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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第40話 『後悔のその先』

 空高く打ち上げられた、大きな火の玉は爆発し、轟音が森中に響き渡る。それは、四都祭予選の終了の合図だった。


「ハァ……ハァ……何だ? 今の音……」


「どうやら……予選終了みたいだよ、タクト」


 決着の付かなかった卓斗とフィトスの体は、既にボロボロで辺りの地形は酷く変わり果てていた。地面にはヒビがたくさん入り、木々は倒され、激しい戦闘が行われていた事を物語っていた。


「予選、終わったの?」


「どうやら、そうみたいね」


 エレナやレディカ達も、ようやく訪れた予選終了の合図に安堵する。気を失い、エシリアに治癒魔法を掛けて貰っていたセレスタも目を覚ました。


「……っ、エシリア……?」


「セレスタちゃん!! 良かったです……」


 上体を起こし、辺りを見渡すと卓斗達の姿が視界に映る。セレスタはフィトスの重力で地面の中へと沈み、気を失っていた為、卓斗達が駆け付けたのを知らないでいる。


「お前達……来てくれたのか……」


 当然、視界にはエレナの姿も映った。セレスタは来てくれた事に感謝を伝えようとしたが、素直になれない自分が居た。

 今更、自分がエレナに馴れ馴れしく話すなど許されるのだろうか。二年前のカジュスティン家滅亡の日に、見捨てた自分が今更仲良くなりたいなど言える筈も無い。

 だが、そんな自分の心情と葛藤するセレスタを見やったエレナは、ため息を一回吐いて、


「終わったわよ、予選」


 そう言葉にして、エレナは副都に戻ろうと歩きだした。その後ろ姿をただ、返事をする事も無く見つめる事しか出来なかったセレスタ。

 その様子を見ていたエシリアが、笑顔でセレスタに話し掛けた。


「セレスタちゃん、エレナちゃんと仲直りしたらどうですか? きっと、エレナちゃんはそう思ってる筈です。私だって、昔みたいに三人で仲良く、お話ししたり、遊んだりしたいんです」


「でも……私にそんな資格……」


「過去の事で悩んでも仕方がないんですよ? 過ぎた事を変える事は出来ません。でも、未来はいくらだって変える事は出来ます。私も協力しますから、ね?」


 エシリアの言葉に、励まされた。王族として、王妃として生きて来たセレスタにとって、唯一の友達だった二人。

 自分から離れ、王族としての人生を歩む事を決めた事を後悔し始めていた。あの時、父親に逆らって遊ぶ事を続けていたら、あの時、父親に逆らってエレナを助けに行っていたら、そう考えるだけで胸が苦しくなる。


「ま、私も応援くらいはしてあげるわ」


「レディカ?」


「私も、セラの事は嫌いだけど、前より嫌いじゃない。話して、喧嘩して、一緒に戦って、助けて、そういう事をするだけでも、案外距離は縮まるものなのよ」


 レディカとセラの亀裂は修復しつつあった。神王獣との一件以来、二人の距離は縮まっている。そんなレディカからの言葉は、無性に心に響いた。

 説得力があるとでも、言うべきなのか。


「とりあえず、副都に戻ろっか」



 ――四都祭予選参加者達は、副都へと戻って行った。



「あーあ、時間終了まで決着付けられなかったな」


 不機嫌そうに歩く卓斗の隣に、フィトスが杖に腰掛けふわふわと飛行していた。


「いずれ、決着は付けよう。まだ本戦もある訳だからね」


「本戦か……何するんだろうな。てか、ちゃんと本戦出場出来てんのかな……心配なってきた……」


「心配は無いよ。きっと本戦出場出来る筈だよ」


 笑顔でそう話すフィトスに、横目で睨みながら、


「ポイント奪った張本人に言われると、馬鹿にされた気分だな」


「まぁそう言わないでくれよ。タクトはポイントを持ってる訳だし、絶対に出場出来ないとは限らないだろう?」


 そう言われ、卓斗はポケットを探ると、自分が持っていた水晶はしっかりと、五つ入っていた。

 確かに、全部取られた筈なのに。


「あれ? 俺ら両方のチームから全部奪ったよな?」


 すると、フィトスの隣を歩くセシファが、歩く前方を見つめながら、


「すみません。彼から水晶を奪うのはフィトス様の仕事だと勝手に思い込んでいました。私の失態です」


「いや、いいんだ。僕らは二十ポイントもあるからね。何の心配も要らないよ。セシファは良くやってくれた、感謝する」


 そう言って、セシファの頭を魔法帽の上から撫でる。心なしかセシファは嬉しそうな表情をしていた。

 卓斗の隣を歩いていた悠利は、落ち込んだ様子だった。ポイントを全て失くして、予選を終了したという事は、本戦出場は絶望的だからだ。


「悪いな、卓斗。一緒に本戦は行けそうにねぇな……」


「まだ分かんねぇだろ? 後のチームがどうなってるか結果を楽しみにしようぜ」



 ――龍精霊騎士ヴァリと龍精霊ティアラ、悪辣姫の弟子ラディスも副都へと向かっていた。


「うげぇ……お腹空いたっス……やっと終わったっス……」


「姉ちゃんさ、お腹空いたばっか言ってるけど……」


「君はお腹空かないんスか!? 歩くだけでもお腹空くのに、戦ったら余計っスよ……」


 両腕をブラブラとぶら下げ、気怠そうに歩くヴァリを見て、苦笑いを浮かべるラディス。マッドフッド国最強と呼ばれる少女の、こんな様子を見ていると、疑惑にも思えてくる。


「この子ね、かなりの大食いなの。気にしないでね」


 ティアラは、こんなヴァリに呆れながら話した。契約してから戦う以外だと食べている所しか見てない程にヴァリは食べる事が好きなのだ。


「そうなのか。なら今度は、戦いじゃなくて、大食いで勝負しようや、姉ちゃん!!」


「ん!! それいいっスね!! 早速、副都に戻ったら食堂で勝負っス!! なんか、燃えてきたっスよ!!」


「戦ってる時よりもやる気満々なんだけど……姉ちゃん」


「君!! 副都まで競争っスよ!! 早く食べるっス!! 大食い勝負っス!!」


 ヴァリは、とてつもない速さで走り出す。慌てて、その後を追うラディス。そんな二人の走り去っていく姿を、呆れ目で見つめるティアラは、


「あんだけ戦って、まだ元気なの……?」


 二人を見ているだけで、疲労感が溜まっていた。



 ――時刻は正午過ぎ。四都祭の予選も終わり、副都の広場には参加者が戻って来ていた。


「皆、予選ご苦労だった!! 結果を発表するから、その場で待っててくれ!!」


 ステファの呼び掛けに、参加者達は広場に留まる。早く食堂に行きたいヴァリは、頬を膨らませてぶーぶー言っている。


「結果発表なんて、後でいいっス!! 早く食べたいっス!!」


「姉ちゃんさ、後少しくらい辛抱しろよ……」


「よう!! 予選では会わなかったな」


 そんな二人に、卓斗が話し掛けた。ヴァリとラディスとは予選では会う事は無く、当然戦ってもいない。


「あ!! 兄貴!! ずっと探してたんだぜ!? けどさ、姉ちゃん見つけて、挑んだら思いの外強くてさ……」


「へぇ、やっぱヴァリも強かったのか」


 予選が始まる前に、卓斗は要注意人物を三名挙げていた。それは、フィトスをはじめ、ヴァリとラディスもだ。


「タク兄じゃないっスか~~。ヴァリ、お腹空いたんスよ~~。早く食べたいっスよ~~」


「お前、腹減ってばっかだな……」


 ヴァリに、苦笑いを浮かべていると、ティアラが卓斗に声を掛けた。


「僕ちゃん、予選はどうだった?」


「ん、まぁ自信は無いかな……」


「駄目だよ、僕ちゃん。常に、自信は持っておかないと!! そんなんじゃ、シャルの契約者にはなれないよ?」


 それは、四都祭予選が始まる前に会話していた内容だ。セラと三葉を瀕死に追いやった元凶、神王獣の正体がティアラ達の旧友、シャルだという事が発覚した。

 更には、龍精霊だという事も。ティアラは、やたらとシャルの契約者になる様に勧めてくるが、卓斗はその話を受け流していた。

 ただ、「龍精霊騎士」という、肩書きはカッコよくて気に入っているが。


「まだそれ言ってんのかよ。契約者になるとは言ってねぇからな」


「シャルもきっと、僕ちゃんみたいな子に契約して欲しいんだと思うよ? 契約者を私達から選ぶ事は出来ないからね。契約者に恵まれない事もあるんだよ……」


 そう話したティアラの表情が儚げになり、卓斗は首を傾げてティアラを見つめた。

 何か思い当たる事でもあるのかと、質問しようとした時、ステファの声が広場に響き渡った。



「――結果を発表する!! まずは、一位からの発表だ!! ポイント数は二十、帝都Bチーム!!」


「当然だね」


「はい、フィトス様」


 一位になったのは、フィトスとセシファ率いる帝都Bチームだ。圧巻までと言っていい程の断トツでの一位だ。


「次に、二位の発表だ!! ポイント数は八、旧都Aチーム!!」


「ヴァリ達っスね」


「セシファが一位……悔しいわね」


 二位になったのは、ヴァリとティアラ率いる旧都Aチームだ。一位との差が、十二ポイントもある事にティアラは悔しそうな表情をしていた。


「次に、三位の発表だ!! ポイント数は七、皇都Bチーム!!」


「三位か!! クッソ、一位が良かったな!!」


「うむ、とは言え本戦出場じゃ。良くやったのラディス」


「師匠!!」


 三位になったのは、ラディス率いる皇都Bチームだ。仲間と逸れたラディスは全ポイントを持っていたのにも関わらず、マイナスを出す事なく、見事三位に入賞した。

 自分の弟子の頑張りに、エルザヴェートも嬉しそうにラディスに微笑んでいた。


「次に、本戦出場ラインとなる四位の発表だ!! ポイント数は五、副都Aチーム!!」


「おわ!? ギリギリ本戦出場か!!」


 四位になったのは、卓斗率いる副都Aチームだ。フィトスとの戦いで、自分の持っていた五ポイントは奪われずに済み、見事本戦出場を果たした。


「残念だが、残りのチームは予選敗退となる。本戦は明日の正午開始だ!! 今日はゆっくりと休んで明日に備えろ!!」



 こうして、四都祭予選は終了した。卓斗達は、何とか四位での本戦出場を果たしたが、本戦では更に優勝するのは難しくなる。

 相手の三チームは、それぞれ要注意人物としてあげていた、フィトス、ヴァリ、ラディスが居るからだ。



 ――広場での、結果発表を医務室で聞いていた、セラと三葉とアカサキ。そこに、レディカが表情を曇らせて入ってくる。


「あ、レディカちゃん。四都祭予選、お疲れ様」


「うん……」


 レディカの浮かない様子に、セラと三葉は見つめ合って首を傾げた。レディカからすれば、約束を果たせなかった事が心残りだった。

 セラに、必ず優勝すると言って、予選で敗退など恥ずかしくて、悔しくて仕方がない。


「ごめん、セラ……約束果たせなかった」


 セラは、暫くレディカを見つめると、優しく微笑んで、


「頑張ったんでしょ? なら何も謝る事は無い。 私が参加出来ていれば、優勝は出来た筈だけれど」


 セラの後者の言葉に、一瞬苛立ちが募るが、セラの表情を見てレディカも優しく微笑んだ。


「二人、いい感じだね!! アカサキさんもそう思いますよね?」


「えぇ、三葉さんの言う通りです。いずれ、お二方は私の元で面倒見ますからね?」


 三葉とアカサキも、そんな二人のやり取りを温かい目で見つめていた。あれ程、犬猿の仲だった二人が徐々に仲良くなりつつある。

 その事が、三葉には嬉しくて仕方がない。すると、アカサキの言葉を解釈したレディカが、


「それって、私もアカサキさんの部隊に入団するって事!?」


「えぇ、そうですね。セラさんとレディカさんは是非、私の部隊に入団して下さい」


 レディカとセラはお互い見つめ合い、突然笑い出した。副都を経てからも、二人の関係が途切れない事が、どこか、嬉しかったのだ。

 そんな、温かい空気が、医務室に流れていた。



 ――時刻は、十九時。食堂には食事をする者達が集まっていた。その中に、一人でご飯を食べている者が居た。

 綺麗な赤髪、絶世の美女エレナだ。何故、彼女が一人で食べて居るのかと言うと、特に仲良くしていた三葉は医務室に居る。レディカも医務室に話しに行っていて不在。

 エシリアに声を掛けようにも、どこか気まずくて断念。李衣や繭歌は何処かに出掛けている様で不在。最終手段である、卓斗を探したものの、姿が見えなかった。

 故に、一人でボッチ飯を食べているのだ。


「何で私が一人でご飯を……ったく、あの護衛は何処に行ったのかしら……!!」


 すると、隣に誰か座るのが視界に映った。隣を見やると、そこにはセレスタが座っていた。


「ぶぅぅぅ!?」


 驚きのあまり、エレナは口にしていた食べ物を吹いてしまう。セレスタを見つめたまま固まるエレナに、セレスタは少し気まずそうに、


「食べ物を吹くな、汚いだろう」


「な、ななな、何であんたがここに……!?」


「別にいいだろう。私がどこで夕食を食べようと」


 そう言って、夕食を食べ始めるセレスタ。エレナは辺りを見渡すが、席が埋まってるという訳でも無かった。


「ほ、他にも席はあるでしょ!? 何で、わざわざ私の隣に!?」


「いいから、黙って食事をしろ。仮にも王妃なのだぞ? お前は。それらしい振る舞いをしろ」


 エレナには、理解不能だった。食べ物が喉を通らない。むしろ、食欲を一気に消す程の衝撃が走っている。

 いつもなら、エレナとセレスタはどちらからとも無く避け、寮にいる間も会話など無く、かつての友達だった事など無かったかの様に振舞っていた。

 そんな中、突然のセレスタの行動に思考が追いつかない。


 エレナは、考える事を辞めて食べていた物を一気に口にかき込む。時折、喉に詰まりそうになり水を飲み、またかき込む。

 食事をとんでもないスピードで終えて、エレナはその場から立ち去った。


「何なのよあいつ……!! セラとレディカに見習って、仲直りでもしたい訳!? ないないない!! そんなのあいつが絶対にする筈ない!! もしかして……私の弱味を探ってる……!?」


 考えていても仕方がないと、エレナはそのまま風呂場へと向かった。脱衣所で服を脱ぎ、温かい浴槽へと浸かる。

 すると、風呂場の扉が開いてセレスタが入ってくる。


「ぶぅぅぅ!?」


「何だ、その反応わ」


 セレスタは、そのままエレナの隣に浸かる。肩と肩がくっ付きそうな程近くに。


「あんた、何か今日変よ? 何が目的なの」


 目も合わせず、二人はただ前を向いている。湯気が立ち昇り、温泉の様に、常に溢れるお湯と、常に流れるお湯の音だけが、風呂場に響いていた。

 今この空間には、二人だけ。寮なら、エシリアがいるが、完全な二人っきりは幼少の頃以来だ。


「お前に……エレナに話がある……」


「話……? 何よ……」


 暫く、沈黙が流れた。よそよそしい変な空気が漂い、息苦しく感じてくる。そして、セレスタは若干頬をピンク色に火照らせて、徐に口を開いた。



「――私は……エレナと、な、仲直りが……したい」





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