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君と見る異世界物語  作者: 北岡卓斗
第ニ章 『副都』
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第21話 『突然の邂逅』

「――フィオラの秘宝は俺の体の中にある」


 突然として卓斗から告げられ、エルザヴェートとクライスは目を丸くしていてた。千三百年前から探していた宝玉があっけなく見つかったのだ。しかも、卓斗の体の中にあるのだと。


「其方の体の中!? どういう事じゃ!?」


「俺も良く分からないけど、フィオラが語りかけて来てそう言ってた」


「本当にそれは、フィオラじゃったのか?」


「多分。黒のテラを開発したのは自分だって言ってたし、エルザヴェートさんが黒のテラに飲み込まれて世界を終焉へと導いたって言ってた」


「まさか、其方の中に……本当じゃとすれば……」


 エルザヴェートは、永きに渡り探していた旧友が直ぐ側に居ると分かり、涙ぐんでいた。


「でも、フィオラを解放するには、俺が黒のテラを完璧にしなきゃならないって言ってた。完璧にすれば、封印を解く魔法が使えるって」


「ならば、旧友に会えるのはもう少し先って事かの」


「俺、必ず完璧にしてフィオラの秘宝の封印を解くから、どれくらいの時間が掛かるかは分からないけど……」


 卓斗は、日本へ戻る事と、フィオラの解放、更には世界の終焉を止める目標が出来た。自信は無いが、エルザヴェートの為にも旧友を解放してあげたいという気持ちで溢れていた。

 それと逆に、もし世界の終焉を止める事が出来なかったら、三葉達を無事日本へ戻せなかったら、世界の終焉の前に日本へと戻ってしまったらと卓斗の悩みは増えてしまった。

 この世界の運命も三葉達の運命も全て自分が担っていると、肩にのしかかる重圧はまだ十六歳の少年に耐えれるのだろうか。


「その話が本当だとすれば、今探してる事についてはどうなる?」


 クライスが、疑問を卓斗にぶつけた。


「それも聞いたけど、俺の中にあるから無駄な事だって」


 エルヴァスタ皇帝国が、各地を探している事、悠利達がグラファス峠へ探しに行ってる事は、無駄な事だった。あるはずの無い物を探しても見つかる筈も無い。


「ならば、其方の友達達を連れ戻して来てくれんか? 事を説明せんといかんからのぅ。クライスは他の捜索部隊に連絡してくれ」


「分かった」


 卓斗は、悠利達を連れ戻すべくグラファス峠へと向かう。一方、グラファス峠へと到着した悠利達は、そんな事情もつゆ知らずフィオラの秘宝を捜索していた。


「あーあ、全然無いな。見つかる気がしない」


 悠利は、ブツブツと愚痴を零しながら辺りを見渡していた。草木の生えない、岩だけの峠。非常に殺風景な岩山だった。


「ここ、テラの純度も低い」


 セラがそう言葉を零した。他の地帯に比べここグラファス峠は自然テラの純度が低く、人が寄り付かない要因にもなっていた。


「そりゃ魔獣も住み着くよな」


 ――その時だった。全員が殺気を感じる。とてつもなく大きな殺気を。


「何だ!? また魔獣か!?」


「にしては、殺気がデカすぎる」


 全員に冷や汗が流れる。少しでも気を緩めれば気がやられてしまう、そんな緊張感が漂っていた。その時、殺気を放つ正体が姿を現した。


「こんな所で何してるの?」


 全員が、声のする方へと視線を移す。すると、そこに居たのは魔獣では無く、人だった。綺麗な水色の髪色でお団子ヘアの人物と黒色のロングヘアでボサボサ頭の人物がニ人居た。

 ニ人共、半分白、半分黒の騎士服を着ている。悠利は、ボサボサ頭の方の人物を見て、思い出した。


「あ!! お前、この間の襲って来た奴!!」


「知ってるのか?」


「あぁ。副都に来る前に世話になってた騎士団に襲いかかって来た奴だよ。何でこんな所に」


 以前、悠利はこの世界に飛ばされた際に李衣と共にエレナの居た騎士団にお世話になっていた。その時、突如としてこの黒髪の人物が襲いかかって来たのだ。


「確か、セルケト」


 セラも、その人物を知っている。悠利の居た騎士団の他にもセラの居た騎士団にも同時に襲撃していた。すると、セルケトが目を細めてセラと悠利を見つめ始める。


「んん? そう言えば、そこのニ人あの場所に居た様な……」


 すると、セルケトの隣に立つ少女も口を開いた。


「あー、あの時の。見た事無い人達も居るけど、あの時のお兄さんは居ない様だね」


 そう話すのは、襲撃の際にセルケトを迎えに来たヴァルキリアだ。その時は、卓斗がヴァルキリアの殺気に呑まれてしまっていた。


「で、私の質問に答えてくれる? ここで何をしてるの?」


 ヴァルキリアは、どんどん殺気を立ち込めて低い声でそう話した。


「いや、俺らは……」


 悠利が説明しようとすると、セレスタが手を伸ばし悠利の言葉を遮った。


「お前達には関係の無い事だ」


 セレスタは、殺気に負けまいとヴァルキリア達に睨みを効かせる。


「セレスタちゃん?」


「安易に言わない方がいい」


 セレスタは、とっさにフィオラの秘宝については話さない様にと促した。セルケトとヴァルキリア、このニ人に何か嫌な気配がしていたからだ。


「へぇ、隠すんだ。雑魚のくせに回りくどい事しないでよ。殺したくなるから」


 ヴァルキリアがそう言うと、悠利達は背筋が凍る程の殺気を感じる。息すらもする事を忘れてしまう程の緊迫した状況。

 すると、ヴァルキリアが手を翳すと自然テラが集まり、鎌の形へと形態変化していく。

 その鎌は、ヴァルキリアの身長と同じ、150センチ程の大きさで真っ白な色をしている。刃の無い方には紫色の宝玉の様なものが埋め込まれていた。


「テラが武器へと変わった? あれって……」


 レディカはチラッとセラの方を見やる。セラの持つ武器もテラを武器へと形態変化させる物、神器と呼ばれる物だ。


「まさか、あれも神器なのか?」


「へぇ、金髪のお兄さん神器知ってるんだ。弱いのにね」


 ヴァルキリアは、神器を振りかざそうと構える。悠利との間には距離があるにも関わらず、その場でヴァルキリアは振りかざした。

 その瞬間、悠利の前にセラが走り寄り、とっさにテラで槍を作り何かを防いだ。目には見えないが確かに、セラは何かを防いだ。


「セラちゃん、何があった!?」


「あの神器、名をグラーシーザ。能力は無限射程」


「神器って名前があんのか。それと、無限射程?」


「その気になれば、地球の反対側でさえも、自身の真後ろでさえも斬撃が届く。名の通り、無限の射程距離。厄介なのは、斬撃が目に見えない事、何より対象までの届く速さ」


 セラは、ヴァルキリアから注意を外さない様にしながら淡々と話した。ヴァルキリアの持つ神器、名をグラーシーザ。その能力は、無限射程と呼ばれるものだった。


「届く速さ?」


「まるで、目の前で戦ってるかと錯覚するぐらいの速さ。つまり、光速を超える」


 セラの説明に、悠利達は言葉を失くしたと同時に戦意が全くの皆無になってしまう。その様な武器を扱う者に勝てるのだろうか。悠利達の脳裏には死がチラついていた。


「へぇ、茶髪のお姉さん詳しいね。神器の勉強でもしてたの?」


「別に、知ってて当然だと思うけれど。この人達が無能で知らないだけ」


 いつもなら、セラの見下す様なセリフにもレディカが反応するのだが、この時だけはレディカでさえもそんな余裕など無かった。それ程のヴァルキリアとセルケトの存在感、威圧感は尋常では無いものだった。


「それに、茶髪のお姉さんが使ってるそれ、神器だよね。シューラ・ヴァラ、変幻自在の神器。どこで手に入れたの?」


「貴方に話す事はない」


「あっそ」


 ヴァルキリアは、再びグラーシーザを振りかざす。セラもすかさずシューラ・ヴァラで不可視の斬撃を防ぐ。


「これって、敵って事だよね。なら私も!!」


 レディカも、背中に背負っていた弓を取り出しテラで矢を作りヴァルキリアに向けて放った。だが、その矢はヴァルキリアにあたる寸前で弾かれてしまう。


「僕の事も忘れないでくれよ。ムカつく」


 レディカの放った矢を弾いたのは、溶岩で作った剣を持つセルケトだった。


「弾かれた!?」


「あんな化け物ニ人相手に出来んのか? これを使うタイミングが来たか」


 悠利は、クライスから渡されていた危険信号を送る水晶を取り出す。これにテラを込めればクライスの持つ水晶に連絡を送れる。増援を呼んだ方がいいと判断した。だが――。


「面白い物持ってるね」


 さっきまで距離のあった場所に居たヴァルキリアが突然、悠利の横に瞬間移動し、悠利の持っていた水晶を奪う。悠利はあまりの速さに対応が出来なかった。それは、セレスタやセラでさえも。


「なっ!?」


「こういうのは、弱い人がやる事だよ」


 ヴァルキリアはそう言うと、水晶を握りつぶし粉々に粉砕した。クライスへ危険信号を送る事が出来なくなり、悠利達は更に窮地に立ってしまう。


「そんな……水晶が……」


「じゃあ、そろそろ死んでくれる?」


 ヴァルキリアは、不敵な笑みを浮かべて真っ白な鎌、グラーシーザを悠利に向けて振りかざす。だが、それを間一髪セラが止めた。


「セラちゃん!!」


「貴方は私が倒す」


「茶髪のお姉さんが私を? 笑わせないで」


 終始不敵な笑みを浮かべていたヴァルキリアの表情が真顔へと戻りセラを蹴り飛ばす。


「ぐっ!!」


 小さな岩山にぶつかりながら吹き飛んでいくセラ。体勢を整え槍から弓へと変形させ、すかさず矢を放つ。


「便利な武器だね。でも甘いよ」


 地面を抉り、目にも止まらぬ速さで迫る矢をヴァルキリアはいとも簡単に鎌で弾く。セレスタもすかさずその隙を突き、ヴァルキリアに剣で斬りかかろうとするが、それをセルケトが止める。


「僕を忘れないでって言ったよね。本当ムカつく」


「あん時の借り、返させて貰う!!」


 セルケトの背後から、悠利が雷を纏わせた剣で斬りかかる。セルケトがそれを剣で防ぐと、バチィッと大きな音を立てて、雷が飛び散る。


「あの時は殺せなかったから、今回は滅茶苦茶にしてあげるよ」


「セルケトお姉ちゃん、そっちのニ人は任せるね」


 そう言うと、ヴァルキリアはセラの方へと走り出す。


「私も居るから!!」


 レディカも、走り出すヴァルキリアに狙いを定め矢を放つ。だが、ヴァルキリアは、見もせずに悠々と避け、セラに詰め寄る。


「茶髪のお姉さんから殺すね」


 セラも弓から槍へと変化させ、ヴァルキリアに向けて突き刺す。ヴァルキリアはそれを簡単に避けてセラの顔めがけグラーシーザを振りかざす。セラはすかさずしゃがみ込み避ける。


「私を無視してんじゃないわよ!!」


 レディカが、矢を三本作りヴァルキリアの背後から放つ。だが、無情にもその矢はヴァルキリアを纏う見えない何かに弾かれる。


「矢が勝手に弾いた!?」


「貴方、副都で何を習ってたの? これは、永続魔法よ防御魔法のね」


「ご明察。オレンジ色のお姉さんは余り賢くないんだね」


 ヴァルキリアは、そう言うとレディカに向けてグラーシーザを振りかざした。


「振りかざした線状を見切って防ぐの!!」


 セラがそう叫ぶが、レディカの弓では到底防ぐ事は出来ない。セラはすぐさま槍を弓へと変形させ、矢を放つ。


「おっと」


 矢はヴァルキリアのグラーシーザの刃に当たり軌道がずれ、レディカの頬を掠めていく。その頬からは少量の血が垂れている。


「っ……!!」


「だから言ったの、足手まといになるって」


 レディカは、言い返す言葉が出てこなかった。恐怖に負け何も出来なかった自分に対して、冷静に対応するセラ。嫌いなセラに負けている自分に苛立ちが募る。


「ここ、純度が低い場所なのに完璧に神器を使いこなしてるね。普通なら能力が下がったり、使えなかったりするのに」


 ヴァルキリアは、神器を持っていない手を上に伸ばし体をほぐしながら話す。


「純度が低いなら、それなりの対応をしておくだけ」


「ふーん。手の周りに微かに自然テラを集めてるんだね。まぁ雑魚は雑魚なりに足掻くといいよ。直ぐに殺して楽にしてあげる」


 一方、悠利とセレスタはセルケトと睨み合っていた。


「はぁ……やっと君達を殺せる時が来たのか。この間はヴァルキリアに止められたからね。あの時の苛立ちはまだ僕の中に沸々と残ってるから」


 セルケトの殺気に気圧されそうになるも、セレスタも負け時と睨みを利かせ、剣先をセルケトに向ける。


「お前達がどういう目的かは知らないが、私達の邪魔をすると言うなら容赦はしないぞ」


「セレスタちゃん、気をつけろよ。こいつ、かなりのやり手だ」


 悠利は、前に対峙した時にセルケトの強さを十分に知った。セルケトは深くため息を吐き、口を開いた。


「――じゃあ、始めようか」


 悠利とセレスタに緊張が走る。



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