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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第66話 『不可解な能力』


 オルダン騎士団と戦闘中だった副都A班。そこに、聖騎士団が駆けつけ、戦闘は佳境へと入る。

 オルダン騎士団副団長のゲオ・ウェインと戦闘を行なっていた三葉とレディカの元に、聖騎士団第一部隊の副隊長ローグ・ディエスタが駆けつけゲオと睨み合っていた。


「貴方がオルダン騎士団副団長のゲオさんですね? ここからは、僕がお相手します」


「聖騎士団か。元々はお前達と戦う予定だったからな。丁度いい」


 すると、ゲオはいきなり不可視の矢をローグに向けて放つ。不可視の矢は、軌道を変えてローグの体を捉えようとする。その瞬間――、



「――っ!?」


 ローグは不可視の矢を剣で弾いた。まるで見えているかの様に。その事が、ゲオには理解出来なかった。


「この矢は俺以外には見えない筈……お前、何をした?」


「答えは簡単ですよ。僕には不可視の矢がどこから来るのかが分かる。貴方達、オルダン騎士団のメンバーの情報は知っていますから。だから、僕が貴方の元へと駆けつけた」


「成る程、俺と相性のいいお前がここに来た訳か」


 ゲオと相性の良いローグ。だからこそ、ゲオと戦闘する三葉とレディカの元に駆けつけた。


「だが、お前は俺の不可視の矢が見えている、と答えなかったな。つまり、お前の仕掛けは矢がどの方向から来るか、しか分からない。それだけで俺に勝ち誇っているのなら、お前は俺に勝てない」


「さぁ、どうでしょうね。戦いの勝ち負けは、やってみないと分かりませんから」


「なら、試してみるか?」


 ゲオは再び不可視の矢を放つ。不可視の矢がローグに当たる寸前、ローグはその方向に剣を振り、矢を弾く。


「成る程、そういう事か」


 そう言葉にしたゲオは再び不可視の矢を放った。ローグもすかさず、矢が刺さる瞬間に剣を振り、矢を弾く。だが、


「ぐっ……!!」


 剣を振った反対方向のローグの脚に矢が刺さる。だが、ローグはゲオが矢を二本放っていたのを分かっていた。

 それは、ローグが不可視の矢を確認できる仕掛けにあった。


「やはりな。お前の仕掛けは分かったぞ」


「そうですか……ぐっ……!!」


 ローグは刺さった矢を抜くと、溜め息を一つ吐いて、ゲオを見つめる。


「お前の仕掛けは、体の周りに常にテラを放出し、矢がそのテラに触れた瞬間に確認が出来る。つまり、さっきのは片方の矢に反応し弾いたが、もう一本の矢の反応に間に合わなかった、という事だ」


「ご名答、ですね。でも、どんな物にも傾向と対策はあります。僕に、二度目は無いですよ?」


「傾向と対策か。ならば、これならどう対処する?」


 ゲオがローグの方へと掌を翳すと、ローグを囲む様に円形に矢が現れる。まるで、矢で出来た小さなドームの様だ。

 そして、その全ての矢の先はローグに向いている。


「少し、遊んでやるか」


 ゲオがそう言うと、ドーム状に形を作る矢が一本ローグに向かって放たれる。

 その矢は不可視の矢では無く、普通のテラで作った矢の為、ローグは簡単に剣で弾く。


「成る程、そういう事ですか」


 ローグが放たれた矢の部分に視線を向けると、新たな矢が出現していた。

 常に隙間を作る事無く、放たれた矢の部分には次々に新たな矢が出現する。これが、ドーム状に形を作る矢の仕掛けだ。


「これは少し、面倒ですね……」


「さて、しばらく傍観するとするか」


 すると、矢は一本ずつ次々にローグに向かって放たれる。ローグは剣で弾いたり、避けたりしながら対処するが、放たれる矢は止まる事無く、連射してローグに襲いかかる。


「フハハハ!! 実にいい光景だ。いつまで保つかな?」


「この矢、防御魔法の対策で風を纏ってる……防御魔法は使わせないって事ですか……!!」


 弾いて地面に落ちた矢や、地面に刺さった矢は、溶ける様にテラへと変わり、再びドーム状に並ぶ矢の元へと戻っていく。

 まさしくそれは、無限ループだ。ローグもいつまでも避けたり弾いたり出来る訳も無く、矢は体を擦り徐々にローグの体を矢が捉え始める。



「――副隊長さん!!」


 腕の傷の治癒を終えた三葉が、心配そうな表情を浮かべて、ローグに声を掛けた。


「来ちゃ駄目だ!! 君まで巻き添えになる!!」


「でも……!!」


 常に体を動かしているローグも、体力の限界が近付き始める。何も出来ないで居る三葉にゲオが、


「お前も見ているといい。この男が、自分の体力の限界を迎え、無数の矢の餌食になる所を」


 だが、そんなゲオの言葉は三葉の耳には入っていない。ただ自分に何が出来るのか考えていた。

 しばらくすると、ゲオの表情はつまらなさそうにしていた。ローグの体にも何本か矢が刺さり、三葉もどうしていいのか未だに分からない。


「見飽きたな。そろそろ終わらせるか」


 ゲオが翳していた掌を握り締めると、ドーム状に並んでいた矢が全て同時にローグへと降り注ぐ。



「――っ!!」


「副隊長さん!!」



 ――だが、次の瞬間、全ての矢の形が崩れどんどんとある方向へ吸い寄せられる様に、ふわふわと流れる。


「ハァ……ハァ……何だ?」


 ローグも訳が分からないまま、ゲオのテラが流れていく方向に視線を向けると、



「――お待たせ、ミツハ」


「レディカ……ちゃん?」


 そこには、自身の最大の魔法を使う為に、ずっと集中していたレディカが、ようやく準備を整えて三葉に笑顔を見せていた。

 何より三葉が驚いたのは、レディカの背には、蝶々の羽の様な美しく、綺麗な水色のテラの羽が生えていた。

 そして、辺りの自然テラやゲオの作ったテラの矢は、レディカのテラの羽へと吸い込まれていく。

 ゲオも目を丸めて、驚きながらレディカを見つめていた。ローグも同じく、その美しい光景に、目を奪われた。


「後は私がやるから、ミツハは離れてて。後、そこの聖騎士団の人も」


「君……本当に副都に通ってる子なのか……?」


 ローグは驚きが隠せない。その神々しくも美しい姿の上、橙色の髪色のツインテールを靡かせ、まだ十七歳という若さの顔付きのギャップに、ただただ圧倒されていた。


「見た事も無い魔法だな。お前は何者だ?」


「私? 私は副都に通う普通の女の子よ。ただ少しだけ他者に負けたく無いって気持ちが強い女の子」


 レディカの毅然とした態度に、ゲオは恐怖すら感じていた。先程のレディカとはまるで別人の様なオーラを放ち、思わず気圧される。


「それが、お前の最後の手段という奴か。それが失敗すれば、お前の負けは確実だ。聖騎士団の奴も、そこの治癒魔法を使う奴も、俺には勝てないからな」


「失敗すれば? 悪いけど、この状態の私はセラより強いって自信しか無いから」


「セラより強い? 笑わせる」


 ゲオはレディカに矢を放とうと、テラで矢を作るが、その瞬間に矢は弾けて形を失い、レディカのテラの羽へと吸い込まれていく。


「フフ、驚いてるでしょ? この状態の私の、半径十メートル以内の空間にあるテラは、全て私の羽が吸収し続けてる。勿論、魔法も防御魔法も神器さえも、作り出す事は出来ないわ」


「ハッタリでは無さそうだな」


 ゲオが防御魔法を出すと、バリアは先程の矢と同じく、形を失いレディカの羽へと吸い込まれていく。


「私のこの能力も、結構チートでしょ? 貴方の不可視の矢よりチートだと思うわ。まぁ、発動するのに結構な時間が必要だから、誰かが居て時間を稼いでくれないと使えないけどね」


 そう言ってレディカはゲオの方へと手を翳す。すると、青白いテラが渦巻く様に掌に集まり出す。


「実戦では初めて使うから、加減は出来ないからごめんね?」



「――っ!?」


 レディカはそのまま、掌に集まった青白いテラを放つ。レーザービームの様に、一直線にゲオの左肩を貫通していく。


「矢より痛いでしょ? 肉や骨を一瞬にして焼いて貫通させてるからね。無理も無いわ」


 ゲオはレーザービームが貫通した部分に焼ける様な痛みに襲われる。左手の感覚も無くなり、指を動かす事すら出来ない。


 そして、レディカは追い討ちを掛ける様に、両手を翳すと先程よりも大きく、青白いテラが渦巻いて集まり出す。


「この俺が……お前如きに……」


「そろそろ限界だから、終わりにするわね」


 レディカはそう言うと、一気に青白いテラを解き放つ。人のサイズなど丸呑みにする程の大きなレーザービームがゲオに直撃する。



「――ぐっ!!」


 全身が焼ける感覚、皮膚が溶けていく感覚、骨が粉々に砕けていく感覚、ここまで来ると痛いという感覚すら無い。

 今までの思い出が一気に走馬灯の様に脳裏に巡る。遠退く視界、徐々にゲオの見る世界は、白く染まっていく。


 青白い大きなテラのレーザービームは、地平線の彼方まで伸びると徐々に消えていく。

 地面はレーザービームの軌道に沿って、半円の形に抉れ、ゲオの姿は跡形も無く消えていた。


「凄い……」


 それを見ていた三葉とローグは、ただただ呆然としていた。そして、レディカの背中に生えていた大きなテラの羽も消えていくと、レディカはその場に座り込んでしまう。


「レディカちゃん!!」


 三葉が走って駆け付けると、レディカは笑顔を見せる。だが、その表情は酷く疲れ果てていた。


「ミツハ……ごめんね、ちょっと疲れた……」


「ううん、ゆっくり休んで? 私はセラちゃんの所に行って来る」


「そうね……イグニールと戦ってるセラを優先的に助けた方が良さそうね……ミツハ、行ってあげて。私はここで少し休憩しとくから……」


 三葉は気休めにと、治癒魔法をレディカに掛けてセラの元へと走り出す。すると、座り込むレディカの隣にローグも座り、


「君には本当に驚かされたよ。応援に駆け付けに来た筈なのに、俺は何も出来なかった。まだまだ未熟だな……君が、レディカちゃんなんだね。流石、うちの隊長が欲しがってた訳だ」


「確か、ローグさんは第一部隊の副隊長ですよね? て事は、隊長って……」


「そう、アカサキだよ。君とセラちゃんを第一部隊に欲しいってずっと言ってたからさ。もう言ってしまうけど、レディカちゃんとセラちゃんは、副都を卒団したら聖騎士団の第一部隊に配属が決まってるんだ。楽しみに待ってるから」


 ローグはそう言って、レディカに笑顔を見せた。あれ程、仲が悪かったセラと聖騎士団に入団してからも一緒になる事を知ったレディカは、少し嬉しく感じていた。

 たまに喧嘩もするが、今では二人で食事をしたり、お風呂に入ったりと、仲は良くなっている。


「ローグさんも、早くセラの元に行ってあげて下さい。イグニールは、かなり危険って皆が言ってたから」


「いや、大丈夫だよ。セラちゃんの元には、隊長が向かったから」




 ――傷だらけで騎士服も破れ、肩やお腹の部分が露出し、スカートも酷く破れ太ももが露わになり、結んでいた髪も解け、いつもポニーテールのセラは肩上までの長さのストレートヘアになっている。

 虚ろな目で見つめる先には、イグニールと名乗る謎の青年と聖騎士団第一部隊隊長アカサキが睨み合っている。


「セラさんが戦っていたのはイグニールさんだと聞いていましたが、貴方は一体誰なんでしょうか」


「だからさっきも僕は言った筈。僕はイグニール・ランヴェルだと」


「私も深くはイグニールさんの事を知りませんが、少なくともその様な見た目では無かった筈です」


 アカサキもイグニールの姿が、自分の知っているイグニールと違う事に、疑問を抱いていた。


「まさか、複数存在するという事でしょうか」


「そんなまさか。イグニールはただ一人、僕だけだ!!」


 イグニールと名乗る青年は、アカサキの元へと走り出す。剣を一気に横に振りかざすと、アカサキは半歩後ろへと下り、青年の胸に手を当てがう。

 すると、アカサキの掌から炎と風が吹き出し、青年を燃やしながら吹き飛ばす。


「ぐっ!?」


 勢い良く地面を転がると、服に引火した火が消える。そして、青年の体には痛々しい火傷の跡が付いていた。


「火と風のテラ……二属性とは珍しい」


「お言葉ですが、私は二属性ではありません。――全属性ですよ。勿論、基本属性だけですが」


 そう言葉にしたアカサキが、手をお腹の前に出して掌を上に向けると、七つのテラで作った掌サイズの球を作る。

 それは、テラを高回転させ球体の形へと圧縮し留め、アカサキの掌の上でふわふわと浮いている。


「全属性だと……!?」


「えぇ、そうです」


 すると、七つのテラの球体に一つずつそれぞれの属性が加わる。火、水、土、風、雷、光、闇、それぞれのテラが球体に纏う。

 七つのテラの球体はアカサキの掌の空中でクルクルと回り始め、虹色に輝き出す。


「流石は、聖騎士団で二番目に強いとされる騎士だな」


「そう言って頂けて光栄ですね」


 アカサキが掌を青年に向けると、七つのテラの球体は一球ずつ青年の方へと飛んでいく。

 青年をまず襲ったのは、火を纏うテラの球体だ。体を半歩移動させて避けると、次に飛んできた水を纏う球体を剣で弾く。


「――っ!!」


 だが、避けた火を纏う球体と弾いた水を纏う球体は、軌道を変えて、背後と横側から青年を襲う。

 そして、前方には土を纏う球体と風を纏う球体、雷を纏う球体が迫る。

 青年も負け時と、剣に赤黒い雷を纏わせ様とするが、上空から落下する様に迫っていた、闇を纏う球体が綺麗な紫色の光を放つ。


「ぐっ……体が……」


 紫色の光を浴びた青年の体は、ガチガチに固まった様な感覚に襲われていた。

 闇のテラの呪縛魔法により、動きを封じられたのだ。そして、光を纏う球体が青年と残りの六つの球体を閉じ込める様に、光の壁を作って囲む。――その瞬間、



 虹色に輝く色艶やかな爆炎が、光の壁の中で起きる。セラは、アカサキの背中を見て、幼い時の事を思い出していた。

 自分の住んでいた村が襲われ、騎士に殺されそうになった時、アカサキに助けて貰ったあの日の事を。


「アカサキさん……」


 やはり、自分が憧れるのはこの人だけだ。アカサキに憧れ、共に戦い、共に過ごしたいと願っていた人物。

 そのあまりにも美しい虹色の爆炎も相俟って、アカサキが輝いて見えた。


 光の壁が囲っていた事もあり、辺りへの被害は殆ど無かった。爆炎が収まり、煙が上空高々に吹き荒れる。

 光の壁が消えていくと、煙は四方に散らばる様に広がり、どんどんと薄くなっていく。

 すると、全身傷だらけで息を切らす青年が、辛うじて立っていた。


「ハァ……ハァ……」


「この魔法を受けても、まだ立てるなんて、結構タフな方なんですね」


「僕をここまで……だが、僕の方が強い!!」


 青年は足に赤黒い雷を纏わせると、地面を一気に蹴り、アカサキの目の前へと近付き、剣を振りかざす。

 アカサキも、すかさず腰に携えていた、黒色の柄の剣を抜く。青年の剣とアカサキの剣は交わろうとする。――だが、



「――がはっ!?」


 アカサキの刃は、青年の体を捉えていた。斜めに斬られた青年の体から血が吹き出し、上空を舞う。

 青年には一つ、理解出来ない事があった。それは、アカサキの剣と青年の剣は、確かに交わった筈。

 だが、アカサキの刃は自分の体を斬りつけている。つまり、青年の刃をすり抜けたのだ。


 斬られた衝撃で、後ずさりする青年。辺りの地面には血が飛び散り、騎士服は血で真っ赤に染まっていた。


「ぐっ……剣をすり抜けた……だと……!?」


「貴方は、見た事がありませんか? 私の持つ、この剣を」


 その剣は、黒色の柄に刃の部分は白色で峰の部分は赤色。卍の形をした鍔で、形は日本刀の様だった。


「その剣が……どうしたと……言うんだ……」


「そうですか。知らないのですね。これは、――神器ヴァジュラですよ」


「なっ!?」



 ――神器ヴァジュラ。



 それは、この世界に五つ存在するとされている、特異な能力を持つ武器。

 これで、神器を持つ者が分かったのは四人となった。一つは、セラの持つ、変幻自在に多彩な武器へと形を変える神器シューラ・ヴァラ。

 もう一つは、『傲慢』を司る、ヴァルキリア・シンフェルドが持つ、無限射程の神器グラーシーザ。

 もう一つは、マッドフッド国最強と謳われ、龍精霊ティアラと契約している、龍精霊騎士ヴァリ・ルミナスの持つ、双剣の神器レーヴァテイン。

 そして、アカサキの持つ神器ヴァジュラ。その特異な能力とは、



「――神器ヴァジュラ……決して他の武器と交わる事の無い武器」


 セラは神器ヴァジュラの能力を知っていた。アカサキの居る第一部隊へと入団する為に、神器の事は調べていた。


「セラさんの言う通りです。この剣は他の武器と交わる事が出来ません。武器で防ごうとしても、刃をすり抜け対象を斬りつける」


「対処としては、避けるしか無い……という事か……」


 青年は、今にも意識が飛びそうだった。お腹を斜めに斬られた傷は、かなり深く未だに血は流れ続けている。

 まるで血が熱湯かの様に、熱く感じ視界が歪んで見え始めてくる。――否、イグニールと名乗る青年に死が近づいていた。


「ハァ……ハァ……くそ……ここまでか……」


 虫の息の青年の元へと、アカサキは黒色の髪を靡かせ、妖艶さを漂わせた笑顔を浮かべながら歩み寄る。


「では、これで任務完了ですね。貴方は拘束するより、仕留めた方が良さそうですから……」


 そう言うと、青年の首元に神器ヴァジュラを振りかざす。青年の首は吹っ飛び、血が噴水の様に上空へと吹き出し、血の雨がその場に降り注ぐ。


 セラはその光景を見て、思わず恐怖してしまった。血の雨をバックにこちらに向かって微笑むアカサキの姿は、まるで鬼神の様にも見えた。

 これが、『鬼神』の肩書きを持つアカサキ・チカの真骨頂なのかも知れない。



 ――だが、



「――オメェの所為で、ストックが無くなっちまったじゃねぇかよ」


 アカサキは驚き、振り向くとそこには、先程の青年では無く最初に居たイグニールが悠々と立って居た。

 血はその場に残っているが、死んだ筈の青年の姿は消えていた。イグニールは、頭を掻きながらアカサキを睨む。


「貴方……!?」


「あぁ? そんなに驚く事か? 俺はさっきもセラに言ったがよ、想像を絶する力を手に入れたんだよ。オメェの登場は正直驚いたがよ、たかが神器を持っただけで俺には勝てねぇよ」


 アカサキもセラも何も言葉が出て来ない。最初にセラと戦っていたイグニールは、セラの最上ランクの魔法で確かに死んだ筈。

 そして、現れたのがイグニールを名乗る青年だ。その青年も、今先程、アカサキが首を刎ね、死んだ筈。

 だが、最初に戦っていたイグニールは、二人の目の前に悠々と立ち尽くしている。

 それは、不思議や疑問だけでは収まらない状況だった。



「――じゃあ続けようぜ、聖騎士団第一部隊隊長さんよぉ!!」





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