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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第49話 『卒団試験』


「――兄上……」


 教室の窓から見える副都の入り口に立っている青年。ザ・王子様、と言える程の容姿に服装。

 それは、セレスタの兄、オルヴァ・ルシフェルだった。


「兄上? いけ好かないあいつが、お前のお兄ちゃん!?」


 最早、卓斗は絶句だった。ムカつくが容姿は断トツでイケメンな王子様。その妹が、セレスタと言われても納得は出来るが、ここまで美男子、美少女の兄妹は見た事が無い。


「私の兄、オルヴァ・ルシフェルだ。だが、何故副都に……」


 そして、オルヴァ・ルシフェルはゆっくりと、歩み出す。どうやら、教室に向かっている様だ。


「すまない、少し行ってくる」


 セレスタは、足早に教室を出て行った。その表情は、副都に入ってから、会っていなかった兄妹へ見せる表情では無いのが、卓斗の視界に映った。


「ちょ、おい!! セレスタ!!」


「このタイミングで、お兄さんが出てくるとはね……」


 同じく、浮かない表情をしていたのは、エレナだった。窓からオルヴァを眺めて、溜め息を吐いた。


「セレスタのお兄ちゃんって、どんな人なんだ?」


「まぁ、私とエシリアは幼い頃に何度か会ってるから、知ってるんだけど、簡単に言えば、性格最悪、超腹黒、極度のファザコンね」


「ファザコン!?」


 ファザコンとは、娘が父親に対して大好きという意味の言葉だが、青年である彼もそれに匹敵するレベルらしい。


「父親が絶対で、死ねって命令されたら、喜んで死ぬ様な人よ」


「何だよ……それ」


「ルシフェル家は少し、厄介な家系ですからね……」


 エシリアもそう言葉にして、セレスタに対して心配そうにしている。



 ――セレスタが広場へ出ると、オルヴァは両手を広げて妹を迎える。


「久しぶりだな、セレスタ」


「兄上!! 何故、副都に来たんですか!!」


 セレスタの表情は険しく、強くオルヴァを睨んでいた。そんな、セレスタの表情を嘲笑うかの様に見つめてオルヴァは、



「――貴様を迎えに来た」


「迎えに来た? それはどういう意味ですか」


 オルヴァの表情は、真剣な表情へと変わり、言葉を待つ妹へ非常な言葉を掛けた。


「父上が、あれを決行成される。お前も直ぐにルシフェル家に戻れ」


 ルシフェル家だけが知り得る、秘密事項。それが行われるという答えに、セレスタの背筋が凍る。



「――なっ!? あれ程、やめてくださいと言っていた筈なのに、強行成されるんですか!? 兄上はお止めになられないんですか!!」


「俺様は、父上に賛成だ。もちろん、ルシフェル家一丸となってな。まぁ、分からず屋な母上は反対していたが、あいつの意見など通る訳も無い。ルシフェル家の王は父上だ。父上の意見に逆らえば、殺す事も致しかねないな」


「は!? 母上を殺す!? 正気ですか!! 兄上でも言っていい事と悪い事があります!! 自分の母親を殺すなど……」


「――黙れ、クズ。誰が口答えしていいと言った? 俺様は、ルシフェル家に戻れと言っているんだ。逆らえば、貴様も殺す事になるぞ」


 セレスタは口籠ってしまう。それには理由があった。オルヴァ・ルシフェルはルシフェル家の中でも、王であるシルヴァの次に強い人物。

 それは、妹であるセレスタが一番よく知っている事だった。


「さぁ、直ぐに支度しろ。今直ぐルシフェル家に帰るぞ」


「分かりました。ルシフェル家には戻ります……ですが、後二日待ってください。後二日で副都も卒団出来ます」


 それは、せめてものセレスタの願いだった。共に過ごした副都のメンバーと、長きに渡ってやっと仲直りできたエレナやエシリアと、この副都を卒団したいという願いが。――だが、



「ならん。何度も言わせるな、クズが。俺様は、直ぐ帰るぞと言ったんだ。言葉が分からない歳でもないだろう。それと、一つ忠告しておく」


 そう言って言葉を切り、セレスタを震わせる程の殺気を込めて、



「――逆らえば、副都に居る者を全員殺す。分かってはいると思うが、ここに居る者全員を殺す事など、俺様には造作もない」


「そんな……」


「理解したのなら、さっさと支度しろ。それから、五分で済ませろ。一秒でも過ぎたら、ここに居る全員殺す」


 オルヴァの理不尽な要求を、セレスタは聞くしか無かった。母親を守る為、友を守る為に。

 教室までの足取りは重く、どうしようもない状況に、何の抗いも出来ないセレスタは、ただただオルヴァの言う通りにするしか方法が無い。



「――お、セレスタ。お兄ちゃん、何だって?」


 自分が戻ってくるのを、待っていてくれた卓斗達の顔を見ると、心が痛む。内容を正直に話せば、必ず卓斗達は無茶をして止める筈。

 嘘を付いて、突き離してしまうのも、エレナを見ると心が痛む。六年前と何も変わらない状況だ。

 だが、セレスタの選択肢は一つしか無かった。


「皆、すまない……私は、ルシフェル家に帰るべく、王都へ戻る。副都は辞める事になる」


 その言葉に、全員が目を丸くして驚いた。突然過ぎるセレスタの言葉は、一気に教室内の空気を重くした。


「は? 辞める? いきなりどうしたんだよ!! 後二日だぞ!!」


「何も言うな、タクト。やはり、私は王族の人間なんだ。物事を私一人で決める事は出来ない。ここでの生活は、それなりに楽しませて貰った。友ができ、幼馴染と分かち合え、強くもなれた。だが、ルシフェル家の定めには、逆らえない。もう……私に、――関わるな」


 そう言って、支度を済ませ、教室を出ようとするセレスタ。その後ろ姿に、誰も声を掛けられない。

 セレスタの「関わるな」という言葉が、妙に心を打った。何を言えばいいのか、どうすればセレスタは副都に留まるのか、考えた所で答えは出ない。


 それは、幼馴染であるエレナとエシリアでさえも。ルシフェル家の事を良く知る二人は特に、何を言っても駄目だという事は分かっている。

 それでも、エレナは、


「待ちなさいよ!! あんた、またそうやって自分に嘘を付くつもり!? これじゃ、六年前と同じ……何も変わらないじゃない!! あんた言ってたよね。父親のやり方は間違ってるって、自分がルシフェル家を変えるって!! それも、全部嘘だったの!? 私達と仲直りする為の口実だったって言うの!? そうなんだとしたら、見損なったわ。六年前のあんたと同じよ。父親に逆らえず、自分に嘘を付いて、友達を……仲間を……あんたは、平気で裏切るの!? ちょっとは、私やエシリアの気持ちも考えなさいよ!! あんたがそうやって、私達を突き離して、何とも思わないの!? 少しでも思ってるのなら、事情を話して。あんた一人で抱えようとしないで。私達……友達でしょ……セレスタ……!!」


 紫色の綺麗な瞳から涙を流し、エレナは背を向けるセレスタに想いをぶつけた。

 六年前の事も、纏めて全部吐き出した。息を切らし、セレスタの背から視線を逸らさず、その返事を待った。


「……わない……」


「聞こえない……!!」



「――何とも思わない!!」


 突然、セレスタがそう声を荒げた。教室は静まり返り、セレスタはゆっくりと振り返る。


「何とも思わない。仲直りを取り繕ったのも、エレナの言う通り、ただの口実。ここで、仲良くしていたのも全て上辺。私が王になる為に利用した。ただそれだけだ。裏切り者と呼ぶなら、好きなだけ呼ぶがいい。そんな事、私は気にもしない。だからもう……関わるな」


 セレスタは、静かにそう言葉にすると教室を出て行く。誰も止める事は無く、教室には沈黙が流れたままだ。


 副都の入り口では、オルヴァが不敵な笑みを浮かべて、セレスタを待っていた。


「――五分ギリギリだったな。後少しで、貴様のお友達を殺す所だった。さっさと帰るぞ」


「はい……」


 思ってもいない事を言葉にし、友を、仲間を傷付けたセレスタ。心の痛みは、誰よりも深いかも知れない。



「――何だよ……あいつ。いきなり辞めるだなんてよ……」


「セレスタちゃん……」


 エシリアは窓から、副都を去って行くセレスタとオルヴァを見つめていた。六年前から、ずっと仲直りが出来る様にと願っていたエシリアの表情は、誰よりも暗かった。


「ステファさん、何とか出来ねぇのか? いきなり過ぎて、納得出来ねぇよ」


「そう言うがな……我々も、王族に逆らう事は出来ん。お前も知っているだろ。三大王族である、カジュスティン家、ルシフェル家、エイブリー家は、ヘルフェス王国が建国された当初からの一族。最も歴史が深く、権力もある。ヘルフェス王国の国王を務めたのも、三大王族の者のみだ。彼らの言う事は、絶対なんだ。例えそれが、戦争をしろって命令でもな。だから、我々がどうこうした所で、セレスタを余計に傷付ける事にもなり兼ん。セレスタは、王族の人間なんだ。我々とでは、住む世界が違う。そこを理解しろ、オチ」


 王族の人間、住む世界が違う、その言葉に卓斗の視線は、エレナとエシリアに移る。


「お前ら、何とかしたいって思わねぇのか? 同じ王族なら、分かち合える筈だよな?」


「あんたには、関係の無い話よ……あいつが、私達を裏切った、騙してた、ただそれだけじゃない」


 エレナは、気が抜けた様にそう言葉にした。何の気力も無く、その場に座り込んで。そんな、エレナに卓斗が、


「違ぇだろ……友達なら、強引にでも何とかしようとしろよ!! 同情でも何でも、偽善者でも何でも、しねぇよりマシだろ!! お前幼馴染なんだろ!? あいつが、離れてったらそれで終わりなのか!? 追いかけもしねぇで、終わりなのかよ!! そんなの、友達でも何でもねぇよ。世間体を気にした、ただの上辺な関係だ。あいつが、副都を辞めるってなって、お前はちょっとでもムカついたか? 嫌だと思ったのか? 思ったんたら、少なくともお前は、あいつの事を友達だって思ってる証拠なんだよ!! だったら、お前が今やる事は何だ!?」


「うるさいわね……あんたには関係ないって言ってるでしょ!! 私達とセレスタの事に、部外者のあんたが、首突っ込まないでよ!! 裏切られた私達の気持ちが、分かるって言うの!? 分かる訳無い!! 友達の多い、恵まれた環境のあんたなんかに……!!」


「恵まれた環境なんかじゃねぇよ。俺も、日本に居た頃は友達が少なかった。というより、悠利と蓮しか居なかった。人見知りで、学校で目立つ様な事もしてねぇ俺には、友達なんか殆ど居なかったよ。悠利と蓮さえ居れば、楽しかったんだ。小学校の時も、中学校の時も、高校の時も。それでも、三葉達に出会ったり、この世界に来て若菜さん達に出会ったり、お前らと出会ったり、すげぇ嬉しかった……仲良くなれて、楽しくて、この世界が大好きになった。友達が多いから、良いって訳じゃねぇんだよ。例え、一人しか居なかったとしても、楽しかったらそれでいいんだ。多いに越した事もねぇけど。俺が言いたいのは、少なくても、多くても、友達は大事にしろって事だ。繋がれた絆を、簡単に切るな。手を伸ばして、伸ばして、繋ぎ止めろ。自分が差し伸べた手を、振り払われたら、そこまでの関係だったって事だ。まだ、差し伸べてもいねぇなら、諦めんじゃねぇ。見捨てるんじゃねぇ。お前は、あいつの事良く分かってんだろ? だったら尚更、手を差し伸べろ。俺も、手を貸すから。あいつを……セレスタを一人にしてやるな……」


 卓斗の言葉に、エレナは思わず黙り込む。言い返す言葉も出てこない。涙だけが、頬を伝った。


「私も、手を貸すよ、エレナちゃん」


 三葉もそう言って、卓斗の隣に立つ。三葉だけでなく、他のメンバーも卓斗と気持ちは同じだった。


「卒団するのに、一人欠けてるのも後味悪いしね。あんたの気持ちも分かるけど、あんたはセレスタの事、ちゃんと分かってんの?」


「レディカの言う通り。友達の大切さ、仲間の大切さは、私もミツハに、アカサキさんに教わった。セレスタを助けたいのなら、それは貴方の力になる筈よ。私も力を貸す」


 卓斗、三葉、レディカ、セラの言葉に、エレナは強く拳を握って、涙を拭い、立ち上がった。


「本当うるさいわね……友達、友達、友達って……馬鹿みたい。私も……馬鹿みたい……セレスタは、勇気を出して私に声を掛けたのに……私は……私は、本当馬鹿!! 皆、お願い。セレスタを連れ戻すのに、力を貸して」


 強い眼差しで、そう言葉にしたエレナ。六年前と、同じ道を辿らない為にも、エレナがやるべき事。それは、セレスタを連れ戻す事。


「当たり前だ!! セレスタを連れ戻して、全員で副都を卒団するぞ。ステファさん、いいよな? 俺らは、あいつを連れ戻す」


 エレナと卓斗達のやり取りを見ていたステファは、大きく溜め息を吐いて、


「はぁ……いいか、お前ら。王族を相手にするって事の意味が分かっているのか? 下手すれば、全員が処刑される可能性もあるんだぞ? 卒団どころの話じゃなくなる」


「仲間一人救えねぇってのに、呑気に卒団なんて出来るかよ。そうだろ、エレナ」


 エレナは、その言葉に頷き、力強くステファを見つめる。それに、気圧されたステファは、


「分かった。私も、副都の教官としての意地を見せる。これは、大きな罪になるかも知れん。だが、我々は仲間を助ける為の行動を行う」


 眼鏡をクイッと上に上げて、一つ間を空け、



「――お前らに、卒団試験を言い渡す。合格内容は、セレスタを副都へ連れ戻す事!! これが、絶対の条件だ!!」




 ――セレスタをルシフェル家から奪還する卒団試験が始まる。




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