表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
41/145

第38話 『最強の騎士』

 四都祭が始まって、そろそろ一時間が経とうとしていた。フィトス、セシファ率いる帝都Bチームは十ポイントで一位。同じく、卓斗、エレナ、エシリア、繭歌、レフェリカ率いる副都Aチームも十ポイントで同率一位。

 ヴァリ、ティアラ率いる旧都Aチームは八ポイントで二位。ラディス率いる皇都Bチームは七ポイントで三位。そして、悠利、李衣、レディカ、セレスタ、オッジ率いる副都Bチームは五ポイントで四位となっている。


 時間制限は各チーム教えては貰えず、いつ終わるのか分からない状態だ。悠利達は、フィトス、セシファと対峙していて、そこに卓斗達も加わった。

 ――卓斗は、前線に立ちフィトスと睨み合う。悠利達はその後ろで静かに見守っていた。セレスタは気を失い、エシリアが必死に治癒魔法を掛けていた。


 ――本戦出場を叶えるとすれば、フィトス達からポイントを奪っておきたい所だが、フィトスの強さは異常とも呼べる。

 重力を操り、魔法を消す。卓斗と同じく黒のテラを扱う者だった。その力は、フィオラが開発したが『世界を終焉へと導く力』と『世界を終焉から救う力』の二つに、扱う者によって黒のテラの行き着く先が変わるのをエルザヴェートから卓斗達は聞いていた。


「お前も……黒のテラ……」


「僕もこの力についてはよく知らないけど、素晴らしい力だ。他を寄せ付けない圧倒的なまでの力……君も黒のテラを扱うとは想定外だったけど、僕と似ている事には変わりないね」


「似てる? それはどういう意味だよ」


「僕には分かるよ。君の中に居るんだろ?」


 その言葉に、卓斗は反応を見せた。自分の中に居る者とは、フィオラの事だ。何故、フィトスはその事を見抜いたのか卓斗には分からなかった。


「どうして……それを……」


「君からセシファと同じ様なものを感じた。同じ契約者なのかとね。他にもまだあるとは思っていたけど、黒のテラだとは思わなかったよ」


「悪いけど、フィオラとは契約も何もしてねぇよ。ただ何故か俺の中に居るだけだ」


 卓斗の言葉のフィオラという部分に、反応を見せたのはセシファだった。表情は変わらずジト目で無表情だが驚いた様だ。

 フィオラとセシファは、かつてエルザヴェートの世界征服を止めた旧友であり、その際にエルザヴェートの黒のテラの力と共に自らの魂を封印してから、詳細は不明となっていた。


「契約をしていない? なら何故君の元に居るのか、答えは簡単だね。それは、君が強いからだよ。こんなにも楽しい気分なのは久々だよ、タクト」


 悪戯な笑顔を浮かべて、最早卓斗しか視界に映っていない。悠利達の事など、忘れたかの様に卓斗だけを見つめていた。そんなフィトスに、黙って見守っていたセシファが、


「フィトス様、お話の途中申し訳ございませんが、フィオラは私達と違って龍精霊では無いので、契約云々の話では無いかと思われます。何故、彼の中に留まるのかは分かりませんが」


「成る程、フィオラというのは龍精霊では無いのか。久しぶりに、旧友との会話をしたいと思わないのかい? セシファ。それくらいの時間なら与えてあげるよ」


「悪いけど、それも出来ねぇ。俺からフィオラに話し掛ける事は出来ねぇし、向こうからいつ話し掛けて来るかも分からない。それに、どうやらフィオラの声は俺にしか聞こえないみたいなんだ」


 今までの二回のフィオラとの会話は、どちらもフィオラからの声掛けだった。それも、不定期だ。姿も見える事は無く、脳に響く様に声だけが聞こえてくる。


「それは残念だったね、セシファ」


「いえ、私に気を遣われなくても結構です。フィオラがまだこの時代にも居るというのが分かっただけでも、私もティアラもエルザヴェートも安心するでしょう」


 彼女達が、どんな物語を経て、どんな歴史を刻んだのか卓斗も気になっていた。その時代のラスボスだったエルザヴェート、そのラスボスを倒し世界を救った英雄、シャル、ティアラ、セシファ、フィオラ。

 それは、今から1300年程前の話になるにも関わらず、今この時代にも生きていて目の前に居る事には不思議でしかないが。


「フィオラの秘宝の封印は、俺が必ず解く。だから、再開はその時まで待っててくれ、お嬢……」


 ――お嬢ちゃんと言おうとした時、セシファのジト目に強く睨まれた様に思えて、思わず言葉を止めた。以前の会話で、お嬢ちゃんと呼んだ時、セシファは卓斗にお婆ちゃんと呼ぶ様に促した。

 その時は、理解不能だったが今では分かる。自分との年齢差が千歳を超えるというのも、理解不能な話だが事実だ。流石にお婆ちゃんと呼んで良いのかも躊躇う所だが。


「僕はこの四都祭で、君との戦いが何より楽しみだったよ。初めて喋ったあの時からね。そして、君には十分に力を発揮して貰いたいんだ。――セシファ」


 そう言って、フィトスがセシファに視線を向ける。すると、セシファは悠利達の方に手を翳すと、手に十個の水晶を持つ。

 卓斗を除いて、全員から水晶を一瞬で奪ったのだ。


「なっ……!?」


「これで、僕達は二十ポイントだ。君達の本戦出場は危機に晒されたね。僕に勝たないと予選敗退って事になる可能性もあるよ?」


 悠利達は、驚きが隠せない。触られた感触も無かった筈なのに、どうやって水晶を一瞬で奪ったのか。先程から理解不能な事象を次々にやってのけるフィトスとセシファに恐怖すら感じる。それは、初めてフィトス達と対峙するエレナ達も同じで、


「いつの間に水晶取ったの……!? 何これ、なんかの魔法?」


「エレナちゃん、これは魔法なんかで片付けられる事象じゃない……あいつのやることは理解不能な事ばかりだ。俺達の考えじゃあいつを計る事なんか……絶対に出来ない……」


「珍しく諦めモードじゃない、ユウリ。あんたもタクトと同じ様な性格だと思ってたけど?」


  悠利の態度、表情、声色、それらを踏まえてエレナは悠利がこの戦いを諦めていると悟った。少なくとも、悠利も卓斗と似た性格だと思っていた分、弱い部分を見せる悠利に珍しく思っていた。


「俺は、そんなに強い人間じゃないんだよ。あいつも日本に居た時はさ、俺と変わらなかったのに……人ってこんなにも変われるものなのか? 強くいれるものなのか? 俺には分からない。むしろ、こんな世界で生活も何もかも変われば、慣れるにしろ本質は変わらない筈だ……俺と卓斗で何が違うんだよ……」


 卓斗が、諦めず強敵にも立ち向かい、強くいる理由。それは、フィオラから課せられた世界を救う者に成り得るかも知れないからだ。

 その目標を放棄すれば、黒のテラは『世界を終焉へと導く力』となって、仲間を傷付け、世界を滅ぼし兼ねない。

 ――故に卓斗に諦める事は出来ないのだ。だがそんな事情など、悠利にとっては知った事ではない。卓斗がこの世界で人が変わったかの様に見えても仕方が無いのだ。


「さぁ、タクト。そろそろ話はいいかい? 僕と戦うとしようか」


 遂に戦闘が始まろうとしていた矢先、卓斗の持つ黒刀が消え、フィトスは不思議そうに見つめる。


「どうしたんだい? まさか、戦わないと言い出す訳じゃないよね」


「いや、戦うよ。ただ、この力は長く使えねぇ。ここぞって時に使う」


「なんだ、出し惜しみのつもりか。甘く見られたものだね」


 卓斗の黒刀は、まだ不完全で十分と保たない。それ以上使うとなると、暴走して自我の制御が出来ない。


「まぁいいさ。すぐに全力を出させてあげるよ」




 ――川の麓から離れた場所では、龍精霊騎士ヴァリ・ルミナスと悪辣姫の弟子ラディス・ラ・エヴァは第二ラウンドを始めようと睨み合っていた。

 ヴァリの手には、神器レーヴァテインが握られている。赤色と黄色の奇抜な色に歪な形の剣。透明な炎の様な揺らめきがゆらゆらと立ち昇っている。


「行くっスよ!!」


 地面を蹴り、ラディスとの距離を詰め神器レーヴァテインを横に振りかざす。ラディスは体を仰け反る様に避ける。

 だが、神器レーヴァテインの振りかざした軌跡に青白い炎が吹き荒れ、空中で燃えている。まるで、空気が燃えている様だ。


「熱っ!?」


 避けた筈なのに、空気を燃やす青白い炎を目の前にすると全身に熱が伝ってくる。体をキンキンに冷やしてから熱湯に飛び込んだ時の様な熱さが全身に伝わったのだ。

 そのまま、バク転をしながらヴァリとの距離を取る。空気を燃やす炎は十秒程で静かに消えていった。


「この炎……」


 ラディスは神器レーヴァテインの創り出す青白い炎に何か疑問を抱いていた。普通の炎とは違うと悟っていた。


「レーヴァテインのこっちの剣は、特別な炎を使ってるっス」


「特別?」


「この炎が燃やせない物は無いっス。魔法も人も、世界すらも燃やすっス。更にこの炎は、ヴァリの意思で燃えたり消えたりするっス」


 思わず息を呑んだ。もし、レーヴァテインに斬られ青白い炎が体を燃やせば、本来の死と隣り合わせの戦いならば、一瞬で灰と化すだろう。

 レーヴァテインの両方の剣が殺しに特化している事に、驚きと恐怖がラディスを襲った。


「姉ちゃんってもしかして……滅茶苦茶強い人?」


「まぁ旧都の中では最強なんて言われてるっスよ。マッドフッド国のグランディア騎士団にも既に勧誘はされてるっスけど、旧都を経てから入団した方がいいと思ったんスよね~~。でも、旧都に入る前は只の頑丈でタフな女の子だったんスよ? 旧都に入って直ぐにティアラと契約して神器を探しに行ってから最強なんて呼ばれる様になったんス」


 マッドフッド国のグランディア騎士団は聖騎士団と同等の戦力を持ち、優れた騎士を多く輩出している国だ。

 今でこそ、エルヴァスタ皇帝国を含めた六大国で同盟を結び、平穏な日々が続いているが、少し前は第三次世界聖杯戦争で争っていた国同士だ。

 その中でも、グランディア騎士団は世界統一寸前までに迫った最強と謳われる騎士団だ。


「十六年前の第三次世界聖杯戦争の時に、ヴァリがこの歳で存在していたら、マッドフッド国が世界を統一した、とまで言われてるんスよね」


「第三次世界聖杯戦争……師匠から聞いた事はある話だ。三年にも及ぶ全世界を巻き込んだ聖杯戦争だよな。もし……第四次世界聖杯戦争が起きたとしたら――」


「ヴァリ率いるマッドフッド国が世界を統一するっスね。でも、そんな事ヴァリは望んでないっスけどね。平和が一番っスよ」


 ヴァリ・ルミナスという少女の存在に完全に恐怖を覚えた。もしかしたら、この少女は師匠であるエルザヴェートよりも強いのかも知れないと思ってしまった。

 なら、自分はこの戦いで勝てるのか? 超えられない壁を越えるのがラディスの生き甲斐だが、果たして超えれるのだろうか。


「正直言って……化け物だな、姉ちゃん」


「酷いっスよ!! 女の子に対して言う言葉じゃないっス!!」


 頬を膨らませて、地団駄を踏みラディスにそう言った。こう見れば、マッドフッド国最強なんて言葉が似合わない。どこにでもいる様な、少しだけ子供っぽい女の子だ。

 すると、そこにティアラが太い木の枝に座って二人を眺めながら、


「ねぇ、いつまで戦ってんのよ。早く決着つけたら? 私達、凄く暇なんだけど……」


「ティアラ、いつからそこに居たんスか?」


「今さっきよ。って、あんた神器抜いてるじゃない。少年、ヴァリから神器を抜かせるなんて大したものね。褒めてあげる」


 足をふらふらとさせて、少年と呼ぶラディスに笑顔を見せた。ヴァリが突然として最強とまで呼ばれる様になったのは、この幼女と出会ってからだとヴァリは言っていた。

 幼女と言えど、本来は老女だが。ラディスの好奇心は、この老幼女ティアラの方にも向いていた。


「おい!! そこの小ちゃいの!!」


「小ちゃい!?」


「どうやったら、姉ちゃんをここまで強く出来たんだ? なんかの魔法か?」


 ティアラは、小ちゃいと呼ばれた事に顔を真っ赤にして怒りを露わにしながらジタバタしている。

 セシファ曰く、ティアラはお姉さん気質で子供扱いされるのが嫌いで、卓斗にヴァリの妹と言われた時も怒っていた。


「礼儀のなってない少年ね、本当!! 私を小ちゃい呼ばわりなんて千年早いわよ!!」


「あー、はいはい、俺が悪かったって。で、質問に答えてくれよ」


 ラディスの大人な対応に、また苛立ちが募りながらも腕を組んで、ラディスを強く睨みながら、


「私は別に何もしてないわよ。むしろ、契約してくれて私の方が感謝してるくらいね。龍の姿って考えただけでも嫌気がさすわ。多分、元々強いのよヴァリわ。それに加えて、神器を持ってるからね」


「やっぱり、神器ってのが強さの要因か」


 神器と呼ばれる武器が、所持者の強さを莫大に跳ね上げている。元々の強さも必要ではあるが、ラディスは神器が欲しいと思っていた。


「あー、俺も神器欲しいな。でさ、姉ちゃん」


「なんスか?」


「俺が勝ったら、その神器くれよ」



 ――ラディスの突然の発言に、その場に沈黙が流れた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ