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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第67話 『それぞれの決着』


「――悪人は私が成敗します!!」


 そう言葉にして、強い眼差しでシェイドに睨みを利かせるのは、聖騎士団第二部隊副隊長のイルビナ・イリアーナだ。

 だが、そのイルビナのおでこからは痛々しい傷と血が垂れていた。――否、土下座をして頭を地面に打ち付けた後だ。


「ちょっと姉ちゃん? 格好良く決め台詞を言ってる所悪いんだけどさ……おでこからの血くらい拭ったらどう? それ自分で付けちゃった傷だし……」


「は、はい!! そうですね、そうですよね!! すみませんでした!!」


 イルビナはせかせかと騎士服の袖でおでこから垂れる血を拭う。そして、一息つくと、


「ふぅ……では、悪人は私が成敗しましゅ……!!」


「あ、噛んだ」


「か、噛んでないです!! 決して噛んでないです!! 成敗します!! 成敗します!! ほら、ちゃんと言えましたよ!?」


 イルビナは瞳をウルウルさせて悠利へ必死に話をする。そんな緊張感が全く無いイルビナに対して、シェイドは呆れていた。


「お嬢さん、少しは落ち着いたらどうかな? 先程から、お嬢さんの慌ててる光景してか見ていないが……」


「はひぃ!? す、すみません!! 敵さんに対しても迷惑を掛けてしまうなんて……!! ドジですみません……」


 肩を落として、悲しみに暮れるイルビナに、流石の悠利もどうしていいのか分からないで居た。


「騒がしい姉ちゃんだな……」


「姉ちゃんだなんて、とんでもないです!! 私はまだ十五歳ですから!!」


「十五歳!?」


 悠利は目を丸くして驚いた。何より驚いたのは、十五歳にして聖騎士団の副隊長を務めている事だった。


「姉ちゃん……じゃなくて、イルビナちゃんって十五歳で副隊長なのか!?」


「はいっ!! そうです!! こう見えても私、しっかりと強いんですよ?」



「――なら、その実力を見せて貰おうか」


 突然、イルビナの背後からシェイドが詰め寄り、剣を振りかざした。


「不意打ち!?」


 イルビナもとっさに剣を抜いて、シェイドの剣を受け止める。金属音が鳴り響き、今の状態に悠利が叫んだ。


「イルビナちゃん!! 気を付けろ!! 爆発する!!」


「え!?」


「もう遅い」


 シェイドの剣は白く光り出し爆発する。イルビナは吹き飛んでいき、地面を勢い良く転がる。だが、


「な……に……?」


 シェイドの体には、まるで爆発を受けたとしか思えない傷が付いていた。

 シェイドの爆発は、自らにダメージは無い筈。それなのに、確かにシェイドの全身には爆発によるダメージがあった。


「えへへ。これが私の実力ですよ!!」


 体勢を整えて立ち上がったイルビナが、誇らしげな表情を見せていた。そのイルビナも全身には爆発による傷が付いていた。


「どういう仕掛けだ……?」


「それは自分で見つけて下さい!!」


 イルビナはシェイドの方へと走り出す。剣を振りかざすと、シェイドはそれを剣で受け止める。


「もう爆発はさせないんですか?」


「仕掛けが分からない以上……無闇にやる訳にはいかないからな……」


 シェイドはイルビナの剣を振り払うと、すかさず右足で蹴りを繰り出す。

 イルビナは、左腕でそれを防ぐとシェイドの腹部に向けて、剣を突き刺す。

 シェイドの腹部に刺さる寸前に、剣を爆発させてイルビナを吹き飛ばす。だが、またしてもシェイドの体には爆発による傷が付いていた。


「ぐっ……!! 何故だ……」


「ハァ……ハァ……どうですか……? 私の実力……!!」


 そう言うものの、イルビナへのダメージも大きく、立っているのも辛そうにしていた。


「だが、お嬢さんもいつまでも保つ訳が無い……」


「えへへ……甘いですよ……」


 イルビナは自分の胸に手を当てがうと、治癒魔法を掛ける。体にあった傷が治癒していく。


「成る程……それは都合のいい能力だな……」


「さぁ!! 悪人は私が成敗しますよ!!」


 戦っている時のイルビナの、勇敢で逞しい姿にギャップを感じる悠利。

 金髪で毛先にいくにつれて緑色になっている髪を靡かせ、マントが付いた聖騎士団の騎士服を見に纏い、強い眼差しでシェイドを睨むイルビナ。

 その姿は、先程までの慌ただしかったイルビナからは全く想像出来ない。


「どんな攻撃でも受け付けます!!」


「そうか……どうやら、私がお嬢さんに勝つ事は出来ない様だな……聖騎士団にこれ程の者が居るとは知らなかった……だが、引き分ける事は出来る……」


 シェイドはそう言うと、剣を白く光らせる。それは、今までより強く光り、耳鳴りの様な激しい高音が鳴り響く。


「なかなか、テラを込めた魔法ですね……!! バッチコイです!!」


「ならば、遠慮無く……」


 シェイドが剣先をイルビナの方へと向ける。――その瞬間、白い光の斬撃がイルビナを襲う。

 そして、イルビナに白い光の斬撃が当たる寸前、悠利がイルビナの元へと走り出し、抱き締めながら二人は地面を転がる。

 その後ろでは、白い光の斬撃が大爆発を起こしていた。爆風により、転がるスピードが上がる。やがて、転がるのが止まると、



「――馬鹿かイルビナちゃんわ!!」


「はひぃ!?」


 悠利は仰向けで寝転がるイルビナの上に跨る様な体勢で、檄を飛ばした。

 イルビナは、何故悠利に怒られているのか分からないでいる。


「今の魔法喰らってたら、死んでたぞ!! 何考えてんだよ!!」


「え、いや、その……私の、能力があれば……」


「関係ねぇだろ、馬鹿!! どんな能力か知らねぇけどな、相手が一撃で死ぬレベルの魔法をしてたらどうすんだ!? そんなのイルビナちゃんも死んじまうに決まってんだろ!? それに、イルビナちゃんの戦い方は嫌いだ」


 目に涙を浮かべながら、激昂する悠利を見つめるイルビナ。それに、床ドン状態に若干顔を赤らめている。


「自分の体も大事にしない様な戦い方は嫌いだ!!」


「ですが……この能力が無いと……私は……」


「勝てないって言うんだったら、勝てる様に工夫しろよ。相手の魔法を見極めて、能力を使え。死んでしまったら、勝てる戦いでも勝てねぇだろ」


「あの……まず、退いて下さい……!!」


 床ドン状態に耐えられなくなったイルビナが、顔を真っ赤に火照らせてそう言葉にした。


「あ、悪りぃ」


 床ドン状態を何も気にしていない悠利は罪な男だ。イルビナが照れている事にも気付いていない。


「それで、イルビナちゃんの能力って何なんだ? それを知った上で、一緒に戦おう。勝てる戦い方で」


「はい……!! 私の能力は、鏡です。対象者を決めれば、まるで鏡で映したかの様に、自分へのダメージを対象者にも共有させる事が出来ます」


「共有……つまり、今のイルビナちゃんがダメージを負えば、対象者であるシェイドにもダメージが共有される、って事か?」


「そうです!!」


 ある意味、厄介な能力だ。どれ程自分の方が強かったとしても、与えたダメージと同じダメージを自分も負ってしまう。

 つまり、イルビナが死ねば対象者も死ぬという事だ。


「ある意味、怖い能力だな……それ。それで、治癒魔法も使える点は有利に立てるって事か。でも、さっきの魔法は喰らってたら死んでたぞ。見極めは大事だ。自分もダメージを負って相手にもダメージを与える能力ってのは、俺は好きじゃねぇけど、上手く利用すればこの戦いは勝てる……」


「どう戦うんですか? なんなりと私を使って下さいね!!」


「あー、それが三十幾つのおっさんで、屈強な見た目だったら、すんなりオーケーするんだけどな……まぁ、仕方ねぇか。イルビナちゃん、聖騎士団の上からは何て言われてる? オルダン騎士団の人らを殺す様に言われたか? それとも拘束するとか」


 その答えによっては戦い方も変わってくる。殺す方の命令だと、悠利も少し躊躇ってはしまうが。


「そうですね。少なくとも一人は捕らえる様にと言われました!!」


「一人は捕らえる……まぁまずイグニールは無理だとして、ゲオって人はさっき見てたけど、レディカちゃんが消しちゃったしな……繭歌ちゃんの戦ってる子かシェイドを捕らえるしか無いか……一応、保険を掛けてシェイドは捕らえるか……イルビナちゃん、シェイドを捕らえる様に戦おう」


「捕らえるんですね!! 分かりました!! それで、どの様に戦いますか?」


「そうだな……イルビナちゃんには申し訳無いけど、今から作戦を話す」




 ――その頃、繭歌とシナハの戦闘場所には聖騎士団第二部隊隊長のジョン・マルクスがシナハに睨みを利かせていた。


「シナハ・サクラス。この不利な状況でも表情一つ変えないか。大した女だぜ」


「お前、聖騎士団の隊長? シナハと戦う?」


「あぁそうだな。悪いがお前は連行させて貰う。そして、罪を償い、考えを改め、聖騎士団に入団させる」


「シナハが聖騎士団に入団? あり得ない」


 シナハは地面を勢い良く蹴り、ジョンの元へと走り出す。ジョンも剣を横に振りかざすが、シナハはしなやかにしゃがんで避けると、ジョンの顔めがけ剣を突き刺す。


「おっと、危ねぇ!!」


 ジョンは顔を横にずらして避けると、隙の出来たシナハの横腹に剣を再び横に振りかざす。――すると、


「ほう、氷のテラか」


 ジョンの剣がシナハの体を捉える寸前、桃色の氷がそれを防いでいた。


「お前、弱い? 強い?」


「俺は強ぇぞ!!」


「あっそ」


 シナハがジョンの胸に手を当てがうと、桃色の氷がジョンを上空へと突き飛ばしていく。

 そしてすかさず手を翳すと、ジョンの背後に氷の槍を作る。


「空中では身動きが取れないと思ってるか? 甘いなぁ!!」


 ジョンが両手を合わせると、自らの背後に土の土台を作る。そこに両足を当てて、一気に蹴りシナハの元へと近付く。


「華奢なお前じゃ俺の力は抑えられねぇぞ!!」


 ジョンは剣に土を纏わせ、大剣の形を作りシナハに斬りかかる。だが、シナハはその華奢な体で簡単に剣で防ぐ。


「華奢なシナハが抑えてる。だから、お前は力が弱い」


「言ってくれるなぁ……なら、これならどうだ?」


 すると突然、土の塀を作り出しシナハを閉じ込める。そして、だんだんと土の塀は狭まっていく。


「このまま圧迫させてやるぜ!!」


 その瞬間、土の塀はいきなり崩れ、中から氷の鎧を纏わせたシナハが悠々と立っていた。

 その姿はまるで鬼の様にも見えた。シナハの周りの空気はドッと下がり、息を吐くと白い吐息が漏れる。


「何だ? その姿は……」


「これはシナハの最大の防御。割れる事も溶ける事も絶対に無い」


 そしてシナハが手を翳すと、地面から無数の氷の棘が生え始めジョンに襲いかかる。

 ジョンは無数の氷の棘から逃げる様に後ろに下がっていく。


「チッ、面倒だなこりゃ……!!」


 ジョンが右に左に避けていくが、無数に生える氷の棘は追いかける様にジョンに襲いかかるのをやめない。

 そして、それを見ていた繭歌はある事に気付いた。


「この流れ……まさか!! ジョンさん!! そのままじゃ危ない!!」


「はぁ!?」


 すると、後ろに下がりながら避けていたジョンが地面に足をつけた時、水溜りを踏んだ音が聞こえる。――その瞬間、



「なっ!?」


 ジョンの足を透明の氷が凍り漬けにしていた。身動きが取れなくなったジョンにどんどんと、無数の氷の棘が近付く。


「くそったれが!!」


 ジョンは土を纏わせた大剣を地面に刺すと、広範囲に地面が割れ始め、迫っていた無数の氷の棘の動きが鈍る。

 その隙を突いて、凍っている足の部分の地面を切り抜き、足に氷をくっつけたまま空高くジャンプする。

 そして、土の土台を作ってその場に乗り、ふわふわと空中に浮いている。


「この氷、かなり硬いな……この俺が押されてるとは……」


「さっきの流れ、これも君の計算の内なんでしょ? ジョンさんの足を凍らせた氷は僕の溶けた氷を使った。本当、どう計算すればその場所まで誘導出来るんだろうね」


 繭歌はそう言ってシナハを見つめる。シナハは氷の鎧を消すと、ジト目で繭歌を見つめ返す。


「馬鹿は誘導されやすい。ただそれだけ」


 苛立ちと同時に恐怖を感じる繭歌。シナハの計算もそうだが、魔法のレベル、剣技のレベルも十分に強い。

 それは、この場に駆け付けたジョンも同じ事を思っていた。最初から一筋縄ではいかないと思ってはいたが、正直ここまでとは思っていなかった。


「こりゃ長期戦になるか……」




 ――シェイドと対峙中の悠利、イルビナ。イルビナは悠利からシェイドを捕らえる為の作戦を聞いていた。


「成る程、それが作戦なんですね? でも、私に上手く出来るでしょうか……私、ドジだから……」


「大丈夫だよ。言った通りにしてくれりゃ、成功するから。俺を信じて、イルビナちゃん」


 すると、その様子を見ていたシェイドが、


「何をこそこそしている?」


「待たせたな。悪りぃけど、あんたには色々と聞かなきゃならねぇ事があるからさ、捕らえさせて貰うわ。――よし!! イルビナちゃん!! 行くぞ!!」


「はいっ!!」


 悠利とイルビナはシェイドの元へと走り出す。何か仕掛けて来ると警戒するシェイドは、剣を構える。――その瞬間、



「ぶべぇ!?」


 イルビナが足を躓き、盛大に転けていた。シェイドも思わず呆気に取られてしまう。


「イルビナちゃん!?」


 悠利も足を止め、転けたイルビナの方へと視線を移す。イルビナは背を向け状態のまま動かない。

 スカートは捲れ、可愛らしい水色と白色のシマシマ模様のパンツが露わになっている。


「何やってんだよ……作戦実行しようと今から勢いに乗る所だったじゃんか!!」


 イルビナは上体を起こすと、鼻血を垂らしながら涙目になっていた。そして、シェイドの鼻からも血が垂れていた。


「ずびまぜん……」


「すみませんじゃねぇよ!! あーもう!! どんだけドジなんだよ、面倒臭ぇな!!」


「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか!! 大体、私はユウリさんの作戦が上手くいくとは思ってませんから、フン!!」


 イルビナはその場にあぐらをかいて座り、頬を膨らませてそう言葉にした。


「何だよ、逆ギレかよ!! 俺の作戦にケチ付けるってのか!?」


「そうですよ、逆ギレですよ!! ユウリさんの作戦にケチ付けますよ!!」


 二人は顔を真っ赤にさせて、激昂し合う。その様子を見ていたシェイドは、


「おい……喧嘩なら後に……」



「――ちょっと、黙ってて!!」


 悠利は一瞬シェイドの方を見やり、そう言うとすぐさまイルビナの方へと視線を移す。シェイドも、思わず黙ってしまう。


「大体、助けに駆け付けたのによ、足引っ張ってどうすんだよ!! 良くお前みたいなのが副隊長になれたな!!」


「今それは関係無いじゃ無いですか!! 一つ言って置きますけど、ユウリさんじゃ絶対に副隊長まで上がれないですから!!」


「はぁ!? お前で副隊長になれんだから、俺なら隊長までいけちゃうな!! 聖騎士団って案外簡単なんだな!!」



「――――」


 罵り合う二人に呆れるシェイド。それでも二人の痴話喧嘩は止まらない。


「簡単ってどういう事ですか!? 聖騎士団を舐めてるんですか!? 大体、私達が駆け付け無かったらユウリさん達は危なかったかも知れないんですよ!? 感謝して欲しいくらいですね、本当!!」


「感謝だ!? だったら、他の場所に行った聖騎士団の人達に感謝するよ!! だけどお前には絶対の絶対にしねぇ!!」


「はひぃ!? もうムカつきました!! 変態!! チャラそうな人!! あんぽんたん!!」


「チャラそうは認めるけど……変態はお前に言われる筋合いはねぇよ!! お前の方が変態だ!! ドM能力なんか使えねぇよ!! それに、あんぽんたんって何だよ。古ぃんだよ!!」


 息を切らしながら二人は言い合いを止めない。シェイドの事など忘れたかの様に。


「貴方みたいな人が、この世界に居るなんて思って無かったです!! 外道!! 悪人!!」


 イルビナは悠利の目の前まで歩み寄ると、頭部に強烈なチョップをお見舞いした。


「痛ぇ!? てか、何でチョップ何だよ!! 普通ビンタだろ!! 大体の男と女の喧嘩は女がビンタすんだよ!!」


 そう言うと、悠利もイルビナの頭部にチョップをお見舞いする。だが、女の子という事もあって若干優しくチョップした。


「あたっ!? 女の子に手を出すなんて酷い!! 最低!!」


 イルビナが頭部にチョップを喰らった瞬間、シェイドも頭部に違和感を感じ、頭を掻いていた。


「倍返しですよ!!」


 イルビナは先程よりも強い力で悠利の頭部にチョップを繰り出した。まるで、フライパンで頭を叩かれたかの様な痛みに、悠利は悶えた。


「ぐおぉぉ……痛ぇ……!! お前の手はどうなってんだよ!! 硬すぎんだよ!! ずりぃだろ!! 馬鹿!!」


 悠利もすかさずチョップを仕返す。すると、イルビナも頬を膨らませながらチョップを仕返す。

 二人は交互にチョップを何発も何発もお見舞いした。その度にシェイドの頭部にも違和感があり、困惑している。


「だぁもう!! うぜぇ!! もう仲間割れしてやるよ!! てか元々仲間じゃねぇしな!!」


 そう言うと悠利はイルビナの両肩に手を置く。――その瞬間、悠利の手から雷が放出し、イルビナは倒れ込む。


「うぅ……ユウリさん……」


「少し我慢してくれ、イルビナちゃん」


 イルビナの体は麻痺して動けないでいる。そして、悠利は勝ち誇った顔で後ろを振り返る。


「ま、まさか……最初から……これが目的だった……のか?」


 イルビナと同じ様にシェイドも、体が麻痺して動けないで居た。そして、シェイドは悟った。

 二人の痴話喧嘩はこの為の作戦だった事に。


「悪いな、あんたは捕らえさせて貰う」


 悠利はイルビナの腰袋からロープを取り出すと、シェイドを縛る。そして、イルビナの元に駆け付け、


「すぐに解放するから」


 悠利がイルビナの体に触れると、全身の痺れが無くなっていき、イルビナは立ち上がる。


「ふぅ……緊張しました……私、上手く出来てました?」


「あぁ、上出来だ。しっかりムカついたから、相当な女優だよ」


「はひぃ!? ムカつかせてしまいました!? す、すみません!! 後、ジョユウ? って何ですか?」


「簡単に言ったら、演技が上手い人の事だよ」


 悠利はイルビナに笑顔を見せる。その笑顔を見たイルビナも笑顔を返した。そして、悠利はイルビナに優しくチョップをした。




 ――冷たい気温に、白い吐息を吐く繭歌とシナハが睨み合っている。その上空ではジョンが土の土台に乗り、ふわふわと浮いて居た。


 すると、シナハが突然目を瞑り意識を研ぎ澄ませている。何かを仕掛けて来るのかと、繭歌とジョンは警戒するが、



「――ゲオが死んで、シェイドが捕まった。流石にもう任務失敗」


 シナハがそう言葉を零すと、剣を鞘にしまい。どこかへ走り出す。繭歌はそれを止めようとするが、


「どこに行くんだい?」


「ごめん、帰る」


 シナハが手を振りかざすと、大きな桃色の氷の壁を作り、繭歌とジョンの追撃を防ぐ。


「逃げられちゃったけど、いいの?」


「あぁ、良くは無いが、仕方ねぇ。無理に追う必要はねぇさ。どうやら、うちの副隊長が一人捕らえたみたいだからな」


 シナハはその場から走り去り、ある人物の元に向かった。それは、セラ、アカサキと対峙しているイグニールだ。


 イグニールの不可解な能力に、戸惑うアカサキとセラの前にシナハが駆け付ける。


「イグニール!!」


「あぁ? シナハじゃねぇか。オメェ自分の持ち場はどうした?」


「ゲオが死んでシェイドが捕まった。これは任務失敗。イグニール、帰るよ」


 シナハにそう言われるが、すぐに納得出来ないのがこの男、イグニール・ランヴェルだ。


「あぁ!? ふざけんじゃねぇよ!! この俺が逃げるだ? オメェぶっ殺すぞ」


「流石に二人で聖騎士団は相手に出来ない。これは、計算外。逃げるが最善。また出直せばいい。」


「オメェよ、俺の言葉が分からなかったのか? 逃げるなんてふざけんなってんだよ。この俺が負ける訳ねぇだろ」


 シナハは黙ったまま、ジト目でイグニールを見つめる。その無言の圧力にイグニールは、


「チッ、分かったよ。こうなったオメェは何がなんでも折れねぇからな。丁度ストックも無くなったし、今回だけだぞ」


「いい子、イグニール」


「ハッ、ガキが粋がんな。――つう訳でよ、オメェらとの戦いは保留だ。次はその首、ぶっ飛ばしてやるから待ってろよ、第一部隊隊長」


 イグニールは剣を鞘にしまい、アカサキとセラを睨んでシナハと共に、歩き出す。



「――逃げるの……イグニール……!!」


 セラがそう叫ぶと、イグニールは足を止めて振り向き、


「正直、オメェの魔法には驚いちまった。俺よりは弱ぇが、強くなったんだな。次に決着付けようや」


 そう言って、歩き出しながら手を振る。シナハとイグニールの背中をアカサキは黙って見つめていた。


「ここで決着を付けて置きたかったですが、仕方ありませんね。彼とはまた戦う事になりそうですね」


「あの……アカサキさん……助けてくれて、ありがとう……」


「後は、タクトさん達に任せましょう」



 ――セレスタ救出作戦、オルダン騎士団の足止めを担当するA班の、激しい戦闘はようやく、決着した。





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