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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第58話 『作戦会議』


 卓斗達は、明日行われるシルヴァの計画の情報を得た。だが、オルダン騎士団に、『大罪騎士団』の『暴食』を司る、イグニール・ランヴェルが居る事も判明した。


 魔水晶を通してカルナと会話をしている卓斗達。情報を得たのならば、後は作戦を考えるだけだ。


「作戦、どーすっかな……イグニールが居るとなると、オルダン騎士団との戦闘は確実か……セレスタの親父さんの方は言葉で説得に掛かるとして……問題は、誰がオルダン騎士団の襲撃を防ぐかだな」


《私が戦ってもいいけど》


 そう話したのは、魔水晶越のカルナだ。カルナの戦闘力なら、イグニールを何とか出来るかも知れない。だが、


「いや、カルナさんには、セレスタの親父さんの方に行って貰おうと思ってる。俺としては、カルナさんは説得の切り札になると思ってっからさ。それで、エレナとエシリアも説得の方に回った方がいい……仮で、B班とするか。カルナさん、エレナ、エシリアはセレスタ救出作戦のB班。オルダン騎士団の足止めが、A班。だとすると、A班には誰が最適か……残りの全員でA班だとしても、戦闘向きじゃねぇ人が危険だよな……相手は四人、少なくとも四人は欲しい……か」


 頭を抱えて悩む卓斗。オルダン騎士団との戦闘には、それなりの戦闘力を持っていないと対抗出来ない。

 今、卓斗が思い浮かんだオルダン騎士団とまともに戦える人物は一人。――否、セラだ。


「セラ、迷惑かも知れねぇけど、オルダン騎士団の足止めの方、お願いしていいか?」


「迷惑? 女々男は私が仲間を助ける為に戦う事を迷惑だと思うと思ってるの? だったら、愚問。私の方から立候補させて貰う」


 大切な仲間を守る為、救う為なら誰とでも戦う。それが、今のセラの考えだ。

 独りよがりに、孤高に生きていたのはもう昔の話。セラには大切だと、大事だと思える仲間が居る。


「セラ……ありがとう。俺もA班の方に回る。イグニールは俺が相手する。後二人だな」


「だったら、俺もA班に参加しようかな」


 そう言ったのは、悠利だ。戦闘力なら卓斗とほぼ同格で、足止めくらいは出来るだろう。


「悠利、頼めるか?」


「当たり前だろ。お前が頑張ってんのに、何もしないって幼馴染として失格だろ。俺も戦う」


「なら、私も参加するわ」


 悠利に続いて参加を表明したのは、レディカだ。レディカも、戦闘力に関しては申し分無い。


「レディカ!! いいのか?」


「私も、ユウリと同じ考えかな。セラが戦うって言ってんのに、私は戦わないって言える訳無いじゃん。だから、私も戦う」


 良き友であり、ライバルであるセラが戦うなら、自分も参加する。ライバルに負ける訳にはいかない。それが、今のレディカの考えだ。

 以前までのレディカなら、大嫌いだったセラが参加するなら、自分の方が強いと証明する為に参加を表明していたであろう。

 だが、今のレディカは友であるセラと共に戦いたいと思って参加を表明した。副都に入って半年、二人には確かな変化が生じていた。


「これで四人。後は……三葉、お前もA班に参加して貰っていいか? 戦ってくれって訳じゃなくて、治癒魔法が使える三葉には、近くに居て欲しいんだ」


「うん!! 私が皆をバックアップする!!」


「ありがとう。これで、大体は決まったか。後は、B班を増やすか……」


 オルダン騎士団との戦闘が予想されるA班のメンバーが決まった。卓斗、セラ、悠利、レディカ、三葉の五人。

 だが、メンバーが決まったのにも関わらず、一人の人物が参加を表明した。


「越智くん。僕も参加するよ」


 それは、三葉の隣に座っていた繭歌だ。繭歌も戦闘力なら十分にある。


「繭歌? お前も参加してくれるのか?」


 ここで、卓斗はイグニールとの戦闘を二対一で戦えると脳裏に過る。――だが、


「越智くんは、説得の方に回って。セレスタと親父さんの説得には、越智くんとエレナとエシリアが最適だと思うからさ。足止めくらいなら僕にも出来ると思うから」


「でも、誰がイグニールと戦うんだ? あいつはマジで……」



「――私が戦う」


 イグニールとの戦闘に名乗り出たのはセラだ。かつてはオルダン騎士団で共にし、戦った事もある。


「セラ……」


「私なら、イグニールとは互角に戦えると思う。でも、長期戦になればキツイ……説得は早急に済ませる様に」


《そうね。私としても、タクトくんには説得に回って貰いたい。貴方なら、シルヴァ様の考えを変える事が出来るかも知れない》


 それでも、イグニールと戦わせるのは危険だ。もしセラに何かあれば、セレスタを救えたとしても意味がない。


「でも……」


「昨日、女々男は言った。女々男の知り合いの中で一番強いのは私だと。頼りにしていると。私も言った筈、女々男の力になるって。だから、私を信じて」


 セラの真剣な表情を見て、卓斗は信じる事を決めた。セラに何かある前に、シルヴァとの話し合いを決着させればいい。


「分かった。くれぐれも気を付けろよ。そうなると、残りのメンバーだな……どうするか」


「仲間を信じて待つ、というのも一つの仕事だ。残りのメンバーは、A班とB班の無事を祈って待つ。それでいいんじゃないか?」


 そう言ったのはステファだ。残りのメンバーは、戦闘にはあまり向かないタイプばかりで、この作戦には参加させ様にも出来ない。

 なら、ステファの言った通り副都で、皆を信じて待つしか無いのかも知れない。


《可能性の話だけど、副都にも危険が無い訳じゃ無い。シルヴァ様が念を押されていれば、副都も襲撃される可能性だってある。だから、副都にもそれなりの戦力は必要よ》


「そっか……その可能性もあるのか……一応、A班B班以外のメンバーは……」


 作戦に参加せず副都で待つのは、蓮、李衣、恵、オルフ、マクス、オッジ、ケイト、レフェリカ、サーラの九人だ。

 この中でもギリギリ戦えるのは、李衣、オッジ、レフェリカ、サーラの四人。

 それでも戦闘力は低い方で、仮にイグニールが副都に攻め込んだとすれば、壊滅の危機もある。


「安心しろ、副都には私もオルドも居る。副都に何かあれば、私達も全力で戦う」


 ステファの言葉に一安心する卓斗。確かに、教官であるステファとオルドが居れば、戦力としては十分だ。


「分かった。じゃあ、副都で待機するメンバーをC班として、戦闘になる可能性もあるから、準備だけはしててくれ。作戦は大体決まったな。まず、A班とB班が王都へ向かう。A班は王都の正面から一キロ圏内で待機、極力聖騎士団には気付かれない様にしてくれ。B班はルシフェル家へ向かう。A班がオルダン騎士団の足止めをしている間に、B班はセレスタとセレスタの親父さんの説得。説得でき次第、親父さんにオルダン騎士団の撤退を頼む。C班は副都で待機。これで行こう!!」


《分かったわ。オルダン騎士団が副都を襲撃するのは、明日の正午。つまり、作戦開始は明日の正午って事ね》


「あぁ、絶対にセレスタを救うぞ!! ルシフェル家を王都の敵にも回させねぇ!! A班も無茶だけはしないでくれ。最悪、本当にヤバかったら聖騎士団を呼んでもいいと思うから。あまり、大事にはしたくねぇけど。俺も出来るだけ早く、親父さんを説得してみせるからさ、絶対に成功させるぞ!!」


 卓斗達の作戦は決まった。後は成功する事を願うしか無い。



 ――ルシフェル家邸宅でも、明日行われる作戦に緊張が走っていた。


「では明日、その段取りで王都を襲撃します。うちには、イグニールというかなりの強者が居ますから、聖騎士団など相手にもなりませんよ」


 シルヴァの部屋でそう話すのは、オルダン騎士団の団長を務めるシェイド・ウルバスだ。


「そうか、なら頼んだぞ。タイミングを見計らって俺らも背後から聖騎士団を叩く。その次は、国王のウォルグを叩き、王都は俺の物だ」


 シルヴァは不敵な笑みを浮かべていた。罪を犯す事に、何の躊躇いも無いその笑みにシェイドは思わず息を呑んだ。

 すると、卓斗達との作戦会議を終えたカルナがシルヴァの部屋に戻ってくる。


「戻ったか、カルナ。セレスタの様子はどうだ?」


「はい、今の所まだ気持ちに整理が付いていない状態です。特に私には、一切口を聞いてくれませんでしたし、しばらく時間が掛かるかと」


 カルナとしても、とても辛い事だった。明日の作戦の為とは言え、卓斗達を死んだと思い込んでいるセレスタの気持ちは、複雑で残酷な物だった。

 かつてはお姉さんの様な存在だったカルナが、自分の大切な友を殺めたと聞いた時は、それはショックだったであろう。

 だが、辛いのはカルナも同じで、ショックを受けているセレスタを見ていられなかった。

 でも、それも明日の正午の作戦開始までの辛抱だ。


「カルナ、お前にも明日の作戦、期待しているぞ。ノルマは、聖騎士団の隊長格を二人殺す事だ。シェイド達も居るから、楽な任務だろう? グレコも居ないからな。注意すべき人物は、アカサキだけだろうな」


 聖騎士団の隊長は全員で四人。グレコ不在の聖騎士団となら、戦力差も然程変わらない。


「大丈夫ですよ。私は、私の出来る事をするまでですから。では、私は失礼します。また明日に」


 そう言ってカルナはシルヴァの部屋を出る。あまりシルヴァと一緒に居ると、どこかでボロが出て卓斗達との作戦に気付かれ兼ねない。

 なるべく、今は一人の時間を作って乗り越えるしかないのだ。だがその時、



「――セレスタ……」


 シルヴァの部屋を後にしたカルナの前に、セレスタが立っていた。無気力に立って、無表情でセレスタはカルナを見つめていた。


「カルナさん……本当に……本当に、エレナ達は……」


 弱々しく震える声でセレスタはカルナに話し掛けた。セレスタの声を聞く度に、カルナは胸が痛む。


「セレスタ、今、私が言える事は何も無い……でも、セレスタの友達は、皆いい人ね」


「いい人……? 殺しておいて、いい人って言うのか……?」


「――――」


 カルナは何も答えない。答えられないのだ。ただ黙って、セレスタの言葉を聞くしか出来ない。


「父上からの命令だから、実行したのか? 私の友達だと分かってて、殺したのか!? 私がどんな気持ちで、エレナ達を突き離したと思ってるんだ!! どんな気持ちで……!!」


「――――」


「やっと……やっと六年前の過ちを正せたのに……今回の件で、またエレナ達を裏切って……謝る事も出来ないまま、もう会えないなんて……何で……何で、私に言ってくれなかったんだ!!」


「――――」


「何で……何も相談してくれなかったんだ……!! それは、カルナさんはもう、私の世話役じゃ無いからか!? 父上の側近だからか!?」


「――――」


「カルナさんは言ってた……自分はルシフェル家に仕える身だって……!! 私もルシフェル家の人間だ!! 今のカルナさんは、父上の言う事しか聞かない!! 私だって、ルシフェル家の王妃なのに……!! なのに……何で……私の大切な友を殺したんだ……!!」


「――――」


「王妃である私の……私の言葉は聞けないのか!? カルナさんにとっては、父上が全てなのか!? そうなんだとしたら……失望した……」


 全てを言い切って、息を切らしながらセレスタは激昂した。目には涙を浮かべて、真っ直ぐにカルナを見つめながら。

 カルナは視線を逸らす事無く、セレスタの言葉を最後まで聞いて、


「言いたい事は全部言いましたか? だったら、私も言わせて貰います。失望したのは私も同じです」


「――っ!?」


「私に、シルヴァ様が全てなのかと聞くならば、私も聞かせて貰います。セレスタ様は、何故エレナちゃん達を突き離したんですか? それも、シルヴァ様に逆らえないからじゃ無いんですか?」


「――――」


 今度は先程の逆で、セレスタが黙ったままカルナの言葉を聞いている。


「セレスタ様こそ、シルヴァ様に逆らえないのに、私にその様な言葉を言い放つのは、どうかと思いますが。セレスタ様の本心はどうなんですか? エレナちゃん達と一緒に居たいんですか? 副都に戻りたいんですか?」


「――――」


「その事を、エレナちゃん達に伝えたのですか? 本当の事も言えずに、突き離す事しか出来なかったのは、セレスタ様が無力だからなんじゃ無いんですか? どうでも良かったからじゃ無いんですか? 大切な友だと言う割には、セレスタ様はエレナちゃん達を信じていません」


「――――」


「信じているのなら、何故シルヴァ様に逆らわなかったんですか?」


「逆らえば……エレナ達は殺されてた……!! だから、突き離したんだ!! なのに……何故……」


「それが間違いなんです。エレナちゃん達の事が、本当に大切なら何故相談しなかったんですか? 力にはなれないと決めつけてたからじゃ無いんですか? それは、信じていない証拠です」


「今更……エレナ達を信じろと言われても……もう遅い……会う事も、伝える事も……叶わないんだ……」


「明日、ルシフェル家の歴史が変わります。セレスタ様がどうすべきなのか、よく考えて下さい。もう一度いいますよ? ――セレスタ様のお友達は、皆いい人です」


 カルナはそう言って、自分の部屋へと戻っていく。最後のカルナの意味深な言葉にセレスタは、


「私は……カルナさんが、分からない……悩んでも悩んでも、答えは出ない……どうすれば……正解だったんだ……」


 だがその声は、カルナに聞こえる事は無く。二人の距離は遠退いていく。



 ――そして、翌日。遂に、シルヴァの計画が実行される日を迎える。それと同時に、卓斗達のセレスタ救出作戦も始まる。

 副都の入り口前に、全員が集まって居た。緊張した面持ちでステファの言葉を待っていた。


「いよいよ今日だ。もう一度言う。お前達の卒団試験は、セレスタを副都へ連れ戻す事!! 失敗は許されない!! 王都の、ルシフェル家の歴史に関わる事だからな。健闘を祈ってる」


 ステファの力強い言葉に、全員が頷いた。セレスタとシルヴァの説得を担うB班の卓斗達と、オルダン騎士団の足止めを担うA班のセラ達と、副都で待機する李衣達の気持ちは一つだ。


「絶対にこの作戦は成功させるぞ!! セレスタを絶対に連れ戻す!! よし、行こう!!」


 卓斗達は、円陣を組んで気合いを入れて王都へと向かった。





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