第33話 『四都祭開幕』
――上空に高々と上がる火の玉。花火の様にバァンと弾け凄まじい轟音が辺りに鳴り響く。四都祭参加者の各チームのスタート地点からそれは見えていて、それは、予選の始まりの合図だった。
参加者達は、合図と共に一斉に予選会場となる森の中へと入って行く。ルールは一人一つ持っている小さな赤色の水晶を奪い合う事。
それは、一つで一ポイントとなり、時間終了時点でポイントの多い上位四チームが本戦出場となる。
卓斗達も森の中へと入り、作戦を練っていた。
「取り敢えず、悠利達と合流したいところだな。まずは、悠利達を探すか」
「まぁ大人数で居れば戦闘も楽だしね。でもこの森、結構広いわよ? ユウリ達と合流する前に相手と遭遇する確率の方が高いと思うんだけど」
エレナの言う事も最もだった。七分の一の一が確率的に悠利達と合流出来る確率。逆を言えば、七分の一の七が確率的に相手と遭遇する確率と言える。
「まぁでも、動かねぇ事には始まらねぇからな。取り敢えず、動くか」
「ポイントは、私とタクトが持っているから。私達は特に戦闘には気を付けないとな」
「そうだな。極力、黒刀は使わない方がいいかもな……」
黒刀を使ってしまえば、暴走してしまう可能性がある。それで、仲間を傷付けポイントも無くしてしまえば意味が無い。それだけは避けたい所だ。
「にしても、また森ってのがやりにくいな。相手の姿が見つけにくい」
――その時、卓斗に突然火の玉が襲い掛かった。それは、余りにも唐突で成す術が無い。
「越智くん!!」
繭歌が、とっさに卓斗の隣に行き火の玉に手を翳すと、冷気を漂わせ火の玉を一気に氷漬けにする。
「――っ!! 繭歌!!」
「言ってる側から気を抜きすだよ。僕達を襲って来たって事は、御子柴くん達じゃないね」
その後ろで、エレナが笑いを堪えていた。その様子に卓斗は自分にその笑いが向けられていると悟り、苛立ちを募らせる。
「んだよ、エレナ」
「女の子に守られちゃってダサ過ぎよ……ププッ」
「うるせぇな!! あんないきなり仕掛けられたら対処出来るもんも出来ねぇだろ!!」
サァーーっと風が吹き、木の葉が揺れる。卓斗達を襲った相手は未だに姿を見せない。
「近くに居るのは分かってるんだけどね。次、何処から仕掛けてくるか、辺りを警戒しないと」
「なら、円形になるぞ。これでどっから来ても分かる」
卓斗達は、外側を向く様に円形に陣を組んだ。耳を澄ませ、目を凝らし次の相手の動向に注意する。
「焦れったいわね……」
エレナは、最初の一撃から何もして来ない相手にだんだんと苛立ちが募り始めた。
「近くに居るのは分かってるのよ!! 早く出て来なさいよ!!」
叫んだ。目に見えない相手に向かって、怒りを込めて叫んだ。すると、木陰から五人の男女がゾロゾロと出て来た。
肩に黄色のラインが入った白い騎士服を来ている。だが、このメンバーの中に、卓斗が注意すべき人物として上げていた者の姿は無かった。
「奇襲を見事に回避したな。流石は副都の人達だ。それに、氷のテラとは珍しい」
「始まって早々残念だけど、ポイントは頂くね」
男と女は剣を抜き構える。四都祭予選が始まって早々、卓斗達の戦闘が始まろうとしていた。
「その服、旧都の人達だね」
「旧都? じゃあ、ヴァリの居ない方のチームか。いきなりポイント争奪戦かよ」
その時、大人しいエシリアが突然叫んだ――。
「皆さん!! 下です!!」
卓斗が、地面に視線を向けた瞬間、ボコボコと膨れ大きな岩が生える様に出てくる。卓斗達は、岩と共に高く上げられ丸い形状に足を取られ地面に落下していく。
「おわ!? 地面が急に!?」
すると、バキンと大きな音と共に卓斗達の足元に岩から生える様に氷の枝が伸び、落下を止める。
「繭歌か!!」
だが、卓斗の視界には繭歌の姿は見えない。この大きな岩の向こう側に居るのであろう。今視界で確認できるのは隣に居るエレナのみだ。
「あんまり私を舐めないで!!」
エレナが、剣を振ると火の鳥が旧都チームを襲う。バッと卓斗達から距離を取り、女が火の鳥に向かって手を翳し、
「テラ・ツヴァイ!!」
水の壁を作り、火の鳥が当たった瞬間爆発が起こり水が辺りに飛び散る。
地面に降りたエレナと卓斗は、煙が立ち込める方を見つめる。突然始まった戦闘に緊張が走るが、正直、ヴァルキリア達や神王獣と対峙するよりは何倍もマシだ。
その場に、岩の向こう側に居た、繭歌、エシリア、レフェリカも隣に立ち剣を構える。
「よし、ポイント増やすぞ」
――卓斗達が、早々に戦闘を始める中、悠利達も黙々と動き出していた。
「卓斗達は恐らく、俺らを探してる筈だ。相手に会う前に合流出来たら、最高なんだけどな」
「他のチームには、注意すべき人物とか居るのか?」
「セレスタちゃんもそれが気になるか。俺もあんまり関わってないから分からないけど、卓斗に注意する人物の名前は聞いた。一人は、龍精霊魔導士のフィトス・クレヴァス。なんか、龍精霊ってのと契約してて多分強いって。それから、龍精霊騎士のヴァリ・ルミナス。この人も龍精霊と契約してて強いかも知れないって。最後が、悪辣姫の弟子のラディス・ラ・エヴァ。あのエルザヴェートさんの愛弟子って事で注意はしておいた方がいいってさ」
龍精霊という言葉は、この世界の者でも聞き覚えが無い。ティアラは別名の事を神王獣と言っていた。今の時代では神王獣の方の名前で広まっている様だ。
「その三人に気を付けたらいいのか」
「あぁ、どういう者達か分からないけど、ちゃんと注意しておけば危険は無いだろ」
悠利達のチームもそれなりの戦力で、例えその三人と遭遇したとしても勝てない訳では無いと悠利は考えていた。実際、悠利とセレスタはこの間の依頼の時のセルケトとの戦闘の際に、いいコンビネーションを見せていた。
レディカもヴァルキリアに勇敢に立ち向かい、戦えていた。李衣は戦闘力には欠けるからカバーが必要だ。
問題はオッジだ。悠利は、オッジと共に戦うのはこれが初めてで強いのか弱いのか分からない。ただ、副都での成績は悪い方では無いのは事実だ。
「オッジさん、凄い今更なんだけどさ、何のテラなの? これから戦うのに知っておきたくて」
「わしは、土のテラだ。まぁ剣技も人並み程度には出来る」
「土か……俺が雷で李衣ちゃんが水、セレスタちゃんも水でレディカちゃんが闇。光が欲しかった所だけど、仕方ねぇか。まぁ、それなりには戦えるな」
光のテラには治癒魔法が含まれている。こういったチームを組む場合にはどうしても必要な所だ。
だが、副都のメンバーの中で光のテラを持っているのは、三葉とエシリアだけだ。三葉は四都祭に不参加でエシリアは卓斗のチームに居る。
「極力、ダメージを受けずに切り抜けるしかないか」
――龍精霊魔導士フィトス・クレヴァスは、予選が始まっても尚、杖に腰掛けてふわふわと浮き、ゆっくりと進む。その隣をセシファが歩き、その後ろに他の仲間が歩いている。
「フィトス、最初はどのチームから狙うんだ?」
ふと、後ろの仲間がフィトスに声を掛けた。すると、ピタッと止まり、その場にふわふわと浮かぶ。振り返り、仲間に悪戯な笑顔を見せると、
「僕に話しかけるな愚民共。何様なんだい? 君達如きが話し掛けていい存在じゃないんだよ、僕は。僕と会話が出来るのは敵か、認めた人だけ。言っておくけど、君達三人は誰一人認めていないからね。弁えてくれるかい? それから、馬鹿で無能な君達は気付いて無いと思うから特別に教えてあげるけど、今僕と話せている意味、分かるかい?」
フィトスは仲間に、仲間である筈の人達にそう話した。笑ってはいるが、視線は冷たくて鋭く殺気を放っている。
余りの恐怖にフィトスから視線が外せない。というより、視線を外すという思考を忘れてしまう程、恐怖心に襲われていた。
「君達は、僕の敵って事さ。決して仲間なんて言わせないよ? 反吐がでる」
フィトスの表情から、笑顔が消えるとセシファが仲間達に手を翳した。すると、突然セシファの手に三つの赤色の水晶がぶら下がっていた。
「なっ……!?」
「悪く思わないでくれ。君達は……邪魔だ」
すると、突然三人はふわっと宙に浮き物凄いスピードで森の中を飛行する。何も抵抗が出来ず成すがままに。
「このチームは、僕とセシファで十分だね」
仲間だった筈の三人は、そのまま森の外へと放り出された。感知魔法が作動し、三人は失格となった。
「さぁ、二人で頑張ろうね、セシファ」
「はい、フィトス様」
フィトスの行いは、余りにも残酷で酷い事だった。仲間である筈の、帝都で一緒の筈の三人に対して、平気で殺す事も出来る、そういう男だった。
――再び、歩き始め森を探索しているフィトスの元に近づくチームが居た。
「おや?」
「やっぱり、あいつらを失格にさせたのかフィトス」
遭遇したチームの人達は、全員が黒の魔法帽に黒のローブを着ている。つまり、帝都のチームだ。
「君達は、ポイントは増やせたのかい?」
「いや、だがこれから十ポイントになる」
男がそう言うと、フィトスは目を細めてその男を睨んだ。帝都のAチームのメンバーは杖を構えた。
「なるほど、そういう事か」
Aチームのメンバーは、声を揃えて詠唱を唱えた。
――テラ・ファルマ!!!!
五つの大きな火の玉は、フィトス目掛けて放たれた。轟音を轟かせ辺りの温度を一気に上げる。
「君達も僕の邪魔をするんだね……」
すると、フィトスの足元に半径5メートル程の黒色の魔方陣が浮かび上がる。火の玉が、フィトスに近づき魔方陣の半径内に入った瞬間、動きが止まり、ふわふわと浮き始める。
「邪魔者は、消えろ」
「フィトス様、殺しては駄目ですよ?」
「うん、分かってる」
フィトスが手を翳すと、火の玉はAチームの方へと飛んでいく。最初よりも大きく、威力を上げて。
「――っ!!」
大きな爆炎が空高く上がる。地響きで木々が揺れ、爆風で地面は抉れていた。立ち込める煙が消えると、五人は倒れ込んでいた。意識はあるが大怪我だ。
「セシファ、水晶を」
「はい」
セシファが、手を翳すとパッと手に五つの赤色の水晶がぶら下がる。フィトスは、一切杖から降りる事なく相手を、帝都の仲間である者達を倒した。そして、悪戯に微笑んでいた。
「これで、十ポイントですね」
「本戦出場は、安定かな。後はタクトだね……」
あくまでも、フィトスの目的は優勝とタクトだ。そして、帝都は残りフィトスとセシファだけとなった。
「フィトス様、ではここからは彼を探すのに集中しますか?」
「そうだね。ポイントも十分にあるし、ゆっくりと探そうか。楽しみだな、タクトと戦うのは。彼ならきっと楽しませてくれる……」
風が森の中を吹き抜け、綺麗な銀髪が靡く。フィトスは、帽子が飛ばないよう手で押さえ、ふわふわとまた進み始めた。中性的な顔立ちから、一瞬美少女の様にも見える。
始まって早々に、帝都Bチームは身内から水晶を奪い、十ポイントとなった。現在単独一位だ。龍精霊魔導士フィトス・クレヴァスと龍精霊セシファの脅威が、卓斗達に迫っていた――。




