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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第28話 『最善の策』

「――そのまま、私と追いかけっこよ!!」


 雨が降りしきる中、綺麗な赤い髪の毛を靡かせながら森の中を駆ける少女、エレナ・カジュスティン。絶世の美女と謳われているが、今では滅亡した王族、カジュスティン家の生き残りと呼ばれる王妃だ。


 彼女、エレナは雨の中森をただ走ってる訳ではない。ある悪辣な元凶と追いかけっこ中だ――。

 セラを三葉を瀕死に追いやり、その存在をステファとアカサキに震撼させ、今尚エレナを仕留めようと猛威を振るう者。者というより――。



 ――龍だ。それも、伝説と呼ばれる。



 大きな羽をばたつかせ、木々を薙ぎ倒しながらエレナに迫る。その口からは、火の玉を何発も何発も放つ。エレナは右に左に優雅に舞いながら、それを避ける。

 そんな絶世の美女の青のラインが入った真っ白な副都の騎士服は、飛び散った泥で汚れていた。


「はぁ……はぁ……!! もっと……もっと、セラ達から離れなきゃ……!!」


 エレナもただ避けるだけでは無く、魔法を撃ち込む。だが、悪辣な龍の強靭な体には、傷一つ与える事は出来ない。

 むしろ、白い龍は苛立ちを募らせ、禍々しい鳴き声を上げてどんどんエレナに近づく。


「――っ!!」


 その時、木の枝に足を取られエレナは泥塗れの地面を転がる。その隙を突き、白い龍は手を振りかざす。その爪は、小さな少女の体を捉えようとした。


「させない……!!」


 エレナは、ゴロッと転がり白い龍の攻撃を避ける。だが、爪はエレナの左腕を掠め、血が噴き出す。だが、致命傷は避ける事が出来た。


「これでもくらいなさい!!」


 剣先を白い龍の顔に向け、炎を纏わせ火の玉を喰らわす。その隙に、その場から再び走り出すエレナ。泥濘む地面を蹴り、痛む左腕を抑え、必死にセラと三葉の場所から白い龍を引き離す。


 この役を、自ら請け負ったものの恐怖心がない訳ではない。エレナには、強烈な恐怖心が襲っていた。神々しくも禍々しい姿の白い龍の存在感、威圧感は、誰が見ても感じる物だ。


「くっ……やっぱり、動きが速い……もうそこまで近づいてる……」


 白い龍は、羽を大きく広げ勢い良く扇ぐと突風が吹き荒れエレナを吹き飛ばす。


「ゲホッ……ゴホッ……痛い……」


 もう限界に近く、このままだとまずいとエレナも分かっていた。白い龍を引き離す役目を請け負ったものの、やはり勝てる戦いでは無かった。自分自身はこんなにもダメージを受けているのに、白い龍は全くの無傷。

 魔法を受けても傷一つつかないその強靭な体はもはや絶対防御の様なものだ。そして、尋常ではない攻撃力。この龍には、絶対に勝てない。エレナはそう思った。そんなエレナの視界に洞窟が見えた。


「あそこに……隠れなきゃ……」


 エレナは、重い体を動かし洞窟の中へと入って行く。薄暗く、迷路の様に入り乱れた通路があり、エレナはそこに身を潜めた。


「ハァ……ハァ……ぐっ……やっぱり……一人じゃ無理か……」


 壁にもたれ、服から雨と左腕から滴れる血が地面にポタポタと落ちる。悪辣な龍に見つからない様に、息を潜める。


「私は……死ねないのに……私が死んだら……カジュスティン家が……助けてよ、タクト……助けに来てよ……あんた護衛なんでしょ……」


 その瞬間、エレナの目の前に白い龍の禍々しい顔が現れる。思わず、息が詰まる程の威圧感。その紅い眼は、恐怖に怯える少女を捉えていた。



 ――エレナの死が目前に迫っていた。



「最後の抵抗よ……!!」


 エレナが叫ぶ。声が洞窟の中に響き渡り、恐怖心を押し退け白い龍に睨みを効かせる。すると――。


 エレナの周りに、小さな赤い光の粒が、無数に飛び交う。薄暗い洞窟の中に、エレナと白い龍の姿が光によってはっきりと見える。


「――テラグラン・ファルマ!!!!」


 小さな赤い光を放つ粒が輝かしく光りだす。その瞬間、大爆発が起き、洞窟の入り口の穴から爆炎が噴き出す。


 洞窟の中は、爆風により抉れた壁や天井が崩れ、瓦礫の山となっていた。崩れた天井からは、空が見えていて雨が侵入し、外の明かりが洞窟内を照らしていた。


「ゲホッ……ゴホッ……ハァ……ハァ……自分へのダメージも……なかなか……でも」


 エレナは、瓦礫を押し退け立ち上がる。その体は、爆風による傷で痛々しいものだった。周りを見渡し、エレナは驚愕する。


「そ……そんな……」


 そこには、まるで何事も無かったかの様に悪辣な白い龍はグルルルと喉を鳴らし、紅い眼でエレナを睨んでいた。


「どうすりゃ勝てんのよ……こんなの……」


 それは、絶望でしかなかった。最後に放った魔法は、今のエレナが成せる最大で最高の魔法。自らへのダメージも伴うが、相手へのダメージはそれなりのものだ。

 だが、そんな最後の希望の魔法ですら、この白い龍には効かない。まさに、痛くも痒くも無いと言ったところか。


 白い龍は、体勢を低くし狙いを定める様にエレナを見つめる。だが、エレナには成す術がない。さっきの魔法でテラは尽きかけ、体も動かない。もう抗う事は出来ないでいた。

 白い龍は、そんなエレナを仕留めようと地面を蹴り走り出す。またしても、あの突進だ。正面から突進をくらえばひとたまりもないだろう。



 ――その時。



 突然、エレナの目の前まで迫った白い龍は吹き飛んでいく。地面を転がるとその重さからか、地面が揺れる。

 エレナには、何が起きたのか分からない。でも、その答えは、背後から聞こえた声で分かる。



「――間に合った……よな!?」


「タクト……!!」


 その場に駆けつけたのは、卓斗。セラと三葉の場所に駆けつけた後、レディカからエレナが神王獣と戦っていると聞き、探し回っていた。卓斗の騎士服は、雨と泥でドロドロになっていた。


「ステファさんと、手分けしてお前を探してたんだ。俺が当たりを引いたって事になるな」


「どうして……」


「俺は認めてねぇけど、俺はお前の護衛なんだろ? 今回だけ、護衛としての役割りを果たしに来た。本当、今回だけだ」


 卓斗の姿を見て、安堵したのかエレナが座り込む。すると、恐怖心で忘れていた傷の痛みの感覚が戻ってくる。


「って、あれが神王獣……凄ぇ、初めて龍を見た……」


「感心してる場合じゃ無いでしょ……」


 当たり前だが、日本に龍など存在しない。漫画やアニメ、神話などでしか聞いた事が無い存在が、今目の前に居る。卓斗は、恐怖心の他に、感動さえしてしまっている。


「それでエレナ、お前動けんのか?」


「ごめん、ちょっともう……動けない……」


「なら、戦うしか無いか」


 だが、卓斗は迷っていた。あの神王獣に勝つ可能性があるとすれば黒刀を使う必要がある。

 しかし、暴走してしまえば、エレナも傷付けてしまうのではないかと。でも、そんな事を言っている場合でも無かった。


 ――暴走しなければいい。


 その答えが、卓斗の中で定まった。エルザヴェートが言っていた暴走までの時間は、約十分。それまでに、決着を付ける。


「やるしかねぇ……やるしかねぇんだよ……俺!!」


 卓斗は、手に日本刀の黒刀を作る。ここから、十分が勝負。セラ、三葉、エレナを苦しめた元凶、神王獣と睨み合う。

 卓斗は走り出した。黒刀を構え白い龍の首元を狙い振りかざす。だが、強靭な体は黒刀をも弾く。


「硬っ!?」


 そのまま、白い龍は華麗に半回転し尻尾で卓斗を突き飛ばす。地面を勢いよく転がるが、その体には防御魔法が掛けられていた。バリアにヒビが入っているものの、卓斗の体には、目立った傷は付かなかった。


「なんちゅう皮膚してんだよ……硬すぎんだろ」


 白い龍は、すぐさま卓斗を滅そうと大きな口を開けて、火の玉を放つ。だが、黒刀でその火の玉を斬ると、バァンと弾けて消えていく。


「俺の能力も驚きだろ? 伝説の龍さんよぉ!!」


 卓斗は、再び走り出す。白い龍も火の玉を消され苛立っているのか物凄いスピードで卓斗に突っ込む。


「大体、皮膚が硬ぇ生き物ってのは腹の皮膚が柔らかいんだ。勘だけど、そこに賭ける!!」


 卓斗が手を翳すと、またしても白い龍は仰け反る様に吹き飛んでいく。


「よし、大分黒のテラの能力も使いたい様に使える。エルザヴェートさんに感謝しねぇとな……!!」


 卓斗は、高々にジャンプし仰向けに横たわる白い龍のお腹を目掛け黒刀を振りかざす。だが――。


「硬ぇ!?」


 またしても、黒刀は弾かれてしまう。卓斗の考えは虚しく、呆気なく散ってしまった。

 白い龍は、そのまま左手で卓斗を払い飛ばす。寸前、卓斗も防御魔法を唱え、身を守りながら地面を転がる。


「くそ……!! 腹も硬ぇのかよ!! このチート野郎が!!」


「大丈夫……タクト……?」


「あぁ、エレナはそこでしっかり見てろ。ちゃんと、守ってやるからよ」


 立ち上がり、黒刀を構え白い龍を睨む。エレナに格好良くそう言葉にしたのはいいが、正直勝てる見込みが無い。

 これ程までに硬い強靭な体を前に、卓斗も成す術が無い。かと言って卓斗が使える魔法も、弾くと引き寄せるのみ。他の魔法は、自らが狙って使えた試しが無い。


「時間も、そろそろやべぇか……」


 もう直ぐ、限界の十分を迎える。これ以上、黒刀を使えば暴走してしまいエレナでさえも傷付ける。この場にエルザヴェート達が居ないとなると、暴走は絶対に出来ない。


 卓斗の手から黒刀が消える。エレナさえ動く事が出来れば、逃すくらいの時間稼ぎは出来たであろう。だが、それではこの状況はループするだけ。

 他の誰かが、卓斗を助けに来てまた時間を稼ぐ。それでは駄目だ。ループをここで終わらさなければならない。

 そんな事を考え、思考を張り積ませる。だが、最善の策が思い付かない。すると――。


 突然、白い龍の足元に紫色の魔方陣が浮かび上がる。白い龍の動きはピタリと止まり、苦しそうに悶え始めた。


「なんだ!?」


「オチ!! エレナ!!」


 卓斗が振り返ると、そこにステファが駆け付けていた。エレナを探しに二手に分かれ、遅れてステファもここに合流する。


「ステファさん!!」


「本当に、神王獣だとは……二人共無事か?」


「俺は大丈夫だけど、エレナは」


「セラやシノノメ程では無いが、動けそうに無いな。オチ、お前はエレナを担いで走れ。私の呪縛魔法もそう保たん」


「分かった!!」


 卓斗は、エレナをお姫様抱っこして走り出す。その後ろには、ステファも走り、白い龍から逃げる。これが、最善の策かも知れない。


「ちょ……ちょっと何してんの!?」


 お姫様抱っこされるエレナが、顔を赤くしながら卓斗の腕の中で暴れる。王妃である彼女にとって、こういった経験は無い。初めての経験だ。


「暴れんなっての!! お前動けねぇんだから、仕方ねぇだろ!!」


「どこ触ってんのよ!! この変態!!」


「触ってねぇ!! 降ろすぞ馬鹿!!」


 白い龍の足元の魔方陣が、だんだんと薄まり、動きを取り戻していく。紅く光る眼光は、獲物を逃さまいと卓斗達を捉える。


「そろそろ呪縛魔法が切れる、全力で走れ!!」


「分かってるけど、意外としんどいんだぞ!?」


 例え、女の子をお姫様抱っこするのは、男にとっては楽勝な事かも知れない。だが、その上全力疾走となると話は別だ。エレナが重いって訳ではなく、例え赤ちゃんを抱いていたとしても体力にくるものだ。


 洞窟を抜けて、副都の方向へと森の中を駆ける。すると、目の前に、後から駆け付けた悠利と見知らぬ男がセラ達の元に立っていた。


「おい!! お前らも走れ!! 逃げろ!!」


「ん? って卓斗!! エレナちゃん抱っこして……」


「そんな事より、早く!!」


 悠利は、三葉を背負い、見知らぬ男はセラを担いで一気に走る。レディカ、アカサキも続き、背後から追ってくる悪辣な龍から逃げる。


「あれが、神王獣なのか……!? こんな状況で逃げ切れる訳ねぇぞ!!」


 横目に後ろを見やる悠利が、神王獣を目にして驚愕する。あの図体で迫ってくる速さが尋常じゃない。このままだと、直ぐに追いつかれる。


「それと、初めましてのおっさんが居るんだけど!?」


「やぁ、どうも。自己紹介は後でね。今は逃げよう」


 見知らぬ男は、この状況でそう言って笑顔を卓斗に見せた。そう言っている間にも、白い龍は卓斗達との距離を詰める。その光景は、恐ろしい他無い。すると、アカサキが、


「伝説と呼ばれる龍、神王獣。倒す事は私でも出来ませんが、足止めは出来ます!!」


 アカサキは、足を止めて白い龍に立ち塞がる。


「アカサキさん!!」


「大丈夫だ」


 卓斗の心配を他所に、ステファがそう促した。すると、アカサキは白い龍に向けて手を翳す。


「伝説の龍よ、しばらくの間、捕らえさせて貰います」


 次の瞬間、赤い結界が白い龍を囲む様に現れ、白い龍の動きが止まる。すぐさま、アカサキも卓斗達を追って走り出す。白い龍は、結界を割ろうと暴れるが、その頑丈な結界はビクともしない。


「凄ぇ……」


「私が離れれば、効果は弱まります。ですが、副都へ逃げる間はあれで、足止めが可能でしょう」


「よし、このまま一気に走れ!!」


 こうして、卓斗達は森を抜け副都へと一気に駆ける。神王獣の脅威から何とか耐えて。


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