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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第60話 『信じる』


 セレスタ救出作戦が遂に開始された。セレスタとシルヴァの説得を担当するB班である、卓斗、エレナ、エシリア。

 ルシフェル家邸宅の敷地内に入った瞬間、オルヴァが立ち塞がった。


「どうやら貴様らは、死にたい様だな。今日という日に、ここに来た事を後悔しろ」


「後悔もクソもねぇよ!! セレスタはどこに居る!!」


「貴様に話す事は無い。――いや、貴様らは確か……カルナが殺した筈では……」


 卓斗達が死んだ事にされていた事を、オルヴァが気付き始めた。その事を知っているのは、シルヴァとセレスタとカルナだけの筈だが、やはり兄であるオルヴァにも情報はいっていた様だ。

 卓斗は話を逸らす様に、剣を抜いてオルヴァに切りかかった。とっさにオルヴァも剣を抜き、それを防ぐ。


「悪りぃけど、まだ早いんだよな……その話すんのは!!」


「しくじっていたのか、カルナの奴。後で殺してやる」


 だが、ここでオルヴァと戦闘を行うのも危険だ。シルヴァに見られでもしたら、説得どころでは無くなる。


「エレナ、エシリア!! 先に行って話をしてきてくれ!! セレスタの兄貴は俺がここで食い止める!!」


「分かったわ!! エシリア、行くわよ」


 エレナとエシリアは走り出す。だが、横を通り過ぎる瞬間にオルヴァが卓斗の剣を弾き、エレナに切りかかる。


「三人共、ここが死に場所だ!!」


「させっかよ!!」


 卓斗はエレナとエシリアの方向に手を翳す。すると、オルヴァの剣先がエレナに触れようとした瞬間、エレナとエシリアが背中から風に押される様にスピードを増し、オルヴァの剣は空を切った。

 ――否、卓斗が『斥力』の力でエレナとエシリアの背中を押したのだ。


「今のは……何が起きた?」


 エレナとエシリアは、押された勢いで転びそうになるのを堪えながら体勢を整え、ルシフェル家邸宅の中へと入って行く。

 オルヴァは静かに卓斗の方へと視線を移し、殺意を込めて睨んだ。


「貴様の仕業か? 何をした?」


「へっ、言うかよ。手の内を簡単に明かす様な馬鹿と一緒にすんな」


「まぁいい。直ぐに貴様を殺してやる」



 ――ルシフェル家邸宅の家の中を走るエレナとエシリア。目指す場所は、シルヴァの部屋だ。


「はぁ、はぁ……シルヴァさんの部屋って、どこか分かる?」


「えっと、確か正面の玄関の近くだった筈です……!! あ、これかも!!」


 エシリアが勢い良くドアを開ける。息を切らしながら、部屋の中へと入り、辺りを見渡すとそこには、


「エレナ様と……エシリア様?」


「あ……セレスタのお母様……」


 その部屋に居たのは、セレスタの母親のセレナだった。部屋は間違いだった様だ。


「貴方達は、死んだと聞いていたけど……」


「これには……事情が……」


 非常にマズイ状況にエレナは焦る。シルヴァより先に生きている事がバレてしまうと、カルナの身も危険になる。


「そう……カルナが……本当に、セレスタ思いな子ね」


「え……?」


 だが、セレナの表情は豊かで笑みを浮かべていた。殺気など微塵も無く、どこか喜んでいる様にも見えた。


「貴方達は、セレスタを救いにここに?」


「うん。セレスタとルシフェル家を救う為に」


 エレナの言葉に、セレナは目を見開いて驚いた。セレスタだけでは無く、ルシフェル家までも救おうとしている事に。

 しかもそれが、王族であるカジュスティン家とエイブリー家の王妃がしようとしている事が特に驚かされた。


「私は、貴方達の味方よ? どんな事があっても、セレスタの味方。そのお友達だから、貴方達の味方でもある。貴方達に託していいかしら、セレスタの事を、ルシフェル家の事を」


「当たり前よ。必ず、説得してみせるから」


「あの、セレスタちゃんのお母様……セレスタちゃんは今どこに居ますか?」


「今は、シルヴァさんの部屋に居ると思うわ。場所、教えてあげる」


 セレナはそう言って、二人にシルヴァの部屋の場所を教える。と言っても、セレナの部屋から斜め左前の扉がシルヴァの部屋だったが。


「いい? エシリア。ここからが、本当の勝負よ」


「はい……!! 必ず、成功させましょう」


 エレナは、シルヴァの部屋のドアノブに手を掛けた。作戦が始まったのは、B班だけでは無い。



 ――A班も、既にオルダン騎士団のメンバーと睨み合っていた。


「ここは通さないだ? おい、セラ。俺らが王都に用があるって何で知ってんだ? あぁ?」


「ルシフェル家の中に、裏切り者が居る……という事か。シェイドさん、目星はあるか?」


「シルヴァ様、オルヴァ様の二人は絶対にありえない。ゲオの言った通り、裏切り者が居るとすれば考えられるのは、セレスタ様かセレナ様か、シルヴァ様の側近のカルナという女か」


 極秘であるシルヴァの計画を、セラ達が知っている。となると、ルシフェル家に裏切り者が居る。

 それは、簡単に想像がつく事だ。だが、計画は中止には出来ない。シルヴァから連絡が無い以上、計画は実行しなければならない。


「シナハ達、裏切られたの? 計画は失敗?」


「いいや、計画は強行だ。裏切り者が居たとしても、このまま王都に攻め込んで暴れりゃいいんだよ。その内、ルシフェル家がやりてぇ事すんだろ。要するに、裏切り者が居た所で変わらねぇんだよ」


「イグニールがそう言うなら、シナハも強行する。まずは、目の前の五人を殺せばいい? それとも、意識は保たせて拘束して、親元を暴かせて、そっちも潰す?」


 シナハは、腰に携えていた剣の赤色の柄に手を置く。その瞬間、地面にヒビが入る程の殺気を放つ。


「そうだな……親元って、結局副都に辿り着くんだろ? だったらもう、ここで殺そうや。副都なんざ、後でいくらでも潰せるからよ。覚悟はいいか、セラ」


「貴方と殺し合いなんて、この神器を争奪した時以来ね。あの時と一緒で、今回も私が勝つから」


「あん時は邪魔が入ったからノーカンだ。あのままやってたら俺が勝って、オメェが死んでたんだよ」


 二人は睨み合ったまま、ゆっくりと場所を移動する。言わなくても、セラとイグニールが戦う流れになっていた。


「シェイド、セラは俺がやる。邪魔すんじゃねぇぞ」


「好きにしろ。取り敢えず、早急にこの者達を排除して王都へ向かう」


 すると、今度は繭歌が剣を抜いてシナハの方へと向けた。向けられたシナハは、ジト目で繭歌を見つめる。


「君がシナハだよね。自分の事、シナハって言ってたからさ。I.Q二百以上って本当? 怜悧で聡慧な人だと聞いていたけど、その見た目からは想像出来ないね」


「お前、誰? シナハと勝負したい? シナハが怜悧で聡慧?」


 首を右に左に傾げながら、無表情でそう話すシナハ。イグニールとセラが流れで決まった様に、繭歌とシナハも流れで戦うと決まった。


「なら、お前は俺が相手しよう」


 レディカに向かって話したのは、ゲオ・ウェインだ。ゲオは背中に携えていた弓を取り出す。


「へぇ、あんたって弓使いなんだ。私もなのよね」


 レディカも弓を取り出し、二人は睨み合う。弓使い同士の対決も決まった様だ。


「んじゃ、残った俺らで勝負って事だな。お爺さんだからって容赦はしねぇからな」


「その様だな。こちらも、未熟な若者だからと言って容赦はしない」


 悠利とシェイドの対決も決まり、この場には緊張感と殺気が溢れていた。


 ――その頃、悠利達A班と卓斗達B班の無事を願って副都で待つ李衣達も、緊張した面持ちで居た。


「皆、頑張ってね……」


 李衣は教室の窓から外を眺めて、そう呟いた。卓斗、悠利、繭歌、三葉がセレスタ救出作戦に行ってる事が、とても心配な様だ。

 そんな李衣に、蓮が声を掛けた。


「天宮さん、越智達の事が心配?」


「蓮くん……うん、心配だよ。卓斗くんと悠利くんも、戦えるのは知ってるけど、やっぱり心配だよね……繭歌と三葉だって……何かあったら……」


 以前、三葉が神王獣に襲われたセラを庇って、瀕死の状態になった時も李衣は涙が枯れる程泣いていた。

 幼馴染だからこそ、ずっと見てきたからこそ余計に心配なのだ。


「私達ってさ、普通のどこにでも居る様なただの高校生だったのにさ、どうしてこんな事になっちゃったんだろ……私があの日、夜景を見に行こうなんか言わなければ、こんな事にはならなかったのかな……今頃も、連休とか体育祭とか文化祭とか、高校生活を楽しんでたのかな……皆のお母さんやお父さん、兄弟とかも心配してるよね……」


「天宮さんの所為じゃ無いよ。あの日、夜景を見に行ってなかったとしても、いずれはどっかのタイミングで、この世界に来てたと、僕は思うよ。それに、この世界に来た事が間違いだとは思わない。越智も言ってたけど、この世界で見たもの、会った人達、その全てが嫌だった訳じゃ無い……天宮さんも好きでしょ、副都の皆が。だからこうして、セレスタさんを救おうとしてる。僕達はここで待ってるだけだけど。確かに、高校生活も楽しいかも知れない。でも、他の誰も経験出来ない事を、僕達は経験してる。いずれ、日本に帰った時に、この世界での思い出を笑って話せる様に、今この瞬間を楽しまなきゃ損だと思う。だって、僕達はこの世界の事が好きになってるから……って、越智ならこう言うかな?」


「蓮くん……」


 卓斗だけでは無く、蓮や李衣もこの世界が好きだった。日本には無い様な、美しい自然や街並み、ここで出会った色んな人達の事が。


「いつ日本に帰れるかは分からないけど、それまで楽しもうよ。皆で見て行こう、この世界を。越智達なら大丈夫。こんな簡単に物語を終わらせる様な人じゃ無いって、僕が二人の事を一番分かってるから。天宮さんも一緒だよね? 楠本さんと東雲さんの二人の事」


 優しい声で話す蓮に、李衣も優しく微笑んで頷いた。待つ者には、信じて待つ事しか出来ない。

 ある意味、待つ方もしんどいのかも知れない。もちろん、死と隣り合わせで戦う方が辛い。でも、仲間の無事をドキドキしながら待つ方も結構辛い事だ。


「私は、皆を信じてる。繭歌と三葉を信じてる。役には立ってないかも知れないけど、私が出来る事は信じる事しか無いから……」


「うん、僕もそれしか出来る事が無い。でも、越智達だって誰かに信じて貰わなければ、力を発揮出来ないかも知れないからね。僕達は、そういう所でバックアップしなくちゃね」


 李衣は蓮に対して感心していた。普段、二人きりで話す事の無い組み合わせで、蓮の考えなどを初めて聞いて、卓斗達への想いや優しさが伝わってきた。

 口数が少なく、少しジト目で無表情な蓮は「怖い人」というイメージを与えがちだが、こうして話せば「良い人」というのがわかった。

 その事が、李衣は嬉しかった。一緒にこの世界に来た六人の距離が縮まっていく感覚が、繋がりが結ばれる感覚が嬉しかった。



 ――そんな蓮と李衣の信じる力を背に、卓斗はオルヴァと剣を交えて睨み合っていた。


「お前、セレスタの兄貴なら、こんな事に巻き込むなよ。父親にこんな事するなって、ちゃんと言えよ。言いなりにばっかなってんじゃねぇよ」


「貴様、これから何が起きるのか知っているのか? なら、何故知っている?」


「俺らは、それを止めに来た!! セレスタを巻き込ませない為に、ルシフェル家を王都の敵に回させない為に!!」


 オルヴァが剣に力を込めて振り払うと、卓斗は力に押されて後退りをする。


「質問に答えろ。誰に聞いた? セレスタか? カルナか?」


「言わねぇよ、バーカ!! お前みたいな兄貴、兄でも何でもねぇよ。妹の事を大事に出来ない馬鹿兄貴なんか、兄貴って呼ばねぇんだよ!!」


 卓斗の脳裏には、妹である結衣の姿が思い浮かんでいた。きっと、結衣も自分の事を心配しているであろう。

 この世界に飛ばされて半年が経ち、ずっと連絡も取れない状況だけが、気掛かりだった。

 だが、オルヴァは違う。セレスタと一生連絡が取れなくても、死んだとしても、何とも思わない。

 実の妹に対して、本気で殺すと言えるオルヴァが、卓斗はどうしても許せなかった。


「貴様に、俺様の事を語る資格も権利も無い。それ以上、言葉を慎まないと言うのであれば、本気で貴様を殺す」


「上等だ、馬鹿野郎!! お前は、セレスタの兄貴の資格も権利もねぇ!! 一発ぶん殴って、目ぇ覚まさせてやる!!」


 卓斗は勢いよく走り出し、剣を振りかざす。オルヴァはそれを簡単に上に弾くと、卓斗の腹部に足底を当てて、蹴り飛ばす。


「威勢の割には、力が無いな。話にならん。そんな事で、セレスタを救うなどとほざくのか。反吐が出る」


「お前の方こそ、蹴りに全然力が入ってねぇぞ。痛くも痒くもねぇんだよ」


 二人は同時に走り出し、再び剣を交えながら睨み合う。



 ――エレナとエシリアは、シルヴァの部屋の扉を勢い良く開けて、中へと入る。

 辺りを見渡すと、シルヴァが椅子に腰掛けてエレナとエシリアをジッと見つめていた。

 その隣では、セレスタがボーッと下を向いたまま立っている。エレナとエシリアが入って来た事に気付いていない様だ。

 その隣には、カルナが立っていてエレナとエシリアと視線を合わせるなり、静かに頷いてアイコンタクトを取る。



「――セレスタ!!」


 エレナが叫び、セレスタが顔を上げる。死んだと聞かされていた筈の二人の姿が、セレスタの瞳に映る。


「エレナ……エシリア……?」


「あんたを助けに来たの!! 皆で!!」


 エレナの言葉に、セレスタは何も言葉が出てこない。ただ静かに涙を流していた。


「カルナ、どういう事だ?」


 一際低い声で、殺気を込めてシルヴァがそう話した。すると、カルナはエレナ達とシルヴァの間に移動し、シルヴァの方を向いて、


「私は、シルヴァ様の計画に反対です。セレスタ様……、――セレスタを巻き込まないで下さい。ルシフェル家が堕ちる様な事は絶対にさせません」


 カルナの横にエレナとエシリアも立ち並び、強い眼差しでシルヴァを見つめる。


「これより私は、シルヴァ様に対して謀反を起こします。どうか、話し合いで事が進む事を願いますが……セレスタ、貴方もこっちに来て。エレナちゃんとエシリアちゃんを信じているのであれば、分かるでしょ?」


「セレスタ!!」


「セレスタちゃん!!」


 エレナとエシリアは手を伸ばして、セレスタの言葉を待つ。セレスタは溢れる涙を流したまま、



「――私は……」






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