第70話 『新たなスタート』
これより、第三章のスタートです!!
「俺は……負けたのか……死んだのか……この世界を終焉から救う事は……出来なかったのか……」
――そうか、死んだんだ。
真っ暗な暗闇にだんだんと落ちて行く少年。自分の死を悟り、果たせなかった約束に後悔し、仲間の顔が思い浮かんできて涙が溢れる。
その涙が溢れているのかも分からない。すると、遠くの方からだんだんと光が差し込んで来る。
真っ暗だった筈が真っ白へと変わっていき、少年に暖かな光が降り注ぐ。
そして、どこからと無く声が聞こえて来る。
――タクト……
――タクト……!!
――タクト!!
「う……?」
否、頭がボーッとして、何が起きたのか分からないでいるのは、越智卓斗だ。
そして、卓斗に声を掛けたのが、王族カジュスティン家の王妃エレナ・カジュスティンだ。
「あんた、ボーッとしてどうしたの? 名前呼ばれてるわよ」
小声でエレナが卓斗の横腹に肘を突きながら話した。すると、エレナ以外の声で、卓斗の名前が呼ばれた。
「――オチ・タクト!! ボーッとするな。大事な入団式だぞ」
卓斗が視線を上げると、教壇の様な物の上に立っている人物が視界に移った。
その人物は、黒髪に赤色と青色のメッシュを入れた男性。世界に、『最強』の肩書きを轟かせる男、聖騎士団総隊長グレコ・ダンドールだ。
「ふふ、タアくんったら緊張してるのかな?」
その施設の壁側を見やると、ズラッと見知った人物達が立ち並んで居た。
その中の一人、聖騎士団第四部隊副隊長ミラ・グランヴァルトが卓斗を見て微笑んでいる。
その隣には、聖騎士団第四部隊隊長ディオス・グランヴァルトや聖騎士団第一部隊隊長アカサキ・チカなどが立っている。
――というのも、今日は卓斗達の聖騎士団の入団式が行われている日だ。
副都を卒団した後、卓斗と三葉と繭歌、エレナとセラとレディカ、オッジとレフェリカは聖騎士団に入団する為、王都に訪れていた。
「以上、副都を卒団した八名が聖騎士団の精鋭部隊に配属される」
「精鋭部隊?」
卓斗はその言葉に首を傾げた。すると、エレナが深く溜め息を吐いて、
「はぁ……あんた、本当に話聞いて無かったの? 第一部隊から第四部隊までが精鋭部隊と呼ばれてて、副都を卒団した人しか入団出来ないのよ。それ以外で聖騎士団に入団したい人達は、聖騎士団総合部隊の方に配属されるのよ」
「総合部隊って?」
「あんたね……まぁいいわ。総合部隊っていうのは、副都以外からの入団希望者を集めた軍団の事よ。言わば、聖騎士団の兵士って所ね。精鋭部隊は、各部隊の単独行動が許されてて、特殊な任務や戦争などを各々が受け持つ事が出来るの。まぁ、精鋭部隊でも必要じゃ無いと判断されたら総合部隊の方に回されるみたいだけどね。その逆もまた然り」
エレナの説明に、分かった様で分かっていない卓斗は、取り敢えず、成る程と頷いた。
「――聖騎士団第一部隊隊長アカサキ・チカ!!」
「はい!!」
グレコがアカサキの名を呼ぶと、アカサキはグレコの前に立ち、卓斗達の方を見やる。
「では、第一部隊へ配属される方の名前を呼びますね。呼ばれた方は、私の前まで来て下さい。まずは、セラ・ノエールさん」
「はい!!」
名前を呼ばれた少女、セラ・ノエール。幼い頃にアカサキに助けられてから、ずっと願っていた事、それはアカサキの居る第一部隊へ配属する事。
夢が叶ったセラの表情は、逞しく、これからの聖騎士団のメンバーの一人になるという自覚と覚悟が篭った目をしていた。
「次に、レディカ・ヴァージアスさん」
「はい!!」
次に呼ばれた少女、レディカ・ヴァージアス。元々、セラとは犬猿の仲だったが、今では親友の域までに達している。
「以上二名が、第一部隊へと配属されます。セラさん、レディカさん、これから宜しくお願いしますね?」
アカサキの笑顔を見て、セラは更に実感していた。やっと、やっと憧れのアカサキと共に出来る。
この為に、強くなり、神器を手にした。セラにとっての夢の生活が始まる。
「――次、聖騎士団第二部隊隊長ジョン・マルクス!!」
次にグレコが呼んだ名前は、聖騎士団第二部隊隊長ジョン・マルクスだ。
厳つい風貌に、ごつい体。色黒でスキンヘッドとなれば、大抵の人は恐れてしまう。
「はいよ!!」
そして、ジョンはアカサキの隣まで歩くと、卓斗達の方を見やって、真っ白な歯を見せて微笑んだ。
「よし、俺が率いる第二部隊へ配属される者の名を呼ぶぞ。――クスモト・マユカ!!」
「お、僕は第二部隊に配属なんだね」
ジョンに呼ばれた少女、楠本繭歌。卓斗や三葉達と共に、この世界へと飛ばされ、最初に副都に辿り着いた。
卓斗達が副都へ入団するきっかけになったと言っても過言ではない。
「次、オッジ・ダマルス!!」
「わしか」
次に呼ばれた男性、オッジ・ダマルス。副都ではあまり、活躍の場面は無かったが、そのダンディな風貌と、背の高さからは、目立つ方だ。
「以上、二名が第二部隊に配属だ」
「――次に、聖騎士団第三部隊隊長ウルド・ロイレイ!!」
「はい!!」
次にグレコに呼ばれたのは、聖騎士団第三部隊隊長のウルド・ロイレイだ。
見た目は正しくホストだが、これでも隊長を務める程の実力者だ。そして、ジョンの隣に立ち、
「皆さん、初めまして。第三部隊隊長を務めているウルド・ロイレイです。実際、聖騎士団の精鋭部隊への入団者は毎回居る訳では無く、今回は久々の精鋭部隊の入団式となりました。それは、俺としても、喜ばしい事です。皆さんとこれからの、任務を楽しみにしています。それから……」
「――隊長、話は後で良いから」
ウルドが話していると、壁側に立っていた女性がウルドの言葉を制止した。
「ごめんよ、シラ」
ウルドの言葉を制止したのは、聖騎士団第三部隊副隊長のシラ・フルークスだ。
ウルドは一度話し出すと、終わりが見えなくなる。いわゆる、お喋りな人なのだ。それを止めるのが、シラの仕事の一つでもある。
「では、第三部隊への配属者を呼びますね。――レフェリカ・オルニアさん!!」
「はい!!」
ウルドに呼ばれた少女、レフェリカ・オルニア。オッジ同様、副都での活躍はあまり無かった。
だが、彼女の一族であるオルニア家は貴族の一つで、レフェリカはその令嬢にあたる。
「以上、一名が第三部隊に配属です」
「――最後に、聖騎士団第四部隊隊長ディオス・グランヴァルト!!」
「はい!!」
最後にグレコが呼んだ名前は、聖騎士団第四部隊隊長のディオス・グランヴァルト。
セレスタ救出作戦の際に、卓斗の元へと駆け付けてくれた人物だ。因みに、壁側に立っている女性の、ミラ・グランヴァルトは、妹にあたる。
「じゃあ、第四部隊への配属者の名前を呼んでいくよ。――シノノメ・ミツハ!!」
「は、はい!!」
ディオスに呼ばれた少女、東雲三葉。この世界に飛ばされてから、ずっと卓斗と一緒に居る。
光のテラを授かり、治癒魔法を得意としている。戦闘はあまり好まないが、卓斗が聖騎士団に入団すると聞いて、自分も入団する事を決めた。
「じゃあ、次だね。――エレナ・カジュスティン!!」
次にディオスに呼ばれた少女、エレナ・カジュスティン。二年前に、滅亡した王族カジュスティン家の生き残りだ。
その名が呼ばれた瞬間、聖騎士団のメンバー達のどよめきが聞こえて来る。
エレナが生き残って居た事を、今この場で知った者も少なからず居るからだ。
「はぁ……いつまで、この反応が続くのよ……」
「じゃあ、最後。――オチ・タクト!!」
「よし……はい!!」
最後に卓斗の名前が呼ばれた。これから卓斗は、聖騎士団第四部隊の一員として、この異世界を見ていく。
先程まで、ボーッとしていた事も忘れ、新たに始まる新生活に気分は上がっていた。
「以上、三名が第四部隊への配属だよ」
「これで全員だな。――では、以上八名の者の、聖騎士団精鋭部隊への入団式を終了する!! 今からは、それぞれの部隊の隊舎へと向かい、各隊長に説明して貰ってくれ。では、解散!!」
グレコの言葉を皮切りに、聖騎士団の入団式が終わった。
――卓斗達の、新たな物語が始まる。
――聖騎士団第四部隊隊舎。卓斗と三葉とエレナは、ディオスとミラに連れられ、第四部隊の隊舎へと向かった。
「では、改めて……第四部隊へようこそ。さっきも紹介したけど、俺が隊長のディオスだ。よろしくね」
「お兄ちゃん、堅苦しいよ。エレナちゃんもタアくんも、この間会ったでしょ? ミツハちゃんは、初めましてだね!!」
ミラは、ミツハの元へ歩み寄ると、顔を覗き込む様にして三葉を見つめる。
人見知りな三葉は、どうして良いのか分からず、たじらんでいた。
「あ、あの……初めまして……」
緊張のあまり、思わず卓斗の服の袖を掴む三葉を見て、ミラは微笑んだ。そして、エレナの方に視線を移すと、
「ふふーん、ライバルだね」
「は? ライバル? 何の話?」
エレナはミラの言葉が理解出来ていなかった。そんなエレナに再び微笑むと、
「とにかく、第四部隊に新たなメンバーが入って安心したよー。最近出来たばっかで、私とお兄ちゃんしか居なかったからね。賑やかになって良かった良かったー」
「それで、聖騎士団って具体的には、何をするんだ?」
卓斗の問いに、ディオスが徐に口を開き、
「そうだね、聖騎士団の精鋭部隊は、色んな任務をこなして行くんだ。誰もが出来る簡単な物から、死と隣り合わせの危険な任務までね。一番の仕事は、ヘルフェス王国を守る事だけど、他国との関係を築いたり、色々あるよ。まぁでも最近は割りかし平和だから、大きな戦争とか無いんだ」
「そうなのよねー。最近は、子供の面倒みたり、買い物に付き合ったり、そんな任務ばっかりだよ」
「それって、騎士団の仕事なのか……?」
その様な仕事が騎士団の仕事とは、思った事も無かった。卓斗が知る限り、騎士団の存在理由とは国の為に戦う、というのが卓斗の認識だった。
子供の面倒や買い物の付き合いは、騎士団というよりも、何でも屋の方が合っている。
これが、卓斗達の元居た世界と、この異世界との違いなのかも知れない。
「騎士団らしい仕事をする時も、勿論あるよ。俺達は経験していないが、十六年前に起きた、歴史上最大の戦争……第三次世界聖杯戦争にも、聖騎士団は参加していたからね」
「俺らが生まれた時に、そんな戦争が……」
「私、その戦争お父様から聞いた事がある」
そう言葉にしたのはエレナだ。勿論、エレナもその戦争は経験していないが、エレナ達の年代の親達は経験しているであろう。
「全世界を巻き込んだ、三年間の大戦争……結果的には、それぞれの国が和解して終結したらしいけど、被害は相当な物だったって」
「やっぱ、この世界にも、そういう戦争はあるんだな……」
卓斗の脳裏には、ある言葉が過った。――『世界を終焉へと導く』四都祭の本戦で出会った、ハルと名乗る謎の男の言葉だ。
その言葉が本当なのだとしたら、後々世界を巻き込んだ戦争が起きるかも知れない。
「絶対に……終焉なんかに導かせねぇ……」
卓斗は小さな声でそう呟いた。誰にも聞こえないくらいの小さな声で。すると、ディオスが、
「それより、早速だけど任務があるんだ」
「任務?」
エレナと三葉が見つめ合って首を傾げた。入団したその日に任務があるとは思ってもいなかったからだ。
「王都のパトロールだよ。日替わりで、各部隊が請け負っている。早速だけど、皆で見回りに行くよ」
そう言って、卓斗達はディオスに渡された、聖騎士団の騎士服に着替える。
肩から腕の袖までに赤色のラインが入った上着に、男性は金色のベルトを付けた白色のズボン。
女性は金色のベルトを付けた裾が膝上の白色のミニスカートを履き、膝下までの長さのブーツを履く。
エレナは新たな新生活に心機一転する為、黒色のニーハイソックスを履く様にし、髪型もハーフアップからツインテールに変えた。
三葉も髪型は日々変えているが、メインをお団子ヘアに決めた。そして、全員は裏地が黒色のマントを羽織る。
「どう? 似合ってるでしょ」
エレナはクルクルと回って、卓斗に見せびらかす。スカートの裾がひらひらと舞い、今にも下着が見えそうになっていた。
卓斗は目のやり場に困りながらも、エレナと三葉の騎士服姿を見やると、
「二人とも、似合ってるよ。可愛い」
「か、可愛い!? そ、そう……私、可愛いって思って貰えてるんだ……」
エレナは卓斗の褒め言葉に、顔を赤らめてモジモジしている。その隣では、同様に三葉が顔を赤らめてモジモジしていた。
「何してるの、三人共!! 早く行くよ!!」
ミラに呼ばれ、三人は慌てて王都のパトロールに向かう。卓斗は、王都にはあまり来た事が無いが、こうしてゆっくり街並みを見ていると、不思議な気持ちになっていた。
建物は洋風で、所々自然豊かな場所があり、噴水広場もある。まるで、ヨーロッパに来た感覚になっていた。
そして、街の一角のあるお花屋さんの前を通りがかった時、卓斗の視界にある人物が映った。
青いドレスを着て、白色のレースを羽織った女性。金色の髪を後ろで結んで、ポニーテールにしている。
そして、どこか見た事がある様な後ろ姿だ。卓斗は足を止め、まじまじとその人物を見つめる。
「ん?」
すると、卓斗の気配に気付いたのか、その人物が後ろを振り返った。
「――セレスタ!!」
「おぉ、タクトではないか」
お花屋さんで、好みの花を探していた女性は、セレスタ・ルシフェルだ。
王都の王族ルシフェル家の王妃で、エレナとは幼馴染だ。
「何してんだよ、こんな所で」
「いや、家の復旧作業がもうすぐ終わりそうでな。殺風景な所に、花でも置こうと思っていてな。それより、タクトは聖騎士団の任務か?」
「そう、つっても任務というより、王都のパトロールだけどな。エレナと三葉も居るけど、呼ぶか?」
セレスタは卓斗を見つめて優しく微笑み、
「いや、仕事の邪魔をする訳にはいかない。また、ゆっくり話せる時に話す」
「そっか。じゃ、行ってくるわ」
「あぁ、またな」
セレスタと別れ、卓斗は前方を歩くディオス達を追い掛けようと走り出す。その時、建物の間の細い路地で、複数の男に追われる少女の姿が見えた。
「まじかよ……」
卓斗は、すぐさま少女の後を追う。こうして、聖騎士団の騎士服を着ていると、正義のヒーローになった気分になる。
だが、全然悪い気分では無い。むしろ、街の治安を守る警察みたいで、いい気分だ。
――迷路の様な路地を、丈の長い赤色のゴスロリチックなスカートの丈を上げながら走る少女。
金色の髪色でポニーテールの髪型。前髪の分け目は三つ編みにしている、華奢な女の子だ。
「ハァ……!! ハァ……!! もう……、しつこい!!」
「くそ!! 逃すな!! 必ず捕まえろ!!」
「おう!!」
その少女を追うのは、黒色のスーツの様な服を着た、三人の男性だ。少女は、路地から外れ、森の茂みへと逃げ込む。
だが、男性達も逃さんとばかりに、必死に追い掛けてくる。その時、
「――っ!!」
少女は木の幹に足を躓かせてしまい、転げてしまう。その隙に、男性達は少女に追い付く。
「もう……ハァ……ハァ……逃さない……」
「だ……誰か……」
――その時、
「そこまでだ!!」
卓斗が少女の前に立ち、男性達に剣先を向けて、格好良く登場した。勿論、格好良く思っているのは、ヒーロー気分でテンションの上がっている卓斗だけだが。
「な、何者だ!!」
「はぁ? この服装を見て分からねぇか? 俺は、聖騎士団第四部隊の隊員、卓斗だ!!」
――卓斗の、聖騎士団としての初仕事が始まろうとしていた。




