第69話 『副都卒団』
オルダン騎士団の足止めに成功し、セレスタの説得にも成功した卓斗達。
つまり、無事卒団試験に合格したという事にもなる。卓斗とエレナとエシリアは、並んでセレスタを見つめて、
「――おかえり、セレスタ」
その言葉に、セレスタの視界が涙で滲んでいく。ずっと待ち望んでいた事、エレナ達と副都を卒団する事が何よりセレスタは嬉しかった。
一時はシルヴァに逆らう事が出来ず、全てを諦めていたセレスタ。だが、それでもエレナ達は自分を手離さなかった。
決して、突き放そうとはしなかった。だからこそ、セレスタも自分の本当の気持ちを素直に言い、王としての自覚も芽生えた。
自分自身だけでなく、ルシフェル家までも助けられ、セレスタは感謝の気持ちでいっぱいだった。
「皆……私は……」
「だから言っただろ? 俺が絶対に副都に連れ戻すって。皆、副都で待ってっからさ、一緒に帰ろうぜ」
卓斗は拳を突き出し、笑顔でセレスタを見つめる。そして、セレスタも涙を拭い、卓斗の拳に自分の拳を合わせた。
「タクト、お前にも感謝しなくてはならないな」
「俺に? いやいや、俺に礼なんか要らねぇよ。礼をするなら、エレナとエシリアにしろよ?」
「だとしてもだ。私が何度も何度も、お前達を引き離そうとしても、決して諦めずにちゃんと向き合ってくれた……そして、宣言通り、私を助けた。私だけじゃない、ルシフェル家までも助けてくれた」
「正直、聖騎士団の人達が来てくれなきゃ、危なかったってのも本音だけどな……セラ達の方も無事だといいけど……」
今回の相手の実力は、遥かに想像を超えていた。だが、それでも諦める訳にはいかない。
いずれ、この世界の終焉へと立ち向かう為にも、この様な所で立ち止まっている場合では無いからだ。
それでも、まだまだ実力不足なのは正直な話で、聖騎士団の参戦は有難い事だった。
「こっちだって、副都の子達がシルヴァさんの計画を知ってる事に驚きだったよ。どうして、タアくん達は知ってたの?」
「あー、それは、カルナさんと俺達が繋がってたからだ。カルナさんに、情報を色々と聞いていたんだ」
「やはり、カルナお姉ちゃんとエレナ達が繋がっていたのか……カルナお姉ちゃんは、この作戦の為にわざわざ私にも嘘を……」
当初、卓斗達を始末したとシルヴァから聞いた時は絶望だったセレスタ。
その実行犯がカルナだという事も相俟って、絶望感、失望感は否めなかった。
「セレスタを救う為だもの。その為なら、私は自分を犠牲にする事なんて躊躇わない。それから、タクトくん達もありがとう。タクトくん達が居なかったら、私はシルヴァ様に逆らう事が出来ないまま、セレスタを見放していた……」
「礼を言うのはこっちの方だよ、カルナさん。聖騎士団もそうだけど、カルナさんが俺達の言葉を聞き入れてくれなかったら、セレスタを助ける所か、あん時に殺されてた。俺やエレナ、エシリアが今もこうして生きて、セレスタを救う事が出来たのも、カルナさんが、自分の気持ちに嘘を付かず、セレスタの親父さんと向き合ったからだ。それに、情報も何も無かったら俺達も、動く事は出来なかったからな。こっちこそ、ありがとう」
卓斗とカルナは笑顔を見せ合って握手を交わした。カルナが居なければ、そもそもこの作戦は存在していない。
セレスタを救う事も、ルシフェル家を救う事も出来なかったかも知れない。
「そうだ、聖騎士団の人に聞きたいのだが、兄上はどうなる?」
セレスタがディオスの方を見やってそう言葉にした。オルヴァは隙を突いて、この戦線から離脱し、何処かへと行方をくらました。
「そうだね。オルヴァさんは、聖騎士団が行方を追うよ。勿論、見つけても殺しはしない。拘束して、シルヴァさんと同じ様に罪を償って貰う」
「そうか……」
セレスタの表情は暗くなっていた。どうせならば、オルヴァも聖騎士団に捕まり、罪を償って、考えを改めて欲しかった。
またいずれ、オルヴァがルシフェル家を自分のものにしようと襲ってくるかも知れない。
実の兄であるオルヴァと、そういう形で戦う事が無い様にと、ただ願う事しか出来ない。
「今は、そんな事よりも、セレスタが副都に戻ってくるって事の方が大事じゃない?」
「エレナの言う通りだな。早いとこ、副都に戻って、他の皆にも知らせようぜ!! 取り敢えず、セラ達と合流するか」
卓斗達は王都の郊外でオルダン騎士団と戦っていたセラ達の元へ向かうべく、準備をする。
「よし、後の事は任せていいんだよな?」
「うん。後は聖騎士団がやっておくよ。タクトくん達は、副都に戻るといいよ」
「あぁ、ディオスさんとミラさんも、ありがとな」
「タアくん、私達は聖騎士団で待ってるからね。入団したあかつきには、よろしくね」
カルナ、ディオス、ミラと別れを交わし、卓斗達は王都の外へと向かう。
――オルダン騎士団との戦闘を終えたA班も、セラの元へと集まっていた。
「もう、無茶し過ぎだよ、セラちゃん」
「ごめん……ミツハ……」
座り込むセラの背中に手を当てがい、治癒魔法を掛ける三葉。アカサキの治癒魔法も加わり、みるみるうちに傷は治癒していく。
「皆さん、今回はよく頑張りましたね。貴方達が居なければ、オルダン騎士団は王都に攻め込んでいました。私達は作戦を知っていたのにも関わらず、完全に対処しきれていませんでした。今回の件、感謝致します」
アカサキはそう言って、セラや悠利達に頭を下げた。アカサキの隣に並んで立っていた、他の聖騎士団のメンバーである、ジョン、イルビナ、ローグも、頭を下げる。
「いやいや、頭上げて下さい。正直、皆さんが来てくれなかったら、俺らもやばかったんで……」
「御子柴くんの言う通りだね。僕達は、完全にオルダン騎士団の人達を舐めていたよ」
この場に居る全員に気掛かりがあった。それは、イグニールとシナハを逃してしまった事。
「逃げた二人は、聖騎士団でも行方を追います。特に、イグニールさんは放置して置くには危険な人ですから」
「まぁ、アカサキが戦って取り逃がすって事はよ、相当な実力者だって事だ。逃しちまったのは仕方がねぇ事で、お前さん達が気に悩む事は無いぜ」
ジョンは、黒く焼け焦げた肌色のスキンヘッドの頭を手で撫りながら、笑顔で話した。
「では、隊長、捕らえたシェイドさんを、本部へと連れて行きますね」
「えぇ、ローグさん、お願いします」
ローグはシェイドを連れて王都へと戻っていく。すると、すれ違う様に卓斗達がその場に駆け付けた。
「皆!! 大丈夫だったか!!」
「卓斗!! セレスタちゃんが居るって事は……」
「あぁ!! 作戦は成功だ!! こっちも、皆大丈夫そうだな」
卓斗は辺りを見渡す。少し疲れた表情で座り込むレディカと、三葉に治癒魔法を掛けて貰っているセラも、問題は無さそうだ。
「おかえり……セレスタ」
「あぁ、ただいま。セラもレディカも相当無茶をした様だな。私の為に……すまない……」
「いいのよ、あんたは謝らなくても。その……仲間、を助けるのは……当たり前でしょ……」
「レディカの口から、仲間だなんて、珍しいのだけれど?」
セラが悪戯な笑みで、レディカを見つめて話した。レディカは顔を赤らめながら、
「うっさいわね。あんたの方が珍しいわよ。てか、前のあんたからは想像出来ないわね、今の光景」
「とにかく、俺達は無事オルダン騎士団に勝利して、セレスタちゃんも副都に戻ってくる。これで、皆で卒団出来るって訳だな」
悠利が話を纏めると、全員はやっと作戦が無事終了した事に安堵した。
「アカサキさん!! 皆を助けてくれて、ありがとう!!」
「いえいえ、私達は任務を全うしただけです。これらの功績は、タクトさん達の方が大きいですから。イグニールさん達を逃したのは、私の責任です。次は必ず、『鬼神』の肩書きに賭けて、仕留めてみせますからね」
――それから、卓斗達は副都へと戻り、全員でセレスタの帰りを祝福した。
全員が笑って、過ごせる日々もこの日が最後になる。そして、翌日。全員で揃って卒団の日を迎える。
教室に全員が座り、教卓の前にステファが立っている。オルドは後ろでそれを見守って居た。
「今日をもって、お前達は副都を卒団する。この半年間、色々とあったな。よくここまで頑張った!! これからは、それぞれの進路があると思うが、そこでも活躍を期待している。――卒団おめでとう!!」
卒団を終え、日本の卒業式の様に、副都の庭で別れを惜しむ卓斗達。このメンバーで笑って過ごす日は、恐らく二度と来ないであろう。
「聖騎士団に入団するのって、誰が居るんだ?」
「あんたと、私と、ミツハと、マユカと、セラと、レディカと、ユウリ達も入団するの?」
エレナが数えていき、ふと悠利の方へと視線を移す。すると、悠利は頭を掻きながら、
「いや、俺は入団しねぇかな……」
「は!? 何でだよ!?」
その言葉に、一番に驚いたのは卓斗だった。ずっとここまで、一緒にこの世界で過ごした幼馴染が、聖騎士団に入団しないと言った事が、考えられない。
「俺、思ったんだけどさ、日本に帰る方法を探すんだとしたら、別々で行動した方がいいと思うんだよな」
「それはそうかもしんねぇけど……!! ここに飛ばされてから直ぐに離れ離れになって、やっと再会出来たのにさ……」
「なに、また知らない所へ行くって訳じゃねぇよ。俺は、李衣ちゃんと恵ちゃんとジャパシスタ騎士団の所に行こうって思ってんだ」
悠利は、聖騎士団へ入団するのでは無く、ジャパシスタ騎士団の元へと入団するつもりでいた。
「え、李衣と恵も!?」
「うん。私は、戦闘とかに向かないし、聖騎士団に入団しても、役に立たないからね……でも、ジャパシスタ騎士団に入って、悠利くんと一緒に、日本に帰れる方法を探していくから」
「私は、どこでもいいんだけど、極力戦いたくは無いし……二人に付いて行こうって思って」
「ジャパシスタ騎士団なら、王都からも近いし、関係もある。何かあれば直ぐに会える距離だ。それに、俺も色々と調べたい事があるしな」
そんな会話を聞いていた蓮も、徐に口を開いて、
「僕も聖騎士団には入団しないかな」
「は!? 蓮も!?」
驚く卓斗だが、悠利と違って蓮の場合は納得も出来る。蓮も戦闘には向かないタイプだからだ。
「僕は、ちょっと興味のある国を見つけてさ。シルヴァルト帝国なんだけど、色々な科学を研究している所なんだ。僕はそこで過ごしている方が楽だし、もし日本に帰れる方法が見つかれば、呼んでくれたら直ぐに来るから」
「まじか……」
まさかの、悠利と蓮と副都を卒団して別れる事になるとは思ってもいなかった卓斗。
だが、それでも前とは状況が違う。場所が分かれば、会う事はいつだって可能だ。
「あー、俺もシルヴァルト帝国に行くんだけど。レンと一緒なんだ」
そう言って歩み寄って来たのは、ケイト・ホッジダムだ。赤髪のチャラい髪型で、襟足を指で常に触っている。
「えーっと、名前なんだっけ?」
「ケイトだ!! 忘れてんじゃねぇよ」
「わ、悪りぃ……」
今回の話では、ほぼ出番の無かったケイト。そんなケイトの名前を卓斗は覚えていなかった。
だが、それは仕方がないかも知れない。あまりにも出番が無さ過ぎて、誰かと会話をしている所も見た事が無い。
つまり、これからの彼の活躍が期待される。
「俺も聖騎士団には行かねぇ!!」
次に聖騎士団への入団を示さない者が、大きな声でそう言葉にした。――否、マクス・ルードだ。
「お前も行かねぇんだ」
「おうよ!! 俺は、気ままにこの世界を旅する!!」
「ふむ、マクスも聖騎士団には行かぬのだな。我もだ」
少しの間を空けると卓斗は、視線をその人物から逸らして、
「あ、オッジさんとレフェリカはどうすんだ?」
「あぁ、わしは聖騎士団に入団希望だ」
「私もかな」
「何故、我を無視する!! 今日でしばらく会えないと言うのに、寂しいでは無いか!!」
そう言って、怒りを露わにしているのは、オルフ・スタンディードだ。結局、最後まで剣技、魔法と最下位だった男だ。
「あー、はいはい。んで、お前はどこ行くんだ?」
「ふむ、我は魔法を極めようと思っていてな。サウディグラ帝国へ行こうと思っている」
「サウディグラ帝国……フィトスの居る国か。まぁ、頑張れよ」
流石のオルフも、何も言葉が出ないまま、寂しそうな表情をしていた。
ともかく、卓斗達の半年間にも及ぶ副都での生活が終わった。そして、それぞれが新たに、この世界を見て行く。
これから巻き起こる、怒涛の物語を知る由もなく――。
これにて第二章は終了です!!
長くなったのか、短いのか分からないですが
ここまで読んで下さって有難う御座います!!
特別話を一話挟んで、第三章に入る予定です!!
第三章も是非読んで下さい!!
よろしくお願いします!!




