効化の効力を無効化にする事が出来る。勿論、黒のテラの能力を無効化する事もね」


「マジかよ……」


「その白のテラを用いて、黒のテラをこの世から抹消したいのが、私の願いって訳さ」


「つまり、白のテラを使えば、フィオラの秘宝に封印されてるフィオラを助け出せるって事か」


「その通り。だからこそ、君には頑張って貰いたいんだ。黒のテラを完全にコントロールして、白のテラを手に入れるんだ」


「白のテラを手に入れる……」


「そこで、君に注意して貰いたい点がある」


「注意して貰いたい点?」


 フィオラは再び、真剣な眼差しで頷くと、



「――『封印』の黒のテラには気を付けるんだよ」


「『封印』の黒のテラ?」


「今ある黒のテラは全部で、『引力、斥力』『重力』『事象』『創造』『黒煙』『消化』そして、『封印』」


「七つもあるのか? って事は、この世界に黒のテラを宿してる人間は、七人居る……」


「そう。その中でも、『封印』の黒のテラは気を付けるんだよ? その能力はテラを封印する能力。黒のテラでさえも封印出来るんだ」


「じゃあ、フィオラが自分ごとエルザヴェートさんの黒のテラを封印したってのは……」


「『封印』の黒のテラの能力を使った訳だね。君と敵対する相手が、仮に『封印』の黒のテラを持ってたとして、君が黒のテラを封印されてしまったら、もう終わりだよ。君の体からフィオラの秘宝も無くなり、白のテラを手に入れる所じゃ無くなってくる話さ」


 卓斗は、『封印』の黒のテラを持っている人物に心当たりがあった。それは、フューズが話していた『賢者様』と呼ばれる人物だ。

 フューズの妻である友理奈の黒のテラを封印したと話していた。


「封印された黒のテラってのはどうなる?」


「君がさっきフューズって人に見せて貰った通りさ。黒のテラを宿した人間が死ねば、また新たに次の誰かに宿る。でも、封印してしまえば、他の誰かに宿る事は無くなり、一つの個体として留まる」


「ちょっと待てよ。じゃあ、フィオラが『封印』の黒のテラを使ったんだったら、『封印』の黒のテラはフィオラが持ってるんじゃねぇのか?」


「簡単な話だよ。私が使ったのは、『封印』の黒のテラの封印じゃ無い。『創造』のテラで真似た、『封印』の黒のテラなのさ」


「話が見えねぇんだけど……」


「簡単に話したつもりなんけどね。だから、当時オリジナルの『封印』の黒のテラを持っていた人物は私じゃ無いって事だよ。私が持っていたのは、元々の『創造』のテラだけだよ。あ、また難しい顔されると思うから補足するけど、『創造』の黒のテラじゃないからね?」


「て事は、フィオラは黒のテラを持ってないって事か?」


「うーん、それも違うかな。要は、私の元々の『創造』のテラで作った黒のテラの全てを持ってるって事だよ。オリジナルだけを、他の者に与えた。そして、オリジナルは所有者を失うと、次の者に宿る。これで、分かったかな?」


「うーん……七つの黒のテラの本体が色んな人に宿ってて、全ての複製をフィオラが持ってるって事か?」


「まぁそういう事だね。もっと詳しく説明すると、他の者に与える黒のテラは、オリジナルじゃ無いと与えられ無い。だから、七つの黒のテラを、『創造』のテラで作って、『創造』の黒のテラで全ての複製を作った。そして、オリジナルを他の者に与え、全ての複製を私が持つ事にした……これでお分り頂けたかな?」


「すっげぇ難しいけど……取り敢えず、俺以外にも六人の黒のテラを所有する人達が居て、その全員が『世界を終焉へと導く力』と『世界を終焉から救う力』に成り得るって事だな。俺が『引力、斥力』で、フィトスが『重力』で、エルザヴェートさんが残りのどれか……賢者様ってのが『封印』で、後二人が居るって事か……そうなってくると、フィオラが何で俺に宿ったのかが分からねぇ……その理由はなんだ?」


 黒のテラもそうだが、卓斗が一番気になっていた事だ。どうしてフィオラは、七人のうち卓斗を選んだのか。


「全員が全員、『世界を終焉へと導く力』と『世界を終焉から救う力』に行き着く訳じゃ無い。そして、私が君を選んだ理由は一つ。君なら、『世界を終焉から救う力』へと行き着くと思っているからさ」


「だから、何で俺なんだ? 何で俺なら『世界を終焉から救う力』に行き着くと思ってる?」


「それは君が――」



 その瞬間、突然フィオラの姿が白く光り出した。足元から段々と透けてきている。


「おい、どうしたんだ!?」


「残念だけど、時間の様だね。またこうして会って話せる様に、私もテラを溜めておくからさ。最後の質問の答えは、シャルに聞くとでもいいよ」


「シャルに? 俺に、そいつの契約者になれって言うのか?」


「捉え方は君次第さ。会えて良かったよ、――タクト」




 ――そう言うと、フィオラの姿が消えていった。その瞬間、真っ白の空間に居た筈の卓斗の視界が元に戻り、息が突然詰まる。

 それもその筈、現在卓斗はイシュタムの背中から生えた、紫色のテラの手に握られているからだ。


「が……は……」


「あははは!! 潰れろ!! 潰れろ!! 潰れろぉ!! あははは!!」


「負……ける……か、よ……!!」


 卓斗は自分の腹に手を当てがい、『斥力』の力で自分を吹き飛ばす。その衝撃で、紫色のテラの手は卓斗から離れる。


「自分で!?」


 卓斗は勢い良く転がり、体勢を整えて立ち上がる。『斥力』の力がこんなにも痛いのかと実感しながら、イシュタムを睨む。


「フィオラの考えは分かった……最後の質問は聞けなかったけど、取り敢えず俺は、白のテラに行き着いて、この世界とフィオラを救う。その為には、お前なんかに負けてらんねぇんだよ、サディスティック野郎!!」


「顔付きが変わった……? 何か覚悟でも決まった顔してるな、クソモブ!! それは、死ぬ覚悟の事? あははは!!」


 フィオラから黒のテラに付いて聞き、卓斗の覚悟は更に強まった。ずっと脳内に聞こえて来るだけのフィオラとの会話では、信憑性など無かった。

 だが、実際に会って、ちゃんと目を見て、素振りを見て話を聞くと、やっと信憑性が湧いて来る。

 フィオラに託された思いを背に、卓斗はこの世界を終焉から救う覚悟を強める。


 その為には、為すべき事を為すまでは、物語を終わらせる訳にはいかない。



 ――卓斗の異世界物語は、まだ始まったばかりだった。







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