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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第78話 『悪夢』


 シドラス帝国で、卓斗とヒナによる結婚式が行われていた。偽りではあるが。

 事の発端は、シドラス帝国の王妃であるヒナと、イストライル国の王子ディーンの、政略結婚から始まった。


 ディーンの容姿はだらし無く、王子という言葉が世界一似合わない王子だった。

 そこで、ヒナはたまたま出会った卓斗に婚約者のフリをして貰う事を頼み、ディーンに自分を諦めさせ様と考えたのだ。


 だが、ディーンは卓斗とヒナの結婚式に現れると、怒りを露わにし、暴走を始めた。

 ディーンと共にシドラス帝国へと来た、エレナ達も卓斗に味方し、ディーンと対峙する。


「相手に嫌われてるって事に気付きなさいよ、クソ王子」


「うるさい……!! 僕とヒナ様は相思相愛なんだよ!!」


 ディーンが剣を振りかざすと、再び斬撃を放つ。エレナは赤い炎が纏った剣で弾く。


「また斬撃……!!」


 弾かれた斬撃は再び王邸へと飛んでいく。


「くそ……これ以上、破壊させる訳にはいかねぇ!!」


 卓斗は飛んでくる斬撃に手を翳し、『斥力』の力で弾き飛ばす。斬撃は、王邸からズレていき、上空へと消えて行く。


「その斬撃、鬱陶しいのよ!!」


 エレナがディーンの方へと手を翳すと、ディーンの足元に、半径五メートル程の赤い線が円形に現れる。

 すると、炎の柱が円形の中に噴き上がる。ディーンは、すぐさま円形の線から俊敏に抜け、間一髪かわす。



「――っ!!」


 その隙を突き、エレナがディーンの元へと近づくと、炎を纏わせる剣を横に振りかざす。

 ディーンもすかさず、それを剣で受け止める。体型の割に俊敏な事に、エレナは少し驚いていた。


「あんた、動けるデブだったのね」


「デブって言うな……!!」


 ディーンは、エレナと剣を交えた状態で斬撃を放つ。ゼロ距離からの斬撃の威力に、エレナは斬撃と共に押されて行く。


「くっ……!!」


 足に力を入れるが、エレナはそのまま押されて行く。剣と交えた状態の斬撃を弾くにも、重くて上手く力が入らない。


「負けない……!!」


 エレナは剣に纏わせる赤い炎を膨張させる。そしてそのまま、力一杯、剣で斬撃を振り払う。


「はぁぁぁ!!」


「ちょっ!? こっち来てるっての!!」


 エレナが弾いた斬撃は、またしても王邸へと飛んでいく。卓斗はすかさず『斥力』の力で弾く。


「くそ、キリがねぇな……このままじゃ、この国が落下すんぞ」


「どうすんのよ、タクト。あの女の子一人で、王子に勝てるの?」


「分からねぇ。でも、エレナは強いからな」



 ――膨張した赤い炎を纏う剣の剣先を、ディーンに向けてエレナは詠唱を唱える。



「――テラグラン・ファルマ」



 剣に纏う赤い炎が、更に膨張し徐々にエレナの上空に集まりだす。渦巻く様に炎が吹き荒れ、段々と形を形成していく。


「なんだ……それは……」


 ディーンも思わず、その光景を見て息を呑んだ。エレナの上空には、何十メートルにも及ぶ、大きな炎の鳥が現れていた。

 辺りをまるで夕焼けの様に橙色に染めて、気温もみるみるうちに上がっていく。



「――これで焼き尽くしてあげるわ」


 そう言うと、炎の鳥は大きな羽をバタつかせ、ディーンの方へと一直線に飛んで行く。

 まるで鳳凰の様に美しくも神々しく、ディーンは只々目を奪われるしかなかった。



「――王子!!」


 すると、側近が突然ディーンの目の前に立ち、防御魔法を唱えた。炎の鳥が、ディーンと側近を包み込む防御魔法に触れた瞬間、大爆発が起きる。


 会場中に熱風が吹き荒れ、卓斗達も飛ばされまいと踏ん張っている。


「きゃあ!!」


 その時、ヒナが爆風に負けて吹き飛ばされてしまう。体が宙に浮き、勢い良く後ろへと飛んでいく。


「ヒナ!!」


 すかさず卓斗は、ヒナの手を掴むが、自分の体を踏ん張る事が出来ず、卓斗とヒナは宙を舞い、シドラス帝国王邸の玄関入り口にぶつかる。

 その際、卓斗はヒナを抱き抱える様に体勢を整え、自分だけが壁にぶつかる形になった。


「ぐっ!!」


 やがて爆風が収まり、ディーンと側近の居た場所の辺りは燃え盛っていた。


「大丈夫か、ヒナ」


「私は大丈夫……タクトは、大丈夫なの?」


「これくらい平気だよ。守るって言った以上、当たり前の事だから、気にすんな」


 せっかくのウエディングドレスが、土や泥で少し汚れてしまっていた。すると、ヒナはウエディングドレスの裾を膝上で破り始める。


「ちょ、おい!! 何してんだよ!!」


「動きにくいのよね、これ。これで少しは、動けるから」


 ウエディングドレスがミニスカートの様になり、細くて白い脚が露わになっていた。


「どうせ、偽りの結婚式で着たウエディングドレスだから、いいのよ。本当の結婚式の時に、ちゃんと着るから」


「そっか。それより、今のエレナの攻撃で決着が付いてくれりゃいいんだけどよ……」



 燃え盛る炎の中、ディーンと側近は防御魔法のバリアに包まれ、無傷で立っていた。

 仕留められなかった事に、悔しむエレナの横にヴァリも並び立つ。


「派手にやったっスね」


「仕留められなきゃ意味が無いわよ」


「じゃあ、次はヴァリが本気を出すっス。エレナは援護をお願いするっスね」


 そう言うと、ヴァリは一歩前へと踏み出す。すると、全身に黄色い雷の様なモノが、バチバチと発光し始める。


 すると、エレナの視界からヴァリの姿が忽然と消える。その瞬間――、



「――なっ!?」


 ディーンと側近を包み込んでいたバリアの目の前にヴァリが突然と現れ、力一杯に殴る。

 その瞬間、エレナの上級魔法でも割る事の出来なかったバリアが、粉々に砕け割れる。


「意外と脆いっスね、これ」


「くっ……舐めるな!!」


 側近はすかさず、剣を横に振りかざす。だが、ヴァリの体をすり抜けるかの様に、空を切っていた。


「すり抜けた!?」


「そんな訳無いっスよ!! すり抜けるなんて、チートじゃないっスか。もっと簡単な話っスよ。単に避けたんスよ」


「避けただと!?」


 側近の目には、確かにすり抜けた様に見えた。だが、ヴァリはすり抜けた訳では無く、避けたと言っている。

 仕組みは言葉通りだ。ヴァリは、側近の剣を避けたのだ。ただ一つ特殊なのは、その避ける速さが異常に速いという事だ。


 大抵の人間には、ヴァリの本気の速さを目視する事は出来ない。まるで瞬間移動でもしているかの様に見えてしまう。


「君達は拘束させて貰うっス!!」


 ヴァリはそのまま、目に見えない速さで、殺さぬ様に側近の左肩を剣で貫く。


「ぐあっ……!?」


 側近には、そのヴァリの攻撃も見えていない。いつの間にか自分の体に剣が突き刺さっている感覚だ。痛みすらも、遅れて来る。


「舐めるな……!!」


 側近は痛みを堪えながら、一矢報い様とヴァリの左頬に向かって拳を振りかざし、殴る。――だが、


「何スか、そのパンチ。痛くも痒くも無いっスね」


 ヴァリのダイヤモンドの様に硬い体は、パンチを受けてもダメージはゼロだ。むしろ殴った側近の拳の骨にヒビが入る。


「ぐっ……」


 すると、側近の後ろに居たディーンが、徐に口を開いた。


「アラン、ここは僕に任せろ」


 アランと呼ばれた側近の肩に手を置き、ディーンはそう言葉にすると、ヴァリの方へと歩み寄る。


「次は王子が相手っスか? 悪いっスけど、王子もマッドフッド国に連行っスからね」



「――僕の目を見ろ」


 ディーンがそう言うと、ヴァリの視線とディーンの視線が重なる。すると、ディーンの目が黄色に光り出す。


「な……なん……スか」


 突然、ヴァリの意識が朦朧とし始める。そしてヴァリはそのまま気を失ったかの様に倒れ込む。


「ヴァリ!!」


 後ろで見ていたエレナにも、何が起きたのか全く分からないでいた。状況は完全にヴァリの優勢だった筈。それが、一瞬にして逆転されてしまっていた。


 すると、ディーンは次にエレナの方へと歩み寄って行く。鼻息が荒いまま、ゆっくりとゆっくりとエレナに近づく。


「ヴァリに何したのよ、あんた!!」


 エレナが剣を振りかざし、大きな炎の球を放つが、ディーンはそれを優雅に避けると、一気に走り出す。



「――っ!!」


 エレナの目の前まで詰め寄ると、エレナの視線とディーンの視線が重なる。すると、エレナも突然と意識が朦朧とする。


「あん……た、なんか……に」


 そしてエレナもその場に倒れ込んでしまう。その光景を見ていた卓斗とヒナも戸惑っていた。


「おいおい……何が起きてんだよ……エレナ!! ヴァリ!!」


 卓斗が叫ぶが二人に反応は無い。倒れ込むエレナを見つめるディーンは、不敵な笑みを浮かべると、エレナに向かって手を伸ばす。


「君も……なかなかに美しい……」


 ディーンの手がエレナの体に触れ様としたその時、ディーンは突然吹き飛ばされる。

 地面を勢い良く転がり、体勢を整えて視線を上げると、卓斗が自分に向かって手を翳していた。

 卓斗は、『斥力』の力でディーンを吹き飛ばしたのだ。


「汚い手でエレナに触ろうとするんじゃねぇよ」


「君も罪な男だな、スースー。ヒナ様の婚約者だと言うのに、他の女を守るのか?」


「うるせぇ、黙れよ。二人に何をしたんだ!!」


 倒れ込む二人を見て、卓斗は完全に苛立ちが募っていた。何をしたのか分からないが、怒りが込み上げて来る。


「安心しろ、大人しくさせる為に、少し眠って貰っただけだよ……スースー。――深い眠りに、ね」




 ――気がつくとそこは、ある一室の部屋の鏡の前だった。鏡に映る自分の姿は、ウエディングドレスを身に纏っていた。

 綺麗な赤色の髪を束ねて、いつもと違う髪型に自分でも綺麗と思ってしまっていた。

 だが、口からその言葉は溢れてこない。他に何かを話そうとしても、声が出ないのだ。

 すると、後ろから野太い声で自分の名前を呼ぶ者が、一室に入って来る。



「――エレナ」


 エレナが振り返ると、そこにはディーンの姿があった。今にもはち切れそうな新郎スーツを着ていて、エレナに向かって微笑んでいる。


「(うわ……キモ……太り過ぎよ……)」


 エレナは心の中でそう言葉にしていた。心の中でしか、言葉に出来ないのだ。声に出す事は、何故か出来ない。


「綺麗だよ、エレナ」


「(キモいキモいキモい!! 勝手に名前呼ばないでよ!! てか、これどういう状況!? さっきまでシドラス帝国に居た筈じゃ……)」


 声が出ないのもそうだが、体も何故か勝手に動いてしまう。手を差し伸べるディーンの手を取ってしまうエレナ。


「(ちょっ!? 何で体が勝手に動くの!?)」


「君と結婚出来て、スースー。僕は幸せ者だよ。さぁ、――誓いのキスをしようか」


「(は!? 無理無理無理無理!!!!)」


 ディーンはそう言うと、エレナの顔に近寄り、唇と唇を重ねようとする。

 顔が近くにあるだけで、吐き気がするエレナだが、キスとなるとそれ以上だ。


「(ちょちょちょちょ!!!! 私はあんたなんか大嫌いなのよ!! 無理無理!! キモい!! 私は……私は、――タクトが好きなの!!)」





 ――その瞬間、エレナの視界にはディーンと戦う卓斗の姿や、その後ろで心配そうに見つめるヒナの姿が映った。


「ハァ……ハァ……今の、何……」


「目覚めたっスか……」


 隣から声が聞こえ、視線を移すとヴァリも疲れきった表情で座り込んで居た。


「ヴァリ……確か、私達って……」


「王子の能力か何かじゃないっスか……? 嫌な夢を見せられてたみたいっスね……」


「夢……」


 例え夢だったとしても、最悪な状況だった。あと少しで、ディーンとキスをしていたと考えるだけでも、吐き気がする。


「まさに悪夢ね……」


 すると、エレナとヴァリが目を覚ました事に、卓斗が気がつく。


「エレナ!! ヴァリ!! 大丈夫か!!」


「僕の夢を破ったのか……どうやら、君達二人には僕以外に好きな人が居る様だね、スースー」


「どういう意味だ、てめぇ!!」


「僕の能力は相手に夢を見せる事。それは、僕と結婚し、その後の生活をする夢をね、スースー。対象者に好きな人が居ない場合、この夢を破る事は出来ないのさ、スースー。夢の中で、僕と結婚生活をするしかないんだよ。二人が目を覚ましたって事は、僕以外に好きな人が居たって事になる、スースー」


 ディーンの気持ち悪過ぎる能力に、卓斗は引いていた。それは、エレナもヴァリも同じだ。


「お前ら、好きな人居たのか?」


 卓斗の不意の質問に、エレナは動揺し始める。


「は、は!? い、いいい居る……けど、絶対あんたには教えない!!」


「ヴァリも教えないっス!!」


「んだよ、連れねぇな。まぁ、目を覚ましたんなら問題ねぇか」



 ――その時、この場に居ない何者かの、声が響き渡る。



「――あははは!!!! 気持ち悪いんだよ、お前!! ブス!! デブ!!」


 その声を聞くだけで、嫌悪感が増していく。そしてその声を、卓斗は聞いた事がある。


「この声……!!」



 すると、真っ黒なグリフォンに乗った二人の人物が、上空から舞い降りて来る。

 一人は、ゴスロリ風の騎士服で、縦に半分が白色で、もう半分が黒色だ。腰辺りまで伸びた長い髪で、毛先はふわっとパーマが掛かった感じだ。

 桃色の髪色に、毛先にいくにつれて徐々に青色に変色している。透き通る様な碧眼でジト目をした女性。


 もう一人は、縦に半分が白色で、もう半分が黒色の騎士服を着ていて、スカートの裾は膝上辺り。

 くるぶしまでの靴下を履いていて、脚は少し筋肉質。顔には目の部分をくり抜いただけの、真っ白な仮面を付けている。

 赤色の髪色でショートボブの女性。


 シドラス帝国の地上へと降り立つと、真っ黒なグリフォンから降りる二人。


「お前らは……!!」



「――あははは!! 私は、大罪騎士団『虚飾』を司る、イシュタム・デミウルゴス!! こっちは、同じく大罪騎士団『嫉妬』を司る、ルミナ・フォードラス!! ここに、黒のテラが封印されている球があるんだよね? 大人しく渡して貰おっかな!!」



 ――突然として、『大罪騎士団』の二人が乱入した。




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