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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第25話 『深い亀裂』

 卓斗達が副都に入って約三ヶ月が経つが、セラのこんな表情は誰も見た事が無かった。目をキラキラと輝かせ、頬を赤く染めて、嬉しそうな表情を。

 その熱い視線の矛先は、この日一日だけ副都に訪れた聖騎士団第一部隊隊長アカサキと呼ばれる女性だった。


「なにあんた……キャラ変わってない?」


 レディカもそんなセラを見て、若干引いていた。いつものセラとは真反対な表情にレディカだけではなく全員が困惑していた。


「アカサキさん……どうしてここに!?」


「今日は、いずれ聖騎士団に入団する皆さんを見ておこうと思いまして来さして頂きました。セラさんも大きくなりましたね」


 アカサキが、セラの方へと歩み寄り頭を撫でる。セラは更に顔を赤く染めて満面の笑みを浮かべた。


「ちょっとセラさん? いつもそんなんだったらお前も敵を作らず済むのに……」


 卓斗の言葉に、セラはいつもの無表情で冷たい視線を卓斗に向けて口を開いた。


「女々男、私が尊敬するのはアカサキさんだけ。他の者に興味は微塵もないから」


 アカサキを見る時の表情と卓斗達を見る時の表情の差に少し恐怖すらも覚える。まるで二重人格の様な感じだ。


「でも、アカサキってなんか、この世界の名前っぽくないよな」


 悠利がそう話すと、卓斗もそれに気付く。確かにアカサキという名は異世界感を感じさせない。むしろ、日本人の様な名前だ。すると、アカサキが徐に口を開いた。


「私の生まれ故郷は、日本ですの」


「日本!?」


 驚いたのは、日本から異世界に飛ばされた卓斗達だけだ。元から異世界に居た者達は、日本という言葉の意味が分からない。


「はい。私の名前は、赤崎千佳あかさきちか。四歳の時にこの世界に飛ばされました。十六年この世界で生きて来たのでもはや、日本よりもここでの思い出の方が断然多いですね」


「四歳の時から……」


 卓斗達は、想像も出来なかった。卓斗の年齢でさえ異世界に飛ばされた時の孤独感、恐怖感は尋常ではない物だった。

 それが、四歳という幼すぎる年齢でどれ程の孤独や恐怖を抱えて生きて来たのか。


「ですが、今では聖騎士団の鬼神などと呼ばれております。どうやら、私は日本よりもこちらの世界の方が合ってる様ですね」


 アカサキは、そう言って微笑むとその視界にエレナの姿が映る。すると、アカサキはエレナに近づき深く頭を下げた。


「エレナ様、ニ年前のあの日一族を救う事が出来ず申し訳ありませんでした。私が無力なあまり……」


「もういいのよ。過ぎた事は仕方ないし、カジュスティン家が滅んだのも聖騎士団の所為では無いわ」


「有難きお言葉……エレナ様がご無事で何よりです」


 ニ年前のカジュスティン家滅亡の日、アカサキも聖騎士団としてその場に居た。詳細の分からない黒い煙に果敢に立ち向かうも、カジュスティン家を救う事は出来なかった。


「それでその……アカサキさん!!」


 セラはそろそろ自分との時間に戻ってきて欲しいと言わんばかりにアカサキの名を呼んだ。


「私、副都を卒団したらアカサキさんの元に入団したい」


「えぇ、お待ちしております。セラさんと共に戦える日はもう直ぐなのですね」


 アカサキの言葉に、セラの表情は一層笑顔が増す。日本の高校生や大学生で言えば、早々に就職先が決まったのと同じ感覚だ。それも、第一希望が通ったとも言える。


「そろそろいいか」


 アカサキとの出会いに、副都のメンバーが主にセラだが騒ぎ出すのを見ていたステファが咳払いをして口を開いた。


「信号を送る水晶はシノノメに渡しておく。何かあればそれにテラを込めろ。私とアカサキが直ちに駆けつける。依頼内容は分かっているな? では、健闘を祈る」


 かくして、三葉、エレナ、セラ、レディカは副都近郊の森林へと向かった。前回の依頼との違いは、依頼を選んだのがステファだという事だ。オルフとマクスが選んだ依頼は皇族エルヴァスタ一族からの依頼で少々厄介事だった。

 だが、その依頼のお陰で卓斗は黒のテラの強化、フィオラの秘宝の真相を得る事が出来た。今回は、単なる魔鉱石の採取で、そういった厄介事はほぼ皆無と言えるだろう。唯一、不安があるとすれば、犬猿の事だ。


「はぁ……」


 レディカは、いつもより増して苛立ちが募っていた。只でさえセラと共に依頼を行うのが心底嫌なのだが、昨晩の言い合い、三葉とセラの関係がより一層苛立ちを募らせる。


「レディカ、気持ちは分かるけど少し、苛立ち過ぎよ」


 レディカの隣を歩くエレナが、レディカにそう話しかける。実際、エレナ自身もセレスタとはそういった仲だ。レディカとセラ程口喧嘩はしないが、関係性は似ている。


「でもまぁ、仲良くしてとは言わないけど、こうなった以上開き直って行くしかないのよ。私もあいつとはそういう感じだから」


「開き直るって、こういう状況を認めろって言うの?」


「そうじゃなくて、居ないものと捉えるのよ。現に二人きりって訳じゃないんだから。わざわざ意識して苛立たなくてもいいって事」


 レディカもエレナに対して似た者同士といった感情を感じていた。お互い、分かり合えない相手が居る。そうした状況がレディカとエレナに親近感を沸かせているのかも知れない。


「まぁ分かったわよ。私からは関わらない」


「私も人の事言えた立場じゃないんだけどね」


 一行がしばらく歩くと、やがて森の中へと入って行く。木々が生い茂り太陽の光を遮断する。薄暗い中獣道を魔鉱石を探しながら歩く。


「青く光る魔鉱石って見つけやすそうだけど、案外無い物ね」


 エレナが、辺りを見渡しながらそう呟いた。実際、周りには青く光る魔鉱石どころか普通の魔鉱石すら落ちていない。毒の有りそうなキノコや腐ってる果実などが散乱しているくらいだ。


「聖騎士団に入ったとしても、こんな依頼ばっかしてるって事よね。なーんか、聖騎士団に入団するのも面倒ね」


 レディカは、落ち葉を足で退けながらこの依頼に不満を零した。


「皆で力を合わせれば、きっと直ぐに見つかるよ!!」


 三葉が、重苦しい空気を変えようと意気込むが、「皆で」という言葉が一人の少女の勘に触る。


「皆で? 悪いけど、私はあいつとは力を合わせれないから」


「どうしてそんな事言うの?」


「ミツハ、あんたはどっちの味方なの?」


「私は……」


 レディカの問いに、三葉は言葉に詰まった。どっちの味方とは余りにも意地悪な質問だ。レディカともセラとも仲良くいたい彼女にとって、それは決め難い質問。


「まぁどっちでもいいけど。でも私は、絶対にあいつとは協力しない、この先何があっても」


「話している暇があったら探せば? こうしている時間が無駄」


 徐にセラがそう言葉にした。三葉との会話で苛立ちが募っていた分、セラの言葉で彼女の怒りが爆発した。


「うるさいわね!! 大体、あんたが全部悪いのよ!! 何でもかんでも自分が正しいと思ってるその傲慢な性格が大っ嫌いなのよ!! 前の依頼の時も、足手まといだとか、まぁ戦闘の時はあんたの方が活躍したわよ? でも、いちいち言葉がムカつくのよ。一人でいい、一人がいい、何でも一人で出来る、だったら全部一人ですれば!? 別にこっちもあんたなんかとやりたい訳でも無いし、あんたも一人がいいならそれで問題ないじゃない!! そうすりゃ私もあんたも、ムカつく事はないんだから!!」


 顔を真っ赤にして激昂したレディカ。息を切らし、思っていた事を全部ぶち撒けた。セラは表情を変えずに、無表情でレディカを見つめていた。


「そう。なら貴方のご希望通り、ここからは私一人で依頼を行う。足手まといも居ないしスムーズに依頼をこなせる」


 セラはそう言うと、一人森の奥へと歩き出した。


「ちょっと、セラちゃん!!」


「放っとけば? あんな奴といるとあんたも嫌われるわよ」


「でも……!!」


 三葉には、どうする事も出来なかった。セラを引き止めた方がいい、そう思ったが、それをしてセラに嫌われるのも嫌だ。

 セラについて行ってレディカに嫌われるのも嫌だ。三葉は、ただただどうする事も出来ない。


「まぁ、その内お互い頭も冷えるでしょ。今はそっとしておいた方が賢明よ」


 森に入って数分で、一行は分断してしまった。レディカとセラの深く入った亀裂は修復不可能寸前まできていた。


 一行が分断して、数十分が経っていた。未だに三葉は頭が混乱していた。どうすればいいのか、どうすれば最善の方法になるのか、卓斗ならこんな時どうするのか。

 三葉にチームをまとめる役割などやった事も無く、自分がリーダーに向いてる訳でも無い。こういった状況は、初めての経験で対処法が分からない。


「ねぇ、エレナってセレスタとはずっと喧嘩中なのよね?」


「そうだけど、セラと仲直りしたくなった?」


「違うわよ!! そんなの有り得ない。エレナは仲直りしたいの?」


「別に、何とも思わないかな。お互い話さないし、目も合わせない。口喧嘩も無いからね。同じ部屋のエシリアはちょっと居心地悪そうで可哀想だけど」


 エレナの寮部屋には、エシリアとセレスタが同居人だ。毎日重苦しい空気が漂う部屋での生活は、途轍もなく息苦しいであろう。

 エシリアは、エレナとセレスタの仲を何とかしようと色々試みたが、全て失敗に終わっている。


「喧嘩する程仲が良いって言葉も信じないわね、私は」


 レディカとセラ、エレナとセレスタ、各々がいつか分かり合える日など来るのだろうか。今の現状では、その可能性は皆無に等しい。

 それぞれの深い亀裂は、他者にはどうする事も出来ず、彼女ら自身で解決する他、方法はない。


 そんな最中、追い打ちをかけるようにポツポツと雨が降り出した。


「――雨?」


「まずいわね。これじゃ、獣臭も嗅げないから魔獣が近くに居ても気が付かないわよ」


 雨により、三葉の不安はより一層深まる。もう考える事は止めよう。そう決意し、三葉は動き出す。


「私、セラちゃんの所に行ってくる!!」


「好きにすれば?」


 三葉は、走り出す。来た道を戻り、セラの進んだ道に向かう。


 一方、一人魔鉱石を探していたセラ。突っかかってくる者も居なく自分のペースで依頼が出来る。だが、心は晴れていなかった。昨日、三葉と話して友情に対しての考え方を変えたセラ。

 別に、レディカと仲良くしたいとは思わなかったが、今こうして一人になっている事が何処か、モヤモヤする。何故モヤモヤしているのかは本人自身は分かっていない。


「雨……」


 セラは、降りしきる雨の中、上空を見上げた。雨が木や地面に当たる音が孤独感を強める。


 今までだって、平気だった筈。ずっと一人でも平気だった筈。なのに、この感情は何なのか。セラはギュッと手を握り締めただただ上空を見上げていた。



 ――そうか。寂しいんだ。



 セラは気付いた。三葉と話して、アカサキと再会して誰かと居る事の暖かさ、温もりを知ってしまった。だからこそ、今までだって平気だった事が、平気で無くなる。

 別に、レディカと仲直りしたい訳では無い。レディカに会いたい訳でも無い。むしろ、嫌いだ。でも、何でこんなにも寂しいのか。寂しく感じている自分が腹立たしい。


「もう……どうでもいい……」


 セラが、そう呟いた。その時、背後から何か気配を感じる。セラが振り向くと、大きな火の玉が、雨を弾きながら自分の方に迫ってくる。


「敵襲!?」


 セラは、とっさに防御魔法を唱える。火の玉が触れた瞬間大爆発を起こす。防御魔法で身を守ったセラは無傷だ。だが、誰が襲って来たのか。


「魔獣……では無さそうね」


 セラは辺りへの警戒を強める。未だに姿を現さない謎の敵にセラは色々と考えた。前回と同じ様に、ヴァルキリア達の襲撃なのか、また別の何かなのか。だが、答えは直ぐに分かった。


 木々を薙ぎ倒しながら、セラの前にそれは姿を現した。


「――っ!?」


 セラは言葉を失った。目の前に現れた何かを見て、一気に恐怖を感じた。初めてと言っていい程の恐怖。ヴァルキリアやセルケトとはまた違った恐怖が。


 象二頭分はあろう程の大きさ、鋼の様に硬そうな白い皮膚、大きな翼を広げ、長く伸びる首に、鹿の様な立派な角が二本生えている。紅い眼でセラを睨みつけ、大きな牙をチラつかせる。まさしくそれは――。


「龍……」




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