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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第24話 『友情を拒む者』

 ――初実戦として依頼を行う為、エルヴァスタ皇帝国へと向かっていた卓斗、悠利、セレスタ、レディカ、セラ。

 そこで、フィオラの秘宝の真相、ヴァルキリア、セルケトとの対峙、ファルフィールとの邂逅、それらを経て副都へと戻った。


「そんな事がか……やはり危険な依頼だったか」


 卓斗達から、事の成り行きを聞きステファは腕を組み難しい表情をしていた。実戦形式とはいえ、卓斗達に危険が及んだ事は事実。

 ステファは考えさせられたのと同時に、オルフとマクスの選んできた依頼に溜息をついた。


「やはり、依頼は私が選んだ方が良かったか」


「ふむ、我らのせいでそんな目に」


「いや、でもそのお陰で知る事もあった。今回の依頼はやって良かったと思う」


 落ち込むオルフに卓斗は優しく声を掛けた。実際、ヴァルキリア達との邂逅は、偶然のもので依頼の内容には記されていないものだ。実質、オルフとマクスのせいだと責めるには可哀想とも言える。


「という訳で、次は私が用意した。内容は魔鉱石の回収だ。ここから近くにある森林の中に珍しい魔鉱石があり、それを採ってくるだけの依頼だ。まぁ、前回の踏まえてもしもの時に副都に連絡が出来る様この水晶を渡す」


 ステファが取り出したのは、エルヴァスタ皇帝国のクライスが悠利達に渡した信号を送る水晶と同じ物だった。


「それ!! エルヴァスタ皇帝国のと同じ!!」


「なんだミコシバ、これを使っていたのか」


「まぁ使う前に敵に壊されちゃったけど」


「それで、今回のメンバーわ?」


 エレナがそう言葉にした。するとステファは一人一人指をさして指名していく。


「先ずはエレナ、お前だ」


「げ、私か……」


「次にレディカ」


 レディカは、連続での指名に少し不満そうな表情をするが前回程嫌そうにもしていなかった。


「また? まぁあいつと一緒じゃないなら何でもいいけど」


「次にシノノメ」


「私!? 実戦形式、緊張するなぁ……」


「そして、最後にセラ」


 その言葉を皮切りに、またしても一人の少女が大きな声で騒ぎ出した。


「また!? 何で連続であいつと!?」


 それは、ご存知の通りレディカ・ヴァージアスだ。セラの名前が挙がった瞬間、不満をぶちまけた。ここまでいくとセラが可哀想にも思えるが、そんな彼女は目を瞑り冷静な表情で何も言葉にしなかった。


「今回は、この四人で行う。開始は明日の昼だ」


 その日、レディカの不満が止まる事は無く寮に戻ってもレディカはご機嫌斜めなままで、三葉も戸惑っていた。

 ニ人の言い合いはほぼ毎日行われる日課の様にもなってきてはいるが、慣れる物ではない。三葉としては、このニ人に仲良くなって貰いたいと思っていた。


「今回も、足を引っ張らないように」


 セラの、冷たく低い声でそう言われレディカは熱く大きい声で言い返す。いつものパターンだ。


「はぁ!? だから、それはこっちのセリフよ!!」


 いつもなら、三葉が止めに入り口喧嘩は収まる。そこからニ人の会話は皆無で目すら合わせない。だが、この日だけは少し違った。


「あの、レディカちゃんもセラさんも落ち着いて下さい」


「もう限界よ!!」


 そう言ってレディカは立ち上がり、部屋を出ようとする。同じ空気を吸いたくないという、完全なる「嫌い」の象徴だ。


「待って下さい……!! レディカちゃん!!」


 三葉もレディカの腕を掴み、必死に止める。明日行われる実戦形式を前に、このままでは不安過ぎる。せめて少し仲直りくらいはして欲しい所だ。すると、セラがまた低い声で口を開いた。


「座って」


「はぁ!? 私に命令すんな」


「私が出るから」


 そう言い、セラは立ち上がり部屋を出てしまう。フンと鼻を鳴らしレディカは座り大きく溜息を吐いた。


「セラさん……」


「放っときなさい、あんなやつ」


 だが、三葉には放っておく事が出来なかった。それが、三葉の性格だ。大きなお世話かも知れない、有り難迷惑かも知れない、それでも、こういう場では仲良く居たい、そう思ってしまう。

 この性格が原因で小学生の時、イジメの対象になった事もあった。その反面、誰とでも仲良くしたいという性格が徐々に三葉の周りに友達を増やしていった。

 それは、かつてイジメられていた相手さえも。三葉の場合、小学校、中学校と女子校だった為、男が相手の場合は誰とでもって訳にはいかず、緊張してしまうが。


「私、ちょっと行ってきます!!」


「あんなやつと関われば、損するだけよ」


「本当のセラさんを知ってから、中身を知ってからそれは決めます」


 三葉は、そう言葉を残してセラの後を追った。レディカは三葉の言葉と以前悠利が言っていた言葉を重ねていた――。



『セラちゃんの全てを知ってる訳じゃないだろ? 見かけやファーストコンタクトだけで判断するのは良くない』



 レディカは、机を叩き再び大きく溜息を吐いた。別に最初から嫌いだった訳ではない。仲良くなろうと声を掛けたが、セラがそれを無視した。彼女の傲慢な態度がレディカは許せなかった。


「全部……あいつが悪いのよ……」


 部屋を出て、廊下を抜け庭に出るとセラは階段に腰掛け月を眺めていた。哀愁を漂わせ、三葉はその背中から小さく寂しいと感じた。隣に腰掛け、三葉も月を眺める。


「何しに来たの」


「月、綺麗ですね。日本から見る月よりも大きくて、こうしてると落ち着きます」


「そうね」


「――セラさんは、レディカちゃんの事嫌いですか?」


 どストレートな質問を投げつけた三葉。遠回しなど無く、一直線にど直球な質問を。そういった不器用さもまた、彼女の良いところなのかも知れない。


「別に、何とも思っていないけれど」


「じゃあ、好きですか?」


「別に、それも思わない。私は他の誰かと仲良くするつもりはない。私に友情は必要じゃないし、私なら一人で生きていける。友情なんて、あっても邪魔なだけ」


 そう言葉にしたセラの表情は、どこか悲しげで三葉は過去に何かあった事に気付いた。聞いていい質問、聞かない方がいい質問とあるが、三葉にはそんな選択肢は無い。


「何か、あったんですか?」


「信じていた者達が、いざという時裏切る。人は死に直面すると周りが見えず、己が生きる為だけに行動する。それが、友情……」


「セラさん、それは友情って呼ばないです」


 セラは、月から三葉に視線を移す。三葉は温かい表情で月を眺めていた。


「私も、完全には知らないです。でも、友情っていうのは、時に助け合い、時に笑い合い、時に悲しみ合い、時に喧嘩し、時に喜び合う。こうして共に生きていける者同士を友情って私は呼んでます。それは時に、妬み、憎しみ、失望、相手の嫌な所を見て幻滅しちゃう時もあります。でも、それを笑って乗り越えれるなら、その人とは友情、友達って呼んでもいいんだと思います。それに、大切な人を守りたいっていう時、人は本来の力よりも遥かに大きな力が湧きます。私の国では、馬鹿力だとか、アドレナリンだとか呼ばれてますけど、その力は何にも負けない、屈しない物なんですよ?」


 セラは、何も言葉が出なかった。いつもなら、冷静に言い返すが三葉の言葉が強く胸を打った。その反面、自分は友情を必要としている、そう思ってしまった自分が許せなかった。

 今までそれを必要とせずに生きて来た筈なのに、その信念が揺るがされた。


「セラさんが、過去にあった事は友情とは呼びません。だってその人達とはそれっきりなんでしょ? 綺麗事かも知れませんけど、友情は一生もんなんです。私はそう思います」


「……でも。昔から私は気が強くて、人に好かれる様なタイプじゃないし……」


「そうですか? 私は好きですよ……うーん、まだそんなに知ってる訳じゃないから好きは早いかな……私は、好きになりたいです!! ……あ!! その、友達としてです!! その、百合とかじゃ無いんで!!」


 「好きになりたいです」その言葉が、セラの冷たい心を溶かしていった。


「だから、私と友達になって下さい!!」


「こんな……私が」


「大丈夫ですよ。私と友達になって、それでも友情は要らないってなったら、切り離して下さい。でも、絶対に友達になってみせますからね?」


 無邪気に笑って話す三葉に、セラは優しく微笑み再び月を眺めた。月明かりが、セラの目に浮かぶ涙を綺麗に輝かす。

 セラの性格上、周りの人は近寄ろうとはしなかった。でも、セラはそれで良かった。どうせ裏切られるのなら、最初から近づかなければいい。そうして生きて来た。

 だが、三葉は違った。強引だか、こんな自分に近寄ってくれた。友達になろうと言ってくれた。それが、素直に嬉しかった。


「じゃあ、友達になった証にセラちゃんって呼んでもいいですか?」


「別に、構わないけれど。それと、敬語じゃなくていい」


「うん!! 分かったセラちゃん!! それで、セラちゃんが副都に来た理由って聞いてもいいかな?」


「私は、今よりもっと強くなりたい。ここで強くなって聖騎士団に入団してあの人の元で戦いたい。それで副都に来た」


 セラが以前にも口にしていた、あの人の存在。唯一認める人物で憧れの存在。


「あの人?」


「幼い頃、私の住んでた村が騎士団に襲われて村は壊滅、私もそこで死ぬと思った。でも、そこに駆けつけた聖騎士団の中にその人は居た。とても強くて、優しくて一気に憧れの感情が溢れ出た」


 そう話すセラは、またも思い返していた――。



『私、絶対強くなって貴方の元で戦いたいです!!』


『えぇ、その日を楽しみにしていますね?』



「――それから、対等になる為に神器を手にし副都に来た」


「セラちゃんが尊敬するくらいだから、その人はとても強いんだね」


 セラがここまで、尊敬する人物に三葉も会ってみたいと思っていた。友情を拒み、他者との繋がりを拒み続けた彼女が唯一信じる者。


「そろそろ戻ろっか」


 三葉とセラは、寮へと戻っていく。ニ人ともスッキリとした表情でセラもどこか、明るい表情になっていた。

 部屋に戻ると、レディカは既にベッドの中に入っていた。同部屋のサーラも既に寝ておりニ人は起こさない様にベッドに入った。


「セラちゃんおやすみ」


「おやすみ」



 ――寮部屋にアラーム音が鳴り響く。眠い目を擦り体を起こし三葉がカーテンを開けると太陽の光が降り注いだ。

 今日は三葉の初めての実戦形式だ。太陽の光でレディカとサーラも目を覚ます。だが、セラの姿はそこになかった。


「セラちゃん?」


 三葉がセラを探しに外へと出ると、セラは一人で槍を振り、修行していた。


「セラちゃん、朝から修行?」


「毎日の日課なの」


 三葉は、関心した。誰よりも早く起きて授業や実技の前に修行をしているセラに。これが、セラの実力の秘訣なのかも知れない。実際、セラの実力は副都のメンバーでもNo. 1を誇る。

 それは、誰もが認める事でもあった。ただ一人、認めたくない者も居るが。実戦形式の依頼が行われる直前、卓斗達は広場に集められていた。


「よし、皆集まったな。今回、実戦形式を行うという事で王都からある人に来てもらった。おーい、来てくれ」


 ステファがそう呼ぶと、ある一人の女性が現れステファの横に立つ。黒髪で胸下くらいまでの長さのストレートヘア。おっとりとした目をしていて気品さが溢れ出ている。

 赤のラインが入った聖騎士団の騎士団を身に纏い、腰には黒と赤の日本刀の様な形をした剣を携えている。その女性は、卓斗達を一通り見やると深くお辞儀をして優しく微笑みながら口を開いた。


「皆さん、初めまして。今日一日ステファさんと共に実戦形式を見守る事になりました、聖騎士団第一部隊隊長を務めさせて貰っています、アカサキと申します。よろしくお願いしますね?」


「綺麗な人……」


 女性である三葉が思わず見惚れてしまう程の美しい容姿で男性陣も少し胸が高鳴る。そんな中、ある一人の者がアカサキを目にして飛びっきり興奮していた。それは――。



「ア……アカサキさん!!」


 それは、常に冷静で表情をあまり崩さない少女、セラだった。セラの表情は目がキラキラと輝き、頬を赤く染めて嬉しそうにアカサキを見つめてソワソワしていた。


「セラちゃん、まさか尊敬してる人って……」


 昨日、三葉とセラが話していた、セラの唯一尊敬する人物。まさにそれが、聖騎士団第一部隊隊長アカサキだった。アカサキは、ソワソワしているセラを見ると、温かく微笑み口を開いた。


「あらセラさん、お久しぶりですね」


 セラの脳内に、あの日の映像がフラッシュバックする。憧れ、共に戦いたいと願った人物。アカサキとの突然の再開にセラは新しい一面を副都のメンバーに見せる事になる。



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