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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第57話 『厄介な相手』


 卓斗達はセレスタを救うべく、作戦を考えていた。シルヴァの束縛から解放させる為、ルシフェル家を悪の道に染めさせない為に卓斗達は、王族と戦うと決めた。

 戦い方は色々とあるが、極力戦闘は避けたい所だ。出来れば話し合いで決着が付けばいいが、一つ問題があった。

 それは、シルヴァが協定を結んだオルダン騎士団に、『大罪騎士団』のメンバーの一人、『暴食』を司る、イグニール・ランヴェルがいる事だ。


 セラが居た頃の話だから、現在は抜けて『大罪騎士団』だけの所属だといいが、掛け持ちをしている可能性もある。

 そうなると、卓斗達は非常にマズイ状況となる。なにせ、イグニールは『大罪騎士団』のメンバー。

 卓斗達と二度に渡って戦闘を繰り広げた、ヴァルキリア・シンフェルドとセルケト・ランイース。

 この二人の強さは、重々に知らされた。そして、『強欲』を司る、ケプリ・アレギウス。

 この人物もかなり危険人物だと知っている。シフル大迷宮での邂逅の際に、ヴァリがケプリの能力の被害に遭っている。

 ヴァリ曰く、五感を支配するという相当タチが悪い能力だとの事だ。


 そんなメンバーを要する『大罪騎士団』のイグニールも、絶対的に危険人物な事は分かりきっている。


「イグニールか……クソ……これが俗に言う、世間が狭いって奴かよ……」


「どうして、卓斗くんはその人を知っているの?」


 三葉からのいきなりの質問に、卓斗は思わず焦った。当然、四都祭の本戦に出て居ない者達からしたら、イグニールの事なんて知る筈も無い。

 セラの様に、何らかの関係性が無い限り。そして、『大罪騎士団』の事は、まだ三葉達に知られる訳にもいかない。

 いずれは話さないといけないが、世界が終焉へと導かれるなどと知ったら、混乱するのは目に見えている。

 今、そういった状況になるのは避けなければならない。


「あー、ちょっとな……四都祭の時に聞いただけで……」


「ふーん」


 三葉は何の疑いも無く、卓斗の言葉を信じた。他の者も信じてはいるが、一人疑いの目で見てる者が居た。


「何だよ、悠利」


「別に、何でもねぇよ。ただ、後で話があるからさ、付き合えよな」


 卓斗は、恐らく悠利には嘘がバレていると悟った。長年付き添った幼馴染だから、嘘を付く時の癖などは分かっている。目を瞑って静かに話を聞いている蓮も、恐らく嘘だと分かっているだろう。


「それで、作戦だけど」


 セラの言葉により、作戦会議が再スタートする。いつの間にかオルダン騎士団の話に逸れていったが、本来の目的はセレスタをどう救うかだ。


「それに関しても、カルナさんから連絡が来ない限り、進めねぇしな……」


 現状、卓斗達も作戦を考え様にもカルナからの連絡が来ない限り、決定案を出せない。


「しゃあねぇか、今日はもう寝て、明日連絡来るの待つか」


 卓斗達は一度解散して、各々の寮部屋へと戻りカルナからの連絡を待つ事にした。

 卓斗が部屋に戻ろうとすると、悠利が扉の前で待って居た。


「さっきの話、お前何か知ってんだろ? イグニールって奴の事とか。知ってるだけっての嘘だろ?」


「あぁ、やっぱり知ってるだけって事が嘘って分かったか」


 悠利に対して嘘がつけないと分かり、今後の生活でも支障が出ないか心配になる卓斗。

 いざ何かをとっさに嘘ついたとしても、この男には直ぐにバレてしまう。幼馴染とは恐ろしいものだ。


「そうだよ、悠利の言う通りイグニールとは会った事がある。イグニール一人にじゃ無くて、そいつの所属する大罪騎士団ってのに」


「大罪騎士団? 何だそれ」


「日本にもあるだろ? 七つの大罪って。それをモチーフにした様な組織だよ。『傲慢』とか『暴食』とか『怠惰』とかそれぞれ一人ずつがそれらを司ってる。イグニールってのは、『暴食』を司る奴で能力とかは知らねぇけど危険だってのは分かった。ちなみに、悠利がグラファス峠で戦ってた、ヴァルキリアとセルケトってのも、大罪騎士団のメンバーだ」


「あいつらもか……?」


 ヴァルキリアとセルケトと戦って、その強さを悠利も知っている。だからこそ、イグニールがオルダン騎士団に居る事に卓斗は驚いていたのだと悟った。


「大罪騎士団の奴らは、全員がやべぇ奴だ。能力が分かってんのは『強欲』だけだが、その集まりだからな。他の奴らもヤバイのは分かる」


「んで、そいつらと会ったってのは?」


「四都祭の本戦で、シフル大迷宮に行った時に、いきなり出会ったんだよ。どうも、シフル大迷宮は大罪騎士団のリーダーっぽい奴のアジトにも使用されてたらしくてな。その時に、イグニールってのもそこに居た。あいつら大罪騎士団の目的は、この世界を終焉へと導く事って言ってた」


「おい、それって……」


 以前、卓斗と悠利と蓮は副都の学校の屋上で話していた。世界を終焉へと導く者から、世界を救わなければならない宿命を授かっていると卓斗が話し、三葉と少し揉めた時の事だ。


「まだそいつらが、世界を終焉へと導く者って決まった訳じゃねぇけど、注意すべき奴らだって事は分かる」


「なるほど……それで、オルダン騎士団にセラちゃんの言ってたイグニールってのが居るとなると、状況がマズイって事か」


「あぁ、極力戦闘は避けたい所だけど、俺の予想ではオルダン騎士団とは戦闘になる可能性が高い。そうなると、イグニールが居たら大分と不利になる……下手すりゃ、こっちに死人がでちまうかもな。これは、もう少しセラにイグニールについて詳しく聞かねぇと」


「戦うってなったら、俺も力貸すからさ。俺だってセレスタちゃんと卒団したいし、お前がこの世界を救うって決めてんなら、俺もお前について行くからよ。一人で抱え込まないで、もっと俺らに頼れよ? こうして、一緒にこの世界に飛ばされたんだから、一緒に解決して行こうぜ」


 幼稚園の頃からずっと一緒な悠利の言葉は、頼もしかった。日本へ帰る方法も、この世界を救う事も、悠利が居てくれば解決出来そうな気がした。


「じゃあ、俺はちょっとセラの所に行ってくる」


「おう。じゃあまた明日な」


 卓斗はイグニールの事を詳しく知る必要があった。もし、戦闘になった時の傾向と対策は必須だ。

 イグニールが『大罪騎士団』に所属している限り、ただの強者という訳にはいかない。もし戦闘になった時に、死人を出さない為にも情報は聞いて置きたい所だ。


 セラの寮部屋へと向かい、扉をノックする。すると、レディカが扉から顔を出した。


「どうしたの、あんた。解散したんじゃ無いの?」


「あー、ちょっとセラに話があってさ。セラ居る?」


「ふーん。夜な夜な女の子に話があるだなんて、やましさ全開ね。ちょっと待ってて」


 そう言って、レディカはセラを呼びに戻る。すると、セラが軽蔑するような蔑む目をしながら扉から出て来る。

 恐らく、レディカが余計な事を言ったのだと、卓斗は悟った。


「こんな時間に何? レディカが言ってたけど、私に何かしたら殺すから」


「ちょっと待て、レディカが何て言ったかは大体予想付くけど、そんなんじゃねぇから!! 聞きたい事があってさ。ちょっといいか?」


 卓斗がそう言って歩き出すと、セラは首を傾げながら卓斗の後を追った。

 卓斗が向かった先は学校の屋上だ。ここなら、他の者に話を聞かれる事も無いと卓斗は考えた。


「何でわざわざこんな場所? やっぱり女々男、私に何かするつもり?」


「だから違ぇって!! イグニールの事を聞きたいんだよ!!」


 確かに、セラの服装はモコモコな寝巻きで短パンを履いている。綺麗な白い脚に、風で女の子のいい匂いがする。それに、セラも美少女だ。

 屋上で二人っきりと考えると、意識してしまって顔が赤くなりそうだ。でも、そんな事を考えている場合では無い。


「イグニールの事……何が聞きたいの?」


「うーん、詳しく聞きたい。セラが前に居たオルダン騎士団ではどんな奴だった?」


「さっきも言ったけれど、かなり厄介な男。剣技も魔法も、ただ強いだけじゃ無い。それに、喧嘩っ早くて素直に話を聞く様な男でも無いわ。人を殺す事に躊躇いも無い、極悪非道って所ね」


 やはり予想通りの男だった。『強欲』を司るケプリといい、『憤怒』を司るセルケトといい、相手を傷付けるのに躊躇わない。

 ましてや話を聞く様な人物で無いとなると、戦闘は避けて通れなくなる。


「クソ……厄介過ぎんだろ……こうなったら、今はオルダン騎士団に居ない事を願うしかねぇか……」


「何でそこまでイグニールの事を? 名前を知ってるだけと言ってたけれど」


「いつかはセラにも話そうと思ってるけど……いや、もう話すか。セラになら言っても大丈夫そうだしな」


 セラは不思議そうに首を傾げ、


「俺は、イグニールに会った事がある。でも、オルダン騎士団じゃなくて、大罪騎士団って所に居た。大罪騎士団は、この世界を終焉へと導こうとしてる。俺は、それを止める」


「世界を終焉に? それを、女々男が止める? 頭、大丈夫?」


 信憑性も何も無い事を、セラは簡単には信じれなかった。卓斗でさえ、大罪騎士団のハルの言葉を信じている訳では無い。

 だが、そう言っていた以上、放っておく事も出来ない。いずれはその時が来ると、フィオラは言っていた。

 その言葉を信じている訳では無いが、フィオラの言っていた事は、何故か真実味があった。


「イグニール達が本当に世界を終焉へと導こうとするかは分からねぇけど、いずれはその時が来る。簡単に言えば、俺はそれを止める為に、この世界に居るって言ってもいいかな。もしかしたら、俺が世界を終焉へと導くかも知れねぇ。そうなった時、セラには俺を殺してでも止めて欲しいんだ」


「――――」


 言葉だけを並べてみると、やはり信憑性など全く無く、馬鹿馬鹿しい話だ。

 だが、卓斗の表情を見ると嘘を言っている様にも思えない。何より信じれないのは、何故この男がその役目を請け負っているのかだ。


「仮に、その話が本当だとして、どうして女々男がその役目を? それに、女々男が世界を終焉へと導くとはどういう意味? 私に、殺してでも止めろというのも理解出来ない」


「俺の能力、黒のテラって言うんだけど、その力は『世界を終焉へと導く力』と『世界を終焉から救う力』に行き着くんだってさ。仮に、『世界を終焉へと導く力』に行き着いてしまった時、俺を殺してでも止めて欲しいんだ。俺は、この世界を滅ぼしたく無いから……セラなら、俺を止めれる筈だしな」


「どうして、私が?」


 セラには分からない。何故、卓斗が自分を頼ってくるのかが。悪い気はしないが、そういう役目は他にも請け負う人が居る筈だ。


「俺の知ってる仲良い奴の中で、セラが一番強いと思ってるしな。俺が誰かを傷付け様とした時に、セラが皆を守って欲しいんだ。もちろん、セラも傷付かない様にしてくれよ?」


 自分の事を、大切な仲間の一人として見られている事に、セラは驚いた。


「まず第一に、女々男が『世界を終焉へと導く力』に行き着かない様に、努力すればいい話だと思うけれど? でも、そうなった時は、遠慮無く殺してあげるから覚悟して」


「あぁ!! 頼りにしてるぜ、セラ。でも、絶対に『世界を終焉から救う力』に行き着いてみせる。そんで、セラも皆も俺が守るからさ」


「女々男が私を守る?」


「そう。確かに、強いのはセラの方かも知れねぇ。でも、男は女を守る為に存在するんだよ。って、父ちゃんが言ってたな。だから、セラも女の子なんだから、強さとかじゃ無くて俺に守られろよ?」


 その言葉に思わず顔を赤らめてしまった。異性にその様な言葉を言われたのは生まれて初めてで、不覚にも胸がドキドキしてしまった。


「生憎だけど、私は女々男に守られる様な女じゃ無い。私を守りたかったら、私より強くなるしかないから」


 そう言ってセラは異性に感じる不思議な気持ちに、戸惑いながら笑顔を見せた。

 これは悪い気持ちでも無く、どこか心地いい気持ちで胸が高まる感覚だ。


「夜遅くに悪かったな。多分、明日には作戦を決めれると思うから、イグニールについてはまた聞くかも知れねぇけど」


「大丈夫。セレスタは必ず助ける。私も、女々男の力になるから」


 卓斗はセラのその言葉が嬉しかった。以前までのセラなら、協力もしてくれなかっただろう。

 だが、今のセラは仲間を仲間と思えている。その事が何より、嬉しかった。



 ――夜が明け、卓斗達は教室に集まり、カルナからの連絡を待っていた。

 卓斗は魔水晶を机の上に置き、ジッと見つめたまま動かない。他の皆も、今か今かと待っている。


「カルナさんから連絡来ないわね。まさか、ああやって言っておいて、私達を裏切ったんじゃない?」


「いや、それはねぇよ。俺はカルナさんに信じていいのか聞いて、カルナさんは大丈夫だと答えた。なら、信じて待つしか無いだろ」


 だが、それからいくら待ってもカルナからの連絡は来ない。卓斗達が教室に集まって、既に二時間が経とうとしていた。

 脳裏に過るのは、最悪のケースだ。それは、カルナの裏切り。そうだとしても、カルナがこちら側を裏切る意味が理解出来ない。


「カルナさん……何してんだよ……」



 ――その時、魔水晶が薄く光だし、反応を見せた。


「カルナさんか!?」


《ごめん、連絡が遅れた。明日行われる計画の情報を得たわ。今から話す》


 携帯の電話のスピーカーの様に、全員にカルナの声が聞こえる。取り敢えず、カルナからの連絡が来た事に卓斗達は安堵した。


「あー、良かった。連絡が来ないかと思って焦ったぞ……取り敢えず、話してくれ」


《計画の会議がさっき終わったからね。私が貴方達を裏切る筈が無いじゃない。それは、セレスタを裏切る事にもなるから。それで、計画の事だけど、実行されるのは明日の正午。聖騎士団の総隊長の不在を狙った時間帯よ。そして、オルダン騎士団が四人で正面から王都を襲撃し、タイミングを見計らって背後からルシフェル家が聖騎士団を叩く。これが、シルヴァ様の計画よ。聖騎士団を崩せば、王都が陥落するのと同じだからね》


「セレスタの親父さんは、本気でそんな事を……それで、オルダン騎士団の四人って、誰だか分かるか?」


 卓斗が確認したいのは、オルダン騎士団の中にイグニールが存在しているかどうかだ。


《分かるわ。オルダン騎士団の団長のシェイド・ウルバス。副団長のゲオ・ウェイン。メンバーのシナハ・サクラスとイグニール・ランヴェルよ》


「――っ!!」


 やはり、嫌な予想は的中してしまう。『大罪騎士団』のメンバーの一人、『暴食』を司る、イグニール・ランヴェルがオルダン騎士団にも所属している。

 こうなると、卓斗達は不利な状況に陥ってしまう事になる。


「クソ……やっぱりか……戦闘は避けては通れないってか……」


 それでも、セレスタを救う為には戦わなければならない。例えそれが、強大な敵だとしても。

 それでも、イグニールの存在は驚異過ぎる。セレスタを救う作戦を前に、大きな壁が立ちはだかった。





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