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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第65話 『最強の肩書きを持つ者』


 オルダン騎士団の足止めを担当するA班の元に、聖騎士団が駆けつけた。

 悠利の元には、聖騎士団第二部隊副隊長のイリアナ・イルビーナが、繭歌の元には、聖騎士団第二部隊隊長のジョン・マルクスが、三葉の元には、聖騎士団第一部隊副隊長のローグ・ディエスタが、そしてセラの元には、聖騎士団第一部隊隊長のアカサキ・チカが。


 セレスタの説得を担当するB班の元にも聖騎士団は駆けつけている。

 オルヴァと戦闘になっていた卓斗の元には、聖騎士団第四部隊隊長のディオス・グランヴァルト、聖騎士団副隊長のミラ・グランヴァルトが。



 ――そして、シルヴァと戦闘中のエレナ、エシリア、セレスタ、カルナの元にも一人駆けつけていた。


「何故……お前がここに居る……?」


 シルヴァはその人物を見て、動揺が隠せない。それもその筈、その人物が目の前に今居る事実が、シルヴァの計画の全てに誤算があると言っているのと同じ。


 多大なる殺気を放ち、目にする全ての者にその存在感と威圧感で恐怖を与える人物。――グレコ・ダンドールだ。



「聖騎士団、総隊長……グレコ・ダンドール……」


 カルナも会った事はあったが、やはり目の前にするとその存在感と威圧感に圧倒される。


「この人が聖騎士団の総隊長……」


 エレナ達はグレコを見るのは初めてで、その殺気に足が震える。自分達の味方だと分かっていても恐怖してしまう。


「シルヴァ様、どういう事なのか説明お願い出来ますか?」


「お前がここに居るって事は、全て知っているんだろう? なら話す事は無い」


「そうですか」


 すると、グレコはセレスタの方に視線を移し、


「セレスタ様、貴方様の前で言うのは胸が痛みますが、ご了承下さい。シルヴァ様は我ら聖騎士団が拘束します。ルシフェル家の存続を願うのであれば、我々の味方に付いて下さい。父親であるシルヴァ様に付くと言うのであれば、セレスタ様も拘束する事になります」


 聖騎士団がこうして参戦した以上、セレスタには二択が迫られる。

 父親に対立し、聖騎士団と共に拘束する事。父親に味方し、聖騎士団と戦う事。

 だが、セレスタには既にシルヴァと戦う覚悟が出来ている。つまり、セレスタの答えは一つだ。


「父上の拘束は、私も手伝います」


「そうですか。ですが、一つだけ……ここからは私一人に任せて下さい。出来れば、貴方様達を巻き込みたくありませんので。それと、剣をお借りしてもいいでしょうか」


 そう言ってグレコはセレスタから剣を受け取ると、シルヴァの方へと視線を移す。


「自分の剣を使わないなどと、舐めた真似をするな、グレコ」


「私の剣は、殺してもいい敵にしか抜けませんので。シルヴァ様はあくまでも、敵ではありませんから」


「その傲慢さが仇となるぞ」


 シルヴァは剣に雷を纏わせて振りかぶると、グレコを襲う様に雷を放つ。

 グレコは横に剣を一振りすると、雷はいとも簡単に周囲に弾かれる。壁や天井に雷が当たり、亀裂が入る。

 だが、グレコの頬にも雷は掠れ、少しだが頬を切り、血が流れる。


「最強と言えど、傷は付く。俺がお前を殺し、『最強』の肩書きも貰うとするか」


「寝言は寝てから言って下さい、シルヴァ様」


 グレコの頬の傷は、みるみる内に治癒していく。治癒魔法をした素振りも見せていないのに、確かに傷は治癒していく。


「自動回復だと……?」


「自動回復と言えばそうですが、私の能力などではありませんよ。私の剣は、携えているだけで回復もしてくれます。私に勝つには、この回復より早く私の息の根を止めなければなりませんよ。もしくは、一発で即死させるか」


「一発で即死か……簡単な話だな……!!」


 シルヴァは雷を纏わせた剣を地面に突き刺す。その瞬間、大爆発が起き、部屋の窓は全て割れ、そこから爆炎が吹き荒れる。

 部屋は煙で充満し、火の海と化していた。だが、


「何……?」


 シルヴァの視界には、平然と立ち尽くすグレコとセレスタ達の姿が映った。


「まさか、それが全力ですか? だとしたら、ジュディ様の方が強いのも分かりますね」


 グレコの言葉にしたジュディという名に、エレナが反応した。ジュディとは、エレナの父親だ。

 今から四年前に王権を賭けた王戦が行われ、シルヴァはジュディに負けた。

 シルヴァが言われて一番、腹が立つ言葉だろう。


「この俺を愚弄するか、グレコ!!」


「セレスタ様達は建物から避難して下さい。表にはオルヴァ様が聖騎士団の者と対峙してますので、裏から避難して下さい。裏にも聖騎士団の者を配置してますので」


「しかし……」


「大丈夫です。殺しはしませんから。早くお逃げ下さい、ここは危険です」


 燃え盛る火の中、セレスタ達は建物の裏口へと向かう。途中、ルシフェル家に仕えるメイド達と合流し、共に裏口へと走る。


「母上!!」


 走るセレスタ達の前に、セレナの姿が見えた。その隣にはカルナの母親、カルラの姿もあった。


「セレスタ!! 無事だったのね。エレナちゃんとエシリアちゃんとカルナも」


「父上の部屋でグレコさんと戦っている。父上は拘束されるかも知れない……」


 例え、どんな父親であろうと拘束されるのは複雑だった。それでも、ルシフェル家の為ならば仕方ない。


「大丈夫よ、セレスタ。これでシルヴァさんの考え方が変わってくれれば、また一緒に住める筈だから」


 裏口へと走りながら、話すセレスタ達にある人物が声を掛けた。



「――皆さん!! こっちです!!」


 裏口から叫ぶ一人の男性、金髪にホストの様な風貌の青年。聖騎士団の騎士服を見に纏い、マントの裏地は黒色。

 背丈は180センチ程で、赤い瞳をしている。


「俺は聖騎士団第三部隊隊長のウルド・ロイレイです!! 皆さんの避難を援護しに来ました!! 早くこちらへ!!」


「あの、聖騎士団が何故?」


 セレスタからの問いに、ウルドは満面の笑みで、


「元々、シルヴァ様とオルダン騎士団の計画は知っていました。オルダン騎士団が使う魔水晶には、聖騎士団でも確認出来る様に仕掛けてありますから、シルヴァ様との連絡は全て把握していました。まぁ、盗聴って言えば悪く聞こえますが、国から追い出されても騎士団を掲げる事はいけない事ですからね。それでも、オルダン騎士団がいつ攻め込むかまでは分からなかったですから、さっきの爆炎と雷鳴には驚きました。ですが、もう大丈夫です。後は我ら聖騎士団に任せて下さい」


「魔水晶にそんな仕掛けを……驚いたな……それに、今オルダン騎士団と戦っているのは副都の皆か?」


「そうよ。皆、あんたに副都へ戻って来て欲しいからって、命まで賭けてるんだからね。だから、一緒に戻って一緒に卒団するわよ」


 エレナの言葉にセレスタは胸が熱くなった。まさか、自分の為にエレナやエシリア以外にも、動いてくれている事が、とても嬉しかった。

 それと同時に、オルダン騎士団と戦っているのが心配にもなった。だが、それでも聖騎士団が駆けつけてくれた。


「エレナ、エシリア、来てくれて本当にありがとう。お前達のお陰で、私は救われた。ルシフェル家を守る事も出来た……」


「礼を言うのはまだ早いわよ。そういうのは、全てが終わってからね」


 エレナとエシリアとセレスタは、見つめ合って思わず笑みを浮かべる。だが、一安心するのはまだ早い。

 聖騎士団が来たからと言っても、まだオルダン騎士団やオルヴァとの戦いは終わっていない。



 ――ルシフェル家邸宅前でオルヴァと聖騎士団第四部隊隊長のディオス、副隊長のミラが睨み合っていた。卓斗はその後ろで、二人の背中を見つめている。


「計画が筒抜けだったとしても、俺様達はやり遂げる。ルシフェル家の今後の為にな」


「何度も言わすんじゃねぇよ。そんなの、ルシフェル家の為になんねぇよ」


 オルヴァの言い分に苛立ちを見せたのは卓斗だ。この状況に陥っても尚、自らの信念を曲げない。

 信念を貫き通すのはいい事だが、その道筋が間違っていては意味がない。


「彼の言う通りだよ。君やシルヴァさんがやろうとしている事は、ルシフェル家を逆に苦しめる事になる。大人しく、俺達に拘束された方がルシフェル家の為になるよ」


「この俺様を拘束する? フン、笑わせる。崇高なる王族の俺様を、拘束出来るとでも思っているのか?」


 オルヴァは強くディオスを睨み付けた。ルシフェル家だという誇りが、逆に彼を悪に染めてしまったのかも知れない。

 そんなオルヴァに対して、ミラは呆れた表情をしながら、


「はぁ、勘違いにも程があるよ、オルヴァさん。王族だとか市民だとか、関係無いの。罪は罪だから。王都に危険を及ぼす存在は誰であろうと関係無く拘束する。それが例え、国王だったとしてもね。それが私達の役目、聖騎士団の役目なの」


「聖騎士団など、国を良く見せる為だけの飾りだ。これから作る俺様と父上の国……いや、世界には聖騎士団など必要無い。今日ここで滅ぼしてやる」


「あー、駄目だ。この人完全に頭がおかしい。本当、お腹の底から笑っちゃうよ」


 オルヴァの言葉、態度に完全呆れモードのミラ。すると、オルヴァは剣に水を纏わせると、


「貴様ら三人はここで殺してやる」


 オルヴァが剣を地面に突き刺すと、大きな津波が突然として現れ、ディオス達に襲いかかる。

 五メートル程の高さの津波がディオス達を吞み込もうと猛威を振るう。


「水も無い場所で、これは凄いね……でも」


 ミラが津波に向けて両手を翳すと、一瞬にして津波は氷漬けになり、大きな壁へと変化した。


「氷!! 繭歌と同じ氷のテラか!!」


「水のテラが相手なら、私は相性バッチリだよ!!」


 ミラは可愛らしい笑顔とサムズアップを卓斗に見せる。だが、次の瞬間、大きな氷の壁の真ん中が円形に割れ、オルヴァが飛び出してくる。

 その剣には、水が渦を巻く様に纏っていた。それは、ドリルの様にも見える。


「相性がいい? 笑わせるな!!」


「水で氷を割った!?」


 オルヴァはそのままミラに斬りかかる。ミラもすかさず刀を抜いて防ごうとするが、オルヴァの水の刃はミラの刃を切り、体を捉えようとする。

 その瞬間、ミラの体が突然として後方に吸い寄せられる様に引っ張られる。

 そのままオルヴァの水の刃は空を切った。


「また貴様の仕業か」


 オルヴァは卓斗を強く睨む。卓斗は『引力』の力を使ってミラを自分の方へと引き寄せていた。

 卓斗は、引き寄せられるミラの体を受け止め、ミラの体が華奢過ぎる事に驚いていた。


「ミラさん、華奢過ぎんだろ……直ぐに骨が折れそうだな」


「ちょっと、気安く女の子の体を触るなんてやらしいね。でも、助かった、ありがとう」


「オルヴァさんの水の刃は危険だね……斬れ味は、鉄をも斬る……か。ミラ、少年、あまり無理をしてはいけないよ」


「ディオスさん、俺の名前は、卓斗だ。後、無理なんかしてねぇよ。俺も一緒に戦うから」


 立ち上がったミラの横に並び立って卓斗はそう言葉にした。するとミラは、


「じゃあ、タアくん!!」


「タアくん!?」


「これからそう呼ぶね、タアくん。一緒に戦おう!! お兄ちゃんはバックアップお願いね。私とタアくんで突っ込む」


 そう言うと、ミラはオルヴァの方へと走り出した。剣は折れて使い物にならないにも関わらず、走り出すミラに、


「ちょっと、ミラ!! はぁ……仕方がないね、本当に……タクトくん、ミラをお願い出来る? 俺が二人をバックアップする」


「分かった!!」


 卓斗もミラを追い掛ける様に走り出す。ミラはオルヴァに近付く寸前に両手を合わせると、オルヴァの周りを氷の壁で囲む。

 すると、氷の壁の内側に無数の氷柱を作り、オルヴァを串刺しにしようと、氷柱が伸びる。

 だが、オルヴァはその場で水の刃を横に振り、そのまま一回転すると、氷柱を全て砕き割る。


「詰めが甘い」



「――それはお前だ!!」


 オルヴァが顔を上げると、卓斗が氷の壁を乗り越えてオルヴァに斬りかかっていた。その手には真っ黒な日本刀、黒刀を手に持っている。


「武器を変えた?」


 オルヴァは卓斗が普通の剣から黒い剣へと変わっている事に疑問を抱きながらも、水の刃で受け止めようとする。その瞬間――、


「何っ!?」


 オルヴァの剣に纏う水の渦が弾ける様に消えていき、ただの剣と化し、刃と刃が触れて金属音が鳴り響く。


「俺様の魔法を消しただと!? 貴様、何をした?」


「お前には教えねぇよ!!」


「わお!! タアくん、やるね!!」


 氷の壁の上に登ったミラが、オルヴァの魔法を消した卓斗に対して驚いていた。

 やはり、黒のテラは非常に珍しく、目にする者は少ない。聖騎士団であるディオスとミラはもちろん見た事が無い。


「タアくん、そのままオルヴァさんを抑えててね!!」


 そう言うと、ミラは上空に向けて両手を翳した。その様子を見たディオスが、


「おい、ミラ!! その魔法まで使う事ないでしょ!! 国民がまた動揺する可能性がある!!」


「もー、お兄ちゃんはいちいちうるさいなぁ。バックアップはしてってお願いしたけど、口を挟んでとは言ってないよ。それに、さっきの爆発と雷鳴で既に国民はパニック状態なんだから、大丈夫だよ。加減だって出来るし、拘束するならこの魔法の方が手っ取り早いでしょ」


「はぁ……本当に、ミラは……」


 ディオスはただただ溜め息だけを吐いた。妹であるミラに対していつも注意するが、殆どミラの言い分に押し切られてしまう。

 そう話していた内に、ミラの立っている上空の部分から徐々に晴れやかだった空に雲がかかり始める。


「何をする気なんだ?」


「さぁな」


 氷の壁に囲まれた中で、剣を交えて睨み合う卓斗とオルヴァ。曇り始めた空に、オルヴァは異変を感じていた。


 そして、だんだんと温度が下がってきているのが分かった。秋から冬に入った時の様な肌寒さ、防寒着が欲しくなる温度まで下がっていく。


「お兄ちゃん、そろそろだよ。タイミング見計らって、タアくんを連れ出して」


「はいはい」


 ディオスは自分の意見を言う事を諦め、ミラに全てを任せる。これでも一応、ディオスは兄なのだが。


 そして、王都全体の上空に雲がかかると、チラチラと白く冷たい物が降ってくる。

 それは、ルシフェル家邸宅の裏口から避難したセレスタ達もその異変に動揺していた。



「――これは……」


 エレナが手を出すと、白く冷たい物は触れた瞬間に溶ける。雨では無くそれは、


「これは雪か? まだ十の月だぞ……」


 王都には、季節外れの雪が降り始めていた。その雪は、王都にしか降っていないという不思議な現象が起きていた。

 不思議そうに雪が降る上空を見上げるセレスタ達に、ウルドが人差し指を立てて、


「何百年も昔は雪なんて存在していなかった。勿論、今の暦になっている十二ヶ月の制度も、春夏秋冬の四季も無かった。あくまで伝説だが、それらを司った神がこの世界に生まれた、なんて説もあるんですよ?」


「はいはい、そこまでですよ、隊長。ごめんね? この人、物凄くお喋りなの。無視してていいから」


 避難場所に現れたのは、一人の女性。薄い紫色の髪色で毛先にいくに連れて紫色が濃くなっていて、腰辺りまでの長さのストレートヘア。

 背丈は160センチ程で、碧眼だ。眼鏡を掛けていて、右目の目尻にはホクロがあり、妖艶さを漂わせているが、年齢は十九歳だ。

 聖騎士団の騎士服を着ているが、白い着物の様な服装をしている。腰には剣を携え、まるで日本の侍の様な見た目だ。


「無視は酷いな、シラ。おっと、紹介が遅れましたね。この人は、聖騎士団第三部隊副隊長のシラ・フルークスです」


「どうも。安心して、この雪は第四部隊副隊長の魔法の仕業だから、私達に害は無いわ。この魔法を使ったって事はオルヴァさんを時期に拘束出来るって事ね」


「兄上と戦っているのか!?」


 突然セレスタは慌てふためき出す。その動揺っぷりにエレナは不思議そうに首を傾げて、


「どうしたの、急に。心配しなくても、聖騎士団の人も居るみたいだし、タクトも居るから大丈夫よ」


「タクトも居るのか!? クソ……!!」


 セレスタは突然走り出す。その表情は血相を変えていた。


「ちょっと、セレスタ!! どこ行くの!?」


「兄上の所だ!! タクト達が危ない……!! 兄上とは、戦ってはならない……!!」



 ――雪が降り頻る中、ミラはオルヴァの方に視線を移すと、不敵な笑みを浮かべて、


「準備完了。今から、オルヴァさんを拘束します。お兄ちゃん、お願い!!」


「あぁ!!」


 すると、突然降り頻る雪がオルヴァの元へと集まり出す。その瞬間、オルヴァと剣を交えていた筈の卓斗は、囲んでいた氷の壁の外側へと瞬間的に移動していた。

 何が起きたのか分からないで居る卓斗の横には、ディオスが立っていて、卓斗の肩に手を置いていた。


「驚くのも無理無いね。これは、俺の特殊なテラの使い方で、君を俺の隣まで移動させたんだ。あの水の刃は確かに厄介だったから、君がオルヴァさんの魔法を消してくれたのは凄く有難いよ。君も特殊なテラを使うんだね」


「移動させた……? 一体、どうやって……」


「説明は後でね。今からオルヴァさんを拘束するから」


 降り頻る雪は、どんどんとオルヴァの元に集まり、大きな雪の塊となってオルヴァを閉じ込める。


「よし、更に加えて……」


 ミラがオルヴァを閉じ込める雪の塊に手を翳すと、更に雪の塊を覆う様に氷漬けにする。

 そしてそこには、氷で出来た塔の様な物が出来ていた。雪も止み始め、空を覆い尽くしていた雲が晴れていき、太陽の光が再び王都を照らす。


「すげぇ……」


 卓斗は思わず、そう言葉を零した。これと同時に、聖騎士団の強さを実感した。


「ふぅ、任務完了だね。お兄ちゃん、オルヴァさん拘束したよ。中には空洞も作ってあるから、息は出来てる筈だよ」


「出来てる筈では困るんだけどね……まぁ、良くやったね、ミラ」


 ミラはディオスに褒められて嬉しそうに笑顔を見せた。だが、次の瞬間、突然として氷の塔に亀裂が入る。



「――嘘!?」


 ミラもまさかの出来事に驚いた表情をしている。亀裂はどんどんと広がり、氷の塔とオルヴァを閉じ込めていた雪が一瞬にして溶け、ルシフェル家邸宅前には、巨大な水溜りが出来る。

 ミラもすかさず、ディオスと卓斗の隣に移動し、氷と雪を溶かした根源、オルヴァに視線を向ける。すると、オルヴァは、


「雪と氷は溶けると何になるかは、言わなくても分かるな? そうだ、水だ。特別に、貴様らには俺様の本気を見せてやる」


 悠々と立ち尽くすオルヴァは、剣先を卓斗達に向けて、不敵な笑みを零した。





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