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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第45話 『大罪騎士団』



 深く被られたフードにより、表情の見えない謎の男。自らが名乗る、大罪騎士団と呼ばれる、それぞれが多彩な殺気を放つ九人の者達を、この空間に出現させ、男は、『それを』を口にした。




 『――世界を終焉へと導く為にな』




 ――それは、何度も聞いた言葉だ。会った事は疎か、見た事も無い、列記とした赤の他人に、『それを』を、止めて救って欲しいと言われた。

 または、『それを』成す者になるとも言われた。この先、本当に起こり得る事か確証は無い。つまり、現状ではオチ・タクトにとっては、間接的な言葉でしか無い。


 その男から、放たれた言葉は、冗談とも呼べない。その威圧感が、その存在感が、その殺気が、その言葉に『偽り』と呼ばせない。

 揺るぎない『本物』であると全ての状況が語っていた。ならば、今目の前に居る、ハルと名乗った男は『それを』成す者である事を意味する。

 つまり、オチ・タクトにとって直接的な言葉となって、脳に届いた。


「お前が……世界を終焉へと、導く者……!?」


 心臓の鼓動が、自分の耳に聞こえる程大きく、全身の血が波打つ様な感覚が卓斗を襲う。

 間接的だった物が、直接的へと変わり、それを一刻も早く止めなくてはならないという使命感と、いざその場面に直面した時の、多大なる恐怖。――それらが、卓斗の冷静さを無くしていく。


「そんな事、ヴァリがさせないっス!! 世界を滅ぼすとか、そう言った悪人は、最後には負けるんスよ!! お前もその悪人と一緒っス!! ヴァリ達が、お前達を倒すっス!!」


 ヴァリの言葉に、空間に沈黙が流れる。ハルと卓斗達の会話に、自己紹介以降、全く参加しなかった大罪騎士団のメンバーも多大なる殺気を放ちながら、視線をヴァリに向けていた。


「ちょい、姉ちゃん!! あんまり、挑発すんなって!!」


 小さな声で、ヴァリにそう注意した。最も、そう思っていたのはラディスだけでなく、卓斗もフィトスも肝を冷やしていた。


「君、ビビってる様じゃ、騎士の名折れっスよ」


「ビビってるとかじゃ無くて、状況を考えろってんだよ!! 相手は十人居て、全員が只者じゃねぇ感じがする。それに、今はテラが何も使えねぇんだぞ!!」


 もし、今ここで戦闘になれば、卓斗達の勝率はゼロに等しいだろう。――だが、それでも龍精霊騎士ヴァリ・ルミナスわ。


「テラが使えないのは、向こうも一緒な筈っス。世界を滅ぼすなんて言い出す輩を、放っては置けないっスよ」


「姉ちゃんって、そんなに正義感が強い人だったか!? 予選の時は戦いたくねぇとか言ってたけど!?」


「安寧秩序の危機って言うなら、話は別っス。ヴァリは、全力で止めるっスよ!!」


 一人、闘志を燃やす少女に、ラディスは頭を抱えて悶える。今のヴァリには何を言っても効果は無いだろう。

 ――すると、その様子を見ていたハルが、重くて低い声で、


「貴様みたいなのが居ると、話が進まないな。生憎だが、今回は戦うつもりは無い。まだ、その時期じゃないからな。貴様には、少し黙ってて貰おうか。――ケプリ」


 ハルがそう言うと『強欲』を司る、ケプリ・アレギウスが徐に立ち上がり、タレ目でジッとヴァリを見つめた。幼さ漂う童顔で、年齢を聞かなければ、誰もが幼女と見間違える程だ。

 だが、その瞳は目が合った物を、見て殺さんと言わんばかりの殺意が篭っていた。そして、ゆっくりとヴァリの方へと歩み寄る。


「なんスか? ヴァリと戦う気になったっスか?」


「違う。命令された、だから動く。戦えと、言われたら、戦う。でも、今は、違う。貴方、黙らす、私の、役目」


 何の感情も込めずに、ゆっくりと、ぶつ切りしながら話す。すると、ソッと優しくヴァリの肩に手を置いた。


「なん……スか……?」


 動けなかった。何かされる、そう察知したが、何も動けなかった。それは、ヴァリだけでは無く、卓斗達も止める事は出来ず、何が起きるのか、呆然と見てる事しか出来ない。すると、



 ――突然として、ヴァリは意識を失い、声という声にならない言葉を発し、ピクピクと痙攣しながら、倒れ込んだ。



「おい!! 姉ちゃん!! お前、何をした!!」


「さっきも、言った、この人、黙らすって」



 ――ヴァリの視界は暗闇に包まれ、世界との音を遮断され、倒れた感覚も、空間に漂っていた血生臭い臭いも、何も感じない。




 ――景色を、光景を、世界を、空を、海を、物を、色を、人を、早く見たい。この世に存在する全ての万物をこの目に焼き付けたい。


 ――声を、風の音を、波の音を、足音を、心臓の鼓動を、早く聴きたい。聴覚細胞が音によって刺激され、音を感じたい。


 ――花を、食べ物を、体臭を、血を、空気中を、早く嗅ぎたい。クサイのも好きな臭いも、脳に刺激され、生きている感覚を得たい。


 ――水を、果実を、野菜を、肉を、魚を、早く食べたい。舌で味を感じ、空腹を満たしたい。


 ――熱い物を、冷たい物を、硬い物を、柔らかい物を、嫌いな物を、好きな物を、早く触りたい。手に触れ、痛みを感じ、心地よさを感じ、生きているという実感を得たい。




 ヴァリの欲望という欲望は、何もかも全てを無くし、欲している。――願っても、願っても、願っても、その想いは、誰にも届かない。何も無く、あるのは『無』だけ。


「足りない、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、君達のも、欲しい」


 ケプリは、欲望に身を任せながらラディスに近づく。自分の欲望を満たそうと手を差し伸べる。――否。



「――ケプリ」


 ハルの声が聞こえると、ラディスに触れる寸前で、ケプリの手は止まる。


「ハァ……ハァ……」


 あまりの恐怖で、息をするのも忘れていたラディスは、解放され大きく息を切らしていた。


「黙らすのは、うるさい彼女だけでいい。話が終わったら、ちゃんと返してあげるように。まだ、そのままにしておくには早い」


 ケプリは、静かに頷くと席へと戻って行く。――卓斗達は痛感していた。恐らく、この場にいる全員が異常な能力の持ち主だ。

 そんな大罪騎士団を相手に、自分は世界を救う事は出来るのだろうか。早々に絶望を与えられた事に、卓斗は言葉を失う。


「俺からも、幾つか質問がある。貴様は、フィオラの秘宝について知っていたな? 何故、知っている? まさか、在りかを知っているのか?」


「知ってる、て言えばどうする気だ?」


「貴様を拘束し、在りかを吐かせ、壊したのを見届けさせてから、貴様を殺す」


 その返事に、思わず息を呑んだ。だが、その口振りからすると、ハルはフィオラの秘宝の在りかをまだ知っている訳では無さそうだ。

 フィトスは、卓斗の返答を待つかの様に横目で卓斗を見つめる。返答次第では、この場の絶望が増すだけだ。



「――生憎だけど、在りかは知らねぇ」


「……そうか」


 杞憂となったフィトスは、胸を撫で下ろした。だが、絶望的な状況なのには、変わりがない。


「聞いた事があるだけだ。んで、それを壊して世界を終焉へと導こうってんなら、それを俺は止める」


 すると、卓斗の言葉に反応した人物が、悪意に満ちた声で、大笑いをし始める。



「――あははは!! 寒っ!! 何、寒い事言ってんのお前!! あははは!! さっきの女もそうだけど、寒い事平気で言えるとか、頭おかしいの? あははは……はぁあ。自分の事、何かの主人公だと思ってる訳? 気持ち悪っ!! ここは、イシュタムによる、イシュタムの為だけの世界。偽りの無い、本物だけの……主人公は、お前じゃない!! 世界に愛され、世界に求められたイシュタムが、主人公!! お前は、モブ以下だろ!! あははは!!」


 声、言葉、表情、全てに嫌悪感を抱く。『虚飾』を司る、イシュタム・デミウルゴスは、黙っていれば可愛らしいにも関わらず、少しでも動き、声を発せば一瞬で嫌われてしまう程のウザさだ。


 机に頬杖をついたまま、『傲慢』を司る、ヴァルキリア・シンフェルドが、


「補足させて貰うけど、自分が正義で私達が不義だって思ってるのなら、それは御門違いだよ、お兄さん。私達から見たらね、お兄さん達が不義。で、私達が正義なんだよ。ていうか、私からすれば、全員が不義なんだけどね」


「ちょっと待てや、ヴァルキリア。自分だけ正義でいようって傲慢過ぎんだろテメェ。大罪騎士団っていう一つの組織だって事、テメェの頭の中にはあんのか? あぁ? ガキがあんまり粋がってんじゃねぇぞ。俺を不義呼ばわりした事、後悔させてやろうか? あぁ?」


 怒りを露わにしたのは、『暴食』を司る、イグニール・ランヴェルだ。鋭い目つきを、更に鋭くさせてヴァルキリアを睨む。


「イグニールお兄ちゃん、何か勘違いしてない? 序列って言葉知ってる? 私は、この中でも一番強いんだけど、弁えてくれる?」


「んだとコラァ!! テメェが一番強いだぁ!? ハッ、笑わせんじゃねぇよ!!」



「――すみませんが、それぞれが一番強いのでは無いですか? 矛盾した言い回しですが、相性などもありますからね。得意な分野でそれぞれが一番強い、それでいいじゃないですか。私としては、全ての分野において最強と呼べるとしたら、『怠惰』さんだと、思いますがね」


 『色欲』を司る、コペルニコス・ファイルドは、終始笑顔を振りまきながら話す。そんな彼女と誰も、目を合わせようとはしない。それが、どんな事を意味するのかは、卓斗達には分からないが。

 そして、コペルニコスに名を挙げられた、『怠惰』を司る、ファルフィール・オルルカスは、未だに机に上体を預けたまま、


「んあ? 俺? ないない。コペルニコスさんにそう言って貰えるのは光栄だけどさ、俺は極力戦いたく無いんだよね。だからさ、最強とかやめてくれる? なんなら、最弱の方がいいわ」


「ファルフィールお兄ちゃんって、本当『怠惰』の名に相応しい、怠惰っぷりだよね。何で大罪騎士団入ったの」


「知らねぇよ。ハルに聞いてくれよ。つーか、一番って意味での強いなら、ウルテシアなんじゃねぇの?」

 

 半透明な結界の中に、入っている女性――『憂鬱』を司る、ウルテシア・ヴァルディは、アンニュイな目付きでファルフィールを見つめると、


「私……ですか……私も……戦闘は……好まない……です……鬱陶……しい……だけ……ですから……」


「確かに、ウルテシアとは戦いたく無いわね。うち、あんたにだけは絶対に近づきたくないし」


 はっきりとウルテシアに、対して嫌悪感を抱いているのは、『嫉妬』を司る、ルミナ・フォードラスだ。


「見た目から不気味なんだよね、あんた。それに、喋り方もウザい。なのに何であんたがそんなに……ムカつく」


「いい怒りだね、ルミナ。その怒り、僕にくれてもいいんだよ。そしたら、僕があいつらを……殺す……!!」


 『憤怒』を司る、セルケト・ランイースはそう言い、一周して再び卓斗達に殺気が向けられる。



「――貴様ら、そろそろいいか? 話を進めたい」


 ハルがそう言うと、全員が話すのを辞めて、再び話の矛先が卓斗達に向けられる。


「貴様が俺らを止めると言ったな? 止めれるだけの力があるとでも言うのか?」


「それは分からねぇ。でも、俺は救ってみせるよ、この世界を」


 少し、冷静さを取り戻した卓斗は、強い口調でそう言った。それは、ラディスもフィトスも同じで、表情から段々と恐怖心が消えかかっていた。


「僕もまだ、聴きたい事があるんだが、いいかな? 何故、このタイミングで僕達の前に現れたのかな。仮にも、アジトを勝手に四都祭に使われて、気を害しているにしろ、そのトロフィーを置きに来た者が先に居るはずだよ。何故、僕達が来るタイミングを選んだんだい?」


「さっきも言ったがな、遅かれ早かれ貴様らとは出会す運命なんだよ。その理由は、直ぐに分かる筈だ。そう焦る事は無い」


 話の内容を、焦らすハルに対し苛立ちが募るが、冷静さをここで無くしてはならない。


「なら、次に会う時に教えろよ。俺達を選んだ理由をな!!」


 ラディスの言葉に、ハルは不敵な笑みを浮かべ、


「あぁ、別に構わない。だが、次に会うのはこの世界の終焉が訪れる時だ。俺達の手によってな。その時までに、抗える力を手にしておけ」


 すると、ハルは再び指をパチンと鳴らす。すると、大罪騎士団のメンバー達が、徐々に透明の揺らめきへと変わり、歪んだ空間と共に消えていく。

 すると、息を吹き返したヴァリが目を覚ました。



「――っ!!」


「あ、姉ちゃん!! 無事かよ!!」


 ヴァリの表情は、酷く疲れ切っていた。虚ろな目でラディスを見つめ、


「ヴァリは……こんなの……もう……」


「おい!! お前!! さっきの奴は、姉ちゃんに何したんだよ!!」


「ケプリの事か。少し、五欲を弄っただけだ。トラウマは背負っただろうがな。ともあれ、――『その時』を楽しみにしてる」


 そう言い残しハルは、トロフィーを卓斗に投げかけ、透明な揺らめきと共に、歪んだ空間の中へと消えていった。




 ――シフル大迷宮での本戦は、突然の邂逅と、『いずれ来たる終焉』の確約と共に、終了した。




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