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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第77話 『偽りの夫婦』


「――その結婚……ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!!!」


 ディーンの野太い叫び声が、会場に響き渡る。そして、卓斗も初めてヒナの結婚相手である王子、ディーンの姿を見た。


「あ、あれが……? 本当に王子?」


「えぇ、そうよ。私の言った通りでしょ」


「いやいや……言ってた以上だよ……想像以上に、やばいな……」


 ディーンの容姿に、卓斗も思わず顔を引きつらせていた。これで、フューズやヒナが結婚を嫌がってる事が、完全に納得出来た。

 すると、ディーンの後ろから遅れて、ゾロゾロと数名の騎士服を着た者達が現れた。



「――ちょっと、王子……!! 先々行かないでよ、迷子になっちゃう……っ!?」


 遅れて駆け付けた美少女、それは。――エレナ・カジュスティンだ。その隣には、三葉、ディオス、ミラが立ち、更にマッドフッド国から来たヴァリ、ティアラが立っている。

 エレナの視界に、ウエディングドレス姿のヒナと、髪型をバッチリと決め、新郎スーツを見に纏う卓斗の姿が映った。


「タクト……何やってんの……? 説明してくれるかな……!!」


「エ、エレナ!? それに、皆も!! って、ヴァリとティアラまで……!?」


 怒りを抑えながら卓斗を強く睨むエレナ。だが、卓斗は事の経緯を話す訳にはいかない。

 何故なら、エレナの近くにはディーンが居るからだ。ディーンに、ヒナの婚約者として見せつけ、諦めさせるのが目的で、話してしまえば意味が無くなってしまう。

 まさかの身内の登場に、卓斗はピンチに晒される。


「ちょっと、あれってタクトの仲間? 作戦が失敗しない様に、上手く追い払いなさいよ」


「そう言うけどな……どうやって追い返すんだよ……あいつらにも、俺が婚約者だって思わせんのか?」


「それしか無いでしょ。この作戦をパーにするつもり?」


 ヒナの言い分も間違いでは無い。卓斗が優先すべきは、ヒナの依頼の方だ。すなわち、卓斗には犠牲になって貰うしか無い。


「ちょっと、タクト!! その女は誰? 婚約者ってどういう事?」


 すると、卓斗の側にフューズが近寄り、小さな声で話し掛けてくる。


「タクトさん、あの赤髪の女の子はトワさんなのか?」


「いや、違うけど……エレナ・カジュスティンって王妃様だ。今は俺と同じ聖騎士団に居るけど」


「エレナ・カジュスティン……やはり、トワさんと同じカジュスティン家の者か……」


 すると、エレナは怒りに任せた歩き方で卓斗達の方へと歩み寄っていく。


「早く説明しなさいよ!! 場合によっちゃ容赦しないわよ」


 すると、エレナの後を追う様にヴァリも、エレナの歩き方を真似て近寄って来る。


「そうっスよ、タク兄!! ちゃんと説明するっス!!」


 すると、ヴァリに自分が卓斗に恋を抱いていると、バラされると悟った三葉もその後を追う。


「ちょっと、ヴァリちゃん!! 分かってると思うけど、余計な事は言わないでね!!」


 そんな三人を見つめる、ディオスとミラとティアラ。


「モテモテだね、タアくん。四人の女の子が取り合ってるよ」


「少なくとも、うちのヴァリは僕ちゃんの事、好きじゃ無いと思うけど」


 そして卓斗とヒナの前に、エレナと三葉とヴァリが立ち並ぶ。その圧力に、卓斗は気圧されそうになっていた。


「ちょ、お前ら……!! 何しに来たんだよ!! てか、何で俺がここに居る事知ってんだ? それに、あの王子と何で一緒に?」


「誰が質問していいって言ったのよ。まずは、あんたから説明する番でしょ!!」


「そうっスよ!! タク兄が結婚なんてありえないっス!! タク兄の結婚相手は――」


「わーわーわー!! なんでもない!! なんでもない!!」


 ヴァリの言葉を遮る様に三葉が大きな声を出し、ヴァリの口元を手で塞ぐ。

 すると、三人を見たヒナが徐に口を開いた。


「ちょっと貴方達、いきなり現れて騒いで、どういうつもり? 見て分からないの? 今、結婚式の途中なんだけど。私の旦那さんに群がらないでくれる?」


「おい、馬鹿!!」


 卓斗の制止も虚しく、ヒナは言い切ってしまった。そして、その言葉を聞いた三人の表情は固まっている。


「へぇ……旦那さん……ね」


「見損なったっス……」


「な、何かの間違い……だよね……?」


 三人からの視線に痛みを感じながらも、卓斗はこの作戦を実行しなければならない。

 事の経緯は、全てがひと段落ついたら説明すればいい。そう己に言い聞かせながら、


「――い、いやぁ……あははは……そう、うん、結婚式っていいよなぁ……うちの嫁、か、可愛いいよなぁ……」


「ふーん、あっそ」


 するとエレナは、卓斗の目の前まで歩み寄ると、突然腹部に強烈なパンチをお見舞いした。


「ぐふっ!?」


 そして、ヒナの居ない方の卓斗の耳に顔を近づける。ヒナから見れば、エレナの顔は見えない。

 エレナは卓斗にしか聞こえない程の小さな声で、


「本当、馬鹿ねあんた。なに巻き込まれてるのよ。どうせ、あの不細工な王子との結婚を阻止する為とかなんでしょ? 一人でやろうとして、本当馬鹿」


「エレナ……?」


 すると、コソコソしている二人を見ていたヒナが痺れを切らし、エレナを卓斗から引き離す。


「ちょっと、なにコソコソしてんのよ。貴方、私の話し聞いて無かったの? タクトは私の旦那さんなのよ?」


 するとエレナは、深く溜め息を吐くと、悪戯な笑顔をヒナに見せ、


「あら、ごめんなさいね、奥さん? 結婚式の邪魔しちゃったみたいで」


 そう言うと、エレナはヴァリと三葉の手を引っ張って、ディーン達の居る場所へと戻って行く。


「ちょっとエレナ!! 何してるっスか!? タク兄の結婚認めるんスか!?」


「エ、エレナちゃん……!? どうしたの!?」


「いいから、行くわよ」


 ようやく邪魔者が去り、一安心するヒナと、エレナの行動を悟った卓斗は申し訳無さそうに、エレナの背中を見つめていた。


「貴方の仲間には、可愛い人が多いのね」


「まぁ、いい奴らだよ」


 エレナ達はディーンの元に戻ると、


「王子、ごめんなさい、話してみたけど駄目だった。あの二人は、どうしても結婚するんだって」


「えぇ!? エレナちゃん、許したの!?」


 ミラはエレナからの報告に驚く。だが、ディオスとティアラだけは、エレナの考えを読み取った様だ。

 エレナの考えとは、卓斗の作戦に協力する事。卓斗が、ヒナとディーンの結婚を阻止する為に行動していると分かったからだ。

 それに気付いていないのは、ミラとヴァリと三葉だ。三人はエレナが許した事に戸惑いが隠せない。すると、



「――使えない奴らだ……」


 ディーンがそう呟いた瞬間、ディオスが何かに気付き、全員を卓斗達の居る場所へと瞬間的に移す。


「わっ!? 移動した!?」


 三葉達が驚いた束の間、ディーンの居る場所で突然、大爆発が起きた。民達は驚き、恐怖に包まれ、逃げ惑う。


「な、なんだ!?」


「タクトくん!! ここは任せていいかな? 俺とミラと、それからミツハちゃんにも手伝って貰うけど、ここの民達を安全な場所に避難させる!!」


「ディオスさん!! 何があったんだ!?」


「いわゆる、逆ギレってやつだよ。ミラ、ミツハちゃん行くよ!!」


 そう言うと、ディオスは民達の誘導を始める。ミラと三葉もそれに続く。


「逆ギレって……まじかよ……」


 大爆発が起きた場所の煙が消え始めると、ディーンが鬼の形相で卓斗を睨んでいた。

 花嫁を奪われ、ディーンの怒りは最高潮にまで達していた。


「許さない……スースー」


 ディーンの隣に立っていた側近も、剣を抜き構えて居る。まさに、花嫁を賭けた戦闘が始まろうとしていた。


「タクト!! 死ぬ気で王妃を守るのよ!!」


 エレナは剣を抜き、構えてディーンを見つめながら、そう話した。ヴァリも、神器ではない方の剣を抜き、構える。


「グランディア騎士団が居る前で、悪さをするっスか? 同盟剥奪っスね、これは。ティアラは、そのおじさんを守るっス」


「分かったわ。ヴァリ、気を付けてね」


 そう言うと、ティアラはフューズの側へと移動する。ディーンと側近はゆっくりとエレナ達の方へと歩み寄り、


「僕のお嫁さんを奪った……ヒナ様は僕のだけなのに……スースー。僕だけのモノにしてやる……スースー」


 そう話すディーンの目付きは、完全に殺意が篭っていた。そして、その殺意は卓斗とヒナに向けられている。


「何だよあいつ……やべぇ奴だな……」


「だから嫌なのよ……あんなのと結婚だなんてあり得ないわ……」


「ヒナ、俺から離れんなよ。ちゃんと守ってやるから」


 その言葉が聞こえたのか、エレナの表情は完全にブチ切れている。その怒りをディーンへと向け、


「この際だから言わせて貰うけど、あんた本当に気持ち悪いのよ!! 自分の容姿ちゃんと見てる!? そのみてくれで結婚出来ると本当に思ってたの!?」


「うるさい黙れ!! お前も、僕が他の女と結婚する事に嫉妬してるんだろ!!」


「キモ……」


 すると、ディーンが剣を振りかざすと、青白いテラの斬撃が卓斗とヒナを襲う。


「遠距離!?」


 卓斗はヒナを後ろにやると、剣で斬撃を受け止める。卓斗はそのまま、斬撃を横に跳ね返す。


「くそが……!!」


 斬撃は王邸を直撃し、王邸の左側部分は破壊される。


「破壊力やべぇな……ティアラ!! フューズさんを連れて逃げろ!! ここに居たら危険だ!! 民の人達とディオスさん達と一緒に地上へ逃げるんだ!!」


「僕ちゃん達はどうするの!?」


「王子らは俺らで何とかする!!」


「分かったわ!!」


 ティアラとフューズは、民達が避難した場所へと走る。このままでは、シドラス帝国が海へと落下してしまう。

 それだけは、避けなければならない。


「ヒナ、お前も地上へ逃げろ」


「は!? 無理よ」


「何で無理なんだよ!?」


 ヒナは強い眼差しでディーンを見つめて、


「お母さんとお父さんが暮らしたこの国を、私は守る。滅茶苦茶になんかさせない!!」


「それは、俺らが守るから、お前は逃げろ!!」


「偽りだけど私は貴方のお嫁さんなのよ? 旦那さんだけに任せられないわ。お母さんなら、きっと同じ事を言う筈……」


 母親の願いを受け継ぎ、強く逞しく育ったヒナ。その信念が、逃げる事を許さない。


「分かったよ。そのかわり、俺から絶対離れんなよ。あいつの狙いは、俺とお前だ」


「分かった。ちゃんと守ってよね、旦那さん」


 最後の部分を強調して言うヒナ。卓斗は笑顔で返すと、すぐさまディーンの方へと視線を移す。


「イチャイチャするのはどうでもいいんだけど、あの王子の狙いはあんた達よ。早くこの場から離れて」


 エレナは怒りを抑えながらそう話した。卓斗とヒナの会話が嫌でも聞こえて来て、苛立ちを募らせる。


「そういう訳にもいかねぇんだ。俺らもあいつと戦う。んで、ヒナとの結婚を諦めさせる」


「はぁ!? あんた、守りながら戦う気? 言っとくけど、私は守りながらとか無理だから」


「お前はお前のやりたい様に戦え。ヒナは俺が守る」


 卓斗は、自分が地雷を踏んだ事に気付いていない。エレナの表情に怒りマークが沢山出てる事など知る由も無く。


「あっそ。好きにすれば」


 そう言うと、エレナはディーンの方へと走り出す。すると、ディーンの側近が立ち塞がり、エレナの行く手を拒む。


「王子の邪魔をするな!!」


「どきなさい!! あんたも斬るわよ!!」


 ディーンの側近が、走るエレナに向かって剣を振りかざすと、その剣をヴァリが受け止める。


「君の相手はヴァリが受けるっス!! 王子はエレナに任せたっスよ!!」


「ありがと、ヴァリ!!」


 エレナはヴァリと側近を避けて、ディーンの元へと一気に走り出す。ディーンは、剣に青白いテラを纏わせ、振りかざす。


「また斬撃……!!」


 ディーンの斬撃がエレナに襲い掛かるが、エレナはそれを剣で横に弾く。その斬撃は、また王邸の左側へと飛んでいき、より一層破壊する。


「無闇に弾けないけど……仕方ないよね……!!」


 ディーンの目の前まで行き、エレナは剣を横に振りかざす。ディーンはすぐさま剣で受け止める。


「君も僕と結婚したいのは分かるけどさ……スースー。僕は今ヒナ様の事で頭がいっぱいなんだよね……スースー。邪魔しないでくれるかな!!」


「相手が嫌がってる事に気付かないの? 自己中にも程があるわよ、あんた」


 エレナはその場で半回転して、足底をディーンの腹部に当てて、蹴り飛ばす。


「相手に嫌われてるって事に気付きなさいよ、クソ王子」


 エレナは剣に赤い炎を纏わせて、ディーンを睨む。既に大量の汗を掻いているディーンは、不敵な笑みを浮かべて、エレナを見つめていた。


 一方、ディーンの側近である男と、ヴァリは睨み合っていた。


「同盟剥奪か……そんなもの、別に構わないな。王子の邪魔をするお前らが悪い。イストライル国を舐めるなよ、グランディア騎士団第六部隊隊長」


「舐める程でも無いっスよね、弱小国なんか。マッドフッド国を敵に回した事を、後悔するっスよ」



 ――空高くある雲の上に存在する空中帝国、シドラス帝国。一人の花嫁を賭けた戦いが始まる。




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