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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第32話 『頂きを目指す参加者』

 先日の雨とは違い、雲一つ無く青い空が一面に広がる。副都の広場には、四都祭参加者、総勢四十名が並んでいた。


「皆の者、遂に四都祭の日が来た!! 互いに讃え、尊重し、己が強さと仲間との絆を示し、正々堂々と優勝を目指してくれ!!」


 ステファの言葉に、広場に集まる騎士、魔法使いは一気に盛り上がる。それは、医務室に居るセラと三葉、アカサキの元にも声が届いていた。


「凄い声だね。盛り上がってるんだ」


「アカサキさん、一日だけって話だったのに、良かったの? こんなに長い間……」


「大丈夫ですよ? 第一部隊は副隊長さんにお任せしてますし、セラさん、ミツハさんの容態が完全になるまでは見届けるつもりです」


 アカサキは元々、一日だけ副都の様子を見に来ていた。だが、その日に神王獣の襲撃にセラと三葉、そしてエレナが負傷しアカサキが治療していた。

 そんなアカサキは、未だ万全では無い二人を最後まで見届けると、笑顔で話した。


「私達はここで、タクトさん達を応援していましょう?」


「はい……!!」



 ――熱気漂う広場では、ステファにより四都祭の説明が行われていた。


「では、ルール説明をする!! まずは予選だが、各都から十名ずつ、五人一チームで参加して貰う。計八チームで予選を行う。ルールは簡単だ。一人一つ、これを渡す」


 ステファは、手から携帯ストラップ程の紐の付いた細長い赤色の水晶を垂らした。太陽の光でキラキラと光る。


「一チームで合計五つの水晶を持ってスタートする。この水晶は一つで一ポイントだ。他チームとこの水晶を奪い合い、時間終了時点でポイントの多い上位四チームが本戦出場となる。ここで、細かいルールだが、会場は、この場所から少し離れた森の中。その森の中から出てしまうと、感知魔法が作動し、失格となる。一人が出てしまってもチーム自体は失格とならないから、覚えといてくれ。それから、相手を死なせるのは禁止だ。予選のルールは以上だ」


 オルドが、広場にいる参加者に赤色の水晶を渡してまわる。


「では、各チームスタート地点はバラけてあるからそれぞれ位置に付いてくれ。時間が来たら上空に魔法を撃ち込む、それが開始の合図だ。では、健闘を祈る」


 参加者のそれぞれのチームが、スタート地点へと向かう。


 遂に、四都祭が始まろうとしていた――。




 ――帝都Bチーム、スタート地点付近。


「遂に始まるね」


 杖に腰掛け、ふわふわと浮きながら少年、フィトス・クレヴァスはそう言葉にした。その少年の隣をセシファが歩く。その後ろには、残り三人のチームの仲間が歩いている。


「フィトス様なら、優勝は間違いありませんね」


「それはどうかな。僕は期待しているんだ、タクトに。セシファはどう思う? 彼の事」


 卓斗が、フィトスを注意すべき人物と認識しているのと同じく、フィトスも卓斗に注目していた。


「彼ですか? そうですね……、腕は立つと思います。ですが、フィトス様には到底及ばないでしょうね」


「セシファは、随分と僕を買ってくれるんだね、素直に嬉しいよ。極力、君の力は使わせない様にするからね」


 フィトスは、悪戯な笑顔をセシファに見せた。そんな、セシファは相変わらずの無表情で、ジト目でフィトスを見つめる。

 だが、フィトスにはそんなセシファの変わらない表情でも、感情は受け取れる様だ。


「僕は、今の所タクト以外に興味は無い。だから、タクトとの戦闘まで温存で行くよ」


「フィトス様こそ、彼を随分と買っている様ですね。まだ会ったばかりで、彼がどんな魔法を使い、どんな戦い方をするのか分からないのに、何がそこまで、フィトス様を?」


「彼は、タクトは似ているんだ、僕に……初めて言葉を交わした時に感じたんだ。これは、面白くなるってね」


 龍精霊魔導士フィトス・クレヴァスは、卓斗に相当の興味を抱いている。卓斗の何が、フィトスをここまで楽しませているのか。今はまだ、謎だ。


「それと、セシファも楽しみなんじゃないのかい? かつての旧友と拳を交えるのが」


「ティアラの事ですか? そうですね、シャルと戦うよりはマシですね」


「そうかい」


 フィトスは、また自分にしか分からないセシファの感情を読み取り、微笑んだ。




 ――旧都Aチーム、スタート地点付近。ヴァリ率いるチームもスタート地点へと歩いていた。


「はぁ、面倒臭いっスぅ。やる気が出ないっスぅ。そもそも参加したくなかったっスぅ」


「ヴァリ、さっきからうるさいんだけど。始まっちゃったもんは仕方ないでしょ? 大体、ヴァリが代表者に選ばれるからいけないのよ。まぁ、私はエルザヴェートやセシファと久しぶりに会えて楽しいけどね」


「ヴァリは、悪く無いっス!! 周りが悪いんス!!」


 ティアラの口振りからすると、恐らくヴァリは旧都の中でもトップクラスに強いのであろう。


「それに、今回のルールの死なせたら駄目って事は、それ使えないね」


 ティアラは、ヴァリの腰の両方に携えている計三本の剣のうち、片方の二本の方を指差した。


「別に、使えなくてもいいっス。こっちの一本があれば戦えるっスから。そんな事より、この四都祭って優勝したらなんか景品貰えるっスか?」


「確か、四都祭には優勝景品も優勝賞金も無かった筈よ。優勝したって名誉だけ貰える感じね」


「ぶぅ~~。尚更やる気が出ないっスよ……」


 ヴァリは、両手をぶらんぶらんとぶら下げ気怠そうに歩き、愚痴を零す。やる気は全くのゼロだ。そんなヴァリを見てティアラはただ溜め息しか出てこない。


「じゃあヴァリ、優勝したら私が好きなだけご飯を奢ってあげるわよ?」


 その言葉を聞き、突然ヴァリの姿勢が良くなる。興奮気味に顔をティアラに近づけ、


「本当っスか!? 言ったっスよ!? 約束っスよ!? 絶対っスよ!? ヴァリ、やる気が出てきたっス!! 絶対優勝してやるっス!!」


「あんたチョロ過ぎ……まぁやる気出してくれたんならいいか」




 ――皇都Bチーム、スタート地点。


「っしゃあ!! 兄貴ぶっ倒して優勝してやる!!」


 ラディスは、拳を叩き気合いを入れた。そんな、ラディスに仲間が声を掛ける。


「お前には期待してるぞ。なんせ、陛下に師事しているからな。お前が負ける筈ないだろ」


「あったり前よ!! 参加者の中じゃ俺が一番強い!! 優勝して証明してやる!!」


 闘志剥き出しの少年には、優勝を取るほか無い。優勝してエルザヴェートに褒めてもらいたい。ただ、それだけの理由が彼の闘志に火を付けている。


「そんな事より、早く始まんねぇかなぁ!! 戦いたくてウズウズしてきた……!! おっと、ポイントの水晶は五つとも俺が持ってていいんだよな?」


 ラディスが、手に五つの赤色の水晶をぶら下げる。


「あぁ、お前が持っていれば五ポイントは確実だ」


「そかそか、んなら俺が持っとく!! よーっし、お前ら!! 何が何でも予選突破して、本戦出場すっぞ!! んでもって、優勝は俺らのもんだ!!」


 ラディスの言葉に、仲間全員の闘志に火が付く。このラディスも卓斗にとって脅威となるかも知れない。




 ――副都Bチーム、スタート地点。


「よし、上手く卓斗達と連携して二チーム共、揃って本戦出場を目指す」


 副都Bチームは、悠利、李衣、セレスタ、レディカ、オッジのメンバー。


「こんな物を全員で取り合う訳?」


 レディカは、赤色の水晶を眺めながらそう言葉にした。手の平で握れてしまう程の小さな水晶を、参加者達が奪い合う。


「八つのチームで上位四チームが本戦か……最低でも、五ポイントは必須だろうな」


「セレスタの言う通りだ。わしら、全員が水晶を取られる事なく、尚且つ相手の水晶も取らなくてはならんな」


 オッジは、顎を触りながらそう話した。十八歳にも関わらずダンディな風貌のこの男性。ここに来て、初めてのメインとも呼べる役割に少し張り切っていた。


「それで、悠利くん。私、あんまり自信が無いんだけど……」


 李衣は、戦闘には自信が無かった。卓斗達の中でも繭歌、卓斗、悠利はそれなりに戦える方で、李衣、三葉、蓮は戦闘には向かない方だ。


「大丈夫だよ。李衣ちゃんは俺が守るし、このメンバーなら卓斗達に負けず劣らずとも言える戦力だ。セレスタちゃんもレディカちゃんも強いのは知ってる。オッジさんは……」


「わしだって、やれる男だ。ただ、機会が無かっただけだ」


「うん、なら安心だね」


 李衣はそう言うと、赤色の水晶を悠利に渡す。


「俺に? 何で?」


「私が持ってると直ぐに取られそうだし、悠利くん持っといてよ」


 悠利と李衣の二人は、この世界に飛ばされた時同じ場所に居た。この世界で過ごした時間は、李衣にとって悠利が一番長い。

 だからこそ、悠利への信頼も大きい。それは、繭歌や三葉と同等の。


「分かった!! 李衣ちゃんのポイントは確かに受け取った」


「じゃあ、やるからには優勝するわよ。じゃないと、セラに笑われるから。そんなの、かなりムカつくし」


 セラと交わした約束。怪我が治ってなくても四都祭に参加すると聞かなかったセラに後は任せてとレディカは言った。セラなら必ず優勝を目指す筈。

 なら、レディカも優勝を目指すしかない。神王獣の一件で、セラはレディカとの約束を守った。だったら、レディカも約束を果たすしかない。すなわち、優勝あるのみだ。


「あぁ、必ず勝つぞ!!」




 ――副都Aチーム、スタート地点。


「フィトスに、ヴァリ、それからラディス。多分、こいつらには苦戦するかも知れない。でも、絶対に負けねぇ」


「気合い入ってるのは良いけど、空回りしてポイント取られてちゃ意味ないからねタクト」


「うるせぇな。エレナこそ、ポイント取られた時怪我を理由にすんなよ」


 エレナの左腕には、まだ包帯が巻いてある。だが、戦闘には支障はきたさない程には回復してあるが、無茶は禁物だ。


「あの……予選を前に喧嘩はやめましょう……」


 二人の会話に、恐る恐るそう注意したのはエシリアだ。王族エイブリー家の王妃でエレナの幼馴染だ。


「エシリア、大丈夫。俺とこいつは嫌い同士で言い合ってるんじゃねぇからさ。まぁムカつく所はあるけどな」


「なら、良いんです。エレナちゃんとこうやって、共に戦う日が来るなんて私、嬉しいです」


 エレナとエシリアは、この副都で再開してから徐々に関係性を修復していった。未だに、セレスタとは全く距離は縮まっていないが。


「それでさ、僕から提案なんだけどさ。水晶は一人一個じゃなくて集めた方がいいと思うんだけど、どうかな」


「まぁ、確かにマユカの言う通りよね。タクト、あんた全部持ちなさいよ」


「はぁ!? 何で俺が全部持つんだよ!! もし俺が負けたら全ポイント無くなる事になんだぞ!?」


 先程までの、絶対に負けねぇという言葉はどこに行ったのかとツッコミたくなる卓斗の弱音発言にエレナは苛立ちを募らせる。


「はぁ、さっきまでの意気込みはどこ行ったのよ……じゃあ、私が全部持つわ」


「ちょっと待て、お前じゃ心配だ、っていうより全部ってのは辞めねぇか? 二個と三個の二つに分けよう。俺が三個持つ」


「なら、もう二個は私が持とう」


 そう言葉にしたのは、レフェリカだ。名家オルニア家の令嬢でかなりのお金持ちだ。


「持っているのがバレると、狙われる事になる。レフェリカ、気を抜くなよ」


「越智くん、何か副都に来てから逞しくなったよね。異世界に来た当初はビビリが似合っていたのにね」


「仕方ねぇだろ。こんな死ぬかもしれない戦闘が当たり前に行われる世界にいきなり飛ばされたら誰でもビビるだろ。でもまぁ、三ヶ月以上もこの世界で過ごしてたら、ちょっとは慣れたもんだな」


「それもそうだね」


 この世界に来て、幾度死ぬ思いをした事か。生きて日本に帰るには強くなるしかない。絶対に死ねない、死なせない、その思いを抱いている内に、戦闘にも大分と慣れてきた。怖いのは怖いが。



 ――その時、突然として上空に火の玉が上がるのが見え、バァンと弾けた。四都祭予選の始まりの合図だ。本戦出場を賭け、ポイントを奪い合う予選がスタートした。



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