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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第29話 『お似合いな二人』

 ――副都にある、医務室に二人の少女は気を失ったまま寝ていた。一人は、友情を拒み続けた少女セラと、拒む事を辞めさせた少女三葉だ。

 二人は、依頼の途中で遭遇した悪辣な龍、神王獣により致命傷を負わされ、今の状況に至る。二人の治療をしたアカサキが、医務室を出ると、卓斗とレディカとエレナが心配そうに立っていた。


「アカサキさん、二人の具合は……」


「心配ありません。二人共、命に別状はありませんよ。ただ、動ける様になるまで少し時間がかかるかも知れないですね。エレナ様はもう歩ける様になったのですね」


「えぇ、お陰様で」


 そう言うエレナも、左腕には包帯が巻いてあり、痛々しさは見て分かる。だが、全員が無事に副都に戻れた事は事実だ。


「一度、教室の方に戻りましょうか」


 卓斗達が、教室に戻ると他のメンバーも落ち着かない様子だった。同期であり、仲間であるセラと三葉の重症の知らせは、メンバーに衝撃を走らせた。


「皆、二人は命に別状は無いって」


 卓斗の言葉に、全員が安堵する。森から戻って来た時と比べれば、この教室の中も大分と落ち着いた方だ。特に、繭歌と李衣は三葉を見るなり号泣していた。


「それから――」


 卓斗が、視線を移した先には、セラを担いで副都に戻った、見知らぬ男だ。この副都の生活の中で、見た事が無い男。

 茶髪でボサボサなセミロングの長さ。細い目に眼鏡を掛け、無精髭。背丈は高く185センチ程で、ガリガリなスタイル。若干猫背でダンディというより、少し、不潔を思わせる男だ。


「あー、自己紹介がまだだったよねぇ」


 すると、その男は黒板に自分の名前を書き、


「僕の名前は、オルド・リーファイス。ここ副都の教官を務めてるよぉ。よろしくね」


「ここの教官? にしては、今まで見た事無かったけど……」


 それは、誰もが抱いた疑問だ。もう三ヶ月程経つが誰も、オルド・リーファイスを見た事は無い。なら、この男はどこで一体何をしていたのか。


「うん、まぁね。ちょーっと事情があって四大国を走り周っていたんだよ」


「四大国?」


「そう。副都に帝都、それから皇都に旧都を周ってたんだ」


 聞き覚えの無い単語が次々に出て来て、卓斗は混乱する。その言葉を知る者も居るが、日本から来た卓斗達にとっては初耳だ。


「聞き覚えの無い言葉ばっかなんだけど」


「うーん。じゃあ、詳しく説明するよ? 副都は、皆の知っている通り、ヘルフェス王国の都の事だね。帝都っていうのは、魔法使いが沢山いる国、サウディグラ帝国の事。皇都は、世界最古の国エルヴァスタ皇帝国の事で、旧都は、騎士の歴史が一番古く、最強の騎士団を要するマッドフッド国の事。お分り? 一応、話しておくけど、シルヴァルト帝国とガガファスローレン国には、都が無いから今回の話には必要ないからねぇ。つまり、前者の四つの国の事さ」


「その四大国を何で周ってたんだ?」


「おや? その様子だと、まだご存知でない感じかな? ステファ、言ってなかったのかい?」


 肩を竦めて、視線をステファに向ける。


「先の依頼が終わったら、話そうと思っていたんだ。タイミング悪く、神王獣が現れて機会を逃したがな」


「そうかい。では、僕から話そう。今寝ている、セラちゃんとミツハちゃんには、後から誰か伝えてくれるかなぁ。それじゃあ……」


 咳払いをして、間を空けてから、人差し指を立ててオルド・リーファイスは口を開いた。


「三日後に、ここ副都で四大国の都が集まった最大のイベント、四都祭が行われるんだよ」



 ――とある近郊その一。団体が、ある場所へと目指し進行していた。


「副都か、初めて行く所だな」


 その中の一人の少年、黒い魔法帽を被り、そこから銀髪の髪が風に靡く。タレ目で中性的な顔立ち、黒いローブを着ている。

 周りが歩く中、ただ一人、背丈と変わらない長さの杖に腰掛け、飛んでいる。周りの人達との、歩行スピードに合わせて、ふわふわと進んでいる。


「フィトス様、楽しそうですね」


 その者の名は、フィトス。隣を歩く一人の少女にそう話しかけられ、フィトスは、美少女顔負けの可愛い笑顔を見せた。


「うん、楽しみだよ。四都祭、必ず我ら帝都が優勝するからね」




 ――とある近郊その二。ここにも、団体が副都を目指して歩いていた。


「うげぇ……遠いっス……副都、遠過ぎるっス……」


 気怠そうに歩く、一人の少女。綺麗なピンク色の髪色で長さは肩上くらい。左耳に髪を掛けて、その部分を編み込んでいる。顔立ちも美少女だが、目を細め、頬を膨らまし、変な顔になっている。背丈は160センチ程。

 腰には、右側に二本の剣を携え、左側に一本の剣を携えている。服装は、黄色のラインが肩から入っている白い騎士服で、スカートから伸びる白い脚にはニーハイソックスを履いている。


「ヴァリ、だらしない歩き方しないの。貴方も女の子なんだから、私みたいに美しくいないと駄目よ?」


 少女の名は、ヴァリ。隣を歩く、少女にそう促され更に頬を膨らました。


「うるせーっス。ヴァリは歩き疲れたっス。あ、そうだ!!」


 ヴァリが、何か言いかけた瞬間、隣を歩いていた少女がヴァリの口を塞いだ。


「それ以上は、言わせないからね」




 ――とある近郊その三。ここにも団体が副都を目指して歩いていた。その中には、エルザヴェートとクライスの姿もあった。


「こんなにも早くタクトに再開する事になるとはのぅ」


「師匠、そのタクトって誰?」


 エルザヴェートの隣を歩く一人の少年。長めのソフトモヒカンで黒色と金色のツートンカラー。背丈は170センチ程で、服装は黒のラインが肩から入っている真っ白な騎士服で上半身が裸で上着を腰に巻いている。

 体つきは筋肉質で、少年とは思えない程の筋肉だ。ズボンも裾を膝下まで折り、半ズボンの様になっている。目つきが狼の様に悪く、八重歯がチラッと見えている。


「ラディスと変わらんくらいの少年じゃ」


「俺と!? そっか……戦ってみてぇな!!」


 その少年の名は、ラディス。会った事の無い卓斗に闘志を燃やしていた。



 ――それぞれが、四都祭の参加の為、副都を目指していた。



「で、その四都祭って何だよ」


 卓斗達は、未だにオルドに質問攻めしていた。


「四都祭っていうのは、代表者が予選、本戦とミッションをこなして一番を決める事だよ。うちからの代表者は十名だ。って言っても、個人戦では無くて、五名ずつの二チームに分かれる。まぁ確実に優勝を目指すなら、二チームが予選を突破する事だね」


「それって、戦うのか?」


「うーん、まぁ戦闘もあると思うけど。本質はミッションだよ。今回の予選は、ポイントを集めるのが目的。ポイントが多い上位四チームが本戦出場って事かな」


 三日後に行われる、四都祭。どういうものなのかは卓斗達には分からないが、優勝と言葉を聞くと、どうも簡単には引き下がれない。


「よーし、まだよく分かんねぇけど、優勝が掛かってるんなら優勝するしかねぇな!!」


「あんた、本当元気ね。まぁ私もそういのは負けたくないタイプだから」


 エレナも卓斗に続いて、優勝への意気込みを見せた。そうなると、代表者十名が気になる。今の状況からして、セラと三葉の参加は絶望的。副都としては、セラの不参加は痛手だ。


「代表者は、私が概ね決めてある。まぁ、元より決めていたセラが参加出来ないとなると、大分と戦力が下がるが仕方ない。それで、代表者だが――」


「Aチームが、俺とエレナ、繭歌とレフェリカとエシリア」


 卓斗の隣に、Aチームのメンバーが並ぶ。


「んで、Bチームが、俺と李衣ちゃん、セレスタちゃんとレディカちゃんとオッジさんね」


 悠利の隣に、Bチームのメンバーが並ぶ。代表者十名が決まった。本戦出場を目指して、優勝の確実を取るなら、この二チームが予選を突破しなくてはならない。


「てか、エレナその傷で大丈夫なのか?」


「四都祭は三日後でしょ? これくらいどうって事ないわよ」


 エレナは、左腕を上げて笑顔を見せた。とはいえ、その傷はまだまだ痛々しい。治癒魔法でも完全な治癒には時間が掛かり、神王獣の恐ろしさを痛感する。


「まぁ、四都祭まで後三日もあるからな。ちゃんと体を休めておけ。それと、各都の参加者がもう直ぐ副都に到着する。彼らも四都祭まで副都に泊まる事になっているから、くれぐれも喧嘩沙汰だけは起こさないでくれ」



 ――四都祭の話が終わり、少ししてセラと三葉が眠る医務室にレディカが訪れていた。


「あら、レディカさん」


「えーと……アカサキさん。二人は三日後の四都祭には間に合わないんですよね」


 アカサキの沈黙に、レディカは悟った。二人の不参加の痛手は卓斗達も思う所で、レディカも認めたくはないが、セラの実力は知っている。

 レディカは、セラの寝ているベッドの横に座ると優しく話し掛けた。


「あんたがもし、この話を聞いてたら無理してでも参加するって言ってる姿が想像つくわ。一人で無茶するからこんな事になるのよ……でも、生きてて良かった……」


「レディカさんは、セラさんの事が、お好きなんですね」


 突然のアカサキの言葉に、レディカは慌てふためく。何故ならそんな事は、ありえない筈だからだ。

 セラとは犬猿の仲。この先分かり合えるはずが無いと、レディカは思っていた。少なくとも前のレディカは。


「そ、そんな事無いですよ!! ありえないです!! 絶対に……」


 だが、レディカは、見てしまった。セラが自分の命も顧みず必死に三葉を守る姿を。仲間を友を守る姿を。


「いいえ。レディカさんはお好きな筈ですよ? じゃないと、こうして心配したりしないですもの」


「私は……ただ……」


 レディカの中でも、考え方が少しずつだが変わってきていた。確かにセラには腹が立つ事もある。好きか嫌いかで言えば、嫌いだ。でも、殺せと言われたら恐らくきっと、出来ないであろう。


「私は、いつかお二人が分かり合える日が来る事を信じてますよ? レディカさんとセラさん、お二人はお似合いですからね」


 アカサキのその言葉以降、レディカは何も言葉にしなかった。ただ、セラと三葉を見つめていた。生きていてくれてる事を実感して。


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