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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第三章 『聖騎士団』
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第74話 『嫌われ王子』



「――こえあ、おういさわ!? (これが王子様!?)」



 エレナだけでなく、ディオスもミラも三葉も、イストライル国の王子、ディーン・ロズウェルの姿を見て驚愕した。

 その姿は、完全なる不細工な男性。見た目でモテる要素は全くの皆無だ。


「どうしたの? そんなに驚いた顔をして。悪いけど、僕には許嫁が居るんだ。君達三人の婿にはなれないんだ。ごめんね」


 そして何より、自分がそういう男性だという自覚も全くの皆無だった。

 自分に好意を抱いていると勘違いされた、エレナとミラははっきりと表情で嫌悪感を見せた。

 三葉は、ただただ苦笑いを浮かべて、極力視線を合わせようとしないでいる。


「立ち話もなんだから、僕の部屋においでよ。案内するよ」


 ドスドスと効果音が聞こえてきそうな足取りで、部屋へと向かうディーン。

 ミラとエレナは見合って、えずくジェスチャーを見せ合う。こういった場面では気が合う二人だ。


「さ、そこに座って」


 ディーンの部屋へと入れられると、中には大きなソファがあった。そこに座り、徐にディーンが話し出す。


「実はね、君達も既に聞いたとは思うんだけど、僕の許嫁がどこぞの馬の骨か分からない者に奪われそうなんだよ。スースー、許せないよね、本当。まぁ、僕の許嫁はとても可愛い子だから、スースー、好きになってしまうのも分かるけどさ、僕の方が先に話をしたし、スースー、シドラス帝国のマッドフッド国傘下入りの話も進めてるから、スースー、僕以外の人間と結婚するなんて馬鹿な話なんだよ」


 話の所々で鼻息が荒くなるディーン。その様子を見たエレナとミラはえずくのを我慢している。

 三葉は明後日の方向を見て、関わらない様にしているから、ディオスが相手をするしかない。


「その……どこぞの馬の骨っていう人物のタクトっていうのは……」


「あぁ、部下の話だとね、スースー、聖騎士団の者って言ってたらしいんだよね、スースー」


「あの馬鹿……!!」


 エレナはソファの肘掛けを叩いて、苛立ちを募らせている。聖騎士団と名乗っているという情報からすれば、シドラス帝国の王妃と結婚するタクトは、エレナ達の知る卓斗で間違いない。


「うーん、タクトくんが結婚するなんて情報は聞いてなかったからね。恐らく、何か事情があるんだとは思うけど」


「どっちにしろムカつくわよ、あの馬鹿!! 巻き込まれてる時点でムカつく!! どうせ、可愛い王妃様に鼻の下伸ばして、のこのこ付いていったのよ!!」


「だからさ、スースー、聖騎士団である君達からそのタクトって奴を説得してよ、スースー。ヒナ様とは僕が結婚するんだからね」


 卓斗を連れ戻せば、ヒナがこの王子と結婚する事になってしまう。だが、今のエレナにはその様な事はどうでも良かった。

 一刻も早く、卓斗を連れ戻し、馬鹿と一言罵りたいのだ。恋する乙女というのは、時には恐ろしいものだ。


「なら早く、そのシドラス帝国って所に案内しなさいよ」


「まぁそんなに慌てないでよ。シドラス帝国へは僕達と君達だけでは行かない、スースー。さっきも言った通り、僕とヒナ様との結婚には、シドラス帝国のマッドフッド国の傘下入りの話もある、スースー。だから、マッドフッド国の者も一緒に行くんだ」


「マッドフッド国の者?」


 ディオスがそう言葉にした瞬間、王邸の扉が開かれる音が聞こえてくる。


「ほら、来たよ、スースー」



「――お待ちどうっスー」


「あ、あんた!!」


 エレナと三葉はその人物の姿を見て、驚いた表情をしている。その人物とは、桃色の髪色に肩上までの長さ、右側の耳に髪を掛けて、その部分を編み込んでいる。

 薄茶色の様な騎士服で、ダッフルコートの様な形をしている。薄茶色のミニスカートを履き、黒色のニーハイソックス、膝上までのブーツを履き、腰には片側に二本の剣と、もう片方に一本の剣を携えている。


 その人物の背後から、もう一人部屋へと入って来て、その人物は黄色の髪色に、腰辺りまでの長さで、某魔法少女の様に髪が盛られている。

 最初に入って来た人物と同じ騎士服を着ているが、容姿は大分と幼く見える。


「なに、エレナちゃんとミツハちゃんは知り合いなの?」


 ミラは驚く二人を見てそう言葉にした。マッドフッド国から来た二人を、ミラとディオスは知らない。


「あぁ、副都に居た頃に会った事がある。一人は、確かヴァリ……もう一人は……えーっと……」



「――ティアラよ!!」


 黄色の髪色の少女が、頬を膨らませてそう叫んだ。イストライル国へと赴いた二人とは、龍精霊騎士ヴァリ・ルミナスと、龍精霊ティアラだった。


「あれ? 何か見た事ある人達が居るっスね」


「あれよ、僕ちゃんの友達よ」


「あ!! タク兄の!! 久しぶりっスね!!」


 ヴァリはそう言って、三葉の手を握り無邪気な笑顔で喜びを表す。ヴァリ達とエレナ達は、副都で行われた四都祭以来の再会となる。


「えーっと、ヴァリちゃん……あまり喋った事ないけど、私の事覚えてたの?」


「当たり前っス!! タク兄の友達の顔は覚えてるっスよ!! ミツハっスよね? 元気にしてたっスか?」


「あのー、懐かしんでる所で悪いんだけど、私とお兄ちゃんにも分かる様に紹介してくれるかな」


 ミラにそう言われると、ヴァリは姿勢を正し、拳を握って胸に当てると、


「それもそうっスね。――グランディア騎士団第六部隊隊長ヴァリ・ルミナスっス!! よろしくっス!!」


「声がでかいのよ……同じく、グランディア騎士団第六部隊副隊長ティアラよ」


 グランディア騎士団。それは、マッドフッド国の騎士団で勢力は聖騎士団以上とも言われている、最強の騎士団だ。


「あんた、もう隊長務めてるの?」


「そうっス。元々ヴァリは旧都に入る前から、グランディア騎士団に勧誘されてたっスからね。入団と同時に隊長を任されたっス」


 ヴァリは、元々兼ね備えていた実力の上、神器レーヴァテインを所持し、旧都の中でも最強と謳われていた。


「そっちのお嬢ちゃんも?」


「お嬢ちゃんって言わないの!! これでも私が、この中で一番歳上なんだからね!?」


 ミラに対して激昂するティアラ。一番歳上と言えど、ティアラの見た目年齢は十歳だが、実年齢は千三百歳だ。一番歳上という言葉が変に聞こえてしまう程、異常だ。


「紹介が遅れたね、俺は聖騎士団第四部隊隊長ディオス・グランヴァルト。こっちは、副隊長のミラ・グランヴァルト」


「聖騎士団っスか!! 所で、何で聖騎士団がこんな所に居るっスか?」


「それは、僕が呼んだんだよ、スースー」


 ヴァリは、ディーンを見つめてしばらく固まると、



「――誰っスか? この汚いおじさん」



「――なっ!?」


 ヴァリがそう言葉にした瞬間、ディーンの側近達が慌てふためいている。


「し、失礼だぞ!! 王子に向かってその口の利き方はなんだ!?」


「まぁまぁ、落ち着くんだ。彼女はきっと、ツンデレなんだろうね、スースー。だが、残念だけど僕には許嫁が居る。好きになるなら、他を当たってくれるかな? スースー」


 ディーンのポジティブは度が超えている。はっきりと汚いおじさんと言われようが、ディーンには全て、好意を抱かれていると変換される。


「うげぇ……何言ってるんスか、この人……ヴァリがこんな人好きになる訳無いじゃないっスか。それに、王子だからなんだって言うんスか? イストライル国はマッドフッド国の下請けみたいなもんスよ? 親元であるヴァリの方が偉いんスよ」


「ちょっと、ヴァリ。少なくとも、この汚いおじさんも一国の王子なんだよ? あんまり、失礼な言葉は言わないの」


 ティアラの言葉で、部屋の空気は凍りつく。ディーンを除いて、全員が気を遣っていた。


「まぁそんな事より、聖騎士団を呼んだっていうのは、どういう理由っスか?」


「王子の結婚の話は知っているな?」


「確か、シドラス帝国の王妃様と結婚するんスよね? それで、シドラス帝国もマッドフッド国の傘下に入るとか」


「あぁ、そうだ。だが、王子とヒナ様の結婚を前にして、ヒナ様の婚約者だと名乗る者が現れた。タクトと言ってな」


 聞き覚えのある名前に、ヴァリは首を傾げていた。そんなヴァリを見てエレナが、


「あんたの良く知ってるタクトの事よ」


「タク兄がっスか!? なんでまた!?」


「知らないわよ。だから、私達はタクトを連れ戻しにシドラス帝国へ行くのよ」


 久々に聞いた卓斗の情報が、シドラス帝国の王妃の婚約者だと知ってヴァリは驚きが隠せない。


「そういう事っスか。なら、早く一緒に行くっスよ!! 絶対にタク兄と王妃様の結婚を阻止するっス!! タク兄が結婚なんてありえないっス!!」


「あんた、どうしてそこまで……」


 ヴァリの慌て様に、エレナは何かを勘付いた。もしかすれば、ヴァリも卓斗に恋しているのではないかと。


「タク兄の結婚相手は王妃様じゃ駄目っス!! 何故なら、タク兄の結婚相手は、――ミツハっスから!!」



「――っ!?」


 ヴァリの言葉に、エレナは目を丸くして固まっている。それは、三葉も同じだった。

 まさか、自分が卓斗の結婚相手として名前を呼ばれるとは思ってもいなかったからだ。


「わ、私!?」


「ヴァリは知ってるっスよ。ミツハがタク兄の事が好きな事!!」


「ヴァ、ヴァヴァヴァ、ヴァリちゃん!!」


 突然の事に三葉は顔を真っ赤にして慌てている。ヴァリにいきなり確信を突かれ、驚きが隠せない。


「え……ミツハ……」


 エレナもその衝撃に思わず言葉が出ない。まさか、恋敵が三葉だとは思ってもいなかった。


「ち、ちちち違うの!! 違くないけど……その……卓斗くんの事は……その……」


「ミツハちゃん、動揺っぷりが凄く可愛いね。そんなに顔も真っ赤にしちゃって」


 ミラが追い打ちを掛ける様に言葉を投げ掛ける。三葉がこんなに慌てているのが、面白くて仕方がない。

 すると、その様子を見ていたディーンが、放って置かれている事に嫌気をさし、咳払いをする。


「ゔゔん!! 話を本題に戻してもいいかな、スースー。取り敢えず、シドラス帝国へと向かうよ」


「ミツハ、負けないから」


「え?」


 エレナはそう言うと、ディーンの部屋から出て行く。三葉は流石の鈍感さで言葉の意味に気付いていない。

 エレナは恋敵が三葉である事を知り、負けないと静かに闘志を燃やした。

 それから、一行は支度を済ませイストライル国の正門に集まる。


「よし、ではシドラス帝国へ出発だ」




 ――シドラス帝国では、ディーンを諦めさせる為に、結婚のフリをする為の準備を進めていた。


「次に王子らが来るのはいつなんだ?」


「予定では今日よ。用も無いのに度々来ては、私にベタついてくるの。思い出しただけでも寒気がするわ……」


「今日か……諦めさせる作戦はどーすっかな……式でも挙げるか」


 卓斗のその言葉に、ヒナが反応をした。若干顔を赤らめて、


「式を挙げる……な、なんか緊張するわね……」


「何言ってんだよ、フリの話だろ? 式は挙げるけど、見せかけの式だ。その場に居合わせてくれりゃ、その光景を見た王子が諦めるって肚だ」


「そんな簡単にいってくれればいいんだけど……あの人、本当にしつこいから……」


 最早、ディーンはヒナのストーカーと化していた。お見合いで会ったその日から、一目惚れをし、結婚する話になり気分も最高潮にまで上がっている。


「同盟なんかどうでもいいからって、言えりゃいいんだけどな。滅多にこない同盟の話を無しにでもしたら、今後のこの国の同盟が結びにくくなるって訳か……ったく、厄介な話だよな……王都と同盟でも結んだらどうだ?」


「王都か……我々は元々マッドフッド国の領地の村だったからね。過去の戦争の事もあって、元敵領地だった王都とは、直接的に同盟は結べないのが、本音なんだ。仮にイストライル国以外で同盟を結ぶなら、マッドフッド国しか無い……」


「そのマッドフッド国とは、何で同盟を結ばなかったんだ?」


「私達の国には、その様な政治的な働きを出来る者が居ない。恥ずかしながら、私にもね……そうしている内に、イストライル国から同盟の話が上がったんだ。ヒナとの結婚を条件にね。だが、この話を断ってしまえば、マッドフッド国との同盟は絶望的となる……イストライル国はマッドフッド国の傘下だからね」


 つまり、ヒナのディーンとの結婚を断れば、シドラス帝国は生涯孤立を極める事になる。

 だが、それでも大事な愛娘をあの様な男に渡したく無いという、父親であるフューズの願いもあり、頭を悩まされている。


「ヒナをあの者と結婚させるくらいなら、シドラス帝国が生涯孤立になっても構わない。だが、それではこの国の民達に申し訳ない……生涯孤立になってしまえば、この国が滅ぶのも目に見えている。経済的な話になるがね」


「うーん、国を纏めるのって大変なんだな……俺には国王とか、向いてねぇかも知れねぇな。でも、いいのか? 王子を諦めさせる事に成功しても、シドラス帝国は……」


「私は、一国の王としては駄目な存在だ……でも、父親としてはちゃんとした存在でありたい。民達には私から説明する。タクトさんは、そのままヒナを頼む」


 フューズはそう言って頭を下げた。色々な葛藤と戦い、王として、父親として卓斗はフューズを尊敬した。

 もし、自分がフューズの立場なら、きっと同じ結論を出すであろう。何より大切なのが娘というのは、父親としては立派だ。


「任せて下さい。必ず、ヒナさんをフューズさんの元から離れさす事はさせませんから」


「タクトさんが、本当にヒナの婚約者なら、心から歓迎するんだがね。今回の件、本当に感謝する」


 すると、フューズの部屋にメイドの女性が二人入ってくる。その手には、ウエディングドレスと新郎のスーツを持っていた。


「準備が出来ました」


「よし、これに着替えて、王子を諦めさせる式を挙げるぞ、ヒナ」



 ――擬似結婚式を挙げるまで、後一時間となった。




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