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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第48話 『副都での生活』



 ――現在十月。


 四都祭も終わり、夏が過ぎ去る。世界の温度が少し下がり、肌寒くなってきている。

 副都では、卒団が目前に迫っていた。半年間の在籍で、剣技や魔法、実戦形式の任務などを行い、副都のメンバー達はそれなりに、騎士に一歩近づいていた。



 ――ある一人を除いて。



「ふむ、我は、本当に卒団出来るのだろうか……」


 不安に押し殺されそうになっているのは、オルフ・スタンディードだ。副都の寮部屋で、卓斗とマクスに相談していた。

 彼は、剣技の技術は全くの皆無で、魔法も戦闘には向かないモノばかり。ランクも未だにBランクと、メンバーの中でも序列はマクスに続き、最下位だ。


「大丈夫だって。卒団試験さえ合格すりゃ、卒団は出来るんだから」


 卓斗の慰めも、オルフの耳には全く入ってこない。この半年間、剣技や魔法の授業はもちろん、実戦形式の任務すらもまともにこなす事は出来ていない。

 むしろ、足を引っ張ってばかりだった――、



 ――三ヶ月前。


『よし!! 後は、あのゴブリンをぶっ倒すだけだ!! オルフ、決めてやれ!!』


『ふむ、我に任せよ!!』


『――って、おい!! そこで花なんか咲かせても意味ねぇって!!』



 ――二ヶ月前。


『オルフ!! 援護射撃頼む!!」


『ふむ、我に任せよ!!』


『――って、おい!! 俺に魔法当ててどうすんだ!! って……なんか……眠く……なって……ぐぅ……ぐぅ……』



 ――一ヶ月前。


『オルフ!! 今度こそ、援護射撃頼む!!』


『ふむ、我に任せよ!!』


『――って、ちょ!? なんか敵のゴブリン、筋肉が余計にマッチョになってるけど!? パワーアップさせてどうすんの!?』



 この三ヶ月、と言うよりも副都に入ってからずっと、オルフの足手纏い度は増して行く一方だった。


「ま、まぁ、最後が良ければ全て良しって事だ……全部、俺に被害が被ってるのは気に食わねぇけどな……」


 オルフの役に立たない魔法などの被害者は、主に卓斗だった。女子が苦手なオルフの魔法は、何故かいつも決まって、卓斗へと向けられる。


「ガハハハ!! 心配しなくても、俺も魔法は一切分かんねぇから!! 仲間だな!!」


 呑気にオルフの肩を叩いて、そう話したのはマクス・ルードだ。彼もまた、剣技は皆無、魔法も皆無、オルフと最下位争いをしている少年だ。


「ふむ、だが、周りの女子、の視線も気になる所だ。我が魔法を使う度に、蔑む目で我を見てくる……耐えられん」


「いや、まぁ確かに……特にセラとレディカはな……」


 女子のメンバーの中でも、セラとレディカは特にオルフを嫌っていた。オルフと実戦形式の任務に出ても、ろくに話さない、足は引っ張ると、セラやレディカを散々に苛つかせている。

 特にセラは、オルフに対して冷たい。元々、弱い者が嫌いなセラは、オルフやマクスの事を完全に嫌っている。


「セラとやらは、我の事を嫌い過ぎであろう。勇気を振り絞って話し掛けてみても、あの者の目付きが、話し掛けるなと言っている……」


「まぁ、仕方ねぇよ……あいつは、気が強いからな。レディカと仲良くなってたのは、驚いたけどな」


 神王獣との一件以来、セラとレディカの仲は良好だった。たまに喧嘩はするが、本気の喧嘩では無く、仲いいからこその喧嘩だった。

 それに、エレナとセレスタ、エシリアの仲も修復している事にも、卓斗は驚きが隠せない。


 修復不可能かと思われた、犬猿の仲組が揃って仲直りを果たした事は、喜ぶ所なんだが、どこか変な気持ちになる。

 あれだけ、罵声を放ち合っていた同士が、今では笑顔を振りまき、談笑している。女子の事が、より一層分からなくなった卓斗だった。


「それより、卒団試験だよな……内容によっちゃ、全員で卒団は無理かも知れねぇな……」


「ふむ、我の事を気に掛けなくても構わないぞ。タクト達はタクト達で、卒団に向けて励めばいい」


「でも……」


 卓斗は、副都四十期生の全員で卒団したいと思っていた。誰一人欠ける事なく、全員で笑って。

 だが、それも卒団試験の内容によっては、叶わぬ願いになり兼ねない。



 ――その件について、思い悩む者達も居た。



「はぁ、どうしたものか……」


「随分と、悩んでる様だね、ステファ」


 卒団試験をどういった内容にするか、ステファは悩んでいた。難しくし過ぎても、卒団生の数が減ってしまう。かといって、簡単にし過ぎるのも駄目。

 半年に一回悩むというのも、恒例になっていた。


「今期は、いつもに比べて人数が多いからな。貴重な騎士候補達を無事、王都に送り届けたい気持ちはあるが、内容を簡単にするのは、あいつらの為にならん。何か、いい案はないか? オルド」


「うーん、僕としても悩む所だねぇ。特に心配なのは、オルフくんとマクスくんだよね」


 教官達でさえも、オルフとマクスの事は心配でしか無かった。トップクラスを誇るセラや、エレナ達に内容を合わせれば、確実と言っていい程に、オルフとマクスは卒団試験に受からない。

 かと言って、オルフやマクスに内容を合わせると、セラやエレナ達が簡単に卒団試験に受かってしまう。

 非常に、バランスの悪い状態だった。


「そうなんだ……あいつらを、どうしたものか……」


「卒団試験まで、後二日だよ。ゆっくりもしていられない。内容は当日発表で助かったね」


「お前も考えろ、オルド」


「えぇ……四都祭の内容も考えたのにさ、卒団試験の内容も僕が考えるの? ステファこそ、仕事を僕に押し付け過ぎでしょ」


 ステファに睨まれ、思わず黙り込んでしまう。そんな二人の、卒団試験の内容の考えは、全く纏まらないままだった。



「――副都での生活も、後二日だな」


 そう話したのは、セレスタだ。セレスタの入っている寮には、エレナ、エシリアの王族三人が入居している。

 入居当初は、重い空気が漂い、特にエレナとセレスタの関係が酷かった。エシリアが、何とかしようと色々と試みたが、全て失敗。

 だが、エシリアの後押しや、レディカの助言も相俟って、セレスタが勇気を出し、エレナと和解する事に成功した。


 それからの三ヶ月というと、寮部屋でも仲睦まじく、三人の関係は六年前と変わらないくらいにまで回復していた。

 一歩一歩、ゆっくりと溝を埋めながら。


「セレスタとエシリアは、ここを出てからどうするの?」


「そうだな……私は、やはり王族としての職務を全うするだろうな。だが、父上のやり方は間違っている。私が、ルシフェル家を変えて、私が次の王になってみせるよ」


「私も、お父様のお仕事のお手伝いですかね。子供は私一人ですから。でも、いざ、王を継げって言われても、素直に了承出来ないです……私は、王には向かないですから……」


 セレスタは、ルシフェル家を変えて王の座に就くと意気込み、エシリアは王には向かないとネガティヴになっている。

 現在の国王は、エシリアの父親であるウォルグだが、エシリアは後継になる事を悩んでいた。


「エシリア、私と争う事を気にしているのなら、その必要は無いぞ。私としても、ルシフェル家とエイブリー家の関係性は断ちたくないからな。話し合いをして、正々堂々と国民に決めて貰おう」


「そうよ、エシリア。喧嘩して、争った父様達と同じ道を歩む必要は無いんだから。王族同士の歪み合いは、私達の代で止める。まぁ、カジュスティン家は、ほとんど関係の無い話になるけど」


 二年前に滅亡したカジュスティン家は、生き残ったエレナただ一人。実際、エレナが生きている事を知っている人間も、多くはない。

 故に、王都の三大王族は今では、ルシフェル家とエイブリー家の二大王族となっている。


「エレナちゃんは、王戦には参加しないんですか? 多分、お父様は私が副都を卒団して、しばらく国王の仕事を手伝わせてから、後継の話をすると思うんです。そしたら、セレスタちゃんも参加して、王戦が開始される……私は、エレナちゃんが参加しても、いいと思うんです」


「私は……いいわよ。滅んでしまった王族が国王になれる訳ないし、なろうとも思わないから。エシリアかセレスタが国王なら、それで十分よ。だから私は、聖騎士団にでも入って、王都を守ろうかな」


 その言葉に、エシリアとセレスタはどこか寂しそうな表情を見せた。かつては、三大王族の王妃同士と言われていたが、それも昔の話。

 エレナただ一人だけでは、王族とは呼び難いのが現実だった。


「となると、エレナはタクトと同じ進路を歩むという事になるのか。確か、あいつも聖騎士団に入ると言っていたか」


「ちょ、ちょっと!! 何でそこであいつの名前が出てくんのよ!!」


 顔をりんごの様に真っ赤に染めて、慌てふためくエレナ。突然セレスタからの言葉に「タクト」と名前が入った途端に乱れる。


「知っているぞ。エレナ、タクトの事が好きなんだろう? お前を見ていれば、気付かぬ私では無い。何せ、幼馴染だからな」


 幼馴染らしい言葉が言えて、心底嬉しそうなセレスタ。心内を見事に読まれ、動揺が隠せないエレナ。そんな二人を微笑ましく見ているエシリア。

 重く、冷たい空気しか漂っていなかったこの寮部屋に、暖かな空気が漂っていた。


「別に……あいつの事は、何とも思ってないわよ……って!? セレスタ!? そんな、ニヤニヤした顔してんじゃないわよ!! エシリアも!!」


「私は、応援してますよ!! ね、セレスタちゃん!!」


「あぁ、タクトと結婚して、子供を産んで、カジュスティン家復興だな!!」


 エレナの顔は、湯気が出ていそうな程に、更に赤くなっていた。三人の王妃の団欒は微笑ましく続いた。


 ――犬猿の仲、大きな溝をゆっくりと埋め始めているのは、エレナとセレスタだけでは無い。


「セラ、ミツハ、あんたらも聖騎士団入るんだよね」


「そういえば、レディカもアカサキさんに誘われてたわね。第一部隊」


「私とセラは、多分、卒団して聖騎士団に入ってからも同じ部隊なのよね。本当、ずっと一緒よね。実戦形式の任務も大体一緒だったしね。あんなに、喧嘩してたのに」


 思えば、副都に入団してからというもの、毎日の様に喧嘩していた二人。エレナとセレスタよりも仲は悪かった。

 アカサキの助言や、神王獣との一件以来、二人は仲良くなっていっている。

 セラが、必要としていなかった仲間。その意識を、考えを、変えたのは三葉だ。


「私も聖騎士団に入ろうと思ってるけど、他の皆はどうするんだろう……卓斗くんは入るって言ってたけど」


「そう。女々男も聖騎士団に……マユカも入るって言ってた気がする」


「うん、繭歌も聖騎士団に入るみたい。でも、李衣が悩んでたんだよね……離れ離れになるのは嫌だな……」


 現在、卒団した後、行く先を決めている者も居るが、まだ決め兼ねていない者も居る。

 卓斗、三葉、繭歌、セラ、レディカ、エレナ、オッジ、レフェリカ、サーラは聖騎士団に入団すると決めているが、悠利、李衣、蓮、恵、オルフ、マクス、ケイトはまだ決めていない。

 セレスタとエシリアは、それぞれ王族としての職務に就く事を決めている。


「全員が全員、聖騎士団に入れるとは限らないしね」


 やはり、三葉の元居た世界同様、進路というのは上手くいかないものだ。するとそこに、


「まだここで話してたんだぁ。皆、教室に集まってるよ」


 そう言って、三葉達を呼びに来たのは、この寮部屋のもう一人の同居人、サーラ・ハズバンドだ。

 彼女の空気の読めない発言は、セラとレディカが犬猿の仲の時は、何度もヒヤリとさせられていた。主に、その被害者は三葉だった。


「卒団の話? すぐ行く」


 三葉達は、教室へと向かう。既に、他のメンバーも揃っていてた。


「これで、全員揃ったか。では、明後日の卒団試験の話をする」


 ステファがそう言葉にした瞬間、



「――んあ? 誰だあれ」


 マクスの声で、教室に居た全員は、窓から副都の入り口を見やる。そこには、ある人物を除いて、見知らぬ青年が立って居た。


 ――短くも、長くも無い程の長さの、濃い青色の髪を靡かせ、黄色の瞳を鋭く輝かせて、教室を睨んでいる。

 背丈は、183センチ程で、白色ベースの高貴溢れる服を来ている。まさしく、王子様の様な容姿だ。その腰には、金色の鞘に、金色の柄の剣を携えている。


「誰だ、あの王子様キャラ」


 卓斗から見ても、格好いいと思ってしまう程の美男子。それがまた、ムカつく所だ。


 そして、この青年に反応を見せた人物、――否、セレスタが、



「――兄上……」




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