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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第51話 『三度、王都へ』


 セレスタの居なくなった副都では、卓斗達が作戦を考えていた。王族ルシフェル家を相手に、どうやってセレスタを副都へと連れ戻すかを。


「直接、セレスタの家に行って話するしかねぇよな……」


 卓斗が考えれる方法は、それしか無かった。強引にすれば誘拐とみなされ、罪に問われる。

 卓斗の意見を聞いたステファが、


「ならば、数名が代表でセレスタの家に向かい、話を付けてくる。それでいいか?」


「だったら俺が行く!! エレナ、エシリア、お前らも行くぞ」


 卓斗が勢いよく椅子から立ち上がり、指名されたエレナとエシリアも続いて立ち上がる。


「セレスタの事、頼んだわよ」


 レディカの言葉に、黙ったまま頷く三人。そして三人は、王都にあるルシフェル家邸宅へと向かう。



 ――時刻は夕方。夕日が王都までの道程を赤く染めている。卓斗、エレナ、エシリアは足早に王都へと向かい、日が沈むまでに到着した。


「王都に来るのは、これで三回目か」


「王都に来るのも、久しぶりね……」


 街並みを見渡しながら、そう言葉を零したのはエレナだ。副都へ入団した頃、エレナは卓斗を連れてカジュスティン家の邸宅の跡地に来た事があった。

 王都の三大王族の一つ、カジュスティン家の王妃なだけあって、行き交う人々はエレナを見るなり、驚いた表情をしている。



「――エレナ様だ」


「――生きておられたのか!!」


「――ご無事で何より」


「――一人生き残って、可哀想に……」



 そんな民達の声が、聞こえてくる。エレナは何の気にもせずに歩いているが、卓斗はどう声を掛けて良いのか分からない。



「――そんなに気を使わなくてもいいわよ。私は気にしてないから」


 エレナはそう言うが、どうも気にしてしまう。同情などするつもりは無いが、周りの視線が気になる。

 それは、エシリアも同じ考えで、少しエレナの隣に近寄って歩いていた。


「エシリアも、私に気を使わなくてもいいのよ? もう二年も前の話なんだから、私は大丈夫だから」


「エレナちゃん……」


 複雑な気持ちが、卓斗とエシリアを襲っていた。もうどうにも解決出来ないカジュスティン家滅亡の件。

 一夜で家族を全員失った事は、かなり辛い事だ。エレナも寂しい気持ちになっている事に、卓斗とエシリアは気付いていた。

 だが、そんな素振りを見せないエレナは、とても強い娘だと卓斗達は実感した。


 すると、そこに野太い声で卓斗達を呼び止める者が現れた。



「――おぉ!! お嬢ん所の新入りじゃねぇか!! つっても、もう半年くらい経つから、新入りでもねぇか」


「えーっと、確か、ジョンさん」


 声を掛けたのは、若菜の知り合いで聖騎士団のジョン・マルクスだ。スキンヘッドで厳つい顔の、190センチは超える身長に屈強な体。

 エシリアは、思わずエレナの背中に隠れてしまう程、強面な男だ。


「その服装、副都に入ったのか。なら、進路は聖騎士団か?」


「うん。俺は聖騎士団に入団しようと思ってる。明後日が副都の卒団試験なんだ」


「そうかそうか。俺はウェルカムだから、楽しみに待ってるぜ。ってかお前、女の子二人も連れて何してんだ?」


 ジョンは、怖い目付きを更に鋭くさせて、エレナとエシリアを見つめる。


「んん!? お前……何でこの二人と歩いてんだ!? エシリア王妃と、それに……エレナ王妃!?」


 エレナは、負け時とジョンを見つめ続けるが、エシリアはオドオドしている。

 ジョンの強面が恐怖心を煽っていた。


「ジョンさん、あまりジロジロ見ないでやってくれ。エシリアが怖がってるから」


「怖がってる!? それはすまねぇ。挨拶が遅れちまったな、俺はジョン・マルクス。聖騎士団第二部隊隊長を務めてる。それから、エレナ王妃、生きていたんですか!! てっきり、全員消えたものだと……いや、失言撤回する。エレナ王妃、ご無事で何より。これで、お嬢も報われるってか……」


「流石に、その言葉は聞き飽きたわね……」


 会う人会う人が、エレナの無事に驚き無事を喜ぶ。そのやり取りはエレナにとっては何度も繰り返し行われてきていた。

 流石のエレナでも、同じ事の繰り返しは一周回って苛立ちが募ってくる。


「ジョンさんが言ってる、お嬢って若菜さんだよな? 報われるってのはどういう意味なんだ?」


「あぁ? お前、何も知らねぇのか? まだ二年前の話だぞ。王族滅亡の話は世界でもかなり有名な筈だが……お嬢が立ち上げた王都の騎士団、ジャパシスタ騎士団は流石に知ってるだろ?」


 知ってるも何も、卓斗がこの世界に来て盗賊に襲われた所をジャパシスタ騎士団に助けられている。

 日本人だけで形成される騎士団で、副都に入団する前に卓斗も所属していた騎士団だ。


「知ってるよそりゃ。俺も副都の前はジャパシスタ騎士団に居たからな」


「だったら、お嬢から何も聞かされていないのか? ジャパシスタ騎士団が拠点を王都から離れた理由を。つっても、俺も詳しくはお嬢から聞いてないけどな、カジュスティン家滅亡の日に誰一人救えなかった事を気に掛け、名前だけを残した状態で王都から抜けた。今の国王の計らいで、王都の依頼だけはやって貰ってるんだがよ。どういう訳かは知らねぇが、お嬢は二年前のあの日の事をかなり悔やんでる。カジュスティン家に恋人でも居たんじゃねぇかって俺は考えてるが……エレナ王妃が生きてるって分かったんなら、ジャパシスタ騎士団も王都に戻って来てもいいと思うんだがな」


 卓斗はエレナと初めて会った日の事を思い出していた。ジャパシスタ騎士団のアジトの前で倒れていたエレナを助け、そのエレナを見た若菜の表情が強張っていた事を。

 ジョンの話から推測すると、若菜は助けられなかった筈のエレナを見て、カジュスティン家を救えなかった自分に対し、嫌悪感を抱いたのでは無いかと。


 もう少し、二年前の事を詳しく聞きたいが、今回王都に来たのはそれが目的ではない。

 セレスタを副都へ連れ戻す事が第一の目的だ。その時、誰かがジョンを呼ぶ声が聞こえる。



「――隊長!! そんな所で道草してないで、早く行きますよ!!」


 それは女性で、背丈は160センチ程。金色の髪色に毛先に行くにつれて、緑色の変色している。

 聖騎士団の騎士服、白色に肩から赤色のラインが入っていて、金色の装飾が幾つか付いている。

 ジョンは黒色のマントを羽織っているが、この女性は白色で裏地が赤色のマントを羽織っている。

 エメラルドの様に綺麗な緑色の瞳をしていて、少し幼い顔付きだ。


「おぉ、イルビナか。すまんすまん、ちょっと話し込んじまった」


 ジョンを呼び掛けた女性、イルビナは卓斗達を見るなり深く頭を下げて、拳を胸に当て、


「初めまして、私はイルビナ・イリアーナ。聖騎士団第二部隊副隊長を務めています。以後、お見知り置きを。それで隊長、この方達わ?」


「んあ? そうだな……そういや、俺はお前の名前聞いてなかったな」


 ジョンは、頬を掻きながら卓斗を見つめる。これだけ会話をして、卓斗の名前を知らなかったのだ。


「俺は、オチ・タクト。副都を卒団したら、聖騎士団に入団するつもりだから、そん時はよろしくな」


「私は、エレナ」


「私は……エシリア・エイブリーです……」


「タクトさんに、エレナさんに、エシリアさん。よし、覚えました!! それで、そちらの女性二人はどこか見た事がある様な……」


 イルビナは、目を凝らしてエレナとエシリアを凝視する。するとジョンが、


「こちらは、国王の娘さんでエイブリー家のエシリア王妃と、カジュスティン家のエレナ王妃だ」


「ふぇぇ!? こちらの方々が王妃様!? 大変失礼しました!! 王都の王族の方を存じていないなど、聖騎士団の恥です!! 何でもしますので、どうかお許しを!!」


 イルビナは、その場で土下座をして何度も頭を地面にぶつけてそう言葉にした。

 思わぬ行動にエレナは溜め息を吐き、エシリアは慌てふためいている。


「あれ? でも、カジュスティン家って確か……」


「その話はもういいから、あんたジョンさんを呼びに来たんでしょ?」


 おでこから血を流し、カジュスティンという名に何か思い付いたイルビナにエレナが話を逸らす。

 どうせまた、ご無事で何よりと言われるだけだ。


「あ、そうでした!! 隊長、早く行きますよ!! 皆、集まってますから」


「おぉ、そうか!! ちょっくら任務に行ってくるわ。聖騎士団に入団した時はよろしくな、タクト!!」


 そう言って、ジョンとイルビナは去って行く。強面なジョンが居なくなり、ホッと胸を撫で下ろすエシリア。


「はぁ……怖かったです……」


「まぁ確かに、あの人は顔だけで魔獣を倒せそうだもんな。それより、俺らも急ぐぞ。エレナ、エシリア、セレスタの家まで案内してくれ」


 聖騎士団の第二部隊隊長ジョンと副隊長イルビナとの、思わぬ出会いに、つい話し込んでしまったが、本来の目的を果たす為、ルシフェル家邸宅を目指す。



 ――ルシフェル家邸宅、セレナの部屋では、セレナとセレスタとカルナが話していた。


「ごめんね、セレスタ。お父さんを止める事が出来なくて……副都を辞める事になって、貴方にまで迷惑掛けちゃって……」


「母上が謝る事では無いですよ。私も、止める事は出来ませんでしたから……」


 シルヴァの計画。それは、王都ヘルフェス王国を乗っ取り、ルシフェル家の国にする事。

 その計画が考えられた時、セレスタはシルヴァに嫌と言う程否定していた。だが、そのまま副都へと入団し、計画は二日後に実行される。


「カルナさんは、父上の計画に賛成なのか?」


「私は、ルシフェル家に仕える身ですので、命令のままに動くまでです。ですが、少し無謀だとも思っています。王都を敵に回して、勝てるかも分かりませんし、下手すればルシフェル家が滅亡する事だって考えられますから」


 王都を敵に回す事は、聖騎士団とも戦う事になる。シルヴァは、『最強』の肩書きを持つグレコ・ダンドールの不在を狙って、計画を実行するつもりだが、それでも、聖騎士団には強者が多い。

 アカサキもその中の一人だ。


「私としては、聖騎士団総隊長であるグレコさんの不在を狙ったとしても、腕の立つ者はいっぱいいます。各隊長も、私達と同格、それ以上の実力ですから。特に、第一部隊の隊長アカサキさんは別格です。私は、アカサキさんとグレコさんは同格だと思っていますから」


「第一部隊隊長アカサキ……この間、副都に来ていたあの人か」


「六歳で副都に入団し、成績トップを誇り、そのまま最年少で聖騎士団に入団。九歳にして第一部隊の三席を務め、十二歳で隊長に昇格。正直言って、化け物ですよ」


 アカサキの強さはグレコに負けない程、世界でも有名だった。そんな『最強』な二人が所属する聖騎士団を相手にするなど無謀過ぎる。


「父上は、それでも王都と戦うと言うのか……一体、何を考えられておられる……」


「昔は、そんな人じゃ無かったのよ、シルヴァさんわ……なのにどうして……」


 母親の悲しげな表情を見ると、セレスタに怒りが込み上げてくる。何より許せないのは、計画を邪魔するならセレナさえも殺すと言った事だった。


「セレスタだけよ、私に優しいのは……」


「当たり前です!! 私は母上が大好きです。今の私が居るのも、全て母上のおかげですから。だから私は、母上を必ず守ります」


 セレスタの言葉に、微笑みを浮かべるセレナ。愛娘からのその言葉は、嬉しくて堪らない。

 セレスタが副都に入団してからというもの、セレナはルシフェル家で肩身の狭い生活をしていた。

 シルヴァもオルヴァも、セレナを妻として、母親として見ていない。本当に、家族と呼べない程に。


「カルナもごめんね。昔は、オルヴァとも仲良くしていたのにね……」


「それは、昔の話です」


「カルナさんも、父上の側近に就いてから変わられたな。私達に対しては、気を緩めても構わないが。昔は、まるで姉妹の様に接してくれていたのにな。今でも私は、カルナさんを姉の様に慕っているから、私には気を使わないでくれ」


 カルナがシルヴァの側近に就くまでは、セレスタとは姉妹の様な関係だった。

 歳が二つしか離れていないというのもあって、よく一緒に遊んでいた。


「今は、その様な立場では無いので。いつまでも昔のままという訳にはいきませんよ。セレスタ様も、いずれ王になられる方ですから」


 カルナがこの様な態度を取ると、セレスタはどこか寂しくなっていた。あの頃の、姉妹の様に遊んでいた記憶が、脳裏に蘇る。



 ――その時、扉をノックしてメイドが入ってくる。


「失礼します。お食事の用意をしますが、今日はどの様なメニューに致しましょうか」


「そうね……折角、セレスタも帰って来たんだし、三人で街にでも出て、外食にしようかしら」


 セレナの言葉に、セレスタとカルナは頷く。折角の夜ご飯を、三人で楽しく食べたいと考えたセレナは、メイドにそう伝えた。


「かしこまりました。では、お気を付けて行ってらっしゃいませ」


 三人は、外出の準備をして家を出る。すると、先頭を歩いていたセレスタの足が止まる。その視線の先には――、



「――セレスタ!!」



 卓斗とエレナとエシリアが、ルシフェル家邸宅に到着し、副都へ連れ戻す為の交渉が始まる。



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