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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第42話 『代表者』

 ――四都祭予選が終了した翌日、副都の広場には本戦出場を決めた四チームが並んで居た。

 フィトス、セシファ率いる帝都Bチーム。ヴァリ、ティアラ率いる旧都Aチーム。ラディス率いる皇都Bチーム。卓斗率いる副都Aチーム。

 この四つのチームが、本戦でぶつかる。ステファは、予選の時と同様にルール説明を行なった。


「――本戦のルールを教える!! ここから離れるが、レディア高原の最奥地にある、シフル大迷宮に向かって貰う。そこに聳え立つ塔の最上階に優勝トロフィーが置いてある。それを、副都に持ち帰った者が優勝だ。ちなみに、本戦は各チームから代表者一名ずつで行う。代表者は、副都入り口に集まってくれ」


 明かされた本戦のルール。それは、シフル大迷宮の塔に優勝トロフィーが置いてあり、それを副都に持ち帰る事。

 よくよく見ると、ステファの隣にはオルドが服をドロドロに汚し、疲れ果てた姿で座って居た。どうやら、シフル大迷宮の塔に優勝トロフィーを置いてきたのはオルドの様だ。


「ハァ……ハァ……ちょいとステファ、僕はもう二度とシフル大迷宮には行かないからね……おっさんな体にはきつい……」


「だらしがないぞ、オルド。それでは、参加者達への示しがつかん。まぁ私も、あそこには極力行きたくはないがな」


「そこを本戦の会場に選ぶとは、君の腹黒さが垣間見えるね……」


 副都教官のステファとオルドが、揃って行きたく無いと言った、シフル大迷宮。その様な場所が、参加者達を待ち受ける。

 ーー卓斗は、副都Aチームのメンバーと誰が代表者になるか話し合っていた。


「でだ、誰が代表者になる?」


「そうね、どう考えたってあんたでしょ、タクト」


「俺かよ!! まぁ反対じゃねぇけど、俺でいいのか?」


 卓斗からすれば、願ったり叶ったりだ。本戦出場出来たとなれば、代表者となって本戦に出たい所だった。

 他者の意見を尊重しようと、話し合いをしたがそんな事も杞憂となった。


「代表者一名しか行けない所に、女の子を行かせる気なの? あんたそれでも、私の護衛なの?」


「だから、護衛じゃねぇって……てか、この間のは一回きりだって言っただろ、護衛として動いたのは。そろそろ折れてくれよ……」


 かくして、副都Aチームの代表者は満場一致で卓斗に決まった。代表者が集まる、副都の入り口へと向かおうとした時、誰かが卓斗に声を掛けた。


「女々男、優勝して貴方が強いって事を証明して」


 それは、神王獣との戦いで瀕死に追いやられたセラだった。既に歩けるまでに回復し、痛々しかった傷も無くなっている。

 セラの隣には、瀕死状態のセラと三葉に治癒魔法を掛けて、見守り続けた女性、聖騎士団第一部隊隊長アカサキも立っていた。



「――セラ!! もう歩けるようになったのか!!」


「えぇ、アカサキさんのお陰でね。私が四都祭に出ていれば、優勝は間違い無しだけれど、女々男に譲る」


「うん。優勝トロフィーは俺が持ち帰る。アカサキさん、セラと三葉の治療、ありがとうございました」


 卓斗は、アカサキに深く頭を下げた。あの時、アカサキが居なければ二人の命は無かったかも知れない。アカサキに対して感謝の気持ちで一杯だった。


「頭を上げて下さい。私は私の出来る事を全うしたまでです。タクトさんも、四都祭の本戦頑張って下さいね? 本戦が終わるまでは私もここで、セラさん達と応援していますから」


「でも、アカサキさんってあの日の一日だけって話じゃ無かったっけ?」


 アカサキは、副都から次なる聖騎士団の入団者の視察の為に一日だけ訪れていた。その日に、セラと三葉が神王獣に襲われ、結果として治療の為に今日まで居る。


「その事なら大丈夫ですよ。第一部隊の事は副隊長さんにお任せしていますし、私も四都祭経験者ですから、最後まで見届けます」


「四都祭経験者!?」


 思わず、大きな声を上げてしまった。四都祭が今回だけのイベントだという事は、ステファやオルドも言ってはおらず、前にもあった事は考える事も出来る。


「そうです。四都祭は数年に一度行われるイベントです。私も副都に居た時に四都祭は開催されました。当時、まだ六歳でしたけど、副都が優勝しましたよ?」


「ろ、六歳……!? え、アカサキさん、六歳の時に副都に入団したの……?」


 アカサキは、「えぇ」と言葉にして、笑顔を見せた。この女性には驚かされてばかりだった。

 四歳でこの世界に飛ばされ、六歳で副都に入団、在学期間は半年から考えると、少なくとも六歳で聖騎士団に入団している事になる。

 更に、日本人にも関わらず、基本属性全てを扱う事が出来る。何ともまぁ、異世界転移した人物としては、かなり恵まれた状況だ。


「ですから、同じ日本人であるタクトさんにも是非、優勝して欲しいですね」


 卓斗はこの時悟った。例え、世界を救って日本に帰る方法が分かったとしても、この人は日本には戻らない。

 こっちの世界の方が、アカサキにとっての故郷になりつつあるんだと。それと、同時に日本に帰る方法が長年分かっていない事も予測できる。


「『赤崎千佳』っていう人は、もう存在しない……ここに居るのは、アカサキ・チカって事か……」


「タクトさん?」


 聞き取れない程の小さな声で呟き、アカサキが首を傾げて見つめている。


「いや、何でもない。優勝、してくる」


 そうとだけ伝えて、卓斗は副都の入り口に向かった。世界を救うのと同時に、日本に帰る方法も見つけておかないと、生涯をここで終える事になる。

 それが悪い訳では無いが、故郷は日本だ。日本に戻って、家族や友人達と共に日々を過ごさなければならない。だから、日本に帰る方法を見つける為にも、『オチ・タクト』は、『越智卓斗』はこの世界を救わなければ成らない。


 ――副都の入り口に近づくと、ステファと本戦に出場する代表者達が既に集まっていた。


「あ!! タク兄、遅いっスよ!! 早く行くっスよ!!」


 卓斗の到着に痺れを切らしていたヴァリが、不貞腐れた表情をして地団駄を踏んでいた。


「兄貴も代表者になったのか!! 兄貴なら絶対に代表者になるって思ってたぜ!!」


「本戦で決着をつけるとしよう、タクト」


 ラディスとフィトス、ヴァリも代表者に選ばれていた。卓斗が要注意人物として、挙げていた三名であり、予選で実力を見せつけた三人だ。


「何となく、お前らも代表者になってるだろうなって思ってた。このメンバーで本戦か……」


「ルールは覚えているな? 補足だが、スタート開始はシフル大迷宮の入り口に立ち、四人同時に入った瞬間をスタート開始とする。終了は、塔の最上階にあるトロフィーを持ち、シフル大迷宮から出た時点で終了だ。優勝者は、その時点でトロフィーを持っている者だ。制限時間は無いが、レヴィア高原の最奥地までの道中での戦闘は禁ずる。いいな?」


 ステファにそう言われ、卓斗達は静かに頷いた。遂に、四都祭優勝者を決める、本戦が行われる。

 ――卓斗達は、本戦会場であるシフル大迷宮へと向かった。



「シフル大迷宮ってどんな所なんだ?」


 当然、この世界に来てまだ、三ヶ月程しか経っていない卓斗は、聞いた事も言った事も無い。


「さぁ? 俺は基本、エルヴァスタ皇帝国から出ねぇからなー。師匠なら知ってると思うけど」


「ヴァリも知らないっス。まず、レヴィア高原がある場所はあんまり行かないっスよ。国という国も無い、だだっ広い草原と、ひたすら長い街道があるだけっスからね」


「そうだね。サウディグラ帝国もレヴィア高原とは真逆の方角にあるし、僕も行った事はないかな」


 元々この世界の人間であるフィトス達も行った事の無い場所。そんな新たな地へと、この四人で向かうというのも不思議な気分だ。


「名前からして、かなりでかい迷路って事か? 異世界なら、あってもおかしくは無いか……」


「トロフィーの置いてある塔の最上階まで、僕達を競わせるのが目的の様だね」


「お前、その杖に乗って一気に塔の最上階まで行くとか、そんなセコい事すんなよ」


 フィトスは、自分で歩く事は一切無く、移動手段はフィトスの持つ杖だ。腰掛け、ふわふわと浮きながら飛行する。


「安心していいよ。この杖では、せいぜい十メートル程が限度だからね。恐らく、塔の最上階までは行けない筈だよ」


「なら良いんだけど、もしそうしようってんなら、俺の引力で地面に引き落としてやるからな」


 卓斗の言葉に、フィトスは笑顔を見せた。中性的な顔立ちで、その笑顔に思わず、胸がドキッとしたが、心でフィトスは男だと言いつけて、前を向く。


「ん? そう言えば、このメンツってさ、ある共通点があるよな?」


 突然の卓斗の言葉に、全員が疑問符を浮かべている。卓斗の言う、共通点とは、


「ヴァリが、ティアラ。フィトスがセシファ。ラディスがエルザヴェートさん。俺がフィオラ……全員に、千三百年前の人達と関わりを持ってる……これって、偶然?」


「フィオラって、フィオラの秘宝のフィオラっスか?」


 卓斗の中にフィオラが存在している事を知っているのは、この場ではフィトスだけだ。実際、卓斗もフィトスからそれを言い当てられ驚いた。


「ヴァリもフィオラの秘宝知ってんのか?」


「もちろん、知ってるっス。あちこちで捜索の依頼が出てるっスからね。でも、そのフィオラとタク兄に何の関係があるんスか?」


「そうだな、お前らは何と無く敵って感じがしないから、教えても良いか。フィオラの秘宝は俺の体の中にあって、フィオラは俺に封印を解いて欲しいそうだ。まぁ龍精霊では無いから、契約とかは関係ねぇみたいだけど」


 セシファもそれは言っていた。フィオラは龍精霊ではない為、卓斗は契約者にはならない。だが、フィオラの目的を卓斗は知っている。


「フィオラは、いずれ来たる終焉を俺に止めて欲しいそうだ」


 その言葉に、三人は目を見開いて驚いた。もちろん、卓斗がその役目を担うという部分では無くて、いずれ来たる終焉の事に対してだった。


「いずれ来たる終焉? それはどういう事?」


「黒のテラ、だよ。それが、世界を終焉へ導くか、救うか、どっちかに行き着くんだとよ」


 ヴァリとラディスは、『黒のテラ』という言葉に首を傾げているが、フィトスだけは真剣な表情をしていた。


「つまり、フィトス、お前がこの世界を終焉へと導いて、俺がそれを防ぐ。って事になるかも知れねぇ」


 卓斗の言葉に、ラディスとヴァリは驚いた表情をして、息ピッタリにフィトスから距離を取った。


「僕が、この世界を? そして、それを君が止める……」


「――怪しいとは思ってたんスよね!! 真っ黒なローブなんか着て、時折笑う顔が、悪人そのものなんスよ!!」


 ヴァリが、突然フィトスに対して言葉を荒げた。その横で、ラディスもうんうんと頷いている。


「いや、それは帝都の服装だろ……まだ、フィトスがって決まった訳じゃない。その逆もあるかもなんだよ」


「逆? って事は……兄貴が……!?」


 今度は、卓斗に対して息ピッタリに距離を取る。そんな二人を見て卓斗が、


「はぁ、仲良いなお前ら……でも、それとまた違って、俺とフィトス、どちらも救う側になるかも知れねぇ」


 その言葉に、ヴァリとラディスはホッと安堵して胸をなでおろす。現状、卓斗が知っている『黒のテラ』を扱う者は自分と、エルザヴェートと、フィトスだけだ。


「だからフィトス。お前と、そうやって戦う時が来ない事を、俺は祈ってるよ」


「うん、僕も祈ってる」


 ヴァリとラディスとフィトスは、四都祭では優勝を賭けた相手だが、敵では無いと思い話した。

 仮に、この中に敵が居たとしたら、フィオラの秘宝を狙って来るだろう。これは、卓斗の賭けだった。いずれ来たる終焉に備えて、強力な味方は必須。

 卓斗は、この三人にも味方として協力して欲しいと思っていた。



 ――それから二時間程歩いた頃、卓斗達はレヴィア高原最奥にある急斜面な丘を登っていた。


「うげぇ……ヴァリ、もう無理っス……」


「姉ちゃん!! だらしねぇぞ!!」



 丘の頂点に立つと、それは見えてきたーー。



「でっけぇ……」


 そこには、半径三キロ程にも及んだ、複雑に入り組んだ迷路があり、その真ん中に百メートルはあろう程の塔が聳え建っていた。

 想像を遥かに超える大きさの大迷宮は、幻想的で、ここが異世界なんだと、卓斗に改めて思わせる程だった。



 ――シフル大迷宮での、本戦が始まる。



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