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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第62話 『不安要素』


「私は、常に皆を見て状況を把握しなくちゃ駄目……守れる所は守らないと……一応、皆に一回は防げる様に防御魔法を仕掛けて置いたけど、二回目以降は近くに行かないと守れない……」


 A班のバックアップを担当する三葉。治癒魔法が使える事もあり、三葉が起用された。

 しかし、誰の側に居れば良いのかが分からない。四人が一気に戦闘を行なっているとなると、三葉にとっても大変だ。

 そんな三葉の視線の先には、レディカとゲオが睨み合っていた。



「――まず手始めに一本!!」


 そう言うと、レディカはテラで矢を作り放つ。しかし、ゲオは冷静にその矢を避ける。


「遅いな。そんな矢では、いつまで経っても相手を射抜く事は出来ないぞ」


「今のが本気だなんて思わないでくれる? 私は、手始めにって言ったのよ」


「随分と余裕なんだな。だが、それが自分の勝機を下げる事になる」


 ゲオもテラで矢を作って、構える。照準をレディカに合わせ、優しく手を離し矢を放つ。だが、



「――っ!?」



 ――レディカは放った矢が見えなかった。確かに放った筈のゲオの矢だが、その軌道はどこにも無い。

 早すぎて見えないという訳でも無い。だが、完全に見えないのだ。

 次の瞬間、レディカの左肩の辺りに突然、光の防御とゲオの放った矢が現れ、金属音を響かせながら矢を弾く。


「今のを良く防いだな」


「私は防御魔法なんかしてない……じゃあ今のは……もしかして、ミツハ?」


 レディカが三葉の方に視線を移すと、三葉はそれぞれの戦闘場所を見ている。


「正直、助かった。ありがとね、ミツハ」


 レディカは小さくそう呟くと、ゲオに視線を移し傾向と対策を考える。

 厄介なのは、矢が見えない事だ。見えなければ、どの早さで自分に辿り着くか、どの軌道を描いているのかが分からない。

 となると、防ぐ事は不可能に近い。常に防御魔法を張れば防ぐ事は可能だが、極力テラの消費は抑えたい。

 特に、テラを使って矢を作る弓使いには、テラの消費はシビアにならなければならない。


「さぁ、二本目はどうする?」


 ゲオは再び矢を放つ。やはり、矢を放った瞬間にその姿は視界で捉える事は出来ない。だが、


「悪いけど、あんたのその矢の弱点、分かったから」


 そう言うとレディカは、一歩横へと移動する。レディカの考えは、ゲオが放った矢の照準からズレれば避けれるという事。


「成る程、確かにそれでは射抜く事は出来ないな。――俺以外の矢ならばな」


 その瞬間、ゲオの放った矢はレディカの左腕に刺さる。確かに照準からはズレた筈だ。

 その筈なのに、ゲオの矢はレディカの左腕を捉えている。


「っ!? どうして……!?」


「理解出来ないか? 答えは簡単だ。お前じゃ俺には勝てないという事だ」


 矢の刺さった場所から真っ赤な血が流れる。騎士服の左腕の部分は血で染まり、焼ける様に熱い感覚に襲われる。


「ぐっ……まさか、軌道を変える事が出来る……? そんな事って……」


 その考えに思わずレディカは背筋を凍らせた。仮に、軌道を自由に操れるとなると、弓使いとしてはトップクラスに強い。それに、不可視の矢となると強さは倍増する。


「副都に通う未熟者が、こういう場所に来るから痛い目に合うんだ。大人しくしていればいいものを」


「悪いけど、私達はセレスタを救わなきゃいけないから……あんたなんかに負ける訳にはいかないのよ」


 レディカは、痛みに耐えながら左腕に刺さる矢を引き抜く。流れる血は増し、ポタポタと地面に垂れる。


「お前達子供に、ルシフェル家を止める事は出来ない。諦めろ」



「――諦めない!! 皆頑張ってる……私だけ諦めるなんて死んでも出来ない」


「そうか、なら直ぐに殺してやる。そして、迫り来る死に恐怖し後悔しながら息絶えろ」


 ゲオは弓を構えて、何本も何本も矢を放つ。その全てが、レディカの視界には捉える事が出来ない。


「ぐっ……!!」


 レディカは左腕の傷口を手で押さえながら、横に走り出す。常に移動し続ける事で、矢を避けようと考えた。


「いつまで保つかな?」


 どこから来るか分からない矢を、動き回って避ける。避けれているのかも分からないが、今はそれしか方法が無い。

 レディカも矢を放とうとするが、左腕の傷が痛み弓を構える事が出来ず、ただ動き回る事しか出来ない。


 そんなレディカの右脚に、無情にも矢が突き刺さる。息が止まりそうな痛みに、思わず転げてしまう。


「痛っ……!!」


 そして、ゲオの放った残りの矢も、右肩、右腕、左脚、背中と突き刺さっていく。

 レディカは背を向けで倒れたまま動けない。全身の痛みで感覚が無くなり、立てない。


「…………」


「苦しいか? 直ぐに楽にしてやる」


 ゲオは、レディカの頭に照準を合わせて矢を放つ。不可視の矢がレディカを捉えようとした瞬間、光の防御が矢を弾く。


「なんだ?」



「――レディカちゃん!!」


 レディカの元に、三葉が駆けつける。レディカに刺さった矢を全部引き抜き、治癒魔法を掛ける。


「ぐっ……ミツハ……?」


「レディカちゃん、しっかり!!」


 だんだんと傷口が塞がっていく。レディカの全身に伝わる痛みが引いていき、上体を起こす。


「ありがと、ミツハ。助かった……正直言って、あいつ強過ぎる……ロックオン式の矢の上に、不可視って……チートじゃない……」


 ゲオは治癒魔法を掛ける三葉を見つめて、


「治癒魔法を使える者も連れて来ていたのか。まぁ、基本だな。だが、優秀な治癒魔法だな、傷口が治るのが早い」


「褒めて貰えるのは嬉しいですけど、レディカちゃんを傷付けた事、許しませんから」


 三葉は静かに怒りを露わにしていた。死には至らないとは言え、大切な仲間を傷付けられた事は許せない。


「ミツハ、少しの間だけ時間稼ぎお願い出来る?」


「時間稼ぎ?」


「セラ達の方も心配だと思うけど、少しの間なら大丈夫よね。私のとっておきの魔法をあいつに試したいから、テラが溜まるまで時間稼ぎをお願いしたいの。ミツハは光のテラだから、時間稼げるよね?」


 レディカにはまだ策があった。実戦で試すのは初めてだが、今はこれが最善の策であり、最後の策だ。

 この策が失敗すれば、恐らくゲオ・ウェインには勝てない。レディカが持てる最高の策を実施するのに、時間が必要。

 その為に、三葉にはゲオの意識をレディカから逸らさせ、時間を稼いで貰うしか無い。


「分かった。私、やってみるよ」


「お願い、頼んだ!!」


 そう言うと、レディカは目を瞑って集中し始める。そして、三葉は剣を抜いて、ゲオを見つめる。


「次は私が相手です」


「光のテラか。お前のテラ量と俺のテラ量、どっちが先に尽きるかだな」



 ――三葉とゲオが睨み合う中、最後の組み合わせも戦闘を始め様としていた。


「オルダン騎士団の団長が相手か。ったく、セルケトといい、フィトスといい、強そうな人ばっかと戦ってんな俺。まぁでも、皆頑張ってるなら、俺も頑張らなきゃな」


「何か、お前から不思議なオーラを感じる。昔に、戦った事のある者と同じオーラだ」


 そう言って睨み合っているのは悠利とシェイドだ。悠利は剣を抜いて構える。


「昔に戦った事のある? 不思議なオーラってどういう意味だ? まるで俺が、あんたの言う昔にも存在してたみたいな言い方だな。俺まだ十六歳なんだけど」


「いや、人物は確かに違う。ただ不思議なオーラが殆ど一緒だ。鮮明に覚えている。まるで、この世界の人間とは少し違う様な感覚……」


 その言葉に、悠利は驚いた表情をした。以前にも、四都祭で卓斗がフィトスと戦っている時に、セシファから聞いた話と似ている。

 『この世界の人間とは少し違う』その部分が似ていた。セシファも、フミトとトキという人物に、この世界の人間では無い様な感覚を覚えていた。

 だか、それは何百年も前の話だとセシファは言っていた。そこから考えると、セシファの言っていたフミトとトキ、シェイドの言っている人物が一緒とは考えにくい。

 もし、そうなのだとすればシェイドは、何百年も前の人物という事になる。


「一つ聞きたいんだけどさ、あんたって歳いくつ?」


「私の年齢か? こんな老躯の年齢を聞いてどうする?」


「どうもしねぇよ。ただ聞きたいだけ」


「不思議な子だ。私は、五十二歳だ」


 シェイドの年齢は五十二歳。恐らく嘘を付いているとは思えない。

 だとすれば、シェイドの言う人物とセシファの言う人物は、同一人物では無い。

 つまり、シェイドがその人物と出会った時代にも、悠利の元居た世界から飛ばされた人物が居たという事になる。


「やっぱり、俺らだけじゃねぇんだな……もしかしたら、他の国にも同じく飛ばされて来た人が居るかも知れねぇって事か……」


「さっきから、何をぶつぶつと言っている?」


「いや、ちょっとな。あんたには少し、その人物について詳しく聞きてぇんだけど、いいか?」


「悪いが、私達には時間が無い」


「なら、勝ってあんたに無理矢理にでも聞く。俺はその情報を知る必要があってな」


 もしかすれば、日本に帰れる方法が分かるかも知れない。卓斗が言っていた様に、この世界を終焉から救うまで帰るつもりは無いが、帰る方法を知っておくだけでも全然違う。


「お前は一体何者だ? 何故その事を知りたい?」


「俺は、御子柴悠利。家族が待ってる家に帰る為だよ」


 悠利の返答に、首を傾げるシェイド。そんなシェイドの元に、悠利は走り出す。

 シェイドも剣を抜き、悠利の振りかざした剣を受け止め、金属音が鳴り響く。


「あんた、その人から日本って言葉、聞いた事ねぇか?」


「ニホン? さぁ、初耳だな」


 シェイドは、剣で円を描く様にして悠利の剣を振り払うと、腹部目掛けて剣を突き刺す。

 悠利はそれを避けるが、その瞬間シェイドの剣が赤白く光り出し、人間一人が丸々隠れる程の爆発が起きる。


 爆風に吹き飛ばされ、地面を勢い良く転がる悠利。結構な爆発だったが、シェイドにはダメージが無い様だ。


「ぐっ……また特殊なテラを使う奴かよ……たまたま、防御魔法が作動したから、ダメージは無かったけど……この防御魔法、三葉ちゃんか」


「あの一瞬で防御魔法を張ったか。ミコシバとやら、なかなかやるな」


「本当、この世界って海外みたいだな……名前と苗字が逆になってんのか。これからは、ユウリ・ミコシバって言わなきゃな。それより、日本って言葉は聞いた事が無いのか……となると、この爺さんはその人物を知ってはいるが、会話はあまりしてないという事か」


 悠利は立ち上がり、騎士服の土で汚れた部分を払って再び剣を構える。


「今回は、あんまりいい情報は聞けねぇかな……今の所は、副都で教官をしていたヨウジって人と、セシファちゃんの言ってたフミトとトキって人だけか。今の所は全員日本人って事は分かってんだけどな、そこから考えると爺さんが出会った人物も日本人だと思うんだけど……爺さん、その人物の周りに誰か居なかったか?」


「周りに? あぁ、確か……カジュスティン家の者が居たな」


「カジュスティン家?」


 もちろん、悠利はその一族を知っている。知っているも何も、王族カジュスティン家はエレナの一族だ。


「そんな事より、あまり話をしている時間は無いと、言った筈だが!!」


 シェイドは走り出し、悠利に斬りかかる。剣で防ぐと、またしてもシェイドの剣は赤白く光り出し、爆発する。


「ぐっ……!!」


 爆風に吹き飛ばされて、勢い良く転がる悠利。今回は防御魔法など無く、まともにダメージを負ってしまう。


「ハァ……ハァ……こっちも集中しねぇとな……でも、カジュスティン家の者が居たって……気になるな……」


「話をさせて、時間を稼ぐのがお前の目的か? ならば、もう話す事は無い」


 シェイドはそう言うと、剣を赤白く光らせて地面に突き刺そうとする。



「――まさか……!!」


 悠利はとっさに防御魔法を唱え、バリアを自分に纏わせる。そして、シェイドが剣を地面に刺すと、半径十メートル程の大爆発が起きる。

 地面を抉り、熱で土を焦がし、爆風で悠利はバリアを纏ったまま吹き飛ばされ、宙を舞う。

 一瞬でバリアにヒビが入り、地面に落下した瞬間に粉々に砕け散る。


「痛ぇ……防御魔法が意味ねぇとか……ありかよ……」


 それでも、致命傷は避けれた。バリアも無しにまともに喰らっていれば、体はバラバラに吹き飛んでいたであろう。


「さて、次の一撃で終わりかな?」


「ハァ……ハァ……終わらせねぇよ。まだあんたには、聞きてぇ事があるからな……カジュスティン家の者って誰だ?」


「それを教えた所でどうする? それを知った所でどうする?」


「あんたには関係のねぇ事だ。ただ俺にはその情報が必要なだけ。分かったら、知ってる事を全部吐いてくれるか? その気がねぇんなら、強引に聞くまでだけどな」


 そう言って、悠利は剣に青い雷を纏わせる。バチッと雷鳴を轟かせ、シェイドを睨んだ。



 ――ルシフェル家邸宅前では、卓斗とオルヴァが壮絶な殺陣を繰り広げていた。


「貴様、どうしてそこまでセレスタにこだわる? 貴様に関係の無い王族にこだわる?」


「セレスタは……俺らの大切な仲間だからだ!! 大事な友達だからだ!! 親父さんとお前がしようとしてる事は、セレスタは望んでねぇ。だから俺らは、それを止めてセレスタを傷付けさせねぇ!!」


 剣を交えながら卓斗はそう言葉にした。オルヴァもそんな卓斗をただ睨んでいる。

 オルヴァからしてみれば、家族の事情に口を挟まれる事に苛立ちが募っていく。

 親愛なる、尊敬する父親の考えを否定する卓斗に対して、殺意が湧いてくる。


「貴様……自分が世界の中心だとでも思っているのか? 虫唾が走るな」


「そっくりそのまま返してやるよ、その言葉。お前も、親父さんも自分の事しか考えてねぇ。セレスタの事なんか一ミリも考えてねぇだろ」


「考えているに決まっているだろ。あいつを王妃としての自覚を覚えさせる為に、父上も俺様も動いている。崇高なるルシフェル家の王妃であるセレスタが、貴様らの様な凡人と一緒に居るなど、言語両断。セレスタを王族の人間としての正しい道を、俺様は示している――」



「――それが間違いだって言ってんだよ!!」


 オルヴァの言葉を遮る様に、卓斗は叫んだ。オルヴァを強く睨み、その言い分に激昂した。


「王妃としての自覚だ? 王族の人間としての正しい道だ? ふざけんな!! そんなもん、親父さんとお前のレールをセレスタに押し付けてるだけだろ!! 王妃なのはセレスタだ、お前じゃねぇ。だから、王妃としての自覚を分かるのはセレスタだけなんだよ!! あいつが歩んでる正しい道から、お前らが逸らさせてんだよ!! それに気付けよ!! 父親なんだったら、兄貴なんだったら、セレスタの気持ちくらい分かってやれよ!! 何もかも全部、押し付けるんじゃなくて、あいつの気持ちも尊重してやれよ!!」



「――言いたい事はそれだけか?」


 怒鳴り散らした卓斗に対して、オルヴァはあくまでも冷静に対処する。


「セレスタの気持ちを尊重させたいのであれば、何故ここに来た? 俺様が副都の者を殺すと言った時、あいつはそれを止めた。恐らく、貴様らを傷付けさせたくなかったんだろうな。だが、貴様らはこうして、俺様達に立ちはだかった。その意味が分かるか? 一つ忠告しておく。貴様らは父上の事も、俺様の事も、オルダン騎士団の事も甘く見過ぎている。誰か一人でも傷付き、もしくは死ねば、セレスタはどう思う?」


 オルヴァからの言葉に、卓斗の脳裏にはセラとイグニールの姿が思い浮かんだ。

 自分の中の、一番の不安要素だ。セラを信じていない訳では無いが、相手が悪過ぎる。


「今頃、誰か死んでいるかもな」


「――っ!?」


 その言葉に、より一層不安が増した卓斗。A班の状況も早急に確認がしたい。

 だがそれを、オルヴァが許さない。こうして、邪魔をされているならば、自分も邪魔をする。


「そして、貴様もここで死ぬ。セレスタの為を思っての行動を起こした貴様らだが、余計にセレスタを傷付ける事になるとはな」


 オルヴァはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。卓斗は、自分の中の一番の不安と心配が、的中しない様に願うしかなかった。






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