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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第63話 『最上クラスの魔法』


 ルシフェル家邸宅、シルヴァの部屋では、只ならぬ殺気を込めたシルヴァと、セレスタ、カルナ、エレナ、エシリアが睨み合っていた。


「覚悟は出来ているんだろうな、セレスタ。父親である俺を裏切った事を後悔させてやる。カルナもな」


「もう言葉では私を言いくるめる事は出来ない。今の私には、カルナお姉ちゃんとエレナとエシリアが居る。副都の皆が居る。もう怖いものなど無い」


「私は、セレスタをお守りするだけです。ルシフェル家の為にも、シルヴァ様の計画は止めさせて頂きます」


 セレスタとカルナの覚悟のこもった瞳を見て、シルヴァは苛立ちを募らせる。

 自分が王妃としてセレスタを育てて来た筈なのに、そのセレスタに裏切られたシルヴァの気持ちは複雑だった。


 間違った道へと導いているつもりは無い。ルシフェル家の王として、崇高なる王族の人間として、娘に振る舞ったつもりだ。

 オルヴァが自分を尊敬してくれていた事も相俟って、セレスタにも自然と、自分の正しさを伝えれていると思っている。


 その筈なのに、今セレスタは自分に向けて剣を構えている。自分の正しさを否定し、憎き王族、カジュスティン家とエイブリー家の王妃と共に、自分に対して対立している。


 その事が、何よりシルヴァは許せなかった。友であり、憎しみを抱く相手のジュディとウォルグの娘。

 その二人、エレナとエシリアにさえも殺意が湧いてくる。そして、側近で自分の近くにずっと居たカルナにさえも。


「ジュディとウォルグの娘だろうが関係無い。王族の王妃だろうが関係無い。今日から王都は俺の物になる。お前らは、その新しい時代には必要無い」


「その様な時代など、来る事も無いし、来させもしない。これからは、エレナとエシリアと私の時代が来る!! 父上の時代は終わりだ」


 セレスタはそう言うと、シルヴァの元へ強く一歩踏み出し斬りかかる。

 シルヴァはそれを剣で防ぎ、父と娘は剣を交えて睨み合う。


「父上とこんな事で剣を交えるとは……悲しい事だな」


「俺の言う事を聞いていれば、こんな事にはなっていない」


 シルヴァは、セレスタの剣を下に弾くと、前屈みに体勢を崩したセレスタの顔に目掛けて剣を振りかざす。――その瞬間、



「――っ!!」


 セレスタの右側に走り出していたエシリアの剣がシルヴァの剣を防いでいて、セレスタの左側に走り出していたエレナが、シルヴァの首元に剣先を寸止めさせていた。

 カルナはその後ろで、セレスタの援護をエレナとエシリアに任せ、次のシルヴァの行動に警戒している。


「エシリア!! エレナ!!」


「あんたの行った通り、もう時代が変わる。エシリアのお父さんが国王を引退したら、あんた達の時代が来るの。次なる時代の蕾を、潰す様な事、絶対させないから」


「そんな事言って、実際王戦が始まったらお前がその座を奪うんじゃないのか? 所詮カジュスティン家の人間など――」


 シルヴァの言葉を、激昂するには珍しい人物が声を荒げた。――否、エシリアだ。



「――いい加減にして下さい!! 私達は、貴方達と同じ道は歩みません!! 手を取り合って、共にこの国を支えます!! 王族同士の蟠りなんて……馬鹿馬鹿しいですよ!! 貴方達が作った蟠りに、私達を巻き込まないで下さい!!」


「エシリア……?」


「私は、エレナちゃんもセレスタちゃんも、とっても大切です!! そんな二人と争うなんて、したく無いですし、させません!! エレナちゃんとセレスタちゃんを傷付けるというのであれば、私は貴方を許しませんよ」


 エシリアのこんな激昂する姿を、エレナとセレスタは初めて見た。

 ずっと大人しく、たじろぐエシリアの姿しか見ていなかったのもあって、驚かされていた。


 シルヴァはセレスタ達から距離を取ると、剣に雷を纏わせる。そして、三人を強く睨み、


「なら、あの世で三人仲良くしていろ」


 そう言うと、一気に剣を振り下ろす。雷鳴を轟かせて、青白く稲光りしてセレスタ達を照らす。

 部屋の中の天井や床、壁などを抉りながらセレスタ達に雷が襲いかかる。

 至近距離からの魔法に、全員は防御魔法では防げないと瞬時に悟った。



「――逃げろ!!」


 セレスタがそう叫んだ。だが、その声は雷鳴に掻き消されエレナ達の耳に届かない。――すると、



「――っ!! カルナお姉ちゃん!!」


 シルヴァの放った雷に向けて、カルナが走り出す。迫り来る雷に、剣を振りかざすと、雷はみるみるうちにカルナの剣へと吸収されていく。


「この子達は、私が守る……!!」


 雷を全て吸収し、場には一瞬の静寂が流れた。世界の音を遮断する程の雷鳴に、未だに耳鳴りがしている。


 徐々に耳鳴りも消えていき、セレスタ達は自分の胸の鼓動が聞こえてくる。


「カルナお姉ちゃん!!」


「大丈夫、貴方達は私が全力で守るから」


 カルナは振り返り、笑顔を見せた。そして、すぐさまシルヴァの方へと振り向くと、強く睨んだ。

 それは、主君には決して見せてはいけない目だった。主君を守るのが側近の務め。だが、今のカルナには主君に対して殺意しか湧いてこない。

 娘である、王妃であるセレスタへ、殺意のこもった魔法を放ったシルヴァが、カルナは許せなかった。


「容赦しませんよ、シルヴァ様」


「フン、ほざけ。たかが側近ごときが図に乗るな。時期、オルダン騎士団の連中も王都に攻め込んで来る。そうなれば、お前らは手も足も出ずにあの世行きだ」



 ――オルダン騎士団の足止めを担当しているA班。それぞれが戦闘を始める中、セラはイグニールに苦戦していた。


「おら、どうした? あぁ? さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ、セラ!!」


「ハァ……ハァ……うるさい……これからよ……」


 既にセラの体はボロボロだった。副都の騎士服は所々が破れ、そこからは血が流れ、服が滲んでいる。

 セラがイグニールに苦戦する理由。それは、イグニールの剣に纏っている、赤黒い雷だった。


「やっぱ、俺が剣を抜いたら、こーなんのかよ。セラ、確実に前の方が強かったぞ。がっかりだな」


「そう……がっかりしてくれて、有難い。その分、私の本気に驚愕出来るから」


 セラは全身の痛みを堪えながら走り出す。イグニールは、セラに向けて、次々に赤黒い雷を放っていく。

 右に左に赤黒い雷を避けるが、何故か体に擦り傷が付く。避けている筈なのに、それが理解出来ない。

 だが、そんな事を考えてる余裕も無い。擦り傷程度なら、我慢は出来る。だからセラは、走る足を止めない。

 擦り傷程度と言っても、皮膚は裂け、肉を少し切る程で激痛は伴うが、まだ我慢出来る。


「その魔法、いつ覚えたの?」


 イグニールの目の前まで詰め寄ったセラも、剣に青白い雷を纏わせて振りかざす。


「オメェが副都に行ってからだ。強ぇだろ? この雷!!」


 イグニールも剣に赤黒い雷を纏わせて、セラの剣に交わらせる様に振りかざす。


 二人の剣が交わった瞬間、辺り一面にお互いの雷が放電するかの様に暴れ出し、轟音を轟かせて地形を変えていく。

 二人の足元の地面は大きくヒビが入り、どんどんと円形に抉れていく。


「ぐっ……!!」


 力で負けない様に、セラは力一杯にイグニールの剣を押し返す。だが、イグニールも同様で剣を押し返してくる。

 本気の力で交わらせる時間が続く。その間にも、お互いの雷は激しく暴れ、辺りを破壊していく。


「どうした!! そんなもんかぁ!?」


 若干だが、セラが押され気味だった。流石のセラでも、男であるイグニールに力では勝てない。

 それでも、粘ってはいる方だ。だが、ここで負ければイグニールの剣をまともに喰らってしまう。

 それは、確実に死を意味する。避けるだけでこのダメージ。ならば、まともに受ければ答えは簡単だ。


「舐めないで……くれる……!!」


 セラは自分の剣に、最大のテラを込める。イグニールの赤黒い雷を覆い尽くす程にセラの青白い雷は拡大していく。

 物凄い雷鳴を轟かせ、先程よりも激しく広範囲に地形を変え、押され気味だったのも、同格まで持ち越し粘るセラ。

 セラとイグニールのいる場所を、二人の雷が白く照らす。それは、他の場所に居る者達にもはっきりと見える程に。



「――あっちはセラちゃんの居る方向……!! 大丈夫かな……」


「仲間の心配より、自分の心配したらどうだ?」


 視界が真っ白に染まる程に、青白い雷と赤黒い雷が、何度も何度も、周りの空気を切り刻む様にぶつかり合う場所を、心配そうに見ている三葉。


 その光景は、幻想的にも見えた。白く染まっていく世界に、青白い雷と赤黒い雷が、まるで踊っているかの様に瞬き、大地を揺るがす。

 空気を打ち叩く様な、重い雷鳴が何度も何度も、辺りの人の体の芯を揺らす。


「心配ですけど、それでも信じてますから。それに、皆だって私を信じてる。だから、貴方を倒します」


「信じる、信じる、楽しい連中だな。馬鹿馬鹿しい。イグニールと戦っている女は、確実に死ぬぞ」


「大丈夫です。私は知ってますから。セラちゃんが強いって事」



 ――稲妻と雷鳴が轟く中心で、セラとイグニールは全身全霊の力で剣を交えて、睨み合う。


「やるなぁ……!! もっと本気で来いや!!」


「ぐっ……絶対に負けない……!!」


 時折、稲妻がイグニールとセラの体に触れて、皮膚を切り裂く。その痛みにも堪えながら、力を振り絞る。


「これなら……どう……!!」


 セラは、最大のテラを溜めきり、詠唱を唱える。



 ――テラグーラ・ボルガ。



 テラグーラ。それは、最上ランクの詠唱。使える者はこの世界に少なく、その分テラの消費量は半端では無い。

 恐らく、セラはこれを使った後、全身が動かなくなるか意識を失うだろう。

 『最強』の肩書きを持つ、聖騎士団総隊長のグレコ・ダンドールでさえも、最上ランクの詠唱は何度も使えない。

 それ程、テラ量を用いる為、使用するのはかなり危険とも言える。


 この世界の人間で、テラを一度宿した者は体内テラが無くなると、数分で死に至る。

 その間に、テラを回復させる魔法を誰かに使って貰えればいいが、今回のA班にはテラ回復の魔法を使える者は居ない。

 三葉は、傷を癒す治癒魔法しか使えない為、セラが体内テラを無くしてしまったら死ぬのは必定。


 常に、体内テラは自然テラを少しずつ吸収して回復はしていくが、体内テラが無くなってしまったら、それも不可能になる。

 だが、それでもセラには覚悟がある。皆を信じる力と、信じて貰っている力がある。

 大切な仲間を連れ戻す為に、オルダン騎士団を食い止めなければならない。

 イグニールを倒さなければならない。その想いが、セラの力となる。



「――なっ!? テラグーラだと!? オメェ、いつの間に……!!」


「これが、大切な仲間を助けたいと願う時に宿る力……貴方にそれを、証明してあげる」


 セラの青白い雷は、より一層に雷鳴を轟かせ、激しく稲光りが増した。

 そして、天空を切り裂く様に青白い雷が上空に集まりだす。徐々に雷は、形を作っていく。


「龍……だと……!?」


 それは、何十メートル程の大きさの龍へと雷が変形していた。全身が雷で出来ていて、その周りには空気が揺れているのが目視出来る程に、歪んでいた。

 その龍は上空を旋回すると、垂直にイグニールに向けて落下してくる。

 空気を裂きながら、鼓膜が破れそうな程に大きな雷鳴を轟かせて、イグニールに直撃する。――その瞬間、



 青白い爆炎が、球体の形を保ったまま、何十メートルにも膨らんでいき、灼熱の熱風で地面を溶かしながら抉っていく。

 大地を大きく揺るがし、熱風が吹き荒れる。他の場所で戦う者達も、その熱風に飛ばされるのを堪える。


「物凄い爆発……!! 目が開けられない……!!」


 ゲオと睨み合っていた三葉も、ゲオも腕で顔を覆いながら、熱風で飛ばされるのを堪えている。

 テラを溜めるのに集中していたレディカも、吹き飛ばされて転がり、体勢を整えて更に転がりそうなのを堪える。



「――いきなり何!? 誰の仕業……!?」


「イグニール……」


 繭歌も三葉達と同様に、爆風に飛ばされまいと堪えている。シナハは、直立したまま青白い爆炎が上がる場所を見ている。


 髪も服も、物凄い勢いで靡いている。抉れた地面の破片が弾丸の様に飛び散り、それでも、シナハは平然と眺めていた。



「――ぐっ……何だよ、これ……!!」


 突然の爆風に、悠利は思わず剣を手離してしまう。シェイドも、驚きながら爆風に飛ばされない様に堪えていた。


「イグニールか……!! いや、恐らく違う……セラか……!?」



 その青白い爆炎と轟音は、その場だけでなく、王都に居る者達にも分かった。

 王都の民達は青白く光る方向を見て、動揺を隠せないでいる。小さく小刻みに大地が揺れ、子供達は泣き始めていた。

 そしてそれは、ルシフェル家邸宅前でオルヴァと戦う卓斗にも、伝わった。


「何だよ……あれ……」


 青白い発光が王都中を照らしていた。爆風は微かに来ているだけだが、雷鳴はしっかりと聞こえてくる。


「これで分かったか? 貴様らの傲慢な考えの所為で、犠牲が出る。助けたい者を助けに来た者が死んでは意味が無い。そんな事で俺様達に、しのごの言う資格は無い」


 卓斗はぐうの音も出なかった。オルヴァの言っている事が最もだと思うのもそうだが、今はそれよりB班の心配が強かった。


「貴様らの選択は間違いだ。その間違いに後悔して死ね」


 オルヴァはそう言って、卓斗に向かって走り出す。そして思いっきり剣を振りかざす。

 それでも卓斗は何もしないでいる。心配が強過ぎて何も出来ないのだ。


 そして、オルヴァの剣が卓斗を捉えようとした時、金属音が鳴り響いた。


「貴様……」


 卓斗がふと顔を上げると、騎士服の白いマントを靡かせた男性が卓斗の前に立ち、オルヴァの剣を防いでいた。


「大丈夫か、少年」


 その男性は、白色ベースに赤のラインが入った騎士服で肩には金色の装飾を付けている。

 白色のマントで裏地は赤色。やや長めの黒髪で、左耳付近を青色に染めたツートンカラー。

 トップの部分を少し盛って、ツンツンした髪型。綺麗な碧眼をしている。背丈は、185センチ程。


 何が起きたのか分からないで居る卓斗の隣に、もう一人同じ騎士服を着た女性が、卓斗の肩に手を置き、


「よく頑張ったね。後は、私達に任せて」


 その女性は、男性と同じ騎士服を着ていて、マントの裏地は桃色。

 髪は明るい橙色で毛先に行くにつれて赤色に染まり、肩上程の長さで、ストレートヘア。

 前髪を結んで上にあげている。瞳は赤色で、顔付きはその男性と少し似ているが、美少女だ。背丈は、155センチ程。


「えっと……」


「あ、自己紹介が遅れたな。俺は、聖騎士団第四部隊隊長のディオス・グランヴァルト」


「私は、聖騎士団第四部隊副隊長のミラ・グランヴァルト。ちなみに、ディオスの妹だよ」


 突然の聖騎士団の乱入に、卓斗とオルヴァは驚いた表情を見せた。





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