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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第37話 『強い者と強くいる者』

「――神器レーヴァテインっス」


 ヴァリの腰に携えていた二本の剣の内の一本を抜き、ヴァリはそう言葉にした。異様な形に異様な色、見て分かる程の只ならぬ異彩を放つその武器は、神器レーヴァテインと呼ばれた。


 ――神器。それはこの世界に五つしか存在せず、それぞれが特異な能力を持つ武器。フィオラがかつてエルザヴェートと戦う際に作り、悪辣姫の世界征服を阻止するのに活躍した武器だ。

 現状、神器を持つ者は、変幻自在に形を変え、多彩な武器へと変形する神器シューラ・ヴァラをセラが持っていて、無限射程の斬撃を放ち、対象まで光速の速さで到達する神器グラーシーザをヴァルキリアが持っている。

 そしてここに、三つ目となる神器を持つ者が――。


「神器……? 聞いた事はあるぜ。厄介な能力を持つ武器だって師匠は言ってたっけか。まさか、姉ちゃんが持ってるそれが、神器だとは思わなかったぜ……」


「ふふーん、これを手に入れるのには苦労したっスよ~~。レーヴァテインの強さは半端じゃないっスよ? 君、覚悟するっス」


 剣先を向けて、笑顔を見せるヴァリ。その刃からは、ゆらゆらと透明の炎の様なものが立ち昇っている。そして、肌に伝わる熱が尋常でないのも分かる。

 汗がダラダラと溢れ、その熱さのあまり皮膚が溶けてしまいそうにも感じる。


 だが、ラディスには気になる事があった。それは、腰に携えている剣の二本目だ。先程、見事一本の剣を手から離す事に成功し、腰に携える剣を抜かせた。だが、もう一本は未だ腰の鞘に収められたままだ。


「ちょっと、姉ちゃん。そっちの剣は抜かねぇのか? まさか、その神器を手から離したら使うとか言わねぇだろうな」


「言わないっスよ!! 神器レーヴァテインは双剣なんスよ。でも、片方のこっちは四都祭のルール上使えないんス」


「ルール上使えねぇ? それってどういう……」


 四都祭のルール、ポイントの争奪と相手を死なせない事。このルールを踏まえて考えられるのはーー。



「もう片方の剣は、簡単に人を殺しちゃうんス。だから、この四都祭では使えないんスよ」


「簡単に人を……殺す……!?」


 簡単といえど、刃物で刺す、強力な魔法を撃ち込む、毒を盛る、矢で貫く、色々あるが、神器レーヴァテインはそのどれらも凌駕する。


「刃に触れただけで、相手を死に至らせるんスよ。刺さなくても、切らなくても、当てるだけで殺せるっス」


 それは、どんな方法よりも簡単な事だった。体のどこかに刃を当てるだけで相手を死に至らせる。こんなチートの様な能力を持つのが、神器と呼ばれる武器だ。


「だから、使うのはこっちの方だけっス」


 ――とは言え、使える方の剣と言っても神器レーヴァテインに変わりは無い。どんな能力を持っているのか、全く想像はつかないが、ここに居るラディスは、愉しく思ってしまっている。

 強き者に対して溢れる戦闘欲、超えれない者を超えたいという願望の前に、神器レーヴァテインなどどうでもいいのだ。


「いいぜ、姉ちゃん!! こっからは、どっちが強ぇか決着つけるとしようぜ!!」


「仕方ないっス。レーヴァテインを抜いたからには、容赦は出来ないっスから、覚悟するっスよ」


 龍精霊騎士と悪辣姫の弟子の戦いは、第二ラウンドへと突入していく。



 一方、森の真ん中に流れる大きな川の麓では、悠利達と龍精霊魔導士フィトス・クレヴァスが睨み合っていた。

 理解不能な能力を見せつけられ、戦意を失いかけるも悠利達の覚悟は決まった。――必ず勝つ、と。


「俺達の選択肢は間違ってなんかいない。お前をぶっ倒して、ポイントは稼がせて貰う」


「抗えない事に、無理矢理抗うのは馬鹿な考えだよ。君達の様な弱者に、僕を計る事は出来ないからね」


「うるせぇんだよ。やってから言えよ」


 そうは言ったものの、フィトスを計る事は不可能である事は、散々に思い知らされている。まるで、物事が無かったかの様になる事象や、黒のテラ。自分達と力量の差が段違いなのは、重々承知の上での発言だ。

 負けられない、負ける訳にはいかない。その想いが、悠利を強くさせ、強くいさせた。


「まぁいいよ。僕と戦う事で力の差に絶望し、抗えない屈辱、敗北への恐怖、その全てに慄くがいいよ。さぁ、始めようか」


「皆ぁ!! 一斉に仕掛けろ!!」


 悠利が、叫ぶとそれぞれが魔法を一斉に唱えた。悠利は雷を放ち、セレスタと李衣は水を波動砲の様に放ち、オッジは大きな岩を投げ付け、レディカは三本のテラの矢を撃ち込む。

 その猛撃は、避ける隙も無く、この一連で戦いを終わらせようと悠利達の全力が込められていた。



 だが――。



「この程度で、何とか出来るって考えが理解出来ないな」


「……は?」


「こんなのって……ありなの……?」


 その光景は、悠利達にとって絶望的だった。一斉に放ったそれぞれの魔法は、フィトスの周りでふわふわと浮いていた。

 勢いを完全に無くし、目的を失った魔法はフィトスに弄ばれるかの様にその場で、魔法としての意味さえ無くし、フィトスのオモチャと化していた。理解不能な事象だ。


「無かった事にしたり……消したり……自由に操ったり……化け物かよ……」


「これで分かったかい? 君達と僕じゃ住む世界の次元が違うんだよ」


 そう言うと、黒く染まった杖でふわふわと浮かぶ魔法のオモチャをなぞる様に杖を横に振る。すると、静かに蒸発する様に消えていく。


「くそ……あいつに魔法は使えないって事か……」


「なら、戦闘方法は一つだけだな」


 セレスタが、剣を片手に走り出した。魔法が使えないなら、剣技で倒すのみと考えたのだ。地面を蹴り、一気にフィトスとの距離を詰める。

 フィトスはそれでも、悠々とした表情を見せている。嘲笑じみた目で、セレスタを見つめて、


「君も、つまらないな……」


 セレスタが、フィトスの半径五メートル圏内に入った瞬間、突然体が浮かび上がる。無重力状態の様に、ふわふわとその場で浮き始めたのだ。


「なっ……!?」


 フィトスは、杖の先を優しくセレスタの体に当てがって、


「無力というのは、これ程にまで面白く無いものだね」


 突然、セレスタの全身が重く感じる。目に見えない何かに押しつぶされそうな感覚。浮かんでいたセレスタは、そのまま地面に落下し体が少し、地面に沈み始める。


「セレスタ!!」


「ちょ、オッジさん!!」


 見兼ねたオッジが、走り出す。セレスタは、見えない何かに押しつぶされそうになっている。地面は、人の体の形で凹み、セレスタは埋もれていく。


「この野郎!!」


 オッジの行いも虚しく、またしても半径五メートル圏内に入った瞬間、オッジの体は浮かび始める。

 セレスタは沈み、オッジは浮かんでいる。この状況を見て、悠利にある物が脳裏に浮かんだ。


「まさか……重力……」



 ――重力。



 地球上で物体が地面に近寄っていく現象や、それを引き起こす『力』を呼ぶ為の呼称であり、『重さ』を作り出す原因。

 セレスタが、地面に沈んでいるのは過度の重力が掛かっている為、オッジや魔法がふわふわと浮かんだのは、重力を無くし、無重力状態にしている為。これなら、フィトスのこの能力の合点がいく。


「重力を……操ってるのか……?」


「流石の君でも、この仕組みには気付いたんだね」


 重力を操るとなると、それは無敵とも言えるかも知れない。魔法も、剣も何もかもがフィトスには届かない。触れる事も、何もかもが。


「どうすんのよ、ユウリ……セレスタ達を早く助けなきゃ」


「分かってる……分かってるけど……」


 戦意喪失。そう呼んでも良いかも知れない。重力を操るなど、チートだ。その対象に、人、魔法も入るとなると、一種の絶対防御とも言える。


「だから言っただろ? その選択肢は間違っていると。このままじゃ君の仲間が危険だ。地面に沈んでいる、彼女が特にね」


「……っ!!」


 怒りが込み上げてくる。なのに、足が動かない。ここで、自分がフィトスの方へと突っ込んで行ったとして、何が変わるのか。セレスタ達を救う事は出来るのか。

 この男に、自分は抗えるのか。悠利の脳裏には、絶対に思い浮かんでいてはいけない言葉が過った。



 ――諦める。



 降参して、水晶を渡せばこの男との戦闘から解放される。理解不能な事象に悩み考える事も、この男に見下され、怒りが込み上げてくる事も無くなる。

 例え、水晶を全部渡してゼロポイントになったとしても、失格にはならない。また一からポイントを集めれば良いだけの話だ。


「って、何考えてんだよ俺……」


 そう言っている間にも、セレスタは地面の中に、ゆっくりだが沈んでいっている。オッジはふわふわと浮いていて身動きが取れない。

 どうすればいいのか、何が最善策なのか、もはや悠利の思考はパンク寸前だった。


 思い返せば、周りの女子達から黄色い声援を浴びていた頃が懐かしい。会った事も無いのに、一目見た瞬間頬を火照らせ、目を輝かせ、ファンだの好きだの言ってくる。

 そんな世界、日本に居た頃が懐かしい。この世界に飛ばされて、短期間でいろんな事を知った。国の事、魔法の事、この世界の歴史の事、ファンだの好きだの言ってくる女子もこの世界には居ない。


 この世界にあるのは、辛い事ばかりだ。日本に居た頃には経験の無い、経験する事も無い事がここでは普通に起きる。何故自分が、こんなにも迷い、悩まなくてはならないのか。こんな世界からさっさと帰りたい。――それが、悠利の本音。


「もう……面倒……っ!!」



 ――その時、突然フィトスの目の前に人影が現れた。それは、悠利も良く知る人物。幼い頃からの幼馴染で、共にこの世界に飛ばされ、誰よりも強くいる者。


「――卓斗!!」


 右手には日本刀の形をした黒刀を持ち、左手はフィトスの方に翳している。その卓斗の足は、フィトスの半径五メートル圏内に居るにも関わらず、しっかりと地に着いていた。


「待たせたな、悠利!!」


 卓斗がそう叫んだ。その瞬間、フィトスが突然吹き飛んでいく。悠利達が、一度も与えれなかったダメージをいとも簡単に卓斗は成し遂げた。

 フィトスが、勢い良く地面を転がっていくと黒の魔方陣もフィトスを追いかけるように移動する。すると、ふわふわと浮いていたオッジが地面にドサッと落ちた。


「セレスタ!! 直ぐに助ける!!」


 人型の地面の穴に手を翳すと、セレスタが卓斗の手に吸い寄せられるかの様に地上へと上がってくる。過度の重力により、地面へと沈められたセレスタへのダメージは酷く、気を失っていた。

 セレスタを地面に寝かせ、卓斗はその姿を見て拳を強く握った。


 悠利、李衣、レディカの元にもエレナ達が駆けつけていた。悠利はただただ驚いた表情で卓斗を見つめていて、絶対に勝てないと悟った相手を、簡単に吹き飛ばした事に驚きが隠せない。

 フィトスは、立ち上がり服に付いた砂埃を払うと卓斗を見つめて悪戯な笑顔を見せた。


「やっと来たね、タクト。僕を楽しませる存在……!!」


「四都祭って名目があるにしろ、お前は俺の仲間を傷付けた。絶対に許さねぇ。皆、こいつは俺に任せてくれ」


「待て、卓斗!! そいつには……」


 悠利は知っている。何人束になろうともフィトスに勝てない事を。例え、フィトスを吹き飛ばした卓斗でさえも、勝つのは無理だと悠利は思っていた。

 悠利だけじゃ無く、李衣もレディカもオッジも思っていた。理解不能な能力に、黒のテラを持つフィトスには敵わないと。それでも、卓斗は悠利の言葉を遮り、


「悠利、俺に任せてくれ。絶対に勝つから」


 横目に悠利を見つめて話す卓斗の瞳を見て、悠利は思わず息を呑んだ。何故、そこまで強くいれるのか、何故、こんなにも自分と違うのか。


「気を付けろよ、卓斗。そいつはかなり……ってか、多分今まで出会った中で一番強い……」


「何となく分かってる。只者じゃねぇってのは」


 視線をフィトスの方へと移し、黒刀を構えた。悪戯な笑顔を浮かべたままのフィトスは、先程よりも愉しげに笑顔を浮かべていた。


「セシファ、今から僕とタクトの戦いを邪魔する者の監視を頼むよ? 誰にも邪魔させてはならないからね」


「分かりました」


 卓斗は、フィトスの持つ黒く染まる杖が目に入った。同じく、フィトスも卓斗の持つ黒刀が。


「黒の杖……お前、黒のテラなのか!?」


「これは、驚きだね。タクトの方こそ、僕と似ているとは思っていたけど、まさか黒のテラを扱う者だったとはね」


 『世界を終焉へと導く力』『世界を終焉から救う力』そのどちらにもなり得る黒のテラを持つ二人が、ここに対峙した。




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