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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第22話 『セルケトとヴァルキリア』

 ――グラファス峠にて、悠利、セレスタ、セラ、レディカはフィオラの秘宝を探すべく赴いていた。しかし、フィオラの秘宝は卓斗の体の中にあるという事実が発覚した。

 だが、悠利達はそんな事もつゆ知らず、フィオラの秘宝の搜索を行なっていた。すると、詳細不明のヴァルキリア、セルケトと遭遇し一触即発していた。


「くそ、クライスさんに危険信号を送る水晶が壊されたとなると、ここを勝って凌ぐしかないのか……下手したら全滅って事も……」


 悠利は焦っていた。セルケトやヴァルキリアの強さは前に会った時に存分に思い知らされた。

 例え四対二だとしても勝てる見込みは少ない。ここをどう乗り切るか、死んでしまえば全てが終わりだ。


「心配するな。私達だって弱い連中ではないだろう。副都に通っていると言えど、十分に戦える」


 セレスタからの励ましの言葉に、悠利は背中を押された。


「だよな。俺もこんな所でやられる訳にはいかないし。卓斗達と生きて日本に帰らなきゃならねぇからな。何としてもここを乗り切る!!」


「青春するのはいいけどさ、生きる生きるってそういうのウザいんだよね、ムカつく。素直に死を認めなよ、君達じゃどうやっても僕達には勝てないんだからさ!!」


 セルケトが、手をかざすと悠利の足元が赤く光り出す。沸々と熱が篭っていき、溶岩が溢れ出す。


「おっと……!! そういやお前、溶岩使いだったよな。火すらも焼く溶岩。水も効かないだろうな」


「溶岩……珍しい属性だな」


 セレスタは、セルケトと対峙するのはこれが初めてで溶岩を扱う者も初めて見る。


「そういや、セレスタは属性何なの?」


「私は水だ。残念だが、あいつとは相性が悪いかもな」


 溶岩が溢れ出した場所には、溶岩でできた水溜りができている。地面を黒く焦がし、煙が上がる。


「水か。恐らく雷もあまり効かないだろうな。ったく、厄介過ぎんだろ」


「だが、何としてもここは勝たなければならない。生きて副都に戻るぞユウリ」


 セレスタと悠利は剣を構え、セルケトに睨みを効かせる。セルケトは溶岩で作った剣を構え、不敵に微笑んだ。


「これから死ぬ人間なのに、その表情なんかムカつくよね」


「だから、死なねぇって!!」


 悠利が手をかざすと、手の平から青白い雷がバチィッと凄まじい音を立てて波のようにセルケトに迫る。

 地面を抉りながら迫る雷に向かってセルケトが剣を振ると、地面から溶岩が溢れ出し壁となって雷の進行を止める。


「くそ!! やっぱ無理か」


「足掻いて足掻いて死に抗って惨めだね」


 セルケトは、溶岩の壁を飛び越え地面を勢いよく蹴り一気に悠利との間合いを詰める。そのまま溶岩の剣を振りかざすが悠利がすぐさま剣で防ぐ。


「日本に居た頃は平和な日々だったってのに、何なんだよこの世界は!! ――って!?」


 セルケトの溶岩の剣を防いでいた悠利の剣が交わってる部分がドロっと溶け、地面に落ちる。


「溶けた!? まぢかよ!!」


「武器を失い魔法は効かない。絶対絶命ってやつだね」


 セルケトがニィッと不敵に微笑み、八重歯をチラつかせる。


「まだ戦う方法はあんだよ!!」


 悠利は、右腕を大きく振りかぶりセルケトの頬を殴る。



 ――だが。



「熱っ!?」


 拳が触れている頬の部分に溶岩が纏っていた。それはまるで鎧の様に。


「何だよこれ……!!」


 悠利の拳は、真っ赤に血で滲みいわゆる大火傷だった。手を広げる事も出来ないほどの激痛が走り、冷や汗が垂れる。


「何、体術が最後の手段だと思った訳? その考えが甘々でムカつく」


 セルケトの頬の溶岩が徐々に皮膚へと戻っていく。体全体に溶岩を纏っているとなるとそれは、絶対防御になるのかも知れない。

 悠利は痛みで震える拳を見つめていた。痛みを通り越し痺れ始めている。そんな悠利の元にセレスタが駆けつける。


「どうした、ユウリ!!」


「くそ、恐らくあいつの全身に溶岩が纏ってる。殴ってもこっちがダメージを受けるだけだ」


「全身に? まるで絶対防御だな。ユウリ、これを」


 セレスタは、悠利に薬草を渡す。


「薬草?」


「食べれば治癒魔法よりは劣るが、その傷くらいなら治るはずだ。その間、あいつは私が何とかする」


「いやでも、あんな奴セレスタちゃん一人で……」


 セレスタは、セルケトの方を見やり悠利の言葉を遮る様に口を開いた。


「私を誰だと思ってる。これでも王族の人間だ。安易にはやられない。それに、考えがある」


 セレスタはセルケトに向かい剣を振ると、水の斬撃がセルケトに襲いかかる。


「それも甘いよ」


 セルケトは、再び溶岩の壁を作り斬撃を止める。水の斬撃が溶岩の壁に触れた瞬間、ジュッと蒸発し白い煙が空へと上がる。


「やはり蒸発するか。なら」


 セレスタが手をかざすと、青い魔法陣が浮かび上がり大量の水を放射する。溶岩の壁に水を浴びせ続けると、どんどんと白い煙を上げながら溶岩が黒く変色し始め固まっていく。


「やはり固まったか。もしやと思ったがその通りだったか」


 セルケトも悠利も驚いた表情でセレスタを見ていた。水を止め魔法陣を消すと溶岩の壁は真っ黒な黒曜石となっていた。


「固まってる……?」


「さっき思い出したが、少量の水なら蒸発してしまうが大量の水を浴びせれば溶岩は固まり黒曜石となる。昔に読んだ本がここで役に立つとはな」


 セルケトは、ガシガシと頭を掻きセレスタを強く睨む。


「かなりムカつく……滅茶苦茶にしたい……」


「悪いな。どんな物にも弱点とやらはあるものだ」


 セルケトは、勢いよく地面を蹴り一気にセレスタに近づく。


「滅茶苦茶にする!!」


 溶岩の剣を振り抜くが、セレスタはサッと半歩後ろに下がりそれを避けると、セルケトの手にソッと手をあてがう。


「お前の剣に触れたら駄目なのも、ユウリが教えてくれた。攻略法が分かれば、お前は大した敵ではないな」


 セレスタがそう言うと、手を当てがったセルケトの手に水の牢が包み込む。ボコボコと蒸発していくが手を水の牢に閉じ込めている為、セルケトの手は黒く変色し固まっていく。


「お前……!!」


 セルケトが、もう片方の手でセレスタを殴ろうと振りかざした時、セレスタが叫んだ。


「ユウリ!!」


「はいよ!!」


 悠利が、すぐさま右手をかざし青白い雷を放つ。その雷は徐々に形態変化し狛犬の様な姿へと変形し物凄いスピードでセルケトに向かって行く。


「させない!!」


 セルケトが溶岩の壁を作ろうと水の牢に捕まってない方の手を振りかざす。だが、その瞬間セレスタが剣でセルケトの腕を抑える。


「なっ!!」


「お前は終わりだ」


 その瞬間、悠利の放った雷がセルケトの黒曜石となった腕に直撃し、ボロボロに砕く。


「腕が!!」


 セルケトはすかさず回し蹴りでセレスタを蹴り飛ばす。セレスタは体勢を整え悠利もセレスタの横に立つ。


「大丈夫かセレスタちゃん」


「私なら大丈夫だ。水で覆ってた分軽い火傷だ。ユウリは?」


「俺はもう動かせる程には回復した。まだヒリヒリするけどな」


 勝利への希望が見え、悠利とセレスタの表情は勇敢になっていた。そんなニ人を無くなった腕を抑えたままセルケトが睨んでいた。


「よくも僕の腕を……」


「案外、私らはいいコンビなのかもな」


「これが、仲間、友との共闘って事だ」


 セレスタと悠利はそう話すと笑顔を見せた。そんなニ人を睨んでいたセルケトはどんどんと苛立ちを募らせた。


「絶対に……絶対に滅茶苦茶にしてやる!!」



 一方、セラとヴァルキリアも凄まじい殺陣を繰り広げていた。神器グラーシーザとシューラ・ヴァラ。ニつの神器の交わる金属音が鳴り響く。


「抗うね茶髪のお姉さん」


「貴方の方こそ」


 ヴァルキリアがすかさずセラのお腹に蹴りを入れ蹴り飛ばす。そのままグラーシーザを振り抜く。


「このタイミングで……!!」


 セラは手にテラを込め地面を弾きグラーシーザの線状の軌道をずらすが完全にはずらす事は出来ず左腕を斬られる。


「ぐっ……!!」


「惜しかったね。左腕は自由には使えないよ。まだ抗う? それとも諦めて死ぬ?」


 セラは、左腕の傷を抑えながらヴァルキリアを睨み、過去を思い返していた――。



 『私、いつか貴方の元で戦いたいです!!』



 その言葉がセラの脳裏に流れた。目を瞑り、その時の事を思い出す。



 『そうですか。では、その時を楽しみにしてますね?』


 『はい!! 強くなって貴方の隣に立ちます!!』


 『貴方、お名前わ?』


 『セラです!! セラ・ノエール!!』


 『ではセラさん。その時にまた会いましょう』



 ――セラは、再び目を開けグッと傷口を抑える。血が滲み袖の部分は真っ赤に染まっていた。


「私は……こんな所で終わる訳にはいかない……」


 セラは立ち上がり抑えてた傷口の手で槍を持ち剣先をヴァルキリアに向けて強く睨んだ。


「ふーん。まだ抗うんだ。じゃ、ちょっと本気出そうかな」


 ヴァルキリアは足にテラを込め地面を蹴り、セラとの間合いを一気に詰める。グラーシーザを振りかざし、セラもすかさず槍の形をしたシューラ・ヴァラで受け止める。

 お互い全力で振りかざした為か衝撃波で円形に地面が抉れる。だが、セラはヴァルキリアに力負けしそのまま跳ね飛ばされる。


「これはどうする?」


 ヴァルキリアはすかさず、吹き飛んで行くセラに向かってテラで作ったエネルギー波を放つ。セラは、槍から団扇へと武器を変形させエネルギー波を右へ弾く。

 そんなニ人の戦闘をレディカはただ見てるしか出来ないでいた。


「何よ……」


 レディカは、焦りと苛立ちが募っていた。自分を見向きもせずにセラにだけ攻撃するヴァルキリア。強大な敵にも屈せず立ち向かうセラ。そんな2人を見てレディカはただ静かに唇を噛み締め見てるしか出来ないでいる。


「私は弱いから相手にしない……? 足手まとい……? 冗談じゃないわよ……ふざけないで!!」


 レディカは、青いテラで作った矢を空へと放った。


「私を遇らった事、後悔させてあげる!!」


 レディカがパンッと手を叩くと、空へと放った矢が落下し始めどんどんと分裂し無数の矢へと変わる。まるで雨の様にヴァルキリアの元へと降り注ぐ。


「矢の雨!?」


 ヴァルキリアは、降り注ぐ無数の矢に気づき上空を見やる。そのまま無数の矢はヴァルキリアを襲う。


「面倒臭いね……!!」


 ヴァルキリアは、グラーシーザを振り回し矢を弾いていくがどんどんと矢は無数に降り注いでいく。

 だが、ヴァルキリアには永続魔法で防御魔法が纏っている。しかし、矢が防御魔法に当たると防御魔法にヒビが入る。


「この矢……」


「私も馬鹿じゃないのよ」


「まさか、闇のテラを混ぜてる?」


 ヴァルキリアも負け時と矢を弾いていくが、数に追いつかず防御魔法は剥がされていく。


「面倒臭いな……もう!!」


「この一瞬の隙……逃す訳には……!!」


 セラは槍へと変形させ青い雷を纏わせる。それを上空へ向けて掲げると青い雷は空高く上がりやがて、龍の姿へと変わる。

 雷の龍は上空を旋回し、ヴァルキリアに向けて垂直に落下していく。バヂィッと凄まじい音を響かせながらどんどんヴァルキリアに近づく。


「貴方は強かった。でも、ここまで」


 雷の龍がヴァルキリアに当たった瞬間、レディカの放っていた無数の矢を弾き飛ばしながら大爆発を起こす。矢の欠けらが雪の様にキラキラと舞い散り、煙が立ち込める。


「いいとこ取りしないでくれる?」


 レディカが嫌味の様にセラに話しかけた。セラは左腕の傷口を抑えながらフンと鼻を鳴らした。

 ――だが、立ち込める煙を見つめていたセラの表情が険しくなったのを見てレディカも煙の方へと視線を移す。すると、煙の中にヴァルキリアの影が薄っすらと見えてくる。


「まさか……」


 煙が消えると、ヴァルキリアは無傷で悠々と立っていた。そして、その眼はピンク色に妖しく光っていた。


「うーん。今のはいい感じだったね。まさか、『これ』を使わされるとはね」


「そんな……全くの無傷だなんて……」


 レディカは、驚きとヴァルキリアへの恐怖心が増していた。セラのあれ程の魔法を受けても平然と立ち尽くすヴァルキリアに勝利への希望が消えかかっていた。


「その眼に仕掛けがあるようね」


 焦っていたのは、レディカだけでは無くセラも同じだった。


「ご明察だよ。でも教えてあげない。教えたらお姉さん達が絶望して戦意を失うだけだからね。だけどヒントなら教えてあげる。お姉さん達が有利になるヒントをね」


「あまり馬鹿にしないでくれる!? 本当傲慢な女は嫌い!!」


 レディカはヴァルキリアの言い分に怒りを露わにした。だが、ヴァルキリアはそんなレディカを遇らう様に不敵に笑みをこぼす。


「この能力は、次に使えるのは三十分後。生きたいなら三十分以内に私に勝ってよね。まぁ無理な話だろうけど」


 ヴァルキリアの言葉に、セラは笑みをこぼし返す。


「そう。なら三十分も要らない。一分で十分」


 セラの言葉にヴァルキリアは目を細め睨む。挑発した筈のセラの余裕な態度が気に触る。


「レディカ、こっちに来て」


「はぁ!? 何でよ」


「そんな事言ってる場合じゃない」


 レディカは、ムッとした表情で嫌々セラの隣に立つ。すると、セラは悪戯な微笑みをレディカに向けると小声で口を開いた。


「そこでジッと目を瞑ってて」


「――は?」


「何度も言わせない。そこでジッと目を瞑ってて」


 レディカは言い返そうと、口を開いた瞬間セラが青い雷の龍をヴァルキリアに向けて放つ。


「ちょっと!!」


「早く」


 すると、セラは足にテラを込め地面を蹴り一気にヴァルキリアに近づく。


「またそれ。芸がないね、茶髪のお姉さん」


 ヴァルキリアは、グラーシーザを構える。――その瞬間。


「今から一分」


 青い雷の龍は、突然発光し世界を白く染めていく。突然の眩い発光にヴァルキリアは目が眩む。レディカは、言われた通り目を瞑っていた。だが、世界が白く染まっているのを感じていた。


「そういう事ね。でも、ジッとしてるだけなんて無理」


 レディカは、大体のヴァルキリアの居場所を特定し紫色の矢を放つ。セラは、ヴァルキリアに近づくと槍を剣へと変形させ振りかざす。


「これで一分」


「甘いねお姉さん。私、目眩しされても戦えるから……!!」


 そう言葉にした瞬間、体が全く動かなくなる。ヴァルキリアの体には紫色の鎖が巻きついていた。


「これは……呪縛魔法? まさか、オレンジ色のお姉さん……!!」


「貴方の負けね」


 セラが剣をヴァルキリアに向け突き刺す。だが、その瞬間、突然としてセラの隣にセルケトが現れセラの手を止める。


「貴方!?」


「ヴァルキリア、君の怒りを貰うよ」


 悠利とセレスタも、突然の発光に目が眩んでいた。


「何だこれ!? 向こうで何が起きてる!?」


「これは、どっちの仕業?」


 突然として現れたセルケトにセラは驚きが隠せない。それは、この真っ白に発光する中セルケトは悠々と自分の攻撃を止めたからだ。


「残念だったね、お姉さん。後百歩くらい足りなかったね」



「――っ!!」


「滅茶苦茶に……」


 すると、セルケトも白く光り出し、不敵に笑みを零す。


「してやる!!!!」


 次の瞬間、発光を吹き飛ばす程の大爆発が起きる。グラファス峠の岩山を吹き飛ばし、空高く爆炎が巻き起こる。それは、グラファス峠へと向かっていた卓斗からも見える程に――。



「何だよ……あれ……」




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